ようキャ   作:麿は星

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P、軽井沢恵

 

 なんて覇気のない……面倒くさそうなことを隠さない奴なの。

 

 あたしが初めて対面した時の左京君の印象はそれで、東風谷さんに指名する指示された時など、後先考えずつい罵ってしまうところだった。

 だって凡庸な見た目。弱そうな身体つき。頭の悪そうな話し方。思ってることがモロに出ている表情。

 どれをとっても、とても平田君が褒めていた要素が見当たらない。

 こんな奴があっさり試験を終わらせてしまったのだ。

 

 オマケに女子に恐怖心でも抱いているのか、あたしや真鍋達を見て面倒と感じつつも怯えている様は、まるで迷子のキツネリスのよう。

 というか、東風谷さんを怖がらないくせして、あたしを怖がるとか意味がわからない。

 しかもあたしが助けを求めてるのに、駆け寄ればあろうことか真鍋達の方にすり寄る始末。佐倉さんの時は、須藤に飛び蹴りまで食らわせて二人共停学になるほど必死だったのに……。

 そんな一部を除いて情けない印象なのに、ぱっと見ただけでわかる東風谷さんや高円寺君のような単独で立っている人に共通する雰囲気が、こんな奴にもあるなんて不思議でしょうがない。あたしが見て聞いたこれまでの彼の実績が、そう見せてただけかもだけど。

 でも―――。

 

 

 

 

 

 無人島5日目の朝にDクラスで下着泥棒が発生し、その犯人探しが始まった時のことだ。

 須藤の一件から、佐倉さんには守ってくれる人達がいると知り、どこか佐倉さんに嫌悪感のようなものがあたしにはあった。

 だからあたしは、盗まれた下着があたしの物だったことも手伝って、気づいたら彼女に意地悪く当たってしまっていた。

 

「あれぇ? もしかして佐倉さん、地味で目立たない綾小路くんが好みだったり? あの破茶滅茶な左京くん狙いじゃなかったのぉ?」

「―――違うよ。そんなのじゃない」

 

 下着泥棒の疑惑をかけられた綾小路君を庇う言葉を発したのが、その佐倉さんだったからだ。

 あたしが犯人でもおかしくないと思っていた綾小路君を佐倉さんは庇った。その上、ちょっと突けば引っ込むかと思えば、思いの外しっかりした口調で反論してくる。

 僅かに手が震えていたので平気でというわけでもないのだろうが、それでもあの時のあたしにさえ浮ついた気持ちで発言したわけではないと感じさせた。

 なぜなら佐倉さんの目に宿る強さは、いつか誰かが教室で見せたモノに似ていて、あたしをはじめとしたクラスメイトを黙らせるだけの力を持っている。

 

「ただ綾小路君は……私の友達はそんな事を絶対にしない。それだけは信じられる」

 

 それだけ言うと、急に自分に注目が集まっていることを自覚したのか、小動物のように視線を彷徨わせ、一気に情けなくなったが。

 

「あぇお……ぃあ、うぅ……。

きょ、今日は話しすぎてわけわからなくなっちゃったので……そ、そのぉ…ごめんなさいでした!!!」

 

 ゴニョゴニョと言うが早いか脱兎のごとく逃げ出し、安全の為に櫛田さんが追いかけて行ったが、あたしは佐倉さんを見直していた。あたしと違って、ただ寄生するだけの娘じゃないと知って。

 後であたしなりにじっくり整理してわかったが、この時までは同族嫌悪染みたモノを佐倉さんに感じていたのかもしれない。もしかすると羨ましい部分も……流石にそんなわけはないか。

 

 

 

 

 

―――まさかこの島での佐倉さんへの八つ当たりが、左京君を通して巡り巡ってくるなんて。

 

 驚愕と変化の連続の中で、あたしは必死にリカバリーを考えていた。

 そう。あたしが兎グループの優待者。それも確実にバレてなかったのに、左京君の当てずっぽうで当てられてしまった不運な、ね。

 運命の“意趣返し”って皮肉なのね。島で佐倉さんに八つ当たりしてなければ、人に無関心な東風谷さんに名前を覚えられることもなく、あたしが指名されることはなかったろう。多分、抑えようとはしてたけど、彼女が唯一敵意を見せていた綾小路君くらいしか候補はなかったはずだ。

 

 でも指名はされてしまったけど、これはこれで良かったのかもしれない。

 Dクラスでこれがあたしの失態になっても、言い訳もしやすい状況ではあるし、こっちなら平田君は確実にフォローを入れてくれる。だから最低でも立場は守られる。

 

 ただこうなった以上、左京君には真鍋さん達との諍いを後に引かない形で終わらせてくれないと割に合わない。てゆーか、あたしを助けてくれるまで逃せない。

 次に真鍋達に捕まったらアウトだってこともわからせて、色仕掛けしてでも絶対に味方に付ける。ただのお人好しってわけじゃなさそうだけど、佐倉さんへの対応を見る限りクラスは違っても助けを求めるには最適に近い相手だ。

 そしていくら面倒くさそうでも、いきなりきて好き勝手やった代償を払わせてやる。

 寄生虫らしくあたしの生き汚さを見せてやるんだから!

 

 

 

 そう決意はしたものの。

 左京君自体は取り付く島だらけに見えるのに、近づこうとすると完璧に気づかれて避けられるのは一体……。

 

「陽キャ系コミュ障怖い……デコイを、清隆を間に入れるにはどうしたら」

 

 しかも、ようやく逃げないギリギリの距離まで近づけて何を考えてるか知ろうとしたら、とんでもなく失礼な独り言が聞こえてしまい、一瞬状況を忘れて頭に血が登る。

 ボソっと言っても聞こえてんのよ! なに? あたしって初対面でコミュ障に見られたの!? 少しは隠そうとしたらどうなの!?

 それもなにか思いついた風に、また真鍋達の方に逃げるオマケ付きだし! コイツ、マジで……!

 

「そうだ! 龍園が真鍋さん達にこれのことを聞いてくるだろうけど、実行犯は東風谷、教唆が僕ってしっかり伝えてね! あいつ怖いから、なるべく目を付けられたくないんだよ。椎名もだぞ? 頼むからな」

「……左京君。その、もう手遅れでは?」

「言うな椎名。まだ3割くらいは取るに足らない奴と思われている可能性はあるはずだ。僕は最後までそれを信じ抜く」

 

 そんなにあるわけないでしょうが。馬鹿なんじゃないの。

 少なくともうちの教室であの怖そうな人が高笑いしてた時には、目を付けられてたとあたしでも思う。無人島で全員集合した時も最初や最後に名前を呼ばれてたし、雑魚呼ばわりな人達よりはずっと注目されてるはずだ。

 誰だか知らないけど、もっと言ってやって! と、内心応援してやったのに、反論を聞いてすぐ諦めた顔で首を振る椎名と呼ばれた女の子。

 

「ガーーーッ!!! なんで高円寺といい、左京といい、無軌道な奴ばっかりなんだっ!?」

「あっ、ちょっと。今のは僕じゃなくて東風谷が原因で」

「うるさいっ!! どっちでも試験が終わってしまったんだから同じだ!」

「どっちでも同じなら東風谷にしt」

「夢月さん? 試合再開ですか?」

「そもそもお前が発端だろうがゴルァっ! 責任を折半にしてやっただけありがたいと思いやがれ!」

「~~~~~っ! もういい! 帰って寝るっ!!!」

 

 それに業を煮やしたのか、今度は見覚えのある男子の大声が割って入る。

 だが、この期に及んでなお漫才を繰り広げる左京君と東風谷さんに言葉を失くし、えーと幸村君?は足音荒く去っていった。終始存在感なくて頼りなかったけど、最後のツッコミだけはこの場の全員が同意するところだろう。自分の問題がなければ、あたしもふて寝したいくらいだし……。

 

 

 

 一方、ともすればキスでもするんじゃないかという距離で再度睨み合って互いに罵り始めた二人に、どうするんだこれ? みたいな空気が非常階段に蔓延していた。

 あ、一瞬ドアが開いて誰かがUターンした。そりゃこんな場面に出くわしたら逃げるか。できることなら、あたしも逃げたい。逃げるわけにはいかないけど。

 あたしが現実逃避したくなっている間にも、無駄ないがみ合いは続いている。

 

「おい、そこのクソ緑」

「名前で呼んでください。ムカつきます」

「……ほう? ほうほう?

 “早苗ちゃん”は名前で呼ばれたいんだ~。じゃあ、これからは馴れ馴れしく呼んでやろう。

 どうだ? 野郎に許可なく名前呼びされる感想は? 狂喜乱舞してもよいぞ? くっくっく」

「……」

 

 でもここまで来ると、なんというかこの二人は、一周回ってもの凄く仲がいいんじゃないかって気になってくる。

……あたし達は何を見せられてるんだ、って意味で。口も挟めないから尚更。

 

「なんか言ってくれ! 無駄に滑ったみたいになってるじゃないか」

「いえ、すいません。夢月さんのちゃん付けに吐き気と驚きで言葉が出ませんでした…………あと何故かほんの少し嬉しい……………………ふっ」

 

 ん? 今、楽しげだった東風谷さんが嘲るように笑って誰かを流し見た? 誰に……綾小路君? なんで?

……てゆーか、東風谷さんに何したらこんなことになるの綾小路君。もう敵意があからさまじゃない。

 

「酷すぎだろっ! 東風谷だって僕をさん付けで呼んでるじゃないか!?」

「もう普通に早苗でいいですよ。今更名字に戻されるとすごい違和感」

「コイツ、マイペースすぎる。一回呼んだだけなのに、違和感とか言い出して煽りながら唐突に素に戻るとか……。あっ、真鍋さん。できればその友達、今のうちにここに呼んでくれる? いっそ全部片付けちゃおう。

 それにしても。はぁ、早苗…かぁ。めっちゃ今更だよなぁ。てか、もっと嫌がると思ったのに」

「それは言わないお約束ですよ夢月さん。私も思ってますけど」

 

 むしろ一瞬、綾小路君に向けられたソレを気にしない左京君の方がマイペースなような……?

 それにしても東風谷さんを相手に、よくもまぁ喧嘩できるものだ。

 ディスカッション初回の自己紹介であたしの名前を言った時、多分彼女からしたらほんの僅かの敵意を向けられただけで、あたしは動けなくなった。そこから時間をかけてなんとか体裁を保って話をするまで、生きた心地がしなかったあの東風谷さん相手に。

 あの時は部屋中が凍りついたかと思うほどだったのに、今はどこかギャグっぽい。それに言い争ってもすぐに仲直りできるところを見ると、本当に友達なんだなと素直に思える。かなりの変化球だけど。

 

……思わず左京君達の会話に気を取られていて、サラッと挟まれた真鍋への二言を聞き流し、行動も見逃してしまったことで、あたしの運命は決まってしまったのだろう。良くも悪くも。

 

 

 

 言い合いも一段落ついて息をつき、東風谷さんを放置することにした左京君が、初めてあたしを見て口を開いた。

 軽い口調に隠れて、怯えながらではあったが。

 

「金髪。ちょっと聞きた」

「か・る・い・ざ・わ! 軽井沢よ!? ようやくまともにこっち見たかと思えば!

 真面目な時くらいちゃんと名前で呼んでよね!」

「お、おぉう。軽井沢さん、だな。わかった。

 すまん。君、かなり苦手なタイプなもんで、つい脳が名前を覚えるのを拒否してしまってな。右から左に抜けてたわ」

「「「ぶふぅ!」」」

 

 失礼な物言いにも我慢して、あたしが気を遣って優しく訂正してやったというのに、ふざけた返事が返ってきた。苦手なくせに煽ってくるとか、コイツはどういう神経してるのか。

 しかもそれを聞いて、真鍋達が吹き出した。急いで後ろを向いて肩を震わせるその姿は、なかなかイラッとくる。

 でもなによりもイラッときたのは、目の前のコイツだ。

 

「……ぶっ飛ばされたいの? あんた」

「滅相もない。ただ、そのぉ…なるべく直接話したくないから、軽井沢さんとの間に清隆…綾小路を入れていい? こち……早苗よりはマシになると思うんだけど。主に君が」

「おい夢月! 勝手にオレを巻き込むな!」

「ふぅ。清隆。適材適所という言葉を知らないのか?

―――この場の2大コミュ障は独断と偏見により、清隆ときn…軽井沢さんがツートップなのは明白だ。コミュ障同士仲良くやってくれ。そしてできたら説得してくれ」

「ふざけて……うん? 待て。説得?」

 

 驚くほど失礼!

 畳み掛けるような失礼の数々に言葉が出ず、笑っていた真鍋達でさえ静かになっている。これに比べれば、綾小路君と親しげなことなんか毛ほども気にならない。

 こんな初対面で真正面から、顔見て話したくないとか言われたの、過去を含めてさえ初めてかもしれない。でもムカつくはムカつくけど、逆に興味まで湧いてしまった。

 しかもこれ、多分左京君はほぼ素だ。

 彼や東風谷さんには、どことなくあたしに似た匂いを感じる。だから追い詰められて、あたしは思わず助けを求めてしまったのだろうか? わからない。

 

「うん。まぁ、軽井沢さんが謝罪して済むなら、済ませといた方がいいよって感じで。正直、どうでもいいとも思ってるけど、放置すると滅茶苦茶寝覚め悪そうな事態に発展しそうな気がしてる。

 でも今なら、かろうじて丸く……16角形くらいに丸っぽく収められるんだ。それなら諍いレベルのうちに全部片付けて、さよならバイバイがまだマシかなって……」

「寝覚め悪そうな事態?」

「16角形? ああ、確かに丸っぽいですね」

「だから! なんであたしが謝らないと」

 

 だけど興味は置いといて、あたしはどうにかこの戻ってきた流れを変えたくて言い募ろうとしたが、それも遮られる。

 東風谷さんが変なところで頷いてるけど無視だ無視。空気読まない自由人はお呼びじゃないの! そんなことより―――。

 

「軽井沢さんは、いいからちょっとだけ話に付き合ってくれ。できれば東風谷の方を見るのを推奨」

「……っ」

「推奨、じゃありませんよ。まったく」

「清隆、軽井沢さんから僕に視線が通らないように、そこを動くんじゃない。いや、むしろ遮るように臨機応変に動け。デコイ…壁……えっと、と、友達なんだしこういう時くらいは助けてくれ」

「お前、その流れでよくオレを友達とか言えるな」

「愛と勇気だけが友達のヒーローも、仲間に同じようなこと言いそうじゃん。頭変える時とか」

「そういえば、ボールは友達のサッカー選手もボールに怒りをぶつけようとしてたな。

……友達って一体」

「ふむ。では便利な男ではどうか? 意外と自分からなりたがる奴もいるらしいぞ」

「どうか、じゃない!

 はぁ。これ以上、夢月に言っても倍になって返ってきそうだ。傷口を広げない為には大人しく聞いといた方が良さそうだな」

 

 ほとんど知らないけど、いつもなに考えてるのかわからない無表情な綾小路君さえ、困惑して左京君のペースに乗せられている。

 あたしにも綾小路君にも失礼極まりない事を言ってるのに、普通に要求通りに動くとか綾小路君は機械なの? もっとはっきり言ってやってよロボット人間!

 とは思っても何故か言い出せない空気があって、結局は壁()ができて左京君が見えなくなった。それで本当に安心したような声になったのが腹立たしい。

 

 

 

 でも怒るような余裕があったのはここまでだった。

 安心した左京君が切り出してきたのは、あたしに結構刺さる話でまた考えさせられるものだったからだ。

 

「……で、だ。

 関係ないところから話すようだけど、無人島の試験で何が一番ヤバい事だったかわかる奴いる? あ、気づいてても四方と東風谷は言うなよ」

「は? それと今がなんの関係があるのよ?」

「最初から女子達の前でストレートに言うのは、気が引ける話題なんだよ真鍋さん」

 

 ここからの話題は、きっとDクラスでは考えた人も少ないだろうことで、それでいて結構重大な懸念だったと思う。

 

「女子達に言うのは気が引ける……? もしかして」

「あー。そりゃ椎名は気づくよなぁ。

 うん、多分想像の通り。僕が島で最も警戒してたのは、監視ができない場所で誰かが誰かに襲われることだよ。そんで暴力にしろ性的なアレにしろ、被害者になる可能性が高いのが弱く見える女子だ」

「……それがなんだってのよ」

 

 真鍋は考えてなかったからか苛ついた感じだが、島で下着を取られた経験を持つあたしにはこれは他人事じゃない。

 この事を強制的に考えさせられた…思い出させられたから、あたしはそれから男子を煽りすぎないように注意していたのだ。あれは結果的に男子の仕業ではなかったと判明したとはいえ、それまでは平田君以外の男が怖くてしかたなかった。

 

「わからないか? 島では結局大丈夫だったみたいだけど、今はまさにその懸念が再燃しかねない状況なんだ」

 

 でも今は、真鍋達からなにかされることしか頭になかった。

 そこへ改めて突きつけられたものは、身体に冷水をぶっかけられた時以来の感覚に近い。

 それだけあたしは目の前のことだけで精一杯だったのだろう。

 

「ぶっちゃけた話をする。

―――もし軽井沢さんか真鍋さん達のどっちかが誰か男に報復や手伝いを頼んだりした、と仮定した場合にどうなるか想像してみろ」

「そ、れは」

「そこまでいかなくても、相手にマイナス感情を持ったまま何らかの決着をしておかないと、考えがどんどん過激な方向へいくぞ。例えば、アイヒマン実験とかならこの船の環境と君らの関係性なら無理矢理再現できなくもない。そして偶然でもそういう状況が整ってしまったら、歯止めの効かないリンチになってもおかしくないんだ。

 そんな事になったらどっち側にも不利益しかないだろ?」

 

 あたしは目先の恐怖に踊らされて、浅いところしか見てなかったかもしれない。平田君は“あたしを助けてはくれなくても”そんな事をしないだろうというのもある。

 人の悪意に底がないなんて、あたしはよく知っていたはずなのに……。

 

「軽井沢さんと真鍋さん達の力関係を客観的に見ると、軽井沢さんはこれから逃げ続けることになる。下手したら学校に戻ってもだ。それならまださっさと謝った方がいい。

 そうして筋を通した上でまだ何かあるようなら、その時こそ堂々と助けを求めればいいんだ」

 

 まだ無人島から日も浅く、男に襲われる恐怖は忘れきっていない。

 だからなんちゃら実験?とかはよくわからないけど、そんな事態になることは充分あり得ると思えた。真鍋達になにをされるかも怖かったが、男を利用されることはもっと怖い。

 

「真鍋さん達も、どこかのタイミングで軽井沢さんが男を引っ張り出してこないって言い切れるか? またどこかの現場を写真なんかで押さえられたらどうする? そこまでいく前に、適当なところで切り上げるのがいいんじゃないか? 何されたかとか謝られる人次第ではあるかもだけど、もう強制的に真鍋さん達と軽井沢さんが集まれる機会はないんだし、ここらで手打ちにしておくのがマシだと思うのだが」

 

 あたしだけでなく、真鍋達にも同じように忠告している。

 さっきまでのあたしなら、なに甘いこと言ってんの!? くらいは言いそうだけど、前提を崩された今は……。

 

「ともかく、どっちが痛い目にあったとしても寝覚めが悪すぎる。

 だからまぁ、確認?謝罪?して済ませられるなら、お互い最悪にはなりえない今の状況で済ました方がいいよ、ってことが僕は言いたかったわけ」

 

 でも、なんでだろう?

 面倒くさげでムカつく男ではあっても、左京君からは不思議と本当にどうにかしてくれそうな何かを感じる。

 あたしがよほど馬鹿な選択をしない限り、この場で決着をつけてくれそうというか、どっちかが酷い目に遭うようなことにはしなさそうというか。大事なことを思い出せそうというか。

 本来、左京君は敵なのに、初対面なのに。真鍋達と話をつけることも、左京君達がいるなら大丈夫なんじゃないかと楽観してしまう。

 ただ寄生することに慣れきったあたしには、最後のひと押しが欲しい。弱い生き物が勇気を出すきっかけを。

 

 判断に迷っていたあたしはなんとなく、一言も喋っていない佐倉さんを見てしまった。

 意識していたから、あたしは気づけたのだろう。佐倉さんだけがこの場にいながら、唯一左京君が名前を出さないようにしていた事に。

 そしてその佐倉さんの視線の先には当然―――。

 

 そんな佐倉さんの目を見て。

 このままじゃあたしは嫌だ!

 助けてもらうんじゃなくて、あたしも自分で助かってやる!!

 全部と言わなくても取り返してやる!!!

 と、色々起こりすぎてグチャグチャになっていた内心から、これまでのあたしらしくない意思が浮かんできたのはどうしてだったのだろう? まるで諦めたフリをしてた間に溜め込んでいたモノが溢れ出したかのような……。

 

 謝る……か。

 一度だけ信じてみてもいいかもしれない。

 左京君もだけど東風谷さんがここにいる以上、最悪でも真鍋達は強引な手段には出られないだろうし、終わらせてくれるならそれに越したことはない。

 なにより佐倉さんは信じることができたのだから、あたしにもできるはず。

 

「し、志保ちゃん? ここ?」

 

 あたしがそんな事を考えている時に、非常階段のドアを開けて現れたのは―――。

 





 今回は、『迷言』のIF的な話(軽井沢ver)でもあったり。
 もし佐倉か…あるいは一之瀬あたりがいたらこうなる、って感じでしょうか。状況や堀北と軽井沢の違いで、変わる部分はそこそこありますけども。

 あと軽井沢はあまり登場機会がない為、勘違いがあるとなんなのでちょっと裏話。
 軽井沢視点だと佐倉だけでしたが、左京がなるべく名前を出さないようにしてたのは、佐倉と四方の二人だったりします。この点からわかるように軽井沢さん、状況のせいと佐倉を微妙に意識してるのもあって視野が狭い状態になってます。
 尤も、原作でも試験中は基本大人しくしていたのに、真鍋達とは何度も挑発的な態度で問題を起こし、そのくせ(あいつらは)許すつもりはないとか言って和解(和解までは無理でもまず話や謝罪をすること)しなかったのが何故なのか、はっきりした理由がわかりませんでしたが。後に櫛田へジュースぶっかけた時は、策や演技、櫛田がクラスメイト、平田など周囲の要因があったとはいえ謝れたのに。
 私はそれを視野の狭さと本質的にはコミュ障な事が原因と考えて、こんな感じにしてみました。
 これにより、視野が狭くなっているという気づきと恐怖、佐倉という逃げ道を用意することが、前話で左京が無意識に考えたこの解決への道筋になります。まぁ軽井沢から佐倉への意識度合いについては、左京がわかりようがないので計算外のつもりでしたが。ちなみに真鍋達へは龍園を連想させた事が、それに該当します。

 で、それらを踏まえてダイスで成功率を出したら、1D100で94が出たのでクリティカルを除いて理想的に近くなる結果にしたわけですね。あまりご都合主義っぽい結果にはしたくないのですが、ハッピー方面なら別にいっかな、と。
 あっ、能力数値や確率などに関してだけは一貫して、ファンブルとクリティカルを逆にして%がわかりやすくしています。なので94はほぼクリティカルの成功になりますね。
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