ようキャ   作:麿は星

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 前回のあらすじ。

 祝・東風谷早苗の名前呼び解禁!

 ここまで長かった。東方的に違和感あってもこの左京だと理由なく名前呼びできなくて、ずっときっかけを考えて……ようやく軽井沢イベント関連を利用して、口喧嘩のどさくさで言わせればいいんじゃね? って思いついてやった。
 ついでに軽井沢が駒になるルートもだいぶフラグ折っちゃったけど、早苗呼びができるようになったことに比べれば些細な事でしょう。綾小路であれば、やろうと思えばここからでも修正できるはず(希望的観測)。



79、聖人

 

 諸藤リカさん(この時点では名前を知らなかったが)が来てから少しの話し合いを経て、軽井沢さんが謝ってとりあえずの和解をしてから去って行った。

 本当はここまで付き合う気はなかったのだが、愛里と椎名の期待の眼差しを無視できるほど僕は達観していない。

 しかも四方や早苗、清隆には何度も投げようとしたのに、わざとらしく目を逸しやがる。四方には無駄に注目を集めたくなかったからまだいいが、こういうのは力がある奴がやれよと何度も怨念染みた意思を早苗と清隆には送り続けていた。無駄だったが。

 だから結局最後の最後まで僕が、右往左往することになってしまった。

 

 あとクラスメイトが保証人的な位置にいた方が安心できると思って、清隆と椎名にはそれぞれC・Dの者達に連絡先を交換してもらい、しばらくの間の経過観察を頼んだ。何故か僕も連絡先を交換することになったが本気でいらない。今後、使うこともないだろう。

 ただ登録連絡先に女子が6人(ついでに椎名とも交換した)も一気に追加されたのでアドレス帳が20人の大台に乗り、早苗や愛里、それに野郎共にドヤれる可能性が生まれたことだけは幸いか。椎名以外、連絡してみろって言われてもできないからアレだけども。

 

 ともあれ軽井沢さんが素直に謝罪してくれたおかげで、変に拗れずに済んだのにはホッとした。おそらく諸藤さんが来るまでの時間稼ぎ&謝罪する気になる誘導が功を奏したのではなかろうか。女子なら持ってるだろうリスクを煽った甲斐がある。他はともかく、愛里の前ではあまり言いたくはなかったがしかたなかったと考えるしかない。

 この一件、精神面はともかく僕としては大した手間でもなかったし、もうパッーとやって吹き飛ばしてしまうことにした。

 MVPは諸藤さんをあの非常階段まで呼んでくれた3人のうち誰かってことで、ソイツに全部押し付ければ万事解決である。実際、今頃は打ち上げとかで持ち上げられていることだろうしな。

 

 この後は、この場に残ったいつもの面子を誘ってみんなで天体観測をして気分転換した。

 天体観測の途中、メールで呼んだ高円寺はともかく、平田、龍園、葛城、神崎(一之瀬は殺到する相談にてんやわんやで、代わりに神崎が来たらしい)がどこからかバラバラと入れ代わり立ち代わりに来た。

 

 ただ天体観測以外で僕が関係してたのは高円寺をメンバーに加えた事と、軽井沢さんの彼氏だったらしい平田に感謝されたことくらいだ。あとは優待者を指名したクレームだったので、それぞれに合わせた言い訳で撃退しただけ。例えば、僕が明言したのは牛グループだけなので他グループの指名は関係ないとか、真鍋さん達や軽井沢さんを引き合いに出して指名してなかったらCかDに変な弱みができてたかもとか……。

 

 滅茶苦茶強引な言い分だけど不承不承でも納得させられたのは、おそらく実際に指名した高円寺、四方、早苗の全員が制御し辛い奴らだと話すことで理解したからだろう。四方が高円寺に対抗する為に指名したと聞けただけで、他二人はほぼ無視を貫いてたから一目瞭然である。

 

 ああ。ついでに言うと、龍園など端末を忘れたとかで2度も来訪した。

 うっかり属性持ちの中二病患者とかコイツはどこを目指しているのか。

 その時の僕は葛城と話していて又聞きだったが、清隆や四方が再訪した龍園の対応含めてなんかやってくれたらしい。葛城が帰った時には本人が居なくなっていたので、せめて今度話す時には龍園にキャラ付けの徹底を呼びかけてやれと言ったら、何がおかしいのか大笑いされた。的確なアドバイスだったろうに解せぬ。

 

 まぁ僕としては、いつもの天文部+αでデッキに天体観測をして帰って寝ただけなので、日記をつけていても「なにもない一日だった」の一文だけの日だったといえる。

 

 

 

 

 

 日が変わって、休養日なのか試験日時に挟み込まれたインターバル。

 僕と早苗は、呆れた感じの何人かに囲まれて一之瀬から説教を食らっていた。勝手に優待者を指名したことじゃなく、妙な方向で。

 

「だからね。左京君は私が見てないと、何かやらかす心配が次々と湧いてくるの。お願いだから、ちょっとだけ大人しく私と居よ?」

「一之瀬お前……。いつから悪い男に入れ込んだ不幸な女ムーブなんかするようになったんだ? しかも僕を仮想悪い男に設定するんじゃない」

「……な、なんのことかな? 私はただ左京君の姿が見えないとドキドキするだけで」

 

 そう。一之瀬におかしなスイッチが入って、自覚を持って暴走しているのだ。

 だって僕の軽口に対し、一之瀬の声には動揺が滲んでいる。

 こいつぁ黒だ。

 確実に『ソレ』を意識しつつやってやがる。普段から彼氏とそんなプレイしてるんじゃなかろうか。ただ一之瀬は慣れてなさそうだから、相方の方が変態か常識がないかのどっちかだな。

 

 しかし動揺して完全ではないとはいえ、こんなムーブまで習得させるとか、いまだに実態の見えてこない一之瀬の推定彼氏はマジで何者なんだ。この調教途中みたいな状態を考えるに、一之瀬の心と身体に教え込んでいるのか? エロ同人みたいに……。

 と、それは置いといて、あらかじめ早苗に打診しておいた札を切る時が来たようだ。本来はこの仕込みの為だったのに、あんな面倒にまで巻き込まれたんだからコイツにはキリキリ働いてもらう。

 

「やるぞ早苗。早急に対処しないと面倒事が増えるかもしれない」

「えぇ~。本当にあれをやるんですか? それならせめて―――。

 テンション爆上げでいきましょう!」

「よっしゃ、了解! この勢いはもう誰にも止められないぜ―――って、何やらせるんだよ!?」

「二人共。急に変な雰囲気を作らないで? 見て感じてこの空気」

「無理しなくていいですよ一之瀬さん」

「最初から無理してないから、そこは大丈夫。でも無視はできないからね」

 

 おお。さり気なく僕の手を取った早苗。

 こいつ何気に、わけわからない流れを作るのめっちゃ上手いな。

 やろうと思えば櫛田の表バージョンみたいなのもできるんじゃないか。目配せしてくるし、準備もできてるとか至れり尽くせりじゃん。

 よし。僕も上手くやってやろうじゃないか。

 

「てか、手を離せ早苗」

「いやあああ! 私のお金でギャンブル行かないでぇー!」

「ふざっけんな! ちょっと倍にしてくるだけだろうが!」

「ダメダメ! 夢月さん、置いてかないで!」

 

 いきなり悲痛っぽい声で熱演しだす早苗に、笑いを堪えてオラオラ系を意識して返す僕。

 これこそ一之瀬に客観的自分を知らしめる策略である。

 

「ふむ。どうだ一之瀬? こう、胸に去来するものがないかね?」

「……東風谷さんまで付き合わせていきなり小芝居を始めたと思えば、何が言いたいの?」

「そりゃあ、さっきの一之瀬を客観的にみたらこんな感じにも見えるんじゃ、っていう問題提起なんだが」

「にゃはは。

……………………左京君。私の我慢の限界でも測ってる? 流石の私もそろそろ」

「一之瀬。こいつらに真面目に付き合ってるとおちょくられ続けるぞ。それより結構時間経っちゃったけど、そろそろあの指名についても詳しく言っておきたいことがあるんだが。十中八九、優待者が軽井沢だと示す法則を見つけた」

「軽井沢さんが?

……この話は後でね左京君。絶対に有耶無耶にしないからね?」

「はいはい。よしなに……覚えてたらな」

 

 こんな風に、僕は朝食の席で一之瀬達からの説教を時に聞き流し、時に早苗と協力しつつ乗り越えたり、複雑な顔で怒る一之瀬に再度説教を食らいながら、これの『対処』について考えていた。横目に見た四方と早苗も似たような懸念を抱いているようで、言動にも何らかの思惑が感じられる。

 

 とはいえ今回は悪巧みなわけではなく心配に近い。

 その証拠に、僕と同じような立ち位置の早苗は演技以外では無言のまま観察してるだけだし、そこまでの流れを断ち切った四方は軽井沢さんが優待者だったんじゃないか?とかホラを吹いて、僕と早苗をフォローしつつ早く話を切り上げようとしていた。

 これは一之瀬を仕事モードにすれば、まともっぽくなることを理解できてきたからこそ実行された四方の強引な方向転換だろう。僕と早苗では、どうも妙な方向に話にしか持っていけないからだ。

 

「昨夜、優待者の法則を色々考えてたんだが、おそらく干支とあいうえお順だと思う。例えば兎グループのメンバー表だと、子丑寅卯の4番目が優待者。つまり綾小路、安藤、伊吹、そして軽井沢、という感じになる。俺の馬グループもこれに照らし合わせると南が優待者になるし、夢月の牛グループは夢月になるからほぼ間違いないはずだ」

「なるほど。とすると、俺と一之瀬がいる竜グループは……櫛田か」

 

 てか、よく聞くとフォローやホラを吹いてたわけじゃなく、法則は本当にこれっぽくないか? 遅くまでなにをやってるのかと思えば、試験の法則を割り出してたのか。

 これが合ってるなら、保険の最後のピースは揃ったことになる。四方の大金星である。

 また、ここまで説得力のある法則の仮説があれば、一之瀬関連の懸念を解消してもどこからも文句は出ないだろう。

 ただ問題は―――。

 

 

 

「なぁ、みんな。

 兎みたく指名する方がいいグループはともかく、他はなるべく結果1を目指す方針にできないか? 優待者指名の指示しといて都合がいいかもだが、クラス成績よりも金を稼ぐチャンスだぞこの試験」

「金つーかポイントだけどな」

「左京君って、本当にCPはあんまり重視してないんだねぇ。でもPPの使い勝手を知っちゃった私としても、どうしようか悩むところではあるんだよね。葛城君や桔梗ちゃんはともかく、龍園君がどう出るかも心配だし、早めに手を打つ必要性もわかるけど」

「それに一気にAクラスに躍り出るチャンスを捨てるというのも、もっと考えるべきじゃないか?」

 

 確かにAクラスになるのが一番の目的なら指名をするのがいいんだが、どうにも気になる事に意識を取られてそっち方面の言葉が浮かばない。

 いかん。一之瀬がどちらに傾くかがターニングポイントになりそうな気がしているし、せめて先送りにしとかないと、本当に試験結果次第でAクラスになってしまうかもしれない。

 

「待って欲しい。確かに龍園の事は考えといた方がいいけど、こんな短時間で数百万ものポイントを稼げるのって、これからそんなにないと思うんだよ。葛城や龍園も一部とはいえ乗ってくれてるし、協力して稼げる機会は貴重なんじゃないかと」

 

 気になっている問題とCP狙いになりそうな話をどうしようかと、とりあえず指名させない話を僕が切り出した時に、清隆に堀北さん、須藤の3人が現れた。いつもなら面倒な組み合わせだけど、今なら喧嘩売ってくれる相手が来たのはありがたい。

 

「金金金。ビジネスマン染みた振る舞いは恥ずかしく……ないわね。むしろ当たり前かしら」

 

 だが、堀北さんは今日に限って喧嘩を売ってこなかった。

 目的は一之瀬とほぼ同じで、兎グループの試験を終わらせてしまったことで話をしに来たからだろうか? さっき四方が話した法則の話を聞かれた上でだったら間抜けな話だが、清隆以外は顔色が読みやすい堀北さんと須藤だし、それはきちんと観察すれば判明する。清隆には多分もう情報が割れてるから、それを伝えていない前提条件付きだが。

 そう思って新たに来た3人を観察しつつ、軽く突いてみた。

 

「なんだよ。また喧嘩売って来たかと思えば、どこかおかし―――ッ!?」

「どうしたの左京君」

 

 そこで堀北さんを初めてはっきり観察した僕に、二兎を得られる幸運と天啓が舞い降りてきた。法則についてのことなど、どうでもよくなったほどだ。

 飛んで火に入る夏の虫、というと不謹慎すぎるだろうか。

 振り返って改めて見た堀北さんの顔色が良くない。さっと目を走らせた温度計は、室温27℃、湿度も70%近いというのに、微かに寒そうにもしている。

 ともかく勘違いの可能性を考慮に入れ、早苗と一之瀬が揃っている幸運にも感謝しつつ堀北さんへ質問しておく。

 

「……堀北さん。もしかして今、寒かったり怠かったりしないか? ビタミン剤とか処方されてるか?」

「左京君?」

「は? いきなり何が言いたいのかしら?」

「清隆、須藤。一緒に来たなら、堀北さんにそうした症状が見えたり、話した中で何かおかしな点に気付かなかったか? 堀北さんにとっては結構重要なことだ。気づいてたら教えてくれ」

 

 勘違いだったらなんなので、清隆達にも聞いてみる。

 須藤は気づいてなさそうだったが、清隆は少しだけ思い出すような仕草をした後、答えてくれた。僕がそれなりに真剣なのがわかったからかもしれない。

 

「俺は……ちょっとわからねぇ」

「……そうだな。さっきの朝食で少し話しただけだが、寒そうに見えた時もあった……気がする。確証はないが」

「充分。お前がそう見えたなら、可能性があるかもしれない」

「だから何のこと?」

 

 考えてみれば、無人島で彼女が倒れてたのを見てからまだ1週間くらいしか経っていない。

 

「なるべく必要なところだけ言う。

 この環境での寒気や怠さは熱中症の疑いがある。それもかなり重めだ。すぐに医者の診察を受けるか、体を冷やしてビタミン剤などを飲んだ方がいい。遭難者が、寒いのに暑く感じて服を脱ぎたくなる症状と近い危険な状態、と言えば伝わるか?」

 

 あの時は風邪だけだと判断していたが、重度の熱中症や塩分不足による低ナトリウム血症による夏バテなども原因だったら、適切な処置をして安静にしてなければなかなか回復しない。

 これらが風邪だと誤認されることは稀によくあるから、念を入れておいた方がいいだろう。

 

「無人島では風邪かとも思ったが、これだけ長引いてるなら熱中症の可能性を疑うのを勧める。もしくは低ナトリウム血症による夏バテか。いずれにせよ、医療者か面倒ならうちの担任あたりに診てもらえばはっきりする。こうした不調は、あまり舐めない方が良いぞ。

 だから教師に信頼厚い一之瀬。担任のところまで付添を頼めないか? 診察するなら、男の清隆・須藤や僕とかよりはマシだと思うんだが……」

「…………はっ! も、勿論私はいいけど」

 

 クラスリーダーを顎で使いたくはないが、一之瀬以上の適任は思いつけない。櫛田か愛里がいれば、そっちにも頼んだのだがいない。早苗はアレだし、堀北さんはこの場にいるうちのクラスの女子とは見るからに付き合いがなさそうだ。

 なにより一之瀬を行かせれば、説教も半分回避でき、懸念の解消にもなる。四方や早苗も賛同してくれるに違いない。

 

「早苗の見立てだとどうだ?」

「そうですねぇ。

 聞いた限り、確かに熱中症か夏バテっぽいです。早く連れて行ってあげた方がいいと思いますよ。本当にそうならなかなか治りませんから、ビタミンや塩分をきちんと摂って安静にしてください。

 私としては、減塩の嘘に引っかかって間違った健康常識を実行してしまったのではないかと。あ、減塩については厚労省のホームページに間違いだったと記されているので、興味があったら調べてみてください。コレステロールとかの嘘もあって価値観が変わるかもで」

「ストップストップ! 好きなこと聞かれたオタクかお前は! そうした事は担任や本職に任せとけって」

 

 普段人前では無口気味なのに、いきなりベラベラと喋りだした早苗に注目が集まる。

 周囲がポカンとしてたから一応演説?は止めたが、早苗は見事に僕の意図を汲み取って後押ししてくれた。

 神様から薫陶や助言でも受けているのか、早苗は化学・医療方面にはめっぽう強い。それこそ付け焼刃の僕などより高度な知識を持っていて、無人島でも筋肉痛に効く薬草とかを処方してくれた。クラスメイトは…一之瀬はこの事を把握しているし、世話になった者もいる。これで僕の言ってた事にも説得力が増すことだろう。

 

 一方、僕は口ではこう言いながら、その隙に端末に最初から登録されていた担任へメールを送っておいた。

 堀北さんの不調については勿論、『本命』の一之瀬を休ませることについてだ。珍しく朝から疲れを見せていたので、担任の元へ送り込んで強制休養させようと考えていたのである。今日はディスカッションもないし、一之瀬がゆっくり休むことに文句がある奴はいないはずだ。

 

 ただ疲れてそうなのを指摘しても、肝心のドM委員長は絶対に休まない確信があった。さっきまで僕達が遠回りに色々やってたのは、彼女を休ませる為である。おそらく正攻法は、網倉や神崎あたりが打診して断られてるだろうし……。

 だから渡りに船とばかりに、堀北さんの不調を無理矢理絡ませたのだ。堀北さんを連れて行った先にいる担任から言われれば、優等生の一之瀬は素直に休むに違いない。

 

 くっくっく。我が渾身の説教回避策に落ちるが良い。あとは神崎経由で網倉・白波あたりにも同行してもらい、ゆっくり休む為にとか一之瀬の端末を預かるよう吹き込めば完璧である。

 てか、誰だか知らないが一之瀬の彼氏はなにをやってるんだ?

 変なことを教え込む前に、手抜きと加減、休むことを教えてやれよ。ちょっと見るだけで微妙に無理してるのがわかるとか、一之瀬は明らかに働きすぎだろう。

 

「よくわからねぇけど、堀北がどっか悪いのか!?」

「あー。そのへんは本人しかわからんが、不調が続いてるなら舐めない方がいいよってことだ。どうなんだ堀北さん?」

「……何故」

「?」

 

 そうしたわけで一之瀬の心配をしつつ、上手くいきそうだと内心ホクホクもしていると、何故か堀北さんの面倒モード?が発動していた。今日はやることもないんだし、本当に不調ならさっさと休めばいいものを、なにが気に障ったのか噛み付いてきた。

 しかし甘い。この場には疲れてるっぽいとはいえ聖人がいる。

 ほとんどの奴に優しい一之瀬が、同級生の不調を言われて放っておくわけがない。

 

「何故貴方達…貴方は……敵の施しなんか、誰が受け」

「堀北さん。本当に左京君達が言うように調子が良くないの? 他所のクラスだから敵って言われちゃうのはしかたないけど、辛そうな人を心配する気持ちはわかってほしいかな」

「……ぇ?」

 

 あ、あれ? でも予想していた一之瀬のフォローが、なんだか心に痛いぞ?

 堀北さんの性格上、迷惑とか大きなお世話とか言われるのは想定していたけど、一之瀬の聖人っぷりを間近で見て、利己的な心の汚れが僕に悪さしているのかもしれない。見れば四方はともかく、早苗も衝撃を受けた顔になっている。

 お経を唱えられた孫悟空ってこんな気持だったのかなぁ、と共感してしまいそうだ。

 

「……ちょっと失礼」

 

 予想外のダメージに僕が遠い目になっていると、気を紛らわすためか早苗が堀北さんの診察?をしようとしていた。

 

「触らないで……! 私は1人で……」

 

 早苗が伸ばした手を振り払おうとして、堀北さんはテーブルの角に手の甲をぶつける。

 うあ、痛そう。

 涙目になってしまった彼女に罪悪感っぽいものが湧き上がり、口に出してはいなかったが、流石の僕も一之瀬のついで扱いは酷かったかもと思い至る。いや、堀北さんがどんな心情でこうなったのかわからないが。

 

「そのぉ、大丈夫……」

「触らないでって言ってるでしょう!?」

 

 更には何かしなきゃみたいな心境になった僕がつい伸ばした手も、当然のようにパシッと払われ。

 さっきまで比較的穏やかだと思っていた堀北さんが、いきなり怒り出してしまった。

 

「なんなの貴方は!? なんのつもりで私を助けるようなこと……お金!?」

「いや、こんな当たり前のことで金なんか取らんわ。どんなイメージだよ。ああ。一応言っとくが、他のモノもいらないからな」

 

 あ、反射的に返してしまった。実際、堀北さんはついでだったし。

……それにしても、なんか想像以上に僕の印象が悪い。てか、ひょっとして堀北さんの地雷を踏んじゃいました? 自己管理できてない奴…みたいな聞こえ方したとか?

 

「くっ。じゃあ、なんのつもりで! 私を貶したかと思えば、そうして善人ぶったりして……。何が楽しくて!」

「いや。あ、あの、ともかく落ち着い」

「ええ、左京君も東風谷さんも思い通りになって楽しいでしょうね! 良い事も悪い事もなんでも好きにして、望んだ結果を呼び寄せる強さがあって! 兄さんさえ……!」

「に、兄さん? あ、そういえば会長の妹だし、もっと気遣った方がよかっ」

「堀北さん」

 

 堀北さんの突然の激高に加え、自己完結したり、会長?が話に出てきたりして、わけわからなくなってたら一之瀬が割って入ってくれた。

 こういう場面ではなんて頼りになるんだ。流石我らの学級委員長!

 

「まずは一度休もう? きっと堀北さんは疲れてるんだよ」

「放っておいて! 一之瀬さんには関係ないわ!」

「……今の堀北さんは冷静じゃないように見える。不調でもあるみたいだし、他所のクラスとはいえ、そんなの放っておけないよ。お節介かもしれないけど、私は困ってる人がいるなら手助けくらいはしたいんだ」

「……っ」

 

 一之瀬の善人オーラに当てられたのか、何故か大人しく…悄然となった堀北さん。

 言葉というより人柄で堀北さんを鎮火させた一之瀬に、クラスメイト達や須藤は感心したように目を向けている。四方や清隆もしっかり状況を観察しながら、目を瞠る仕草もしているということは彼らにも予想外ではあったのだろう。

 

 僕? 勿論、早苗と同じようにドン引きである。

 なんだこの慈愛すら感じる雰囲気と包容力。高1の女子が持つようなもんじゃないだろ。ツラい時、苦しい時、あの巨乳に顔を埋めて抱きついてもよしよししてくれるんじゃないかと、錯覚しそうになったわ。

 堀北さんとの間に入って宥めてくれたことに感謝はしているが、やはり一之瀬は恐るべき変人だと確信していた。

 





 左京と早苗の医学知識については、左京は『旅行』で一応の伏線(かじった程度ですが)を。早苗は後々にワクチン精製までやってのけるレベルなので差はありますが、家庭の医学レベルならそこまで差がないように見えるかな、と。

 あっ、ようキャではB・Dクラスが同盟してないので、左京がほぼ関与していない無人島の偵察時と竜グループでの顔合わせを除けば、これが初の一之瀬・堀北の交流になります。個人的に一之瀬・堀北が仲良い感じだとしっくり来るので、一之瀬を休ませるついでに接点を持たせちゃいました。
 これにより試験最終日に一之瀬が寝てるシーンもなくなりましたが、グループも状況も変わってるし今更ですかね。
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