ようキャ   作:麿は星

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82、損得

 

 謎に覚醒した一之瀬の膝詰め説教は、説教ソムリエの僕をしてなかなかキツいものであった。

 何度か逃げようともしたのだが、物理的に抑えられている上に、網倉と白波も去らずに残ったので好機を生み出せなかったのだ。それに普段とどこか違うとはいえ、一之瀬相手では強硬手段は取れない。正直、お手上げだった。

 

 でも読み切れていない部分はあれど、内容はなんであれ一之瀬に溜まってるモノを吐き出せさせた事は彼女の精神にプラスの効果があるだろう。執拗にセクハラしてタガを外し、ついでに僕が避けられる誘導はまずまずの成功といったところ。

 これで前日に休ませたことと併せて、クラスの要が精神・肉体両面でベストに近い状態を覚えることができたはずだ。ガス抜きと発散はリーダーの必須技能なので、習得させる事は一之瀬の能力を十全に発揮できる底上げになるだろう。

 これだけやれば次から『それ』に僕は必要ないはずだし、これにて船上試験での予備武器強化はひとまず完了である。

 

 しかし普段温厚で優しい人が怒ると面倒くさいのはわかっていたが、一之瀬があそこまで面倒くさくなるのは予想外だった。

 ああなった理由だって、励ましや助言……ん? いや冷静に考えると、いかに一之瀬だろうと女子ならキレても不思議じゃなかったか? 今思えば必要以上に怒涛のセクハラ責めだったし、これから嫌われたり避けられても納得できる気がする。一之瀬のお人好しすぎる性格からして、僕を避けるまでには至らないかもしれないが……。

 

 でも個人的には、タオル忘れの一件でチンコを凝視してたムッツリだとか言わなかっただけ気を遣っていた方だと思う。これで怒ったということは、僕が手加減の度合いを間違えたのか?

 う~ん。はっきり何があの聖人を怒らせたのかわからないので、再発防止は難しいかもしれない。

 

 ま、まぁ、クラスリーダーが新たな耐性を得たと考えれば、後で彼女が部屋を転がりまわる黒歴史も無駄にはならないだろう。

 本当に嫌われても、無人島での数々が脳裏をよぎるおかげで一之瀬への苦手意識が向上していたから、むしろ好都合ともいえる。不都合はあるけども。

 

 

 

 ようやく、まだなにか言いたげな一之瀬が話を切り上げた時、5回目のディスカッションの時間まで1時間を切っていた。

 ただ僕は今、精神的に疲弊している。理由は述べるまでもないだろう。無駄に振り切った一之瀬が原因であることは明白なのだから。

 そして昨日、一之瀬を無理矢理休ませといて、疲れている僕が休まないのは筋が通らないので、一計を案じることにする。おあつらえ向きのシチュエーションがこれからやってくるのだ。利用しない手はない。

 

 そう。当初より考えていた試験時間を利用した昼寝である。

 

 実現させるにはもう時間的余裕がないので、ここからは無駄な行動はできない。

 僕は最短・最小限で達成可能な者に絞って牛グループのメンバーにメールを送った。勿論、ほとんどの連絡先を知らないので、ここでは友達を頼る。

 渡辺には四方、姫野には東風谷。

 Aクラスは、戸塚と戸塚を通して橋本。

 Cクラスは、椎名。

 Dクラスは、とある用件ついでに櫛田……とあまり人と繋がっていない愛里。

 彼ら彼女らに伝達をお願いし、牛グループ各員へまくらを持参するように頼んだ。持つべきものは、繋がりをたくさん持っている友達である。

 

 そうして策と根回しをもって臨んだディスカッションでは、呆れ?が部屋中に蔓延する奇妙な昼寝時間になった。でも呆れっぽいものはあろうと、全員まくらやクッション、タオルケットなどを持参しているあたり、昼寝に反対する者はいない様子。素直な奴ばかりでなによりである。

 結果、前の人生でほぼ日常だった死屍累々とでもいうべきデスマーチ後に酷似した状況が牛グループの部屋に出来上がったが問題ない。せいぜい部屋内にある監視カメラを見ている者達が困惑するだけだ。

 

 他に、須藤による堀北さんの状態報告と、戸塚含む何人かが兎グループの指名について聞いてきたりもあったが、どちらも僕にとってさして重要ではないので「お大事に」&「たまたま目にした諍いを止める為」と言うことで事なきを得た。

 でも正直、もっと何かしら言われると思っていたので少し意外だ。案外、一之瀬によるBクラスの印象のおこぼれが、僕にも影響して信用度が上がっていたとかだろうか。

 

 しかし後に、こうした事情で試験中にグループ全員で雑魚寝したという珍事として噂されることになるとは、社会人経験のある僕の目をもってしても予測できなかった。

……だってやることないんだし、寝てもいいと思うじゃん? まさか他のグループが全て真面目?にやってるとは思わないだろう。

 

 

 

 昼寝した僕はディスカッションの時間を余裕でぶっちぎり、3時間ほど眠りについていたようだ。

 起きたら当然ほとんどの面子は解散した後で、部屋内には愛里だけが残ってくれていた。

 それにしても、起き抜けのスッキリした状態で見る愛里はなんとなく良くて愛妻感まである。いや、妻とかできたことないけども。

 

「おはよう愛里。結婚して」

「あ、おはよ―――うえぇえええっ!!?」

 

 それがなんか嬉しくて、ついプロポーズしてしまった。

 結果、慌てふためく愛里を見て、あれ? 驚いてはいるけど意外と悪くない反応。僕が起きるまで待っててくれたみたいだし、これって結婚を撤回して付き合ってって言えばワンチャン付き合えるんじゃね? みたいな邪念が湧き出したが、そんな騙すようなことして仮に恋人になれても長続きしないだろう。

 

 それにエ○ゲじゃあるまいし、一之瀬と違って嫌われるのが大ダメージになる愛里にセクハラはご法度だ。弁明の余地なく即フラれなかっただけで御の字としておこう。

 僕は負けかけていた良心と、付き合えたとしてもしばらくあまり暇がなくイチャつけないことを思い出して欲望を抑え、断腸の思いで誤魔化すことにした。

 

「すまん。寝ぼけてた」

「はわわ…あわわ……!」

 

 ついでに、どこぞの幼女軍師のようになっている愛里の口に、持っていた飴玉を放り込み沈静化を図る。愛里から発生するリラックス効果を活用し、僕と愛里双方の頭を冷やそうとしたのだ。

 こういうこともあろうかと、僕は一口サイズの菓子を常に隠し持っているのが生きた。ちなみに、以前のラムネもこの一環である。

 飴玉が功を奏したのか愛里がちょっと冷静になり、口をモゴモゴさせ出した。

 喉に詰まったりしたら危ないので細心の注意を払い、万が一にも備えていたが、おそらく成功といえるだろう。

 

「……びっくり(モゴモゴ)した」

「まさかそんなに慌てるとは思わなかった。悪い。大丈夫か?」

「う、うん(モゴモゴ)」

 

 それにしても、口をモゴモゴさせる愛里もリスみたいで面白い。いつまでも観察していたい気分だ。

 

「ところで今の愛里の写真撮っていい?」

「え(モゴモゴ)? いふぃにゃりなんで?」

「飴玉モゴモゴさせてるのを、リスとかとコラしたら面白そうってだけだが」

「確かにそうかも……?

 あっ(ガリッ)! だ、駄目だよ。考えたらなんか恥ずかしいし」

「ああ、それもそうか。残念だけどしかたないな」

 

 その着想を利用しつつ、誤魔化しへの話運びもまぁ成功である。愛里からもわざと乗ってくれたくさいけど。

 ただ勢いで飴玉を噛み砕いてしまったからには、どのみちコラ写真はもはや手遅れだろう。バリボリいってるし。

……こういう事しようとするから、朝から一之瀬に怒られたんだろうな僕。

 でも自分であまりいい男ではない自覚はあるが、何気にこういう自分が好きだったりもする。たとえモテなくてもだ。

 

 それからは最後のディスカッションの時間までここに居座って、愛里とのんびり駄弁っていた。先生か誰かが来て退去を命じられたら移動するつもりでいたのに、何故か居座れてしまったのだ。ラッキー。

 愛里とも、旅行期間に入ってからは久方ぶりのゆったりした時間だったからか話も弾む。

 特に僕が愛里に貸した本の作者“かみないつし”が椎名の父親という事実を聞かされた時は、それがきっかけで椎名と友達になったと聞かされたのと同じくらいテンションを最高潮に持っていった。それ自体でどうこうする気はないが、よくできた群像劇を描ける作家先生は僕の永遠の憧れである。

 

 また途中、起きてから呼んでおいた櫛田と早苗、四方が来てくれて『保険』も託せたので言うことはない。

 櫛田は簡単に説明するとすぐに緊急性に気づいて5分ほどで退室していったが、これをもって僕が試験で打てる手は最後を残し、すべて打ち尽くした。これで順当に行けば8割、予定外があっても5割は固いだろう。

 

 僕が櫛田に持ちかけた話はごく単純だ。

 櫛田に四方が導き出した優待者の法則を教える代わりに、愛里と高円寺、ついでに清隆が困った時にちょっとでいいから融通してやってくれ、と条件はそれだけである。

 拘束もないゆるい条件を付けた上で、順当にCPを得れば櫛田の手柄となり、万が一四方の提唱した法則が間違っていたとしても僕に騙されたと自分のクラスに誘導をかけられる。

 それを思いつき実行できるくらいの能力が櫛田にはある。だから乗ってくれると思っていた。

 

 ただ愛里に勘づかれると負い目を持たせそうだったので、早苗に気を逸してもらっている間にコトを進めさせてもらった。尤も、別にバレても構わない。あくまで念の為の措置だ。

 法則を発見した四方と早苗に賛同を得ている以上、愛里にバレようとそんなの忘れるくらい遊んでしまえばいいからだ。人と状況が揃っていると、こういう時に選択に幅が出るので助かる。

 

―――借りは返したぞ櫛田。あとはお前次第だ。

 

 彼女の去り際、内心で櫛田にそう投げて肩の荷を下ろした僕は、残った四方と早苗、さっきの話が飲み込めていなそうな愛里とともに談笑を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまた数時間が経ち、僕がこの船でする数少ない残りの仕事の時間、6回目のグループディスカッションがやってきた。当然、四方と早苗はすでに退室している。

 前回までと違うのは僕と愛里が最初から居た事くらいだが、続々と入室してくるグループメンバーに「こんばんわ」と挨拶していくのはなかなか新鮮だ。なんというか新人の下っ端になったような心持ちである。

 そうして全員が揃うのを待って、前置きから話を切り出した。

 

「えーと、今回でディスカッションは最後なわけだけど、約束通り優待者の通知メールをみんなに見せる前にまず言わせてくれ」

 

 僕はなるべく誠意が伝わるよう立ち上がり、頭を下げながらグループメンバーに向かってお礼を言った。

 

「なんだかんだで、最後まで付き合ってくれてありがとう。

 正直、話し出す時に「あ」とか、「えーと」とか高頻度で付けちゃう僕が仕切り役にされた時は、正気かコイツら? なんて思ったけど、全6回のディスカッションの時間は結構楽しかったよ」

「俺、最初は退屈かもって思ってたけど、意外と楽しかったぜー」

「ああ。ゲームとか白熱したよな」

「堀北が言うには、どこも張り詰めてたみたいだし左京はよくやってたんじゃねぇか?

……サンキュな」

「……わたしも」

「いやぁ。まぁ僕だし? 当然ていうか?」

「はいはい。調子乗らない」

「……はい。みなさん、ありがとうございました」

 

 すると、これまでのディスカッションでも発言の多かった池や渡辺、須藤などが嬉しいことを言ってくれた。控えめだが愛里も。

 僕はそれに甘えて最後で抜けがないように、気を引き締める事で返礼とする。けして驕った瞬間、姫野に窘められたから敬語になったわけではない。

 

「ははっ。珍しく真面目か?

……俺も悪くなかったぞ。前なんか気を遣わせて仲裁までさせたしな」

「戸塚…友達だし別にええんやで。

 てか、真面目っぽいのはしかたないだろ。締める時に締めないとメリハリがなくなるし、裏切る場合はともかく、ここまで辿り着いてディスカッション後の回答タイム?でなんか間違えてPP貰えませんでした、とか最後の最後で笑えないことにはしたくない」

「確かに。貰える物は貰っておきたいよね」

 

 だから冗談めかして戸塚へも軽く返しつつ切り替え、あえて裏切りの話を出したのに、何故か和気あいあいとした雰囲気になった。

 この雰囲気を壊すのは忍びないが、最終確認と注意事項への言及は必須だろうと早めに話を戻す。なんか今度は松下さんが目を細めてて怖いので。

 というわけで、本題である。

 

「で、あー。ちょっと脱線したけど、これから通知メールを表示して僕の端末を右回りでまわすから、名前間違いが起こらないように改めてしっかり確認してくれ。これは結果3にするつもりの人が居たとしてもだ。

 結果2はまだしも、結果4だけはなんとしてでも避けたいからな」

「なんでだよ?」

「結果4は、Bクラスが得する代わりに、間違えたクラスが損するからだ。

 僕を牛グループの仕切り役にした以上、他クラスに『損』を押し付けるような事は矜持に反する。損して得取れってのが僕のやり方だし、これだけは譲れない。それに交渉事はWINWINにはできなくても、自分だけじゃなく相手の損得も考えといた方が後々に生かせるってのが僕の持論だ。

 なので、頼むからマジで気をつけてくれよ?」

 

 本当に結果4になるのだけは避けたい。

 どんな理由であれ、特にDクラスから結果的にCPを奪うような事になろうものなら、次に何かする場合のしこりになったりしそう。それなら僕の評判とうちが少しポイントを落とした方がまだマシだ。金の恨みは面倒臭いのである。

 

「改めて明言しとく。

 僕、左京夢月がこの牛グループの優待者だ。

 これを確認した上で、自分の意思にしろ、誰かからの指示や要請にしろ、優待者指名しても結果3なら僕は構わない。自クラスの為にそうするのがいいと思ったら、遠慮せずにやってくれ」

「「「「「……」」」」」

 

 AやCにしても同じだ。

 だから念入りに、しょうもない事で禍根を残す可能性は念入りに潰しておく。

 またそれをした結果、僕以外がどう思うかは何度か言ったし、関知するところではない。やりたければやればいいのだ。

 おっと、でもミスを減らす確認はしておかなければ。

 

「それと一応、順当に行った場合の最終確認だ。

 結果1にするには、試験終了時刻と…ちょっと聞こえは悪いが裏切り者に許された時間が過ぎた上で、対象者全員が決められた回答時間に正解しなければならない。今回で言うと、僕のフルネームをこの場にいる全員がその時間に答えることになる」

「それって、回答専用の時間があるってことか?」

「僕達Bクラスは茶柱先生が最初に説明していたが、20:30~21:00の間だけが結果1の回答を受け付けるらしい。その時間以外で回答を送信すると、結果3になってしまう?ので気をつけてくれ」

 

 ここらへんが、学校の意地が悪い部分である。

 僕は茶柱先生の説明しか聞いてないが、これまでの例からすると他クラスへの説明もテンプレに違いない。

 つまり、ある意味で優待者の法則やそれぞれの結果よりも重要な回答時間についてはわかりにくく説明してきた、ということだ。おそらく勘違いや思い違いをしてしまった者もいるだろう。

 最後のディスカッションまで辿り着いて、自分の意思やリーダーとかからの要請ならまだしも、学校に誘われた凡ミスで全員の報酬をふいにされてはたまらない。

 なので、そこはしっかり言及しておく。

 

「個人的には、他の結果と比べて破格の報酬があるし、学校はよほど結果1にしたくないと感じる。そのせいか微妙にわかりにくくなってる箇所もあって、結果3の優待者指名メールとは違い落とし穴への誘導がある」

「……試験終了後は直ちに解散し、一定時間他のクラスの生徒同士での話し合いを禁ずる、ですね」

「そう。椎名の言う通り、試験のいくつかの禁止事項にはこうした他の結果への誘導が隠されていて、結果1の難易度を上げているんだ。

 例えば、椎名が言った禁止事項は他クラス同士で助け合いや団結、または相互監視をさせず、誰かを裏切らせて結果3か4になんとか誘導したい意図しか考えられない。誰でも魔が差したり、疑心暗鬼や欲に駆られたり、理解度が低かったりでやってしまう可能性はあるから、そういう奴を狙い撃ちするって意味だな」

「……そ、その…なんで、こんな……?」

「十中八九、ポイント…金だろう。グループ内全員で合わせて700万くらいの報酬と、誰かが50万の報酬。

 そりゃ、経理をはじめ運営する側は、結果1にだけはしたくないさ。生徒同士の騙し合いを奨励し、CPという副賞を付けてでもな」

「……」

 

 椎名と、珍しく愛里がこんな場で普通に発言して合いの手を打ってくれた。1人で話し続けるのは大変なのでめっちゃ助かる。

 

「でも学校がそう言ってるからって、僕達も乗ることはないだろう?

 頑張ったご褒美に金か成績どっちがいい? って聞かれる前に、成績だろ! 成績に決まってる!! さあみんなで成績を選ぼう!!! みたいに押し付けられるように誘導されると納得できないというかなんだかなぁ。と感じられるんだが、君らはどうだ?

 人は大事にする物が違うから一概には言えないけど、冷静ならみんなと協力して金を選ぶ奴が多そうな気が僕はしてるんだけども」

 

 CPを最優先で狙いに行く奴は一定数いるだろうが、それでも大多数は『信じていない』と僕は信じている。

 だから結果がどうなろうとも、この場でもリーダー達が集まった時にも言葉を尽くしたのだ。

 言葉こそが人である証明。

 この真理だけは獣同然の相手じゃない限り、どこでも変わらない。

 

 またこっちは関係薄いけど、友達以外の僕と話したそれなりの数がAクラスを目指す意思を持っていた。これは直で聞いてはないけど、話してる中でわかるものから察せられる。

 例外として、一応友達内では愛里と櫛田にもその意思はあるっぽいが、優先順位はそれほど高くなさそうだった。Aクラス昇格・維持・移動よりも優先される目的があるらしい者は除外である。

 これらを踏まえた上であえて言おう。

 

 学校が目指させる『以外』の道筋を歩んでいたのは、僕の知る限りでは早苗と龍園だけだ。

 

 そもそもそういう方向へ歩んでいない僕、四方、清隆、高円寺などといった者から見ると、彼女らは面白い。少なくとも僕は。

 何らかの理由で足を止めていて、再び歩き出した早苗と愛里。

 自分の目的の為には、他から歩まされる暇はないと言わんばかりな龍園と櫛田。

 愛里と櫛田はほぼ突っかかってこないからともかく、早苗と龍園は少し手を返すだけでイキイキとしてくるのがわかるから、それが面白くてつい対抗策を打ってしまうのだ。

 

「結論としては、学校の誘導に負けないよう結果1に導くには意思が必要ってことだな。

―――ディスカッション終了後、『何があっても』20:30までは心を落ち着けて、時間が来てからは間違えないようにメールを送ることだけを考える意思が」

 

 こんな風に。

 早苗はいまいち行動予測が難しいが、龍園にならまだ打つ手を考えられる。

 この釘刺しと合わせて櫛田に打った手なら龍園の一人勝ちだけは防げるだろう。雰囲気強面なアイツは怖いけど、一人勝ちしてドヤ顔されるのを想像するとなんかムカつくからしかたない。

 

 なので、Bクラスが僅かに下がるだけの現状維持をしつつ、ついでに愛里達Dクラスの収入アップを睨む対抗策を打っておいたのだ。真っ当に試験に取り組んでいる一之瀬達や葛城・戸塚達A・Bクラスの者には言えないが、あいつの思考予測に加えて櫛田と組んでいる以上、どうやってもそれなりの数の優待者が龍園に指名される流れはおそらくもう止められない。

 それなら抑えのついでに、櫛田へのパイプ強化にもなる一手は未来の糧にできるぶんお得感があるだろう。

 

「…………ふむ。選択肢と情報を与えた上でどちらが得か選ばせる。更に自分の意見をそっと乗せることで望む方向へ導く……ですか。

 やはり左京君は大したものですね?」

「ははは。椎名こそ」

 

 あ、でも椎名にはおおよそのことがバレテーラ。

 これこそ議論誘導とか人心掌握術とかじゃないですか、なんて聞こえが悪い言い方されなかっただけ温情といえる。

 他はみんな何言ってるんだって感じだけど、椎名から零れ落ちた短い言葉で僕は軽く見抜かれた事を悟った。

 もし龍園に全てを伝えられたら、達成率5割を下回るだろう。そしてディスカッション直後に速攻がなければ、“また”椎名に助けられることになる。

 どちらにしても、無人島からこっち椎名への借りがどんどん膨れ上がっていくのはどうにかしたいと思う僕なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ以上なにか言う気はなかったのか考え込むように椎名が黙ってからは、段取りや禁止事項の確認などが話し合われた。

 また須藤や池、渡辺からも不安な点についていくつか聞かれ、それに僕や戸塚、わかる何人かが答える形で牛グループはみんな自然と結果1を全員が目指す決定がされる事となる。

 

 そうして話し合いがなんとか纏まり、ついに時間が来てアナウンスが流れると、打ち合わせどおりに最後の挨拶をみんなで交わし、クラスごとにまとまって解散した。

 仕切り役だった僕は、姫野や渡辺とともに一番最後に退室である。先に退室していく不思議そうだった愛里と、ほぼ策を見透かされた椎名からの視線が痛かった事は言うまでもない。

 

 そして、運命(大げさ)の結果発表時刻22:00―――になる前の19時30分頃から。

 鼠、虎、蛇、鳥、犬、猪の都合6つのグループが終了したメールを立て続けに受信する事になる。

 しかし最後まで牛グループの通知メールが来ることはなかった。

 

 ちなみに自室やクラスの集合場所だと、ひと騒動起こる先読みをしていた僕が一人。巻き込まれないように、人気の少ないジャズ喫茶へ移動してPC作業していた事もまた言うまでもないだろう。

 





 原作と時間が違う件について。

 無人島と同じく、原作より時間が早いのは仕様です。
……というか、原作の23時って遅すぎね? みたいな邪推が湧いてきたので、ディスカッション時間含めて気持ち早めの時間に設定してました。

 あと試験結果の詳細は次回に。
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