佐倉愛里視点からの青娥・松雄関係やら金儲けやらは、これでようやくひと段落着きました。
85、奇跡(後半、高円寺視点)
数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う。
このマーク・トウェインの名言の有名な例が、時々思い出したように報道される国の借金や某国のGDPだろう。中央から地方へ移動させる資金を借金として計上したり、●●して数倍増しに見せたりと、他国にはない項目を無理に混ぜてあの手この手で水増しされている。更に数字の限定的な部分だけで煽り、自虐的に下げるなり実態より大きく見せるなりして世論誘導を行うのだ。
それでいて数字が公表されていても、自分で調べず鵜呑みにして信じてしまう者が結構いるのが世の現実というものである。
都合のいい嘘で固められているのは、一部の権力者にとってさぞ笑いが止まらない世情だろう。
さて、そういう手も使うと思われる嘘つきな権力者と対抗する場合にはどうすればいいか。
嘘だと公表すること? 違う。そんなモノはいくらでももみ消せるし、完全に敵対してしまう。
先を読んで一撃で急所を突くこと? 違う。攻撃などすれば下手をしなくともこちらが危うい。
金や能力などを使って内部から改革すること? 違う。あえて無理とは言わないが、内部告発を筆頭に属する組織へ反旗を翻すように見えることは、犯罪を犯すよりも多大なリスクを背負うことになる。前科者より告発者の方がより冷遇されるのは、圧倒的多数の前例と『俺』の経験や記憶からも明白である。
ならばどうするか?
―――答えは簡単だ。
それ以上の力で踏み超える。それしかない。
具体的な方法の実行には運と下地になる武器が必要だが、幸いにも僕には両方に当てがあり、また各所から想定以上の協力を得られた。なので、これから向かう事になったある場所に到着する前に、全ては達成されたと青娥さんから報告をもらっている。
あとは求められたら名目上トップの僕が責任を取ればいいだけだ。その用意はできている。
懸念点である鬼手は、消費税を8%に上げた理由である社会保障を名目に、財務省関連の金庫番的な存在が介入して押しつぶしてくることだったが、貯め込まれた年間約50兆ずつ増える日銀資産などの金をまともに運用したり動くことは僕も『俺』もまずないと見ていた。前の人生の最後の方でも、貸借対照表で700兆円近くなっていたのに、まだ借金ヤバいとか増税増税言って(言わせて?)そっち方向へ世論を誘導していたのだ。
まして8%への消費増税から1年程度(2015年現在)。これまでのお偉いさんの腰の重さからして、国立とはいえ一学校に少額でも定額以外を早期投入されることはありえない。
そもそも国の財政が黒字になるほど民間が不況に叩き落される事は、経済か歴史をそれなりに勉強した者には常識だ。それなのに生まれ直してから情報を集めても、通貨発行権を持つ国がプライマリーバランスとかいう馬鹿げた経済政策を目指している方向性は、固有名詞以外ほぼ同じだった。
そこに「民のかまど」で出てくるような美しい理念はなく、ただ強欲と吝嗇を感じるのみである。
だから僕はこの時点で、財政を担うお偉いさんが席取りゲームや無駄な蓄財とかよくわからないことにしか興味ないと推測を固めることができた。
まぁ、それもあって前も今も常識的に経済を見られる者は資金調達に苦労することになり、そこに活路を見出して僕達が利用したわけだ。
ストーカーの件で最初に構想を聞かせた時には、青娥さんに笑われ、当時の愛里にはポカンとされたが、こういう理由で僕なりの成算があった。尤も、あの時は危険への対処が第一で、あわよくば学校の対応を見て年単位で数歩前進できれば、と考えていただけだが。
それに正直、7月の終わりまで手を打ち続けて半分程度の進捗だったので間に合わない想定もしていたが、鬼龍院先輩・高円寺の存在と、なにより松雄が文字通り息子の為に死ぬ気で働いたのだろう。
おそらくターニングポイントは、父小路の圧力と嫌がらせ、それに端を発した松雄の入社時、息子の行末を相談されたことだ。画面越し面接でのあまりの必死さに、好きだった祖父の顔が浮かんで、計画に一捻り加えてねじ込む案を一緒に考えてしまった。
だから松雄の期待以上どころか奇跡と言っても過言ではない完璧な仕事は、それほど息子を大事に思っている証明だろう。まったくもって羨ましい。
しかし父親か。
僕は可能になっても連絡も帰郷もしないつもりだが、前の人生と同じなら早くとも高校卒業時の約2年半後、兄貴は多分そろそろか。
なんのことかというと、大学の学費は出さないと親父に言われるはずの時期なのだ。つまりここで奨学金という名の借金を背負うか否かで、ブラック企業から逃げる選択肢の有無が決定されると思っている。
一応、家を出る前に兄貴にも小さな神様にも『俺』の事と合わせて話しておいたが、今はどうなっているのかわからない。兄貴のことだから大丈夫だとは思いたいけども。
思考が脱線してしまった。
……ともかく松雄というか計画に話を戻すと、僕や青娥さんも必要な大枠はこなしたとはいえ、彼の不断の努力と願いには頭が下がる思いだ。
持つべきものは有能な『共犯者』である。
というわけで、宴の翌日。
昼頃に下船し、あとは学生寮へと戻るだけという段になって、行きにも乗った黒塗りバスに乗り込んでいく生徒達を尻目に、僕と高円寺、葛城と一之瀬の四人には別のお迎えが来た。生徒会組とは対象が違うが、想定通りにそれぞれ呼び出されたのだ。
しかもリムジンなどという高級かつ広々とした車である。冷蔵庫やドリンクバー、今はあまり見たくないがカラオケなんかも付いていて、10人くらいなら問題なく寛げそうである。
この待遇は大企業子息の高円寺がいたからかもしれないが、せっかくなので到着まで備え付けの設備を使って存分に堪能することにした。
「君らはなに飲む~?」
「私はダージリンのファーストフラッシュを頼むよ」
「紅茶か。一応茶葉はあるけど、最低限の黄金ルールくらいしか知らんから、文句言うなら自分で淹れろよ? ポットも電気しかないし」
「それでは仕方ないか。私に相応しい物はなかなかないからねぇ」
「代わりにブルマンNo.1なら、それなりに美味く淹れられるぞ。この機会にコーヒーに手を出してみないか?」
「ふむ。いいだろう。満足できたなら僥倖といったところか」
ノセた……というよりノッてくれたが、布教完了、と。
僕の腕でも物が良ければ、高円寺の舌なら次に繋げる可能性は残せる自信がある。コーヒー党にはできなくとも、まぁたまには飲んでみるかなってレベルにできたら、少し入手のハードルが下がるかもしれない。
生まれながらの金持ちは、質実剛健な家がかなり多い。
高くても良い物を手に入れて長く使うし、気に入らなくとも目が肥えていて騙されにくいから、良い物なのはほぼ確定。なので高く売れる。その為、ゴミをほとんど出さないのが由緒正しい上流階級の見分け方だ。
見るからにそこに分類される高円寺が気にいって飲むようになれば、彼がよく行く店でも仕入れてくれるようになるだろう、きっと。
ちなみに余談だが、ゴミを最も出すのは成金系。
買い物を最もする層であり、すぐに飽きて捨てるのを繰り返すので大量のゴミが出る。経済はこういう層が回してる面があるので悪くは言わないが、個人的にはあまりお付き合いしたくなかったりする。生活の派手なタイプは、どうも僕と相性が悪いのである。
「葛城と一之瀬もコーヒーでいい? ジュース系も結構あるけど」
「左京、お前……よく適応できるな」
「にゃはは。こんな上流階級っぽい車だと、やっぱり緊張するよね」
揺れもほぼないまま走行し始めた車内で、真面目な二人が固くなっていた。
まぁ高1の一般家庭育ちなら無理もない。いくら乗る前に「ご自由にお使いください」と言われても、汚したりこぼしたらどうしよう、とか思ってしまうものだ。ここらへんは社会経験の有無が見えやすい。
僕のような精神おっさんは、どこでも大して変わらないからな。高円寺は彼本来の気質と居場所に近いからだろう。
「ふぅ。こんな風に呼ばれたのは高円寺と僕がメインで、君らはオマケで添え物。アンダスタン?」
だからせめて少しでも気が楽になるよう事実で挑発し、場所が気にならないくらいに発奮を促す。この二人と現状なら、解禁できた爆弾2つで足りるだろう。
「む、では左京には誰かに呼ばれる心当たりがあったということか」
「旅行中も次々と色々起こしておいてまだあるの? 今度はなにやらかしたの左京君……生徒会からの緊急招集がオマケって」
「あー。多分緊急招集は僕の呼び出し関連だと思う。ゴメン」
「左京関連?」
「直球で言うと、すぐにじゃないけど月見で言った外部接触禁止とPPを学校に廃止させちゃった。あと一人の生徒を途中編入させたから、9月から同級生がひとり増えるよ。名前は松雄栄一郎君。同じクラスになったら、よろしくしてやってな」
「ふっ」
「「…………は?」」
よし。葛城と一之瀬の容量限界を超えてオーバーヒートしてるっぽい。これで一緒に緊張も吹き飛んだことだろう。
真面目な奴らは想定外の事態を突きつけられると機能停止することも多いので、こういう時に助かる。
ま、僕を問題児みたいに言うから意趣返しされるのだ。しばらくそうして、いい子ちゃんな脳みそに混入してきた情報を噛み砕きながら、静かにしているといい。
静かになった二人の横で、僕は高円寺と昼下がりのコーヒーブレイクを楽しんだ。
そして思いのほか早く学校に到着し、狐につままれたような顔の生徒会組と別れると、僕らに迎えの人が来ていた。一見、にこやかな笑顔の絶えない役人っぽいおっさんだ。
「監査の月城です。理事長室までご同行願えますか? 左京夢月君、高円寺六助君」
この時の僕は―――。
よりによって監査役を迎えに寄越すとか、なに考えてんだ理事長。丁寧で機嫌良さげに見えて、メッチャ怖い空気を漂わせつつ観察されてんじゃん。ぜってぇキレてるよ。暇じゃないのに、ガキ二人の迎えってこの月城さんを馬鹿にしてる? おら、さっさと付いてこい。死にたいのかガキども。とか思われてるよ。
なんて月城さんの内心をアレな方向に想像しつつ、不思議と底冷えのしてくる声の主に大人しくついて行った。
あと3回くらい変身を残してそうな人には、素直に従うのが吉であろう。
私は少し前を歩く夢月の背に、昨夜を思い返す。
あれには月が似合う男だと思わされたものだ。
それでいてレディのエスコートが様になるようなならないような不思議な男である。相応しい舞台を演出させれば、その雰囲気で場を呑み込んでしまうだろう。月は人を惹きつける。
夢月はまさに名前通り、夢の月のような男だった。
「なるほど。得心がいった。
……ははっ。でもやっぱり馬鹿だろあいつ」
隣にいるテイルマン、四方二三矢の小さく溢れる笑みと呟きが聞こえる。
遅まきながら、全体像が見えたのだろう。佐倉愛里という鍵を引き抜かれた時点で、勝ちも負けもなくなっていた、という事実に。
そう。おそらくあの場で唯一の『勝者』を、勝負に最も意欲のなかった者とすることこそが夢月の設定目標である。
東風谷早苗は1曲目が終わるまで無言で我慢すると、真っ先に駆けていった。
これは夢月の考えというより、彼女にとっては重要な存在への印象を変化させられたのが要因として大きい。たとえ大多数が塗り替えられた『レディ』の印象よりも、打ち上げパーティーに変貌させられた元勝負事に意識が向いていたとしてもだ。
良い意味で期待を裏切って一人のレディを開花させたことは、ごく限られた範囲においてそれだけの意味を持つ。
誰が考える?
重要と考えなかったとしても。負けてもかまわないとしても。規模は小さくとも晴れの舞台で。
自分の勝敗を投げ捨てて、たった一人の気晴らしに利用するなど……。
聞けば、夢月のことだから「自分の為」と答えるだろうが、幾人かはあの在り方を知り、曇り空から覗いた月光のように感じたかもしれない。
「まったく変わった男だねぇ、夢月は……。
それで君はどうするのかねテイルマン?」
「ははは! 決まってるだろ。せっかくあいつがやらかしてくれた機会だ。踊らにゃソンソン、ってな! さあ、俺達も行こう。
ああ。高円寺風に言えば、興に乗ってやろうってとこか?」
「ハーッハッハッハ! OKだよ。道化になるのもたまには一興かもしれないからねぇ」
この時すでに、東風谷ガールの信頼が込められた平手を背に受けてむせていた夢月。
表に勝負を台無しにされた意趣返しと、裏に『友』と楽しもうという思惑を忍ばせて。
私とテイルマンは笑い合うと、さらなる追撃と華を添える為、月の似合う男が作り出した渦へと飛び込んでいった。
この宴の余興を見ればわかる通り、夢月にはもう一つの不可思議な特性がある。
醜い者には醜く、美しい者には美しく。素質がなければ無能に、何であれ素質があれば優れて。そう見えてしまう鏡の如き性質。期待をかければ裏切らず、勝利あるいは敗北を望んでいれば、やり方・能力の多寡に関わらず望まれた結果に近い落着をさせる。
これが“夢月の周囲に”私すら目をかける価値のある者達が集まる理由の一つだろう。
本人の自覚がないのは、筋を通すことだけで前を…目的『のみ』を見据えているからだ。
だから―――これも私にはわかっていたことだ。
「左京君。何故君はこんな事を?」
「それを答える前に一つ聞かせてください坂柳理事長」
「……なんだい?」
「これから先、『生徒』が退学者を決める特別試験はありますか? YESかNOでお答えください」
目の前でなんてことのない石ころであるはずの夢月が、学校組織相手に優位に立って……いや、すでに勝者となっている。
理事長をはじめとした理事に学部長・事務長、それに監査。彼らを相手に、結果を覆せなくなってから必殺の一撃を携え現れた。外側から見るからこそわかる憎らしいほどに効果的な演出だ。
高円寺コンツェルンや鬼龍院財閥を通じて、高度育成高等学校に政府から圧力をかけ、外部との接触を可能とさせ、プライベートポイントを廃止して日本円を学内通貨とする。無論、自分でも言っていたように、すぐというわけではなくそれなりの期間を要するだろうが。
「それはどういう」
「それ以外の答えは、言えないと判断して肯定と捉えさせてもらいます。勿論、沈黙も」
「……」
「やはりありますか。
……話を戻しますが、僕がこんな事をした理由は2つ」
私は理事長の僅かに引き出された感情を覗き、夢月の本質に興味を引かれていた。
これまでも認めていたつもりではあったが、まだ認識が甘かった。
そして改めて認めざるをえない。
―――夢月は本物だと。
「まず1つ目は言うまでもなく直近の危機…綾小路清隆の父親対策なのは理事長もご存知でしょう。尤も、こちらもすでに手は打ち終えました。僕はほとんど何もできてませんが、対面することがあれば余程の阿呆でない限り、彼は十中八九手を退きます。また学校への助力を願うことも最小限に手配したつもりです」
「生徒の力になる。それすら信用できませんか」
「すいませんが、最悪の場合を考えさせてもらいました。外と連絡が取れるだけで、いざという時に取れる手段は現状と雲泥の差です」
信じられないことに、夢月は時に私すら予見しない発想と速度で物事を実現させていく。その恐るべき視点の違いは、ほとんどの者は全てが終わってさえ、夢月が成した真の意味に気づけないだろう。
また仮に最低限の能力を有した上で気づけたとしても、同じ事ができる者はどれほどいるだろうか? 私の口添えがあったとはいえ、学生の身で単身大財閥の長と話をつけて動かし、可能な限界を見極めて政府をも動かす。神業にも等しい行動力と幸運でもなければできるものではない。
これを本当に実現させてしまう手腕こそが、夢月を稀有な存在足らしめている。
「ああ。高円寺コンツェルンや鬼龍院財閥に話を通して動かしたように見せて、鬼島先生の派閥を数十億程度で操って学校に圧力かけたのは」
「いえ。対策を打ち終えている以上、こっちの理由ではありません。どちらかと言うともう一つの理由―――学校自体への抑止力が目当てです」
「抑止力?」
「はい。僕はあまりに基準を満たしていない、あるいは本人の同意がある。つまり退学が妥当である。そんな状態であれば反対するつもりはありません。
しかし、例えば生徒を生徒がリストラ……切り捨てるための試験なんてものがある可能性を少し前から考えていました。つまるところ、僕はそれに対抗する為の保険を準備していただけです」
しかしそれは夢月の弱点でもある。
競争原理の視点がないということは、勝ち負けや才能含め、ほとんどの事象に執着しないという欠点に繋がるからだ。
彼は基本挑まれなければ競おうとも戦おうともしない。だから私でなくとも、それなりの者が勝つ気で『夢月をやる気にさせないうちに』倒そうとすれば、いとも簡単に達成できるだろう。
「確かに君ほどの聡明な青年なら、そう考えるのもわからないでもない。理不尽に思える試験。説明不足だろう方針。不可解な成績の判断基準。
だけど、今はまだ『疑問』に思うかもしれないけど、きっとこの先で分かってくると信じている。こうして直に話して確信した。
君は人の上に立つ資格を持つ者だよ。本来、面接時点で弾かれて然るべき生徒だけど、幸いにも何らかの偶然が作用して入学できたんだね。あるいは天才というのは、君みたいな者をいうのかもしれない」
そんな夢月が友と認めている者以外に対する時、ほぼ同じ変わらない態度なのには当然気づいていた。
教師だろうと、醜い振る舞いをしている者だろうと、男女すらも関係なく。
逆に言えば、友と認めない限り、どんな相手だろうと本当の意味で夢月を揺るがすことはできない。周りが何を言おうと我が道を突き進む夢月の性質は、私にとって小気味良く、笑い出しそうなほど面白い。
取るに足らない情報も聞こえてはいたが、これと比べれば些末なことだろう。
理事長が劣勢…敗勢を悟って自信を溢れさせた風を装い、夢月を持ち上げて小賢しく誘導しようとしているが、そんな引っ掛けにかかるはずがない。気に食わないと…間違いだと、理不尽だと確信すれば、あらゆる手段を行使して物事をひっくり返してくる男なのは、あの余興を通して更に明確になった。
これまでの夢月を表面的な情報でしか知れないにしろ、いまだに『ただの才人』と見ている坂柳理事長の見る目の無さが憐れになってくる。
「いや、人の上に立つとか、天才とか、凡人の僕としてはどうでもいいというか、そう言われてもって感じなので。
ただ、自分の矜持を自分で傷つけるような真似だけはしないだけです」
「……っ! 君は」
「それより以前にこの学校は社会の縮図だって聞きましたけど、ブラック企業ばりの騙し合い出し抜き合いが社会って、どんだけ偏ったことを僕ら生徒に植え付ける気ですか。ゲーム感覚もいい加減にしてください。
こっちはその大人のお遊びに退学や将来まで賭けさせられてるんだから、たまったものじゃない」
「…………ククッ」
私が考える夢月の最大の武器は意志の強さだ。当然、かけられた誘導にあっさり気づいて返す。
名声も地位も能力すらも心底どうでもいいと考えている男に、世辞混じりの誘導をかければこうなるのも必定だろう。
ちなみに最後に笑ったのは、監査の“月城”と名乗っていた男だ。おそらく、この場で唯一あの男だけは本質が見えている。これだけで一応、記憶に留めておく価値はある。
しかしそもそも理事長は、夢月を持ち上げた程度で騙されて方向性を誘導・修正できるとでも思っていたのだろうか。思っていたとしたら、あまりにも侮りすぎている。夢月だけではなく、私を含めた夢月の友も全員だ。
―――ここで僕が理事長に乗せられたら、協力してくれた高円寺や鬼龍院先輩に対する裏切りになる。そんなの矜持にも美学にも反するしありえない。
聞こえるはずのない夢月の意思が伝わってくるから、口は出さないが。これはおそらく最後まで……。
隠さない凡人の内心程度を察することなど、この私であれば造作もない。
尤も、それ以外も伝わっていたが、夢月が言葉にする前に読み切るというのは無粋の極みだろう。
なぜなら。
「なので、この先で『誰かが』もし僕の友達や恩人を理不尽な目に遭わせるようなら」
夢月の土壇場になる瞬間に見せる輝き。
この私の心すら動かす夢月の啖呵は、泥臭くも美しい。
「―――絶対に守り抜く!!! 誰だろうと、一部の者しか納得できない退学なんてさせるものか! それでもやるつもりなら覚悟しろ!」
もう一度見ておきたかった『奇跡』を邪魔しない為。
「って、坂柳理事長に宣言するためだけに本日はお招きを受けました。お時間、ありがとうございました」
取り繕いつつも手先が震えているのを見るに、怖いもの知らず・常識知らずというわけではないだろう。力関係を見誤る愚か者でもない。
ゆえに、夢月の言動が当然ではないことを私はわかっていた。
天才なだけ、強いだけ、能力が高いだけ。
私ほどではないにしても、この程度の者達ならいくらでもいる。
その者達は天才だから。強いから。能力が高いから。当然のように戦う選択もできるが……夢月は違う。震えるほど緊張し、恐怖しながら、明らかな上位者へ啖呵を切ったのだ。
それは決して当然のようにできることではない。
だから私は改めて夢月の評価を上方修正した。そしてどうして夢月の周りに人が集まるのかまた少しだけ理解が進んだ。
やはりあの時、この私が認めたのは正しい選択だった、と。
父の指示で来た特に思い入れもない場所だったが、こんな男がいるなら面白くなるだろう。
凡人とはいえ、たびたび美しい在り方を魅せる左京夢月は私の友としても■■としても不足はない。
言い訳。
……おっさん連中との交渉シーンとか政治工作とか約2万字(約3話分くらい)書いて我に返りました。これだと私を含め誰の得にもならないので、思い切ってボツにして端折りまくったので、ちょっと飛んでる場面があるかも? 高円寺視点は、このおっさんパラダイスを大幅に端折る苦肉の策ですね。
で、左京がなにをしたか簡単に説明すると、すぐに実施されるわけじゃないけど、外部接触禁止とPPの廃止を政府や企業から提案(圧力)かけて実現しましたよ、って話でした。
松雄栄一郎の編入。
彼については、ついでにねじ込ませたので無理があるかもしれませんが、左京と青娥が2財閥と交渉した際に話に出していた事、松雄(父)が奮闘した結果が上手い具合に混ざってこうなりました。所属クラスは登場する時にダイスで決定します。
月城がいる理由。
政府の圧力があったとはいえ原作で理事長の代理になれたということは、元々この学校に形だけでも所属していて、それでいてあまり学校に居ない一般の教師とはあまり関わらないポジションだったのかなと考え、監査役にしておきました。
原作で真嶋先生が言ってたみたいにいきなり来たとすると、いくつも新しい事を導入できたり、無理を通して道理を引っ込ませたりとか流石にできそうにない、と思いまして。とんでもなく解釈違いしてても見逃してください。登場させたのにも、ちょっとしか意味ないので。
あと高円寺の父親の呼び方なんですが……確認しようと家のどこを探しても原作8巻(とついでに7・5巻)が見つからなくて普通に『父』と呼ばせてもらいました。
確か混合合宿の最初の方で南雲と話してた時、父親の命令?で~みたいなこと言ってたと思うのですが、確信が持てないので答えが見つかり次第に原作の呼び方に修正します。ご了承ください。
最後に。
多忙の為、次は遅れるかもしれません。そして遅れると帰省の時期に入って年が明けてしまうので、かなり早めですが一言。
良いお年を。