ようキャ   作:麿は星

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 ほぼ坂柳視点の説明回と、ちょっとしたその後。
 というか、微妙に被ってる部分があります。



89、妖怪

 

 連勤3日目には愛里が復帰して、最初は無理しないよう気遣いながらも平常運転の生活に戻った。

 空き時間でゲームの最終チェックもできたし、少し愛里のシフトがズレてしまったものの、予定は順調に消化できているといっていいだろう。

 

 しかし順調だと落とし穴が開くのは、一級フラグ建築士の方々が悪さをしているのかもしれない。

 そのまま滞りなく5連勤期間が終わると、今度は葛城達を通して理事長の娘である坂柳さんから接触があったのである。

 想定される中でも上位の面倒事がついに来たと思った僕は、逃げ出したい気持ちを必死で抑え込んだ。

 

 話を持ち込んできた葛城と戸塚によると、Aクラス内の派閥争い解消の話し合い…その仲立ちだそうだが、それは名目だけだろう。手ぐすね引いている幻影が目に見えるようである。

 そう。顔を出せ、と。

 正直、自分がやっちまった自覚のある僕は理事長の娘が同級生にいると思い出してからは、いつ接触してくるかとビクビクしていた。

 

 なぜなら、殴ったら殴り返されるというのは物理・精神関係なく、どんな境遇・場所・時代においても当たり前の常識みたいなもの。父親に殴りかかっておいて、娘には見逃されると考えるほど僕はお花畑な脳みそをしていない。

 船上試験で橋本に告げた『リスク』は、当然僕にも適用されるのだ。相違はあるが、この辺は清隆とその父への対応とも似た事情である。

 まして立場やルールごとぶっ飛ばしたばかりでは、どこからも守ってはもらえないだろう。それは都合が良すぎる考えだ。

 

 尤も、坂柳さんが大人しく穏健な人物なら在学中避け続けても大丈夫だった気はするが、誰に聞いてもヤバ気な匂いが漂ってくる人物な以上、腹をくくるしかない。

 

「はじめまして。坂柳有栖です」

「うぉえっ!? ごご、ご丁寧にどう、も? さ、左京夢月…です」

 

 そんなこんなで身だしなみを整えて指定された店に赴き、自己紹介を交わした坂柳さんの印象は目力が強い美少女。でもやっぱり感じるヤバ気な雰囲気に、僕の勘はゲージ3本消費して一之瀬に対するのと同等クラスの最大警戒モードを自動発動していた。

 端的にいうと、ビビりまくっていた。

 

 しかし、そんな怯え狼狽える僕に、坂柳さんは表面上は楽しげに命名決闘を申し込んできた。それに加え、彼女のクラスメイトにも根回ししてなかったらしく、説明も対応も初対面の僕に丸投げしてきた。僕が想定してなかったら、このジャブで沈むところだ。

 

 一応、無駄とはわかっていつつ、最初らへんではなんとか一之瀬や他事とかに丸投げできないか試みていたが、坂柳さんは惑わされない。

 なので、諦めた僕は一度だけサンドバッグになる覚悟を決めたのだ。だからって、そんな者を弄んで楽しげなのは如何なものかと思うが。

 てか、僕がただの馬鹿だったらどうするつもりだったんだよと言いたい。

 

「パーフェクトです、左京君」

「か、感謝の極み」

 

 しかも緊張感が高まったところで、この某吸血鬼と執事ネタをぶち込んできたのだ。直後のフルネーム呼び勧誘付きで。

 なんとか対応するネタで返せたが、脳裏に浮かぶ歪んだ顔で宣う吸血鬼と現実の落差に吹き出しそうになった。こんなの「NO」以外のどう返せというのか。

 終始微笑混じりの上品な態度だっただけに、そのただ一言浮きまくっていた言葉が僕の記憶に深く刻み込まれたのは言うまでもないだろう。

 

 とんでもなく意表を突く会話スタイルである。外見は可愛らしい幼女が、真面目くさった顔して笑わせにくるなんて信じられない。

 勿論、僕はあの瞬間から、坂柳さんを何をしでかしてくるかわからない奴に認定した。

 あんな方法で自分の印象をアレな方向に覆してくるとか、もしかしなくとも結構ヤバい娘なのは確定である。

 

 間違いない。

 坂柳さんは外見こそロリっ娘美少女だが、その実態はドS性悪陰湿の3大害悪プレイヤー?だ。

 何のプレイヤーか知らんけど。

 

 なぜなら、ネタ以外にも対局までずっと言葉少なに僕が言いたくないことを言わせようと誘導してくる。

 しかたなく頭が回る者にはわかりきった説明と対抗策で乗り切ったが、そのせいか部屋が静寂で満たされてしまった。ただほとんどの者が黙ったのは、坂柳さんが邪魔が入らないよう下準備のようなモノをしていたからかもしれない。

 どちらにせよ、この一事だけでドS・性悪・陰湿の3要素を高い水準で保持していることが窺える。

 

 なんでこの学校で出会う生徒……教師含めた人達は、かなりの確率で容姿だけはハイレベルなイロモノばかりなのか(嘆き)。前に清隆に冗談で言ったイロモノ指数でも採用しているのか?

 本当にそういう基準や容姿で生徒を集めてるなら、理事長他幹部陣の趣味を疑いたい。もっと高円寺とか網倉とか池とかの普通っぽい生徒を増やして欲しいものである。

 

 ともかく話を戻す。

 坂柳さんのヤバさに気づいた時は、少しでも媚を売っておかないと利用価値がないと判断されて、どんな目に遭わせられるかわかったもんじゃないと思わされた。あの場には早苗や青娥さんとかのワイルドカードも存在しなかったし、僕自身を見切られるタイミングが重要になったといえる。

 

 といっても、何も反応なくとも別クラスである為に大体の想定はしていたので、僕にできたのは坂柳さんが用意していたと思われる台本を盗み見……推測して周囲に理解を求めただけだが。

 わかりきった用件なら、なんとか僕にも想定できるので助かった。少しは彼女も配慮してくれたようだ。

 

 尤も不幸を回避するには、社会人経験で培ったコールド・リーディングも応用して、話の流れを坂柳さんが望みつつも微妙に違う方向へ持っていくしかない。そうしなければ、即座に見切られて3大害悪に相応しい仕打ちを受けていた可能性が高かっただろう。

 

……あと暗に「満足できなかったら、これから葛城がどうなるかわかってんだろうな?」的な事も匂わされたので、逃げるのも断るのもできなくされたのもある。ついでに念のいったことに僕は命名決闘の発案者でもあるので、そっち方面の言い訳も塞がれていた。

 

 だから元々始めから逃げられない状況で更に追い詰めてきた罠に対し、またしても勝算の低い打開策を打たざるを得なくなったのだ。坂柳さんからすれば軽い遊びだっただろう将棋に必死になったのはこういうわけだ。

 

 それからの僕は、皮肉と失礼にデバフを織り交ぜて放ち続けて会話で撹乱したり、彼女が何気なく言い出してきたチェスだけは勝ちの目が見えなかったから逸したりと頑張って抵抗した。

 奮闘むなしく自信に満ちた態度を崩せなかったことから、負ける可能性の方が高いことは察していたけども。

 

 なお坂柳さんとの対局は、不思議なことに僕に軍配が上がった。

 

 雰囲気と彼女の棋力から見て、どう考えても僕が負ける流れだったというのに、妙な打ち方をしてきたからだ。

 序盤の30手あたりでも見覚えある形だなとは思っていたが、中盤あたりから某名人の有名な一局をトレースするように寄せてきた。最大の勝因はおそらくこれだ。あとは気づいて微調整しつつ、その流れに乗っただけである。

 偶然覚えている試合の棋譜だったからよかったけど、知らない試合なら普通に負けていただろう。

 

 こういう形だったので出来レースかもとは思いつつ、どこかで逸れる可能性も考えたが、結局あの一手含めて最後まで坂柳さんは予定調和な手を打ち続けた。

 勿論、僕も周りが見えないくらい必死に集中して思い出しながら打った。前に四方や葛城と打った後、念を入れて覚えてる限りの棋譜並べをしておいた事が功を奏したのだ。

 

 ただ一つ疑問なのは、彼女が何故、あえて負ける方の役を選んだのか。

 これには理解に苦しんだが、今の将棋界には何故か羽○名人も未来の藤○8冠もいないので、本来は勝つはずの役と棋譜だったのかもしれない。それならわかる。

 

 それか多分だが、幼い相手と将棋をやってると稀に遭遇する自分は棋譜を知ってるのに相手は知らない。なのに、相手の才能豊かであるがゆえプロの手筋と被る現象が起こっていたのだろう。

 悪手まで被った点には新たな疑問が生まれるが、これは精神を乱すデバフ発動がたまたま被ったタイミングになったと考えれば……そんな都合の良い事があるか? いや、実際にそう見える事象が起こったんだけども。

……考えてもわからないし、もうトッププロの棋士に匹敵する才能がある指し手ゆえの不幸な事故。ってことでもう片付けてしまうか。

 

 あれ? でもこれで片付けると、素でトッププロの打ち筋に近い同級生とかいうわけわからん天才と、存在しない名人の威を借る出来レースをしちゃったってことにならないか?

 そうなると僕は大人気なく外見詐欺幼女を衆人監視の前でわからせちゃった鬼畜男? もしくは天才系メスガキにお仕置きをするどこぞのわからせおじ…おにーさん?

 うあ。字面だけだと事案みたい。ものすごく外聞悪いな。この秘密は墓場まで持っていこう。

 

 ま、まぁ、葛城の対抗派閥の長らしいし、話した感じでは清隆に勝るとも劣らぬ知性も感じたので格上は格上だろう。そんな相手に生半なやり方は通用しない。経験と知識のゴリ押しはさぞかし彼女の不興を買っただろうがしかたなかったのだ。

 実は最初から会話による情報収集目的で、勝ち負けに重きを置いてなかったとかだったら……あの攻撃的な打ち筋と前フリであるわけもないか。

 

 ともかく、こんな勝ち方をした上、実質何の意味もない命名決闘の前哨戦である話し合いでは、坂柳さんが投げてきたとはいえ、デートとかで嫌われる禁じ手で自分の考えを並べ立て相手に話させない手法を取り込んで、場の主導権を握り続ける。なんてこともしちゃったわけだし、坂柳さんからの敵かそれに準ずる認定は、もはや確定的に明らかだろう。

 

 だって別れ際に見てしまった坂柳さんの好戦的な冷笑は、怒らせた一之瀬すら凌駕するんじゃないかと思うほど恐ろしかった。余裕なかったとはいえ、完全に敵対するつもりはなかったんだけどなぁ。

 望み薄だけど、葛城や戸塚が後でフォローしてくれるのを祈るばかりだ。

 

 

 

 あと…………あわよくば、僕を坂柳さんへぶつけようと動いていた戸塚の思惑にも、当然気づいていた。最初は誘導が下手すぎて、逆に違う意図かと勘違いしそうになったけども。

 

「左京! よくわからないけどすげぇじゃねぇか! 坂柳のあの顔見たか!? はははっ」

 

 恐ろしい笑顔ならしっかり記憶したが?

 食事処に来る前からテンションが上がっていた戸塚に、僕は軽い恨み言を返す。

 

「戸塚。お前、とんでもないことに巻き込んでくれたな」

 

 運と経験値で乗り越えただけで、股間が縮み上がる坂柳さんを笑うことは僕にはできない。ベッドで向けられようものなら、EDになってもおかしくないとすら思う。男を萎えさせる系女子三銃士の称号は彼女にこそ相応しいだろう。

 

 ちなみにこれは這々の体で葛城に飯奢りを強請って危地を脱出した際、戸塚と葛城に零した愚痴。それほど去り際の坂柳さんの笑顔が怖かったので、思わず漏らしてしまったのだ。

 

「悪かったって。でも左京も船で埋め合わせするって言ってくれただろ? お前ならスカッとするようななんかをやってくれると思ってさ」

「弥彦! まさかお前…最初からクラス内の問題を左京に……!?」

 

 すると思ったより葛城が強く反応してしまったので、フォローを入れる。

 

「あー、葛城。そのへんはあんまり気にするな。どの道、僕が学校にしたことを考えれば、遠からずこうなってたと思うぞ」

「しかし!」

「あの、葛城さん。勝手してすいません。けど、坂柳達の腐った性格を考えると」

「だから左京を利用したと?」

「う。その、流石に勝負にまで発展するとは思ってなかったですが。

……改めてすまん左京。俺、葛城さんを馬鹿にされて我慢できなくて、ついお前を頼っちまった」

「はぁ……。それは良いけどお前ら、これから気をつけろよ」

「気をつける? 坂柳にか?」

 

 まぁ戸塚の思惑自体はどうせやらなきゃ駄目な事のついでだったし、聞く限り葛城への助けのつもりだったのだろう。目くじら立てることでもない。飯を奢ってもらって気分が落ち着いてから釘を刺したら、こうして申し訳なさも見受けられたしな。

 それと一応は凡人枠同士なんだし、僕にできるアドバイスもサービスでつけといた方がいいか。

 

「そうだ。ぱっと見の印象でなんだが、ああいうタイプは敵味方関係なく扱いが難しいって相場が決まってる」

「腸が腐ったような奴だからなぁ」

「おい弥彦! 流石に坂柳に失礼だぞ!

……具体的にどういう考えか聞いてもいいか左京」

 

 てか、戸塚は坂柳さん嫌いすぎじゃね?

 それでいて徳川家康の参謀・本多正信の評を出すなら、頭脳だけは認めている感じか。

 っと、今は葛城だった。

 僕は本当の意味では、対峙した者にしか伝わないだろう坂柳さんの怖さを遠回しに口に出した。言うことを考えながらだったので、何度か詰まったが。

 

「釈迦に説法かもだけど、どう言えばいいか……。

 う~ん。僕が思うに、頭がべらぼうに良い奴は思考を現実に投影できるんだよ」

「はぁ?」

「つまり自分の思考を信じぬき、感情すらもその理論で抑え込んでしまうってこと」

「感情を理論で……?」

「え…と、んー。権限を得るほど。偉くなればなるほど。やらなきゃ駄目な事の答えがなくなっていくのは、葛城も少しは実感してるだろ?」

「……リーダーや生徒会のことか」

「ん。そんな時、人に聞いても答えが出てくるわけもないだろ? そうなると実質、頼れるのは自分の考えと作った答えだけになる。

 そしてそれをブレさせるのが、いわゆる無能の働き者だ。反対にブレずに自分の理論を信じ抜く奴は、一本筋が通ってると言えるな。案外、後者のこういう奴っていないんだよ」

 

 なぜならあのヤバそうな坂柳さんを封印できるかは、葛城に懸かっていると言っても過言ではない。できなくとも、僕が知る数少ない処世術を教えておけば、何かで役立ててくれるかもしれない。

 坂柳さん相手になると、どこまで通用するかわからないけども。

 

「で、例えば高円寺や早苗って、実家的にも能力的にも将来偉くなるのはほぼ確定してるし、しっかりと自分をブレさせない強さがある。だからまぁ、こいつらって僕から見るとすげぇ頭良いとは思ってる。

……ちょっと話して一局やっただけだけど、多分坂柳さんもな」

「……」

「それが何だよ? これからは葛城さんがリーダーなんだから坂柳が従うのは当然」

 

 悪いが戸塚のその考えは遮らせてもらう。嫌うにしても、その考え方だけはマズい。

 僕は少し強めな口調で、対応を『間違えなければ』的確な助言をしてくれるだろう者への作法?を口に出した。

 

「忠告だ戸塚、それに葛城。

 僕が言うのもなんだけど、僕ならまだしも坂柳さんを『あからさまに』利用しようとしない方が良い。なるべくどっしり構えて彼女の好きにさせるのが、多くの場合で良い結果に繋がると思う。きっと性格的に合わないと感じる事も多いだろうけど、彼女にはひと呼吸置いて過程と結果の天秤を考えてから介入するのを勧める。少なくとも頭ごなしの命令や反対だけはしちゃ駄目だ」

「それはやってはみるが……おそらく難しいな」

「わかってる。ただ、これは僕の勘だけど、話半分でも頭の片隅に留めといて。なんかそれをするとマズい気がするというか……スッキリしない予感があるって事を伝えときたかっただけだから」

 

 アドバイスのつもりではあったが、真面目で苦労性な葛城には微妙に合っていないやり方なので、悩み事を増やしてしまったかもしれない。

 勝っても負けてもこれからの大変さを想像できるだけに、坂柳さんと同じクラスだったのは誠にご愁傷様である。

 

 忠告をどう受け取ったかその日の食事中、葛城はなにか考え込んでいるようだった。何人かの派閥?の者達や、何故か飯処まで付いてきて今の話を聞いていた橋本と一緒に。

 てか、なんか普通にいるけど、橋本って坂柳さん側の奴じゃなかったのか? まぁ飯と話しかしてないし、あることないこと報告されなければいても別にいいが……。

 

 ん? そもそもあくまで状況証拠と言動からの推測であって、確定してなかったっけ? 橋本がうちのクラスでいう四方やあるいは櫛田・平田みたいなポジションだったら、ここにいるのも船での事もおかしくはない。見てる限りでは、そこそこ溶け込んでるので全くない可能性でもないだろう。

……面倒くさいし、とりあえずそう置いて僕は気にするのをやめた。

 

 その後、些事を気にするのをやめてスッキリした僕と戸塚、他数名は葛城だけは気にしながらも、「考えすぎだろ左京」「そうかもな」と笑い合い、タダ飯のご相伴に預かった。奢りのうなぎは格別であった。

 

 

 

 だけど後から考えると、こんな風に戸塚を流しておいて、賭けるものや何らかの契約もせず、葛城達を無視するかのような坂柳さんにはムッときて、つい僕まで当たりを強くしてしまったのは今になって短慮だった気がしている。

 

 というか、自分の弱点を痛感している。

 先日の理事長や愛里の件でもそうだった。

 僕は友達が軽んじられたり危難に陥った場合、冷静ではいられない。流れも利益も忘れて突っ走ってしまう。それでいて、それ以外の奴に対しては割り切ってしまうあたり、凡人のありふれた精神性がモロに出ている。

 

 おそらく坂柳さんにはそこを突かれたのだろう。

 戸塚を責めたりしなかったのは、彼の事を笑えない…他人事だと思えないからだ。

 きっと四方や清隆、高円寺ならこんな無様は晒さない。僕には無理だが。

 

 今回も坂柳さん自身というより全体から状況を逆算したまでは良かったが、余計なものまで見て感情的になるなど2度目の元は大人としてあるまじきこと。3大害悪っぽいと判断してはいたんだから、もっと穏やかなやり方もあっただろうに……。

 しかし反省も後悔もしてるけど、短期間で理事長父娘に喧嘩売るとか何やってんだ僕。

 

「……よし! 反省終わり!」

 

 何気に思考が悪い流れになりそうだったので、僕は意識して独り言で吐き出し、馬鹿馬鹿しい方向へと自分の思考を切り替えた。弱点への対処法はわかりきってるんだから、発展性のない思考や回想はNGである。

 こうした事ができなければ、ブラック企業でそれなりの期間勤めるのはキツイ。僕がこのスキルを有するのも当然だろう。

 

 ふぅ。

 それにしても、一応は負かしたはずの相手が笑い出すと、こんなにわけわからない恐怖が襲ってくるとは……。笑顔は本来攻撃的なものとか言われるのも納得である

 思い返すと、初めてCクラスを訪れた時、龍園の脅しに恐れをなした際に笑い出しちゃって悪かったと今更ながら謝りたい。あの時の僕はさぞ不気味だったことだろう。

 人のふり見て我がふり直せとはこういう事だったのかと、新たな知見を得た。龍園はまだしも、次があったら坂柳さんにはまず謝罪から入って速攻で逃亡する算段を立てておこう。

 

 でもぶっちゃけ、次に坂柳さんと出くわしたら、なんとしてでも四方か清隆あたりにぶん投げてやるけどな。

 勘だけど、ああいう表面上冷めたタイプは危ない激重感情を持っていそうな気がしてならないのだ。

 

 それに能力云々以前に、どこか妖怪的な怖さがある彼女とは失礼な話だがもう会いたくない。

 僕のイメージだと、小5ロリと書いて悟り妖怪(本当は覚りだが)とかみたいな? 小学生でないのは確定しているが、何気に外見的イメージにはピッタリである。

 同じ幼いっぽい妖怪でも、座敷わらしのような比較的平和なモノとは程遠い印象だったので、こちらが真っ先に浮かんだと思われる。

 

 そして坂柳さんが有名妖怪なら、陰陽師・四方こそまさしく適任なお相手である。

 だから妖怪大戦争は、僕が居ないところでやってほしい。僕の代わりになんとか清隆あたりを置いておくから。あの二人がかりなら、流石の坂柳さんも調伏できることだろう。

 適材適所とはこうして使うものだ。

 

 え? 妖怪には巫女の早苗や愛里?

 愛里はわかり易い強みがない為に相性が悪そうだからともかく、早苗に坂柳さんをぶん投げたら、制御不可の修羅場にしかならない確信があるので却下だ。ペンペン草も生えない荒野や嵐、極寒世界の出現など誰も望んでいないのである。

 

……ほんの少しだけ、邪神(早苗)と有名妖怪(坂柳さん)、それと悪魔(櫛田)で創出される地獄の三つ巴に怖いもの見たさな興味はあるけども。

 そこへ例えば清隆を放り込んだら、一体どんなことになってしまうのだろう? 光景を想像すると、グランドゼロに一人佇む清隆……なんか無駄に似合ってて格好良いな。

 

 まぁなにはともあれ、今ならちょっと話して将棋で一勝しただけなので、坂柳さんもそのうち忘れてくれるレベルに留まっているだろう。理事長絡みのアレコレはあるものの、しばらく遭遇しなければ「どちら様でしたか?」とかなってくれるに違いない。うん、きっとそうだ。そうなったら「はじめまして。綾小路清隆です」とか偽名を名乗って、本物にバトンタッチすれば全て解決である。

 

 こうして心の安定を保つ為、ざっとした坂柳さん対策の方針を定めた僕は、この恐怖の記憶を忘れることにした。

 





 坂柳の名誉の為、言っておきます。
 前話の坂柳視点を見ればわかる通り、彼女の内側はシリアス9割位です。間違っても故意にパロったり、出来レースしたつもりはありません。くれぐれも勘違いなさらぬようお願いします。
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