【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
スペシャルウィークとアドマイヤベガの場合
きっと、私たちが出会ったのはたまたまだった。私とアヤベさんはときどき寮で顔を合わせて、たまには向かい側の席に座った。けれどそれくらい。それくらいで、それくらいの仲だったはずだった。
たまたま出会って、たまたま仲良くなって。どこまでもたまたまで、運命的な出会いがあったわけじゃない。何回出会いをやり直してもこうなるなんて、私には言い切ることはできない。
それでもこうして。それでもこうして、私たちが今一緒にいるのなら。
それが運命でないのなら、奇跡と呼ぶのが相応しい。
「おはようございます、アヤベさん」
「おはよう、スペシャルウィークさん」
朝の寮、まだ人の少ないテーブル。そこで先に座っていたアヤベさんに挨拶された。私も自然とその前に座る。当たり前のように座ってみたけど、まだ慣れない感覚と間隔だ。私たちの仲はまだそれくらい。
「アヤベさん、朝ごはんはもう食べましたか? 良かったら、一緒に食べませんか?」
「……いいけど。あなたの食事を見ていると、自分が食べてなさすぎるんじゃって気持ちになるのよね……」
「アヤベさんは絶対、もっと食べた方がいいですよ! ダービーの先輩として、ダービーを狙うウマ娘へのアドバイスです!」
「それ、あなたの食事量の言い訳じゃないのかしら」
うぐっ。先輩風を吹かせてはみたものの、学年でいえばアヤベさんの方が先輩だ。丁寧にたしなめられると、私としてはなすすべがありません……。
私にとって親しい先輩といえばスズカさんだけど、アヤベさんは当然スズカさんとは違う距離感で私に接してくる。なんというか、先輩というか……お姉さん? 姉どころか私と同じウマ娘を初めて見たのがトレセン学園に来てからだったから、その表現が正しいのかはわからないけど。ウマ娘が別のウマ娘に抱きうる感情、というか。
「はあ……でも食べなきゃいけないのは本当ね。あなたの言うことも一理ある」
「えへへっ、そうですよ、そうなんですよ! だから私も、今日もたくさんおかわり」
「それはどうかと思うけど」
「はい……控えます」
体重の管理も、ウマ娘にとっては必要なことだ。それはわかっているのだけど、私はついつい食べ過ぎてしまう。太りにくい体質……などという都合のいい話はなかった。
はあ、とため息が出る。ぐう、とお腹が鳴る。すると見かねて、アヤベさんが口を開く。なんだか私、アヤベさんに助け舟を出してもらうのを待ってたみたい。
「食べていいわよ。私が間違ってた。お腹が空いてトレーニングに集中できないんじゃ、元も子もないじゃない」
「ほ、ほんとですか! ならなら、これ! さっきキッチンで作ってきたんです!」
「別に私が許可を出すことでもないのだけど。……というか、何かしらこれは」
どん、と私は二人の間のテーブルに包みを置く。そして開いて中身を出す。そのまま意気揚々と、この特製おにぎりについての説明を始める。
「これはですね、爆弾おにぎりです」
「爆弾、おにぎり?」
「はい。爆弾です」
「説明になってないと思うわ、それ」
うむむ。説明とは難しい。アヤベさんはいつもちゃんと私のわからないことを説明してくれるけど。私にはそれができていない。
それが年齢の差だと言えばそうなのかもしれないけれど、私もトゥインクル・シリーズの先輩として、それなりの付き合いの人として。何か伝えられたらいいなと思うのは、わがままなのだろうか? けれど、アヤベさんの次の言葉はこうだった。
「まあ、それがあなたらしさなんじゃないのかしら」
「私らしさ、ですか」
「そう。それがあなたを形作るもの。……あなたにも、トレセン学園に来た理由があるのでしょう? そういうものよ」
そう、目の前の瞳は問いかける。夜空のようにしんとして、けれどどこか遠くを見るようなその瞳が。そう真剣に問われたのなら、それには私もしっかりと答えられる。
「私は、『日本一のウマ娘』になりたいんです。生みのお母ちゃんと育てのお母ちゃん。二人から託された、私の大事な夢です。そのために、ここに来ました」
「二人から、託された」
ああ、そりゃ引っかかるか。先にそれを説明しなきゃいけない。やっぱり私は、説明が下手だ。
「はい、二人のお母ちゃんです。生みのお母ちゃんは、私が生まれるのをとっても楽しみにしてたらしいです。私が生まれてすぐ亡くなってしまったので、育てのお母ちゃんからのまた聞きなんですけど」
「……それは」
私の話を聞いて、アヤベさんは少し俯く。確かに、そんなに気軽に聞ける話じゃない。それをこんなところで出して、つくづく話すのが下手だな、私。
「ああすみません、そんな重い雰囲気にしたかったわけじゃなくて! むしろ、逆なんです。この話を聞いて、私のことをもっとよく知ってもらえたらと思って」
「いえ、続けていいわよ。あなたの、大事な話だもの」
そんな言葉に込められた感情は、まるで誰かを思い返すような。アヤベさんの立ち振る舞いにある「らしさ」も、アヤベさんなりの理由で出来ているのかもしれないけれど。
けれどそこには立ち入れない。だからそんな気持ちを押し込めて、私は促されるままに言葉を紡ぐ。
「はい。私にとって、二人のお母ちゃんに支えられているのは幸せなことです。私に託された夢で、私自身の夢でもあります。多分アヤベさんの言う私らしさって、二人のお母ちゃんのおかげだから。だから、ちゃんと『説明』したくて。……どうでしょうか」
そう問うと、アヤベさんは一つため息を吐いて。少しだけ和らいだ表情で、アヤベさんなりの言葉を返す。
「ええ、上出来じゃないかしら。爆弾おにぎりの謎は、どこかへ行ってしまったけど」
「ああそうだ、実はこれ、二つあるんですよ! お一つどうですか、アヤベさん!」
「このサイズ、食べれる気がしないのだけど。そもそも爆弾って結局何」
「爆弾は爆弾です。食べたらわかります! なんというか、こんなことを今更、って感じなんですけど」
今更。思えばたまたま会話を重ねてきたけれど、それ以上にはなっていないこの関係。それを今更進める。今更だけど、まだ遅くない。
「二人で同じものを分け合うのって、友達って感じがしませんか」
それはあるいはこれから始まる、二人の関係だ。
「友達。そういうの、よくわからないのだけど」
「なら、二人で分け合う関係ってだけでもいいですよ。名前なんてなんでもいいです」
「二人で分け合う。……それなら、私にも分かるわ。誰かのために、何かを捧ぐ」
そう呟いて、アヤベさんは少し遠くを仰ぎ見る。何かを追いかけて、想い焦がれているように。朝の日差しが彼女を照らすのに、その姿を際立たせているのは日差しの作る影の方だった。そんな気が、した。今わかるのは、そこまでだった。
「いいわよ。そのおにぎり、ひとつちょうだい」
「はい! あっ、大と特大、どっちがいいですか!?」
「ちなみに今テーブルに出てるのは」
「大です!」
「ならそっちで。……これで小さい方なのね」
そうして、二人きりのテーブルで。鳩の鳴き声が聞こえる頃には大体みんな起きてきたけれど、その時にまだ食べ終わっていなかったのでずいぶん目立ってしまった。私じゃなくて、アヤベさんが。「爆弾ってこれ、結局大きくて丸いだけじゃないかしら」なんて言いながら衆目を浴びつつ爆弾おにぎりを食べ続けるアヤベさんに大変申し訳ないと思いつつ、その埋め合わせをどこかでしたいななんて思いつつ。そんなことを思いつつ、私たちはそれぞれの日常へ帰る。だから今日アヤベさんと話したのは、その朝の少しだけだ。
きっと、私たちの出会いはたまたまだ。普段は別の大切な友達や先輩がいるし、会話を交わせるのはたまたま会った時だけ。
けれどその僅かな時間が、私たちに何かをくれるなら。必然じゃなくて偶然でも、私たちが確かに出会うなら。
それが運命でないのなら、奇跡と呼ぶのが相応しい。
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