【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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アヤスペ〜


スペシャルウィークとアドマイヤベガと図書室中

 きっと、たまたま。きっと、偶然。そうであって欲しい。そうでないとしたら、私たちの関係はその先へと進んでしまう。居心地の良ささえ感じてしまうことを否定できないとしても、せめて否定しようというそぶりだけは見せなければいけない。

 そうでなければ私は、あなたのその笑顔を壊してしまう。きっと、いつか。絶対に、確実に。だからそれだけは避けようと、私はあなたから離れようと。そう、しなければならないのに。

 

「あっ、こんにちは。アヤベさん」

 

 どうしてあなたは、私の方へと近づいてきて。

 

「ええ、こんにちは。スペシャルウィークさん」

 

 どうして私は、あなたの方へと導かれてしまうのだろう。

 雨降る日の図書室は、人も多くてそこかしこで密やかな会話が行われていた。そうしてそれは、私たちも類に漏れない。互いの横に座って、各々の本を傍に置いて。あなたの呼吸さえ聞こえるほど、近く静かな空間で。

 きっと、まだ雨は止まない。ずっとではなくても、出来るだけ長く。そう、希ってしまうのだ。

 

「スペシャルウィークさんは、何をしに図書室へ来たのかしら。あなた、あまり本を読むような子には見えないわよね」

「あっ、アヤベさんひどい! ……なんて、その通りなんですけどね……。実は今日、どうしても終わらせないといけない補習課題がありまして、どうしても集中しないといけなくて」

「なるほど、それでそのノートと教科書の山。……本当に今日中に終わるのかしら、それ」

「いやあ、結構それが、その」

 

 露骨に言い淀むスペシャルウィークさん。横を見れば広がるのは、未だ手付かずの課題たち。座学が苦手そうなのは、彼女の当初の印象通りといった感じではあるけれど。そしてそこに現れた私。なるほど、彼女が私を満面の笑みで迎えた理由も理解できるというものだ。

 きっと、それだけだろう。そのことに確かに私は安心し、確かに私は一抹の影を内心に去来させる。矛盾している。歪んでいる。それでも、彼女のそばにいる。今わかることはきっと、それだけだろう。

 

「それなら、私も手伝いましょうか。もちろん解くのはあなただけど、分からないところは教えてあげるから」

「えっ、ほんとですか!」

「声が大きいわよ。でも、それは本当。さあ、さっさと始めましょう。図書室が閉まったら終わりだもの」

「……はい。えっと、よろしくお願いします……」

 

 声が大きい、と指摘した途端にトーンダウンするスペシャルウィークさん。こうなるとらしくなくて逆に違和感を覚えてしまうのだから、人の感覚というのは難儀なものだ。それに違和感を覚えるほど、普段のあなたを知ってしまったということも含めて。

 そんな思考を無理矢理閉ざすように、私は彼女に次の発言を促す。そうやってあなたに求められたものを返すだけなら、私にも許されていると思った。

 

「何からやればいいのかしら」

「その、まずは数学から……これが一番わからなくて」

「『まずは』、ね。いいわよ、ちゃんと付き合うから」

「うう、ありがとうございます……」

 

 そこまでしおらしくなられると、謎の罪悪感を覚えてしまうのだが。私たちの関係において、助け合いなどというものはただの気まぐれか社交辞令に過ぎないだろう。つまりそこまで感謝される筋合いもないはずだ。そうでなくては、いけないのだ。

 それだけ。それだけのことを、今日は何度もリフレインしている。言い聞かせるように、けれど誰にも言えなくて。それなら私が言い聞かせる相手は、自分自身以外にはあり得なかった。

 あなたのことを想うなら、あなたのそばにはいられない。それだけのことを、何度も、何度も。駄々をこねる子供を説き伏せるかの如く、ただ神に祈る無力な群衆の如く。

 いや、それはいい。今気を向けるべきは、目の前の彼女を助けることだ。いつものように、やればいい。

 

「じゃあ解らない問題があったら聞いてちょうだい。それまで横で待ってるから」

「ああ、それならここを早速」

「一問目じゃない。これがわかってなかったら、何もわかってないのと同じじゃないの?」

「はい、返す言葉もございません……」

 

 やれやれ、思ったより重症だ。彼女は地頭が悪いわけではないのだろうけど、所謂天才型ということなのか。このぶんだと座学の補習など日常茶飯事だろう。もっと普段から勉強しなさいよ、などと小言を言いそうにもなるが、そこは堪えた。これ以上やる気を削いだら、泣き出しはしないでも投げ出してしまいそうだし。

 

「これ、三平方の定理を使うだけじゃない。まさかそれすら忘れたなんてことは」

「えーと、底辺×高さ÷2?」

「それは三角形の面積の公式ね」

「なしてぇ……。だって名前似てるじゃないですかぁ」

「三、しか合ってないじゃない。数字が一つ合ってればいいなら、数学の意味がまるっきりなくなるとか思わないの?」

「うぅ、数学は苦手です……」

「なら、さっさと終わらせましょう。手伝うから」

 

 結局、大体の問題について解き方からなにまで教えてしまう形になった。これでは補習の意味もないような気もするが、頼られてしまっては断れないのも事実であり。後にできてしまう問題点は、自分で解決してもらおう。

 これからも、こういうことはあるのかもしれない。これまでも、彼女は私を頼ってくれていた。「お姉さんのようだ」と言っていた。きっと、それは私を頼りにしているという彼女なりの表現。だけど私にとっては、心臓を的確に握り潰すような。

 あなたが頼る私は、あなたを見ていない私。あの子に成せなかったことを、代償行為として行ってしまっている私。あなたを見ている私は、あなたが頼れるほど強くはない。

 本当の私は、あなたに見せていない。だからこの関係は成り立っている。だから私はあなたのそばにいることができる。「お姉さん」である限り、私はあなたのそばにいる。指先さえ触れてしまいそうな二人の合間に、ゼロを無限に重ねた限り無い距離があるとしても。

 なら、そこで留めよう。ようやく私は、私なりの答えを見つける。その視界は汚泥のように腐り切り、その足並みは血反吐のように醜く痛々しいとしても。その先に私は、答えを見つけた。

 徹底して、あなたの提案のみを肯定し続ける。そうすれば、私が見えることはないから。私の方が肯定されることすら、事務的に処理してしまえばいい。

 きっと、それが正解だ。清く正しき天秤の女神は、あなた一人だけなのだから。

 

「これで、数学は終わりね。お疲れ様」

「ありがとうございます……。でも、ほとんどアヤベさんに聞いちゃいましたね……」

「そうね。次の補習までに、それは自分で何とかしなさい」

「そんなぁ〜……」

「泣き言を言わない。ほら、まだ課題は残ってるでしょう」

「はい。あとは国語ですね。これも、全然わからなくて……主に漢字が」

「スペシャルウィークさん、薄々思っていたのだけど」

「はい」

「あなた、単純に勉強量が足りてないんじゃないの?」

 

 そう指摘してやると、彼女の顔は「痛いところをつかれた」という表情をした。具体的には言われた瞬間顎を引いて、苦しそうな顔をして。どうしてこの子は言葉だけでここまで表情豊かになれるのだろうか。

 

「そ、それは何と言いますか」

「公式や漢字は、理解というより覚えるものじゃない。それが解らないのは、単なる勉強量の問題よ」

「そうですね、そうなんですけど……」

 

 何か、隠している。それくらいはその露骨な態度からすぐにわかる。スペシャルウィークさんは隠し事が下手なようだ。何もあなたに言おうとしない私とは違って。

 微妙に会話に間が開く。図書室での会話などもとより許可されたスペースでかつ静かな声で行うものだが、それでもそこに生まれた静寂は、明確に今までとは違う空気を形作る。

 ぴんと、気持ちが張り詰めて。私だけでなくスペシャルウィークさんも緊張していた。それだけ勇気の必要な発言をするのだろうか。私にはわからない。その内容はもちろん、わからないけれど。

 それでも、確かにわかること。

 きっと、彼女の言葉は正しい。それが私の在り方とは、相容れないとしても。




アヤスペぇ〜

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