【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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そろそろクライマックスの可能性アヤスペ


スペシャルウィークとアドマイヤベガと天体観測前

 きっと、今日のこれからはたまたまじゃない。私とあなたが仲良くなれたから、できたこと。私が勇気を出して、あなたも私を見てくれて。そうやって二人で一緒にいてもいいって思えたからこその、導き出された当然の帰結。だからこそ迎えられた、今日この日のよく晴れた夜。

 やっぱり、運命ではない。その出会いは偶然から、その歩みも偶発的。きっかけはどこにでもあることで、それ一つ一つは取るに足りない。だからこれは、運命ではないのだけど。

 それなら私はこの出会いを、きっと、奇跡と呼ぶのだろう。

 

「……さて、夜間外出許可は出したかしら」

「はい、ばっちりです! フジ先輩には遅くなるな、って一応言われましたけど」

「当然、今日は遅くなるわよ。少なくとも私は、そのつもり。先に帰ってもらっても構わないけど」

「まさか! 今日は夜更かし、しちゃいます! ……えへへ、楽しみですね」

「……そうね」

 

 寮の玄関には少し外の空気が入ってきていた。扉を開けばそこには世界が広がっている、そんな場所に今私たちは二人で立っていた。特に何か行事や大事なレースがあるわけではないけれど、今日は少し特別な日。私と、アヤベさんにとって。

 

「場所は確認した? 初めて行くところなのだから、案内は頼むわよ」

「はい、もちろんです。今回は下調べをしたので、前服を買った時のようにはなりませんよ」

「新月の夜は暗いから、足元にも気をつけてね」

「そうですね。もちろん、アヤベさんもですよ。今日は私がアヤベさんに、天体観測の楽しさをレクチャーしちゃうんですから!」

 

 自然と握りこぶしと声に力が入ってしまうのは、きっとそれだけ楽しみだから。私がアヤベさんに提案した天体観測。それも新月の夜の、一番よく星が見える時間に。一応今日の天気は確認したけれど、雨は降らないらしいからそこも安心。絶好の星見日和なのだ。

 故郷にいた頃、お母ちゃんとよく星を見た。たとえば悩みがある時は、二人で星を見ながら話し合った。たとえば大事な事柄の前日は、二人で星にうまくいきますように、ってお願いした。たとえばなんでもない日だって、二人で星を眺めるだけで。だから私は、星が好きだ。どこまでも散らばる光の粒が、私を一人じゃないって気持ちにさせてくれるから。

 

「アヤベさん、何持ってるんですか、それ」

「レジャーシートとヘッドライト、それに暖を取るための飲み物を入れたタンブラー。あとは方位磁針つきの腕時計に、防寒用のひざ掛けとクッション。深夜は本来人が出歩く時間じゃない、それくらいのことは考えた天体観測一式よ。『私は天体観測など初めてなのだから』、その程度はちゃんと用意しておく必要があるでしょう? ……というよりスペシャルウィークさん、むしろあなたは何を背負ってるの」

「……え? 望遠鏡、ですけど」

「なるほど。で、それだけしか持ってない」

「はい」

「あのね、スペシャルウィークさん」

「はい」

「都会の空は、明かりを持たないで行けるほど明るくはないと思うわよ」

 

 アヤベさんに指摘されるまでの私は、望遠鏡一つ担いだっきりで万全のつもりだったのだが。なるほど、アヤベさんの言うことには一理ある。というより一理では足りないくらい説得力がある。夜出かけるのは同じでも、周りがトレセン学園と実家じゃ全然違うに決まっていた。

 あちゃー、私、ひょっとして天体観測初心者レベル? いやいや、アヤベさんをしっかりリードしないと。今のところはむしろアヤベさんに逐一確認されてしまっているが。アヤベさんの方が手慣れている、というか。まるで、初めてじゃない、みたいな。

 そんなはずは、ないのだけど。今回の天体観測は、私からアヤベさんを誘ったものだ。アヤベさんとこの話を進める上で、色々アヤベさんには説明した。その上でアヤベさんが言ったのは、「自分にはよくわからないから、私に任せる」ということだ。いつも頼ってばかりだから、頼られるのは素直に嬉しい。……現状、うまくいっていないかもしれないけど。

 そういえば、もう一つ。基本私に任せたアヤベさんから唯一注文らしい注文があった。それは忘れていないし、大事なことだと思う。出かける前の最後に、私はそれをアヤベさんに再確認する。

 きっと、これは今日の二人を繋ぐ言葉。決して切れない、切ってはいけない。そんな、約束だ。

 

「星見は静かに、言葉は交わさずに」

「……あら、覚えていたの」

「当たり前じゃないですか、約束ですから」

「そう、ね。私のわがままでしかないけれど」

「私が納得したんですから、二人のわがままですよ」

 

 もしかするとこれはちょっとおかしいのかもしれない。二人でわざわざ出かけておいて、目的地に着いたら一切会話はしないなんて。けれど私はアヤベさんがそう望むのなら、それでいいと思ったのだ。

 たとえばせっかくの初めての天体観測なのだから、じっくり星を見たいということもあるだろう。そもそもそれは、私も同じ気持ちだし。星空を見上げた時の心の広がりは、言葉では言い表せないもの。多分私もそんな煌めきに感動するのに精一杯になるだろう。

 それに。それにきっと、当たり前のこととして。私たちが同じ場所で、同じ時間を過ごすのなら。同じものを見て、同じように夜に耽るのなら。

 きっと、言葉は必要ない。それでもあなたと分かち合えると、私はそう信じたい。

 

「さて、そろそろ行きましょうか、アヤベさん。ちょっと部屋に戻って、荷物を整えてきました」

「それは、懐中電灯ね」

「はい。そりゃスマホでも明かりは点けられますけど、風情がないっていうか。なんというか『静かに』ってことなら、そもそもそういうのは持っていかない方がいい気がして」

「……ええ。それは、そうかも、ね」

 

 そう私に頷くアヤベさんは、何故だかひどく複雑な表情をしていた。もちろん私はアヤベさんのことなど、まだ何も知らないのだけど。それでも少しだけわかる、その瞳に映る迷い。顔は少し俯き、頬の端は僅かに緩んでいるのに。その口元は強く、強く結ばれていた。

 まるで、何かを押しとどめるかのように。

 

「アヤベさん? どうか、しましたか」

「……いいえ、なんでもないの。あなたが懐中電灯しか持たないのは、良い心がけだと思っただけ」

「あっ、望遠鏡も持っていきますよ! これ、北海道から持ってきた良いやつなんですから!」

「それも別に構わないわよ。私は使わないと思うけど、そもそもろくに関わらない取り決めだもの。……それに故郷から持ってきたものなら、使ってあげなければかわいそうよ」

「やったー! ありがとうございます!」

「別に、感謝される筋合いはないと思うけど」

「すみません、つい……」

「謝られる筋合いもないわよ」

 

 そうして話すうちに、いつもの調子に戻るアヤベさん。先程一瞬見せた表情はどこかへ雲隠れしてしまった。……これまでも、何度かあったことだ。アヤベさんがほんの少しだけ、私に動揺を見せること。そして隠してしまうこと。

 アヤベさんはきっと、何かを躊躇っている。躊躇っているという表現が適切なのかさえわからないけれど、それは私を慮ってのことなのだと思う。それはわかる。だっていつも、あなたは私を大切にしてくれるから。

 けれど、それなら。私にとってもとっくの昔に、アヤベさんは大切な人だ。偶然から始まった関係でも、どこにも劇的なものがなくても。そんなものは必要なくて、今ある関係がその証明になる。互いが何かを抱えるのなら、それを想える関係だ。私はそうありたい。私はそう信じている。あなたもそうだったらいいな、そんなふうにまで思っている。

 きっと、私たちの出会いはたまたまだった。だけど今一緒にいるのは、たまたまなんかじゃないのだから。




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