【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
「三着! 三着です! 安田記念、日本ウマ娘最先着は──」
最強世代と呼ばれるウマ娘たちがいた。黄金の世代と云われるウマ娘たちがいた。絢爛たりて不夜たりて、誰一人として悲劇たりえない。偉大なる業績を積み上げて、去る時さえも美しく。幕引きを決して見誤らない、黄昏に終わるワルキューレたちがいた。
ああ、なればこそ問おう。ボクという王から、君という王に問おう。
「──キングヘイロー! 三着はキングヘイローです!」
世紀末への手向けは、誰も持ち合わせていないのかい?
撃ち落とさせろ。
天輪の如きその冠が、喝采の裏に消える前に。
キングヘイローとテイエムオペラオーの場合
どうして、こうなったのだっけ。
冷たすぎるくらいのクーラーが効いた合宿所の広間、すなわちそれなりの観客がいるところで、どうして、こんなことをしているのだっけ。テーブルに着いて、50cmちょっと目の前の人を見て、やはり思う。どうして、と。
「さあ! キング君! 今こそ雌雄を決する時! 果たして孤独に死すリア王と、王すら殺す王子のハムレット! 一体どっちが強いのか──」
「決めてやろうじゃない! 私たちの、腕相撲で!」
それでも、だった。張り合わない理由など、この人との間には存在しないのだ。
テイエムオペラオーという、クラスもデビュー時期も違う同級生については。どうしたって薄い縁で、どう考えても細い繋がりだ。だけど不思議と、この誇大な同級生と張り合うことはできた。キングのプライド、というやつかもしれない。まあそんなもので関係が成り立つのは、大袈裟極まりないファイティングポーズを取るオペラオーさんからの働きかけも大きいのだが。
どうにも、こうして私たちは張り合うことがたまにある。高笑い対決だとか、ラーメン大食い対決だとか、なんでこんなことをと思いつつ、全力で迎え撃たなければいけない気がする……などなど。
まあ、つまり。
「い、いいんですかぁ……? テーブル、壊さないように……」
「構わないよドトウ、そもそもボクでは審判の君には破壊者の面ではとても及ばないとも! だからこそボクは君を超えるため、このテーブルをぺちゃんこにして見せる──、そう、多人数用の広い机という竜を殺すジークフリートのように……」
「それならあなたの掌の『背』を、机に叩きつけてぼろぼろにしてあげるわよ! 勝つのは私! この、キングヘイローなんだから!」
どうしたって、この戦いは負けられない。
……やってやろうじゃない!
「……では、はじめっ! ですぅううう〜〜!!」
最後の夏合宿は、そんなイベントが多かった。
※
「ふぐぐ……やるね、キング君!」
テイエムオペラオーについて、私はそれほど親しくない。顔を知っている同級生、くらいの仲でしかない、と思うくらいだ。なら「勝負」なんてするわけがないだろうというのは、まったくもってその通りなのだが。そもそも突っかかってきていきなり訳のわからないことを言うのはあっちだし、そこでいやに的確な挑発をぶつける技術があるのもあっちだ。つまり私が勝負に乗っかるのは不可抗力だ。仕方ない。そういうわけで、どういうわけか。みたいな。
「……っつ、負けないわよ、絶対に!」
どういうわけか、その勝負には負けられない気がするのだ。そもそも今回の勝負だって意味不明だ。リア王とハムレットの共通点なんてシェイクスピアで四大悲劇で王位をめぐる話で……意外とある。いやいや、それがどうして「どっちが強い?」になって、どうしてその代理役が私たちなのだ。確かに私はこのキングヘイローであるわけで、彼女もまた今年の戦績から「覇王」と呼ばれ始めているらしいけれど。
それにしたって、だ。
「なんで、私がっ」
「うおっ!?」
「私がリア王呼ばわりされなきゃいけないのよ!」
そこくらいは、文句を言っていいだろう、と! ぐぐいと腕を捻りながら、徐々に増えてきたギャラリーにも構わず声を荒げた私なのだった。
知っているとも、その悲劇くらい。「お嬢様」を舐めないで。知ってか知らずか押し付けた「役」割が、「王位を滅ぼした王」、だなんて。
「やああっ!!」
それにはムッときたので、叩き伏せにかかる。力を込めて、汗を垂らして。テーブルを破壊するには至らない、なんとか甲を当てるほどの決着だったが。最後まで必死に抵抗して、そんなにあなたはハムレットの方が強いことにしたかったのか、そんなふうにも思いつつ──。
「き、キングさんの勝ちですうぅぅ〜! ごめんなさいごめんなさいオペラオーさん、負けを宣告してごめんなさい〜!」
終わった直後にあわあわと、同期を過剰にさえ労わるメイショウドトウを見て、すとんと落ち着く気持ちがあった。
どうにも。
どうしたって。
この点、勝ち目はない気もする。
「くっ……なんということだ! ハムレットは、リア王への復讐を成し遂げられないのか! おおなんという悲劇! なんという哀しみ! そしてその中心にいるボク!」
「負けたのに中心にいるのは、ズルくないかしら」
「はーっはっはっはっ! 真の強者とは、負けても美しくあるものさ! 無論、勝っても! というわけで次は負けないよ、キング君」
「はいはい。じゃあそろそろ、トレーニングに行くべきね。合宿中なんだから」
「そうとも! そうだね! そう思っていたところだよ! さあ行こうドトウ! 光り輝く夏の青空がボクたちを待っている!」
とかなんとか言って、オペラオーさんはドトウさんを引っ張って熱い砂浜に駆け出して行った。どうやら、一件落着らしい。よくよく考えると何も解決していないというか何も大したことが起こっていない気がするけれど、私とあなたの勝負はそういうものでいい気もする。
譲れないけど、瑣末で。
勝ちたいけれど、勝たなきゃいけないことはなくて。
そういう勝負もあってもいいかもしれないと、ようやく至れた時分なのだから。
うん、悪くない。ここまで来てみれば、そんなに悪くないじゃないか。
夏の青空とやらは、去年と同じように鮮やかだった。夏合宿は、今年もつつがなく進んでいた。だから私は振り返って、今日も変わらず思うのだ。
──ああ、楽しかった!
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