【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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キングヘイローとテイエムオペラオーと雨

 どうしたものか。そう嘆息せざるを得ない状況にあった。何故か? 嗚呼、何故だろうか。その問いはとても難しく、しかしてシンプルである。これすなわち、ボクの目の前にある命題は──。

 

「雨に濡れながらトレーニングをするボク! 果たしてどうして、何故こんなにも美しいのか!」

「おばか! 風邪引くわよ、風邪!」

 

 つまりはそんな、美しきが故の罪であった。いや、キング君の言い分もわかるとも。今日の雨は雨というには嵐に近く、風は吹き荒び海は荒れ狂う……流石に合宿といえどトレーニングを優先すべき状況ではない、ということだろう。宿舎から飛び出ようとするボクの腕を必死に掴むキング君がそう言いたいことはわかるとも……しかし、しかしだよ!

 

「……時に、キング君」

「何かしら。どうでもいいけど今年の夏合宿はよく顔を合わせるわね」

「そうだろうとも! 運命の導きのまま、ボクは君を見つけたら突撃するようにしているからね! 王として!」

「はあ? はあ。いやそれより、つまりは何が言いたいのよ」

 

 ……うっすら剣を突き立てて見たけれど、その王は下手な刃など意に介さないみたいだった。それだけ今まで向けられてきたものがあって、それでも退けてきたものがあって……なるほど、ならまだボクは足りないのだろう。というわけで、本題に戻って。

 

「時にキング君、他のウマ娘に勝つために必要なことはなんだと思う?」

 

 たまには、「舌戦」だ。

「君が言い負かせたなら、嵐に飛び込む真似はやめてあげるよ」

 

 どちらがより美しい論理を組み立てられるか、今日はそういう勝負をしようじゃないか!

 ざあざあと雨がうるさくて、けれど万雷の喝采にも聴こえていた。なるほどそれなら、ボクたちの舞台にはふさわしい。稲光さえ栄光に変える、それが覇王というものだとも。そうとも、ボクの論理は──。

 

「どんな逆境でも、諦めないことよ」

 

 ──先に言われた。

 

「……ぐっ。ぐっっ!!」

「……なによその、本気で苦しみながら笑ってるような半々の表情は」

「いや、いいとも。続けたまえ、キング君」

 

 そう言うと、君は少し微笑んで。

 

「まあ私は、既にあなたより勝てていないわけだけれど」

 

 爛々たる瞳を、光の無い空へ向けていた。

 

「勝つことは難しい。私が勝った負けたを争った相手が、実力の面でのみ争っていたわけではない。枠番、体調、レース展開、失策……まあ、色々と不確定要素はあるでしょう。期待されたものがそのまま実力になるわけでもないし、実力が常に十全に発揮されるわけでもない。それが、私が学んだことよ」

「ほう。それならボクが勝てたのは、あるいは三女神の采配であったのかもしれないね。そしてこれから、見放されることも」

 

 今年のボクは、最強と呼ばれていた。かつて誰か「たち」が最強と呼ばれたように、最強だと言われていた。無敗、常勝、覇王。今年の半分を過ぎて、負けは一つもなかった。けれどそんなのは紙一重の差であると、彼女は言ってのけたわけだ。秋の盾や有マまで取れるかなんて、年間無敗を遂げられるかなんて、実はそれほど容易い道ではないと。

 無論、わかっているとも。

 それでも、なのだろう。

 

「……それでも、一着を取れば勝ちなのよ」

 

 そう呟く口元に、悔しさは滲んでいなかった。

 俯く立ち姿、右腕を掴む左腕。されど顔だけは上を向くから、彼女は雨粒の喝采を受けるのだろう。

 

「諦めずに走り続ければ、いつかは自分の道が見える。私はそれほど勝てなかったけれど、確かに勝ちもした。困難に向けて諦めなかったから、もぎ取ることができたのよ。」

「……ふむ」

「負けても諦めないこと。それが私の、勝つための結論。あなたは、どうなのかしら?」

 

 なるほど、なるほど。

 

「それならボクは、こう言うほかないね」

 

 諦めないことが、勝利に必要なものである。言おうとしたことは、ほぼほぼ同じだった。それならば議論は成立せず、ボクたちは仲良しこよしで帰るしかない。それもいいだろう。そういうこともあるだろう。

 それでもなお、ボクが「舌戦」を続けるなら。

 

「勝っても、それ以上を諦めないことだよ」

 

 ねじ伏せられてでも、刃をぶつけるしかない。

 君が「柔」なら、ボクは「剛」だ。

 穏やかな話し合いなんて、望んでいない。

「……そう」

 

 ボクはきっと、そう告げて。

 

「なら、そうね」

 

 君は、確かに受け止めて。

 

「なら、頑張りましょうか。風邪だけ、引かないように」

 

 ぐいと、ボクの腕を引いた。

 ……してやられた!

 

「ほらほら、とりあえず更衣室まで走るわよー!」

「……くっ! また勝てなかった! この夏合宿、君の方がどうにも上手らしい……認めようキング君という王を! しかし宣言しよう、最後に勝つのはボクであると!」

「はいはい、頑張りなさいな」

 

 そんな感じで、柔よく剛を制す。飛びかかったつもりが、その勢いで結論まで決められてしまった。悔しいが、負けである。もっと激論を交わすつもりだったのに、結論が同じでは仕方ない。どうしたって小細工程度で、これは勝負の仕掛け方が悪かっただろうか、などなど。つまりはどちらにせよ、ボクたちは嵐の中トレーニングに勤しむ似た者同士というわけだ。

 

「……ふふっ」

「どうしたんだい、キング君」

「ああ、いや」

 

 駆けながら、語らう。嵐に立ち向かいながら、互いに立ち向かう。「君には負けない」、そう思う。誰にだって思うけれど、誰にだって別々の気持ちを持つ。

 

「こういう立場になったか、と思ったの」

 

 次の日くしゃみが出たけれど、その日も楽しかった。

 ただ少し、寂しそうだった。

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