【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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キングヘイローとテイエムオペラオーとタイムアップ

 どうやら、ここまでらしい。私は終わりだ、私は行き場がない、私は逃げられない、私は──。

 

「ここにもいない! キング君よ、姿を現したまえ!」

(それで出て行ったらかくれんぼにならないでしょうが!)

 

 と、そんなこともなかった。今日の勝負は、「かくれんぼ」。一時間の間に私を見つけられるか、見つけられないか、もしオペラオーさんが私を見つけられなかったら哀れ魔王に連れて行かれるのだ、とかなんとか。まるでかくれんぼに勝ったらバッドエンドとでも言われたような気がしたが、それでも引き下がる道理はなく呑んだのだ。

 そして隠れたのはある一室のロッカー。そしてギリギリまでこの部屋に入りさえしなかったのがオペラオーさん。いつになったら来るのかとばかり思っていたが、ロッカーの中から敵の様子を窺えばここまでちんたらしていた理由はすぐにわかった。

 

「嗚呼! 何処へ行ってしまうのか! キング・オブ・キングは、魔王に連れ去られてしまうのか! しかしそんなはずはない……なぜなら! そう!」

 

 夏合宿開始からの数日突っかかり続けられて、今更ながらに再確認したことだが。

 

「魔王ではなくこの覇王が! 君を見つけ出すからだ! ラララ〜真実を射抜く者の名は〜、そうテイエムオペラオ〜♪」

 

 どうもこの人のテンションは、一人でも永遠に続きそうなくらい騒がしいらしいということだった。

 

(……まったく、不思議な人ね)

 

 もちろん何も口には出さず、心の中でため息を。シニア級に入ってからのテイエムオペラオーというウマ娘の戦績は、当然知っている。四戦四勝、すべて重賞の無敗神話。「私たち」とは違って、盃を分け合うことはないみたいだった。もっとも私だって、誰かから奪い取れたわけではなかっただろうけど。

 あの頃は騒がしかった。それほど昔ではないのに、ふとそう思ってしまう。今年と去年は何も変わらないはずなのに、すべてが変わった気さえする。同期の中では恐れながらブレーキ役をやっていた気がするのに、こうしてオペラオーさんと絡むと彼女を勢い付けるばかりなのだから、やはり不思議なものだ。

 

「……さて、あと探していないのはこのロッカーか」

 

 かくれんぼは残り二分。そんな二分は短いが、ちょっと積み重ねてみた一年は長い。それが私たちの人生で、トゥインクル・シリーズというものだ。長い時間をかけた、と本人が思った時点で、そこが己の引き際になる。時代と名のつくほどのうねりが、一瞬一瞬で切り替わる。早いのではない。速いだけだ。私たちウマ娘のいのちが、全力で駆けて行くものであるだけだ。

 たとえばそう、今窓の外に沈む夕日のように──。

 

「見つけたよ、キング君」

「あら、もう少しで遠くへ連れ去られるところだったのに」

 

 ──私と黄昏の間に、一人の少女が立っていた。

 残り三十秒。ぎりぎり、あなたの勝ちだ。

 

 

「……ハーッハッハッハッ! やっと勝てた!」

「そうだったかしら? 会うたびに何かしら仕掛けられて逆に覚えていないのだけど」

 

 床に座り込んで夕日に背を向けて、当たり前みたいに二人で話し始めていた。ちなみに覚えていないというのは、流石に嘘。どんなことでも負けるというのはやはり悔しいものなので、うやむやにしてみたくなっただけ。

 

「そうだとも! これで一勝二十敗、一矢報いた形だね!」

 

 けれどそんなのはあなたも同じなので、きっちり負け星の数は数えていたらしい。勝ち星より負け星が気になるあたり、そこも似たもの同士か、と思った。諦めが悪くて、勝負から逃げられなくて、どんな手段でも勝ちたいと願う。ならばそのぶん負けを悔しがるのは、当然のことだと思った。王を名乗る者同士、と言うには、泥臭い道理だとも思うけれど。

 

「……なら」

 

 ならば、と思う。それならばこそ、と思うのだ。昔劇場で見たように、黄昏は時代の転換点を指し示す。古きは滅び、新しきは生まれる。さる神話の戯曲に比べれば、あまりに小さな移ろいだけれど。

 

「また明日も、勝負しましょうか」

 

 今の、私の役割は。

 

「……いいとも! 明日も明後日も、そして──」

 

 古き王から、新しき王へ。

 

「──この先、ボクが君を越えるまでだ」

 

 黄昏を迎えるその時に、何かを遺してやることだ。

 頑張って。先の時代の残香として、教えられることは教えるから。

 

「楽しみにしているわ」

「それはこちらこそだよ、キング君」

 

 そう言って、オペラオーさんはおもむろに立ち上がる。夕日が影を作るけれど、彼女からすれば逆光を背負っているのだろう。軋む木の床に落ちる淡い黒も、墓標から伸びるそれには見えなかった。私と、違って。

 

「では! また明日!」

「ええ。また、明日」

 

 去っていく。見送る。影も見えなくなる。影が濃くなる。陽が落ちる。立ち止まったままでいる。座り込んだままでいる。ここで落ち着いて、至っている。

 暖色の電灯が点き始めて、時間は夕方の先になる。一日が終わったあとの時間というものは、今の私には間近に迫った概念だ。人生を一日に喩えるならば、むしろ陽が落ちてからの方が長いのだから。そこに対する心構えは、もう既に済ませている。答えは得た。結論に至った。あとは最後、終わり始めてから終わり切るまでの時間をどうするか、というだけだ。そのことばかり悩んでいたけれど、どうやら私はここ数日で見つけていたらしい。

 また、明日。

 その「明日」が、本当に来るまでに。

 不思議と立ち向かわずにはいられないあなたに、老いた王から遺せたら。

 ──ああ。

 今日も。昨日も。一昨日も。去年も。一昨年も。期待されていた時も。仲間がいた時も。仲間に勝てなかった時も。自分なりの道を見つけた時も。そうしてそのまま、独りになった時も。負けた時も。勝った時も。今、この瞬間も。

 楽しかった。

 

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