【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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キングヘイローとテイエムオペラオーの第三幕

 夜は更ける。終わりが近づく。しかして──誰も寝てはならぬ。君だけじゃない、ボクもだ。過ちを正すことを「傲慢」と断じられた、ボクもだ。寄せる波の音と砂を踏み躙る音、これだけあれば奏でるには容易い。ボクたち二人なら、容易い。

 そう、容易い。ボクの刃を打ち返し、君は反す刀を振るう。回りゆく舞台、閉じない結末。誰もがついていけない世界でも、ボクたち二人ならば歌い切れる。死ぬまで歌って、終わりに終わりを感じさせない。そう、思えた。

 歯向かってきたとは言うまい、あくまで挑戦者はボクなのだとも。それでも天輪を撃ち落とすのは、王と王の勝負で勝つのは、最強を証明するのは。

 

「それでも、ボクが勝つ」

 

 玉座に座るのは、ただ一人だ。

 ボクが見据えた瞳は、確かにボクを見据えていた。もっとも彼女の弁ではボクは彼女を見ていないし、彼女はボクを見る価値がないらしいけど。それでも情けで付き合ってくれるというのなら、まずはその慈悲の皮を剥いでやろう。そのお淑やかな衣装は、君が着るには美しくない。

 

「さて、キング君」

「なにかしら、オペラオーさん」

「君はボクにこう言った。視界に入れるに値しないと」

「そうね、二言はない」

 

 激情は潰えず、されど劇場の如く揺籃す。ボクの目に映る眩しい光は、この期に及んで更に上へと登ろうとするらしい。年間無敗を目指す覇王の肩書きさえ、一蹴しようと。

 ふざけるな。やはりそう思う。どうして、君は。やはりそう問いたくなる。これほどまでに追い立てても、黄昏の向こうへ逃げ去ってしまうのか。ボクは最強になるために、最強を証明するために、最強世代を討ち倒さねばならない。まだ君は走れるはずだ、まだ最強であるはずだ、王は王で在るはずだ。それでは足りないのかと、ゼロ距離で睨みつけていた。

 

「──だから、私に走る理由はなくなるのよ」

 

 キングヘイローの優しい眼差しは、やはり諦めに見えたのだ。

 

「……そんなはずはない!」

 

 だから、ボクは。

 その瞳に、煌めきを見せてやろうじゃないかと。

 

「だって、あなたも私を見ていないもの」

 

 その諦観の根本に、ボクがいたとしても。

 

「だから、そんなはずはないと」

「それじゃあ、あなたにはわからない」

 

 君はそうして追撃をかわし、残酷に事実を突きつける。ボクに何がわからないというのだろう。君に焦がれた、最強に憧れた、そんなボクが君を見ていないのか?

 

「それでも、あなたは私と走りたいのかしら」

「……当然だよ」

 

 そう、やはり告げて。

 それでも変わらない、優しく冷たい瞳があって。

 だから、わかった。

 

「いいだろう、キングヘイロー」

 

 超えてみせろ。

 

「ようやく、自分の立場がわかったみたいね」

 

 捉えてみせろ。

 

「あくまでボクさえ君を見ていないと、そうのたまうわけだ」

 

 まずは、舞台に立て。

 

「そう」

 

 何もかも拙いのはボクの方だと、傲慢にもそう言わんばかりに。

 

「誰も、私を見ていない」

 

 今のボクは、君の相手に相応しくない。

 そう、冷たく。

 しかして、希望を。

 キングヘイローは、歌っていた。

 煽り、駆り立て、己への生温い視線を粉砕する。どこまでこの関係が壊れても、走る理由が欲しい。

 ──そう、訴えているように見えたのだ。

 

「君は、最強世代だ」

「同期はみんな去ったもの」

「だとしても」

「最強世代は終わったと、誰もが思っているでしょう」

「ボクはそうは思わない」

「……それに、一人は寂しいものよ」

「……それは」

 

 優しく、諭す。

 

「あなたじゃ、私の仲間の代わりにはなれないわ」

 

 冷たく、閉ざして。

 

「だから今は、ロスタイム。終わるからこそ、戯曲は美しく華々しい」

「──そんなことは、わかっているとも」

 

 どうしても届かないものに、縋り続ける。

 わかる。ようやくわかるようで、今の自分には絶対にわからないものだと、わかる。彼女の抱えたものの端にさえ、触れられないとわかる。

 走り切ったあとの栄枯盛衰。その幕引きを美しくするための方法。何より孤独の中で、何を拠り所にすればいいのか。

 

「そして、その感情はわからないとも。拙く未熟な、ボクには」

 

 ……ボクだって、わからない。ドトウという宿敵が現れてこそ、ボクの王道は進むに値していたのだから。独壇場であっても、孤独ではない。

 

「ボクにだって華々しきライバルがいる。常に寝首を掻きにくる友がいる。だからこそ、失ったことなんて想像もつかない」

「そう、だからあなたにはわからない」

 

 キングヘイローは、しめやかにそう告げた。やはり、諦めに聞こえた。一寸見せてくれた希望は、ボクの願望にさえ思えた。その瞳は、光を湛えて閉じ込めたものに見えた。これ以上思い出を壊さないための、ボクという破壊から逃れるための会話に思えた。

 そう、そうだろう。まだこれから走り続けるボクには、走り終わる方法はわからない。君の希望には、仲間の代わりには、なれない。だけど、そんなことはわかっているのだ。わからないことなど、わかっている。

 

「それでも、どうしても」

 

 どうしても、君に。

 

「ボクは、君と走りたい」

 

 君に、勝ちたい。

 

「諦める理由くらい察しはつく。そしてそれをボクが理解できないというのも理解できる。だが、それでもだ。君が過去になるとして、だとしても、どうしても」

 

 理屈がない。感情すらおぼつかない。先程までの怒りから一転、崩れていく関係に縋りつくような台詞ばかりに変わっていた。それでも、勝ちたいと思い続ける。これだけは君を見ていると、王道と最強の上に君はいると。信じて信じて信じ続けて、消える炎に薪を焚べる。

 

「そう。ライバルを失い、勢いを失い、答えを掴み、あとは散るだけ。そんな私と走ることが、あなたにとってどんな益になるのかしら」

「そんなの、決まって……!」

「私にとって、どんな益になるのかしら」

 

 挑発的な口調。優しいままの紅の瞳。だけど口元は笑っていなくて、未だ揺るぎなくボクを喰らわんとする。そう、そうやってボクを見てほしい。やっぱり、そう思った。ぞくりと肌を伝う感覚が、ボクの願いの本質だ。

 それだけ、それだけなのだ。あの憧れのキングヘイローが、最強世代の王が、ボクに相対する。それだけでいい。それだけでいいじゃないか。走ってくれ。ボクを見ろ。それさえあれば、ボクは──。

 

「──いや」

 

 「それだけ」じゃ、いけないのか。

 それだけでは、見ていない。

 どう考えても、ボクは君を見ていない。

 

「訂正しよう」

「ふむ」

 

 やっと。 

 

「今のボクにとって、君に勝つことは価値がない」

「言ってくれるじゃない」

 

 やっと。

 

「だってそうだろう? 君は本気じゃない。執念がない。……それは十二分に焚べ終わって、残った灯のために走っている。君の言う通りの、ロスタイム」

「ええ、だからこそ」

 

 やっと。

 

「君の理屈が正しければ、ボクの理屈を飲み込ませれば、君にはもう価値はない。終わった最強、孤高と孤独の履き違え。……それは、君のことだ」

「──なら、どうして」

 

 どうやら、やっと。

 

「どうして、あなたは私に勝ちたいの」

 

 「ボク」に、興味を持ってくれた。

 「君」を、見た。

 

「なに、なんのことはない。これから先もずっと決めきれない、そんな悩みだということさ。はっきりとした答えを出したのち、またボクたちは悩むのだろう。この問いに。この舞台に」

 

 これが他の何者でもない、「テイエムオペラオー」からの。

 

「ただ何者でもなくとも、勝負の上ではすべてに勝ちたい。お互い、諦められないから」

 

 そしてまた何者でもない、「キングヘイロー」への。

 

「王でなくていい」

「そうとも、私は既に玉座を降りた」

「最強でなくていい」

「当然、あなたもいずれ堕ちる」

「ボクたちの関係なんて、綺羅星のように一瞬の旅路だ。永遠に光る功績が欲しいなどと、あまりに傲慢」

 

 「ボク」から、「君」への。

 

「それでも永遠を願うから、世界はボクらの言いなりなのさ」

 

 傲慢で、何が悪いと。

 

「……ああ、なるほど」

「なんだい、キング君」 

 

 「君」から、「ボク」への。

 

「どうやら私たち、二人とも正しくて──」

「どうにもボクたち、二人とも間違っていたみたいだね」

 

 寂しくて、何が悪いと。

 

「そうね。だってまだ」

「壊れて終わるこの関係を、諦められないもの」

 

 王でも最強でもない二人の、手を結ぶような手向けなのだ。

 焦る必要はなかったのだ。拘る必要はなかったのだ。勝負は必ずやってくるのだから、付加価値を気にする必要などなかったのだ。互いに王であり、最強であるだろうとも。己の道を違えることは、他者には許さないだろうとも。

 だけど、それだけでいい。勝負が終わればその勝負に価値はなく、勝負することに根本的には価値はない。どうしても、それでもだっただけ。勝ちたいという気持ちだけが揺らがないなら、それ以外はどうでもいい。王道を走るのではなく、走った道が王道になる。だから君のラストランは、決して過ちではないのだろう。ボクがまだ走りたいと願うのも、過ちではないのだろう。

 

「諦められない。……まだ、納得はいかないけど」

 

 正直なところ、それが本音だが。

 

「戦う理由なんてなんでもいい。ただ勝ちたいなんて、当たり前だ。それでも、君は去ってしまうのか」

「いい顔ね。まだ、見据えている。前よりよく見えている。一流の私が保証するわ」

「それは肩書きじゃないのかい」

「己自身の矜持よ」

 

 ボクの決心は固い。同じように、君の決心は固い。だからボクたちは、黄昏と世紀末で断絶する。それぞれの世界へと、ただ一人歩みを進める。

 だけど、必ず相見える。どうしたって、勝敗はつく。ならば道を変えずとも、そのまま衝突すればいい。己の道を行くだけで、ただその前の敵を排除すればいい。何人たりとも邪魔をさせない、そのうちの一人というだけだ。ボクたちは何者でもなくとも、それだけ強く気高いのだから。

 

「改めて言おう。ボクは、君に勝ちたい」

「私が何者でもなくとも?」

「当然だ。君こそボクが覇王でなければ、この輝きに見向きもしないのかい?」

「まさか。肩書き以上にうるさいもの、あなた」

「なら」

「ええ。私も、あなたに勝ちたい」

 

 全部捨てた。全部粉々にした。ボクたちの関係には、もはやなんの価値もない。それでもまだ、何故だか繋がっている。勝ちたいと思い続けて、終わらない。壊れゆく王と王の対比の中、ボクらは向かい合っていた。終幕を望まないまま、終幕に向かっていた。

 

「今日限りかしら」

「今日限りだろうね」

「少し、寂しい」

「ボクはかなり寂しい」

「結局負け越しだものね、あなた」

 

 答えは多分、見つかる。果てのないくだらなく美しき勝負の数々は、この日別れるためにあったのだと。どうやら、そういうことらしい。結論を出して、袂を分つ。王と王は、それぞれの道を行く。二人にとって過去や未来との戦いは、なんの価値もないのだから。

 

「──でも、どうしても」

 

 それでも、だった。

 

「ボクは、君に勝ちたい」

 

 テイエムオペラオーは、キングヘイローに勝ちたかった。全部無くなったって、それだけは迷わなかったから。舞台は終わる。舞台は巡る。でもその寸前に、生まれたばかりの感情がある。古きは滅びるだろう。黄昏は世紀末は終末であるだろう。しかしてそれを越えたなら、新しい命が待っている。

 ……なんて、そんなのはある種「どうでもいい」。ただ今、目の前にあるのは。

 

「勝負しようか。キング君」

「もちろん。一流に挑む権利をあげるわ」

 

 どうしたって、君には負けない。

 それ、だけだ。

 

「タイムリミットは、この夜が明けるまで。誰も、寝てはならぬ」

 

 まだ、言い負かせていない。

 

「なにをぶつけて戦うのかしら」

「少し考え中だ、手持ちは吐いてしまった」

 

 まだ、勝っていない。

 

「それなら、私が決めてもいいのだけど」

「そういうわけにはいかない、これはボクの舞台だ」

 

 ──まだ、勝負ができていない!

 

「ボクと君は確かに剥き出しになった。互いの過ちを認めた。互いの正しさを認めた。……だけど、それで納得するのか? そのまま緩やかに消えていく関係なんて、フィナーレにふさわしいのか?」

 

 これで終わりなんて認めない。このまま潰えるなんてふさわしくない。王とか最強じゃない、ボクたちにとってふさわしくない。だからどうしても、決着をつけたい。勝敗をつけたい。この喧嘩を勝負にしてでも、必ず終わらせたくない。ずっとずっと納得はいかないし、理解なんてしてやらない。このまま終わるだと? 走らないだと? それは未熟だからこそ、ボクにはわからない。理解できない考えが立ち塞がって、傲慢にも自分が正しいと言ってのける。なら、上等だとも。

 

「私の考えは変わらない。有マが、ラストラン」

「ボクの考えは変わらない。もっとその先も、勝負し続けろ」

「ここに来て、決裂ね」

「最初から、引き裂くための語らいだよ」

 

 勝敗をつける。雌雄を決する。それは当たり前のように、相手を殺める行為である。主役を奪い、舞台を奪い、やはり玉座に座するのだ。価値のない空席ではなく、勝ち取った証として。ここまで互いを罵り称えたのだから、どちらが優れているか決めなくてはならないに決まっている。 

 

「勝負の議題は、一つ」

「何かしら。一流にふさわしいものを頼むわよ」

「この舞台において、キングヘイローとテイエムオペラオーのどちらが主役なのか、だ」

「……乗った」

 

 再び見据えた。瞳と瞳が捉えあった。宙には永遠の星が光り、離れ離れになるまいとひしめき合っていた。だけどボクたちはこれから、ただ瞬く刹那になるのだ。星が消えても世界が終わっても変わらない、取り返しのつかない断絶を生むのだ。どうにもならない終わりを、互いの人生に刻み込め。一生抱える、傷にしろ。

 肩書はどうでもいいだろう。無意味に喧嘩して無意味に勝ち負けを決めるのだろう。悲願の勝利でも、無敗神話を打ち立てるようなものでもないだろう。そんな素晴らしい勝負より、きっと今が、今だけはこの勝負に一番勝ちたい。ボクが正しいのだと、君にそう言いたい。

 結論を迎えたかに見えた舞台は、また脈々と動き出す。燃料を焚べ、役者の期待に応え、誰も望まない仕合が始まる。これより手に取るは己そのもの、どんな装飾もない殺すための剣。ボク自身で、キミを見る。

 

「さて、オペラオーさん」

「何かな、キング君」

 

 さあ、来い。

 

「一つ、問うてあげる」

 

 どう言われようとも。

 

「あなたはまるで、未来のないことを否定しているようだけど──」

 

 どう、足掻こうとも。

 

「──あなたの言う未来って、なんなのかしら?」

 

 どうなろうと、止まらない。

 

「もちろん、決まっているさ」

 

 なぜならボクが望むのは、華麗なる幕引きではない。

 

「終わることのない永遠の戯曲があれば、極上だとは思わないかい?」

 

 散々指摘された傲慢を、裸になっても纏おうじゃないか。

 永遠を願って、何が悪い。

 終わるなら、負けろ。

 やはりボクたちの舞台は、血染めのように眩しかった。

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