【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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キングヘイローとテイエムオペラオーの第四幕

 どうやら、最後までそう言ってのけるらしかった。どうしても、そこは譲れないようだった。永遠の実現。不滅の待望。終幕の否定。再演ですらなく、あくまで新しい舞台を走り続ける。それが理想であり、自分たちにはそれができる。やはり傲慢だけど、どうにも気高く。オペラオーさんは、そう言った。「永遠に終わらなければ、最高だ」と。それが彼女の結論。主役が掲げた、輝かしき思想。途方もない、素敵な夢。

 つまり、どう言い繕おうと。

 

「──だからあくまで、私のラストランを否定するのね」

「当然だね。だってそれは、華々しく舞台を去ることに他ならない。終わる必要なんて、どこにもないのに」

 

 どう剥き出してしまおうと、彼女は。

 

「だって君は、どうしようもなく美しい」

 

 王でも最強でもなくとも、私を天輪にするらしい。たとえ、どうにもならないとしても。ひた走り、走り続ける。ただそれだけのキングヘイローを、揺るぎない存在だと確信している。

 ──正直、殺し文句だ。

 

「どんどん勝てなくなるのに」

「最後まで君は衰えない。ボクは今年の君を見てこそ確信した」

「負けたくないから、とは思ってはいけないのかしら」

「それ以上に勝ちたいと思うから、君は走っているのだと思っていたが」

 

 そうだとも。ああ、そうだとも。まだ走れるとも、まだ勝ちたいとも。まだ、終わりたくないとも。オペラオーさんの台詞はすべて図星で、罪を暴かれる犯人の気分だ。骨の髄まで詳らかにされて、心の粒まで解体される。やれやれ、つくづく大した役者だ。このままではどうやっても、主役は探偵を演じるあなただろう。

 ただ、それでも。

 

「それでも、諦めないから」

 

 私は、主役を諦めない。

 

「諦めないために、走ることに区切りをつけるのよ」

 

 私は、私の未来を諦めない。

 

「だって私の舞台は、これからなんだから」

 

 私は、絶対に諦めない。

 「諦めない」の一言で、逆境を覆してやるのだ。

 終わりがなんだ。永遠がなんだ。そんなもの、そんなもの誰だって価値を知っている。誰しも終わりは怖くて、永遠は願ってしまう。だからこそ私は、恐れるものに立ち向かう。永遠を願う? 素晴らしいじゃないか。美しい終わり? 最高じゃないか。どちらも甲乙つけ難く、その二つでは決着がつかない。そんな難しい選択は、この青い命で何度も繰り広げてきた。そして今回が一番難しいとしても、私には変わらないものがある。

 

「この舞台は、私の人生の話。一つ終わり、次に行く」

 

 なら、なら。

 

「終わるけれど、終わらない。それが私の、あなたからも得た結論よ」

 

 その両方を取る私が、一番傲慢な主役だ。

 私が私であることだけは、誰にも揺るがせられないと。

 眠気の峠を超えた午前三時頃。宙の星々はひしめき合い、喝采なき舞台を讃え続ける。

 もうすぐ、幕は降りる。

 

 

「詭弁だ」

「そうかもね。否定はしないわ」

「だが、素晴らしい」

「ご名答。美しいものは、いつだって危ういのよ」

 

 穏やかに、緩やかに。台詞の応酬は、殺し合いであり対話である。お互いを理解するために、心の臓まで裂く行為である。つまり互いの血に塗れた今が、紛れもない最高潮なのだ。

 

「じゃあ一つ、話をしてあげる」

「……いいとも」

 

 永遠は否定しない。終わりも否定しない。そう至った私の物語を、ここであなたに語ろう。黄昏から世紀末まで、次の舞台へのバトンだ。

 にこり。

 多分お互い、優しく笑えた。

 

「出会いはきっと、星のようなもの。私の友達が、ライバルが、仲間が、そう教えてくれた。みんな強くて、みんな逞しい。終わりへと飛翔したのではなく、未来へと羽ばたいていった。……その決断を侮辱することは、あなたであっても許さない」

「それでも、君は走るんだね」

「答えを見つけるために、ね。まだ走る意味を問いきれてないから、走るということを極められていないから」

 仲間たちのように輝けただろうか。それは常に思う。ならばと走り続けたことが正しかっただろうか。それは常に疑う。ふと見た己の指先は、少しばかり傷だらけだった。悔しさの痕が、隠せていなかった。

「それでも、有マがラストラン。そう決めた、憂いを絶った。……あなたが、立ち塞がるから」

「……ボクが?」

 

 そう、そうなのだ。

 

「だって私にふさわしいのは、いつだって超えられないほどの逆境なんだもの」

 

 だから私は、最強の王を見て。

 

「あなたを死ぬ気で追いかければ、答えが掴める気がしたのよ。本当に、死ぬ気で」

 

 誇りと驕りで走り切る、傲慢なあなたを見て。

 

「君が、ボクを」

 

 気持ちはわからなくはないけれど、そんな信じられないみたいな顔をしないでもいいのに。もちろん他にも理由はあるけれど、私にとってはこれが最高。もちろん今までにもそれぞれの最高があって、今だけ選びとる最高だけれど。そうやって選択を繰り返し、次の舞台へ終わって終わらない。それが、私で。

 

「──追いかけていた。あなたが主役の舞台で、そこから主役をもぎ取るために。いつだって、私は挑戦者なんだから」

 

 今も、私だ。

 挑戦者。これが今だからこそ言語化できる、最高の理由だ。

 私は、あなたに勝ちたい。

 

「……ボクだけだと思わないことだ。ボクには数多の好敵手がいる。特にドトウは強い。君たちのライバル関係にも勝るとも劣らない、最高の宿敵だと思っているよ」

「ならばそれごと撫で切って私のラストランにしてしまえば、きっとその伝説は永遠になるでしょうね」

「……永遠か」

 

 そう呟いて、オペラオーさんは顔を背ける。否、宙を見上げていた。九十九の星を見上げて、その中にある繋がりを探しているようだった。私の答えとあなたの答えを、繋ぎ止められたみたいだった。星の海は、もう眩しくない。

 

「ボクの好敵手の一人に、星に詳しい人がいてね。彼女が言うには、星の輝きは何百何千も前のものらしい。何光年をかけて、ようやくボクらの前に姿を現すらしい。……不思議な話だと思った。その輝きが生まれた時にいた人たちは、もう地球のどこにもいないのに」

「それでも、私たちの前に現れる。輝きは永遠だから、途絶えず途切れず見えてくれる」

「そうなりたかった。永遠になりたかった。星々が永遠になれるのだから、同じくらい輝けば永遠になれると思った。……なのに、最強世代は去っていく。ただ一人君という存在になっても、変わらず去っていく」

 

 星に台詞を歌う彼女は、ようやく私と同じに見えた。すれ違いかけ離れ壊れていく関係の中にあって、何故だか私と同じに見えた。寂しそうに、見えた。

 ──なんだ。

 

「……おばか」

「むっ」

「へっぽこと言ったのよ、このおばか」

「聞き捨てならない! この美しく崇高な覇王的頭脳を持つボクに向かって、バカとは! へっぽことは!」

「いや、あなた成績悪いでしょ。……それにそもそも、そうなるんじゃおばかでへっぽこなのよ」

「ずいぶんな言いようだ」

「だって、私と同じだもの」

 

 そう、言ってやると。

 

「──なんだ」

 

 ぱあっと目を輝かせながら、こちらを見て。

 

「ボクたち、同じだったんだ」

 

 心底嬉しそうに、そう言った。

 今までで一番素朴で、一番綺麗だった。

 

 

 いつの間にか、二人で立って宙を見ていた。

 

「星は眩しい。ああはなれない。だけど、ああなりたい。だから蹄跡を残したくて、私たちは走り続ける」

「何かを打ち立てれば忘れられないだろうか。それさえやがて過去になるんじゃないのか? もちろん、超えられるのは歓迎だとも。……だけど、忘れられるのは寂しい」

「過去にはなる。けれど、過去は輝かしい。人が何度生まれて育っても、その横に歴史がある。私たちの次の世代は、私たちを見て走る。あなたにとっての、私たちのように」

「だけど競えない。届かない。それは歯がゆい」

「歯がゆいのは、過去がまだ輝いているからよ。『最強のウマ娘を決めろ』なんて、土台無理な話だわ」

「──それでも!」

 

 まだ訴えてくれて、彼女の真摯さが伝わる気がした。この期に及んで主役の座を奪い取る、そんなふうな気もした。

 

「それでもボクは、最強になりたい! 君たちと競い、未来のスターたちとも走りたい! もちろん、負ければ悔しいよ。だけど最後まで、最後なんてなくたって、覇王は覇王であり続けたい。どれほどまでも、第一線で」

「勝って当然くらい言われているだろうに、ずいぶんと貪欲ね」

「いつかは負けるさ。だからこそ、永遠を望む」

 

 はっきりと、彼女はそう言い切った。

 

「負けてもやり直すために、永遠はあるんだよ」

 

 芝居がかった口調もほとんど解けて、台詞と本音の違いはつかなくなっていた。それでもやっぱり、私を見ながらそう言った。

 

「……走るのが、怖い?」

「……ああ」

 

 どうやら。

 

「今が一番、走るのが怖い」

 

 ここからは、彼女が主役らしい。

 

「去年は一歩届かないレースが多かった。勝てるはずなのに、何度もそう思ってしまった。でも違う、今年になってそうわかった。たとえハナ差でも、勝負は絶対につく。勝てるはずでも、勝者以外は等しく敗者だ」

「同感。好走だなんだと言われても、私はちっとも嬉しくない。だから走って走って走って、有マだって勝つつもりよ。……少し前まで、諦めていたけど」

「そう。勝ちたい。だからこそ、今年は勝ち続けた。そしてだからこそ、次負けるのがあまりに怖い。当然勝つという自信と同じくらい、手を抜けない理由はもう一つあるのさ」

「……強いわね。勝ち続けるって」

「走り続けることは、等しく強者の証だよ」

 

 寂しかった。勝てないのが怖かった。勝負の段に立ちたくなかった。私が散々吐露してきた気持ちは、どうやらそこまであなたと同じらしかった。テイエムオペラオーとキングヘイローは、似たもの同士のようだった。

 

「だからボクは、君に走り続けてほしい」

 

 だからこそこうやって高めあい、ライバルとは違う視点でお互いを見る。内側にあるものを暴くには、同じ目線が最も近い。

 

「……なんだ」

 

 私とあなたの関係に価値がないと言ったのは訂正しよう。きっと、きっと、どうやらとっても──。

 

「私たち、単に仲良くなれるじゃない」

「そうだね。不思議なことに、そんなことにも気づかなかった」

 

 ──とっても、相性がいいみたいだ。

 本当に不思議だ。刃を収めてみれば、こんなにも。こんなにも近くに、あのギラついた輝きが手に入る。優しいものとして、手中に収められる。ならばどうして、と思う。あんなに許せなくて、あんなに取り返しがつかなかったのか。

 

「ねえ」

「何かな」

「どうして、あなたは」

「ふむ。どうして、君は」

「友達に」

「それだけのことが」

「こんなに、遠かったんでしょうね」

「おや、聞いてしまうのかい」

 

 やれやれ、みたいな表情をされた。わかっている、わかっているとも。わかっていて、聞いたとも。同じだからわかっていて、それでも同じだから言わせてやろうと思ったとも。だけどそこで花を持たせてやろうと思ったのだから、あなたの方は素直に受け取ればいいのに。与えられた勝利は勝利に数えられないなんて、とんでもない傲慢。……まあ、私たちらしい。私もまったく、同じ気持ち。

 

「じゃあ」

「いっせーので、いいかな」

「最後の台詞をバッチリ決めた方が、勝ち」

 

 と、いうわけで。

 

「いいだろう」

「準備はできてるわ」

 

 位置に、ついて。

 

「いっせー、」

「のっ!」

 

 よーい、

 

「怖かった!」

 

 どん!

 

 

 わかってみれば、あっけない。故にこれはフィナーレではなく、ある一幕の終わりでしかないのだろうと思う。終わりであり、永遠である。つまり、あいこだ。

 

「ボクたち、単に怖かったんだ」

 

 どうしても、かけがえのないものだけど。同時に叫んで、同時に笑って。開け放たれた口から、相手の気持ちがそのまま飲み込めて。お互いの気持ちがそのまま伝わることは、きっとどうしようもなく美しい。

 

「……当然でしょう。年間無敗、世紀末覇王」

「それを言うなら、だよ。距離自在、歴戦の老王」

 

 怖かった。大きく大きく、だから相手が見えていなかった。

 怖かった。殺すつもりで向かってくるから、どうしたって死にたくなかった。

 

「だけどそういうデータと戦うわけじゃない、あなたに言われて気づいたことよ」

「そして主義主張が違うくらいで喧嘩するなんて、まったくばかげたことだともね」

 

 だけど、お互いだった。なら王と王ではなく、キングヘイローとテイエムオペラオーとして向かい合える。確かに違う。確かにそれぞれの道がある。だけど同じで、だから主役だ。それならお互い、なんの引け目もないじゃないか。

 

「それで喧嘩を思いっきり買われたのでは、なかなか食えないジュリエットだけど」

「あなたがロミオなら、潔く死んでくれるのかしら?」

 

 なんて軽口を叩き合えたので、元のようだった。そう、元から、最初から、ちゃんと見えていたものは見えていた気がした。ただこの「走る」という勝負はウマ娘にとって特別で、故に色々な理由をつけてしまっていた。走ることの理由にも、最後のレースの理由にも。

 だからこそどちらも正しく、どちらも間違っていた。その通り。そのまま。最初の前提から最後の結論まで、ずっとずっと変わらない。私たちは、どこまで行ってもお互い様だ。

 

「まさか! ボクは絶対に負けないとも! ……そう、君にもだ」

「期待、してるわ」

「世紀末の主役は、ボクだ」

「どんな時代でも、私の幕引きよ」

 

 一歩引いて、手を結んだ。

 仲直りのサイン、だった。

 こうして、幕は降りる。

 

 

 

「……あっあっオペラオーさぁぁん、こんなところにぃ〜〜!! 風邪、ひいちゃいますから、起きてください」

「……誰も寝ては、ならぬ……むにゃ」

「だからここで寝ちゃダメですぅ〜……」

 

 そんな会話が、宿舎の外から聞こえてきた。私は食堂でコーヒーを一杯入れて、無事徹夜を乗り切ったところだった。朝日はあんなに美しかったのに、そこら辺でこてんこてんとなってしまうのだから困ったものだった。そもそも日差しで目が覚めないものだろうか? わからない。やっぱり私とあなたは違うのかもしれない。

 まあ、それならそれでいい。違うところがないなんて、それもまたありえない。どこまでも同じでも、永遠に同じではない。星々のように、いつかはそれぞれの道を行く。私が仲間たちと知ったことで、決して寂しくないことだ。寂しくないと、あなたに教えられたことだ。決着はつき、答えは出た。美しく、幕は降りる。

 ……じゃあ、ここで終わるのか?

 もちろん、違う。今日抱えた悩みは、今日だけ抱える悩みじゃない。今日吐き出せただけで、走り続ける限りそれこそ永遠に取り憑く悩みだ。きっと年末が私のラストランであることはあなたにとって飲み込めないものだろうし、私にとっては譲れないままだ。仲良くしようと同じだろうと怖かろうと、戦わなければ私たちじゃない。それでも永遠を望むのがあなたなら、私はあなたに真の永遠を見せようじゃないか。未来に続くということの意味を、私があなたに教えるのだ。

 勝て。

 終わるな。

 その言葉、そっくりそのまま返してやろう。

 幕引きは、終わりではない。

 次の舞台のために、この舞台を閉じるのだ。

 ラストランの先にあるものを示すのが、私の王道。

 花束よりも永遠の手向けを、あなたに。

 勝負はまだ、ついていないのだから。

 主役は、私だ。

 

 

 どうやら、そのまま夏は終わり、秋を超えて、冬になったようだった。

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