【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
実は某所の再掲です
きっと、その日出会ったのもたまたまだった。たまたまアヤベさんを廊下で見つけて、そちらへ走っていった私。手を振りながら、アヤベさーんって、呼びながら。だけど、そこまではもちろん、やりたくてやったことなんだけど。
すってんころり。思いっきりこけてしまうのは、完全に予想外でした……。場所はアヤベさんから3mほど離れたところ、ゴール前でのアクシデントです。うう、恥ずかしい。
「……大丈夫? スペシャルウィークさん」
「は、はいぃぃぃ……」
地面につんのめったまま、私はなんとかアヤベさんに返事をする。まだおでこがヒリヒリする。ウマ娘は頑丈とはいえ、どちらかと言うと心も痛い。情けない姿を見せた心が。
「どうしたの? 急に走ってきて」
「えーっと、それは」
ストレートに問うてくるアヤベさん。……あれ、もしかするとバレてない? アヤベさんを見つけたから走ってきて、それでずっこけたこと。特にさしたる理由もなく、アヤベさんが目的で走ってしまったこと。いやそれを隠したからどうというわけでもないんだけど。どうというわけでもないんだけど、なんだか少しくすぐったい。
「こちらに何かあったかしら。私が代わりに見てきてあげてもいいけど」
「ああ、いいですいいです! 起きますから!」
そう言って、私はようやく起き上がる。うつ伏せの状態から身体を持ち上げて、ついてしまった埃を払う。うう、改めて思うのは、こんな姿を見られてしまって恥ずかしい……。
「大丈夫? 急に走り出したから、何事かと思ったけど」
「いやー、そんな大したことは」
なんとか誤魔化す。誤魔化せているのだろうか。いや、誤魔化せていると信じよう。
「あなた、結構危なっかしいわよね。たまに見かける限りでは、友達らしき子によく面倒を見られているし」
「ええ、いつ見てたんですか!? というか、何を見たんですか!?」
「たまたまよ。食堂とか、廊下とか、寮とか。食堂が多いわね。あなたを見るうちの七割は食堂で、誰かに呆れられているところね」
「それ、アヤベさんからの印象じゃないんですか……。私はこう、日本一のウマ娘を目指していますから! ビシッとしてますよ! ……って」
そこまで言って、若干誇張混じりの発言を終えた後で。アヤベさんの言葉に交えた、私の知らない事実を見つける。
「アヤベさん、もしかして、結構私のこと見てますか……?」
思えば、最初の会話から。こちらに来るのを見ていた、と言っていた。そしてそうでない時も、私が彼女に気付いていない時も。彼女の方は、私に気付いていたのだ。嬉しい。素直に、そう思った。
「言われてみると、目につく時は多いかもしれないわね。あなた、結構目立つのかも」
「そうなんですかね」
「そうなんじゃないの」
そうなんじゃないの、って。なんだか他人事みたいだ。アヤベさんは時折、自分のことを自分じゃないみたいに話す。自分の気持ちというものを、分けて考えているような。
「うーん、目立つ理由が理由なら、ちょっと恥ずかしいですけど」
「あれだけ食堂を荒らしておいて、目立たないことはないと思うのだけど」
「うぅ、でも美味しいんですよ、食堂のご飯」
「食事の楽しみ、ね。悪いけど、私にはあまりわからないものね」
それは失礼ながら、私もそう思っていたところだ。たまーに寮で夜食を摂るアヤベさんを見かけるが、大体スティック状の栄養だけを目当てにしたような食事ばかり。私としては勿体無いと思うのだが。せっかくこう、たくさん美味しいものが食べれるのに。
「確かに食事って、生きるためにすることですけど。でもそこに楽しみを見つけるのって、結構素敵なことだと思いますよ」
「あなたが言うと、どうにも過食の言い訳に聞こえてしまうけど」
「うぐっ、それは……。でもでも、本当です。たとえばレースだって、ウマ娘の本能って言われてますけど」
言い訳をしてしまっているのは本当だけれど、言い訳をするくらい好きなことではある。それこそ、レースにも同じことが言える。ストイックに練習を続けるアヤベさんになら、このたとえがいいかもしれない。
「レースでライバルと競って、勝ったり負けたりして。それで次はもっといい勝負が出来て。それもきっと、楽しいことだと思います。本能で走りたいのとは、別の理由」
そう、言葉を差し伸べる。もっともっと、あなたと仲良くなりたいから。
「走るのは楽しい。……そうね、だからウマ娘は、走ろうとするのでしょうね」
「はい。アヤベさんも、きっと。今までのレースで、そういうことがあったんじゃないですか? なんだか最初の食事の話と、だいぶずれてきちゃいましたけど。でも、そういうことだと思うんです。生きるために必要なことでも、楽しむことはできるんです」
「……それは」
一瞬、アヤベさんの表情が、見たことのないものに見えた。大げさな話をしすぎて、困惑させてしまったかもしれない。私とアヤベさんは、そんな大層な仲じゃない。まだ、だけど。まだ、であって、ずっと、じゃないけど。そう、信じてはいるけれど。けれど私も切り替えて、話題を変えようと試みる。
「なんだか変な話しちゃいましたね、すみません。まとめると、私が何を食べてても気にしないでください、ってことです!」
「善処するわ。なんとか、目を逸らすことにする」
「ああ、それは悲しいです〜! せっかくですし、もっと声をかけてくださいよー!」
思ったより、アヤベさんは私を見つけてくれている。なら今度は、もっと触れたい。せっかく同じ学園にいて、せっかく縁が出来たのだから。まだまだ、あなたを知りたい。そう思う心さえ、同じであったらとても嬉しい、と思った。
「はあ……。それで、どこに用事があったのよ」
「へ?」
「『へ?』じゃなくて。あなたがこけた原因は、何かこちらに用事があって走ってきたからでしょ」
「……ああ、それは」
うう、ここまで来ると言い訳はできない気がする。思ったより、その話題を引っ張られてしまった。万事休す。
「実は、単にですね。単にその、アヤベさんを」
「私を?」
「アヤベさんを見つけたので、つい追いかけようと……」
面と向かって言うと、恥ずかしい。かなり、恥ずかしい。もう一度こけて顔を伏せてしまおうか。そんなつもりさえするくらいの発言だったけど、アヤベさんは少しはにかんで。
「……まあ、目の前でこけないでくれるのなら。用事は解決したようでよかったわ」
「あうぅ、アヤベさぁぁん……」
「ちょっと、抱きついていいとまでは言ってないわよ。心配しなくても、それくらいであなたに悪い印象を持ったりしないわよ。今更、ね」
「今更、ですか」
「そう、今更。あなたと会うのも、もう結構な回数だもの。それくらいなら、いいかと思って」
その言葉は、花束のように宙を舞う。宙を舞って、私に届けられる。そっか、私たちは。私たちは互いに、互いに向かって歩み寄っていたんだ。
「じゃあ、特に用事もないのなら。また、会いましょう」
「はい。また、明日。明日もきっと、会えたら嬉しいです」
そして、別れゆく。今日はこれまで。互いの踏み込みは少しずつで、きっかけがなければすれ違うことすらない関係だけれど。
きっと、明日はもう少し。もう少しだけ、長い時間だ。
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