【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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完結です 明日からは3捏造カップリングの後日談を一つずつ投げます それで本当に終わり


セイウンスカイとナリタトップロードの関係

 トップロードさんはまだ寝ていた。私が先に目を覚ました。

 と、そこでだ。起きてみると、前の景色にはいつも私がいるベッドがある。そして今は、トップロードさんのベッドで、二人同じ向きに並んで寝転がっている。枕は端っこだけもらって、

 当然のように、後ろからお腹のあたりを抱きしめられていた。身動きが取れない。まったく、仕様がない人だ。とは言い切れない。今朝は私がわんわん言ったのだし、返しにしこたま言われた。「頑張っているじゃないか」、と。私とあなたで、言い争いをした。それで朝から疲れてまた寝た。

 そんな私のおかしな様子がきっかけで一緒のベッドに入るということを試みられたのだから、お互い様というか、私に若干不利があるというか。こんな時間から寝て、心底だらしないのは間違いない。

 まあ要するに、今の私は抱き枕状態である。上半身は腕でぎゅっと、下半身さえ若干脚が絡められている。肉体的にも心理的にも、抱き抱えられて身動きが取れない。

 休むならしっかり休みなさい、眠れなかったならちゃんと寝なさい、そういうことではあるかもしれないが……困った。いや、そりゃあ困る。あの時泣き叫んだよりはずいぶんと素朴な理由で、困る。起きてしまったから。こんな恥ずかしい体勢で。そりゃ困るだろう。

 困る以外のなんと形容すればいいのかもわからないから、困る。くすぐったいし、肩の辺りには柔らかいものが当たっている気配(確認したくはない)さえあるのだから、コメントにも困るというやつだ。うむ。

 「──ひゃっ」

 ……っとお。変な声が出た。何年ぶり、あるいは人生初めて、という感じの甲高い声だ。トップロードさんは起こしてはいなさそうだ。セーフ。聞かれていてもまた困るが、先ほどの嬌声(いかがわしい響きだ)の原因はそもそもトップロードさんの「寝息」。たまーの深呼吸がまずお腹の辺りで「起こり」を出して、それが背中に当たった直後……口からスーッと出る。息が。原理としてはいびきのようにも思える深呼吸だが、それは女の子の沽券に関わるので、いびきとして出てこなくてよかった。が、そして私の耳に当たる。

 声が出る。

 仕方ないだろう、それは。本当に、困る。困るしか言ってない(思ってない)。本当に困ると心の中すら語彙がなくなるのか、そういう変な冷静さ以外は、冷静ではない。さっきだって困る困ると連呼したのに、いろんな「困る」があるらしい。また教えてきた。レースでは私が先輩なのに、引っ張る側はトップロードさんばかりかもしれない。いや、ちゃんと私が慰めた日もあったはずだ。そんなふうに、おもむろに今までの日々を振り返ったりもした。

 長かった。でも短めに感じられた。一人じゃなかったからだ。そういう日々を思い返せた。そういう時間。微睡んで、うとうとして、やっぱり眠れないけれど。二人の時空は、今だった。あなたの言うとおり。

 しかし、一旦この状況で目を覚ましてしまった私は眠れないのではないか? 緊張? 後ろでもぞもぞしているものへの居心地の悪さ? 単に、狭いところはやはり嫌いか? わからない。わからないが、眠れないことはわかる。

 困る。

 くだらない理由ばかりでだから、嬉しい。

 抱きしめられながら瞳を閉じていた。五感が間近で塞がれていた。

 あんなに遠かった私とあなたは、

 バカみたいに近かった。

 ……しかし、どうしたものか。というより、もうどうにもならないか。なんというか、どうにも人肌というのは暖かい。そのことに安心したり、どきどきしたり。慣れない。リハビリのようにも思えて、それなら病人の私たちには必要だ。

 久しぶりに触れる他人だった、と思う。それもこんなにべったりと。考えてみれば、寝ている間も含めて、もうかなりの長時間こうしている。私がきっかけではあるのだが、結構とんでもない事件かもしれない。

 こんなの誰かに見られたら色々と衝撃的かもしれないなと思い、その「誰か」として想像したのが、私の大切な人たちだった。昔の私の、大切な人たち。関係。それを今、振り返っていた。いつもの後ろめたさもなく、虚空に懺悔と悔恨を繰り返すこともなく、素直にみんなを振り返られていた。

 また。

 また、と。

 まだ、

 やり直せる、と。

 そんなの当たり前で、そんなの嫌なことなんて一つもない気がした。

 そう、多分、これが、昔と今が同じだと、

 ああ、

 私は幸せ者だ。

 あなたの腕の中で、今、自分を噛み締められている。

 落日がどれほど儚くても、私を包むのは太陽のにおいだった。薄く広がる雲のような私に、柔らかい熱さで穴を開ける。影が落ちるのは、私が夜に飲まれているからではない。まだ木陰ができるほどに、陽が落ちる寸前の明るさがあったのだ。

 夜になったら、影なんてあるはずもないのだから。

 夕焼け満ちる狭間の私たちだから、お互いに落ちる影を見つけられたのだ。

 夜は確かに近いかもしれない。でも今じゃない。まだ。まだ、明日に怯えなくてもいい。未来は待ち望んでいい。大人の時間は待っていてくれる。今と地続きに、進める。吐き出して吐き出して寝て、それだけで捉え方は変わったみたいだった。でも、ちゃんと、今の私だ。あの頃が別人だなんて、数時間前に対して思えない。数日経っても、思わない。振り返ること、立ち止まること、どちらも何も悪くない。まだそう言えた上で、

 そう言えるのは、あなたと一緒にいたからだと、思った。

 手遅れなことなんて、何にもないふうだった。不思議なことに。本当に不思議なんだ、あなたは。こうして包まれて、何も言わずに力になる。口八丁の私とは、確かに違う人だろう、トップロードさんは。

 でも助けてくれた。助かることができた。合わせ鏡になれた。別々の人間が、一人と一人が、二人になって、二人きりになった。そういう時空だ。あっけなく、世界の見え方が変わっていた。

 ただ、ただ聞いて、抱きしめるだけで。昔のように笑えないと吐き出して、いつものように上辺を重ねて。今の私しか知らないトップロードさんは、おそらく何も的確なことを言おうとかしていないし、できていない。

 ただ彼女にできる限りを、私は感じ取ったのだろう、と。それだけが、それが一番、「今の私」には、よかったのだ。

 安心する。

 どうしてそれだけでこんなに救われた気分になるのだろうと、そうも思う。あれだけ冷たく閉じていて、今も何も変わらないはずなのに。わからない。わからないままで、いいや。

 胸の奥に空いた穴から、日差しが差し込む。もうお昼だ。やがて夕暮れになる。そこがいつもの私たちの時間で、朝から一緒に寝るなんて珍しい。昨日の夜も珍しい。そんな珍しい時間だったから、ぶつかりあえたのかもしれない。繋ぎ合えたのかもしれない。何を考えていたか、わからない。今の私と違うからわからないのではなくて、今の私だってわからないや。全部見えるようになって、見えないのではなくわからないのだと、

 私は私を、知り尽くしていない。

 悟ったようにたそがれるなんて、バカみたいなやつだ、ほんと。

 あなたもそうだ。もちろん、バカだ。言葉にならない言葉を威勢よく言い合うのだから、私たちはとても拙い。そういうことが二人の間では許されていて、何も解決しないことを二人で認められる。

 多分、笑っていられる。それで、お互いの、あなたのためになる。やっぱり、あなたのためになれたなら。そう思った。

 多分ずっと、思っていたと、そういうことにも気づいた。この人のことを放ってはおけないと、そう思ったからあの日に声をかけた。何もわからないくせに、わからないから。そんな気がした。そう思い込んでみたくなった。全部のもやが晴れて、一つだけわかることがあるのだ。だからそれ以外のわからないことは、全部それに従わせてしまおう。

 事実がどうかはどうでも良かった。気まぐれで声をかけ続けたのか、不意に気にかけたのか、ずっと出逢いに何かを感じていたのか。

 ただなんとなく、

 そうなのだ。

 やり直せると思ったのは、私たち。やり直したいと思ったのは、二人ぶん。それくらいには、気に入っていた。あなたに吐くだけで助かった。あなたに吐いてみて、それだけで嬉しささえあった。なんとなくに近くて、なんとなくじゃない。

 理屈はなかった。けれど、理由はあった。

 そう思いたかった。

 思うと、嬉しい。

 ああ、私は、

 

 

「おはようございます」

「……おはようございます……」

「なんだ、まだ眠そうですね、トップロードさん」

「そうかも……って、うわあ!?」

 というわけで、夕暮れまで抱きしめられていた。お腹が空いた。多分トップロードさんも。

「気にしませんよ」

「いやいや、そんな」

 慌てて腕を解いたトップロードさん。夜だけ、夕暮れだけ、午後だけ一緒の人だと思っていたけれど、こうして二人で一日を過ごしている。ゴールデンウィークに合わせて泊まると言い出したから、その時は変なやつだと思ったのに……今も変だけど、私も嬉しいから、変だ。

「なんとなく、私も落ち着くから」

 不思議なものだけど、ここまで来た、ということかもしれない。崖の先には渡れている。こんなに簡単に、二人とも。その先また遠くて苦しいとしても、いつか。そんな前向きさがあった。少しずつ。なんのことはない。本当に、なんのことはなかった。何も変わっていないから。わからないまま、狭間のまま。いつか消え去る、病気のまま。現状は変わらず、

「吐き出して、割とスッキリしましたね」

 捉え方が変わった。前向きか後ろ向きかなんて、進んでいればどっちでもいい。二人で進んでいたこれまでは、多分忘れないのだから。口に出すということは、こんなにも尊い。みっともないことだからこそ、冷めた言葉だからこそ、誰も傷つけないからこそ、言えない言葉はたくさんある。

 そのうちの一つ。

「これから先、不安ですね」

 解決しようのない、未来への不安だ。

 先行きの怪しさというものを、二人同時に抱えていた。二人で抱えていたから、あなたには当たり前のように言えたのだ。この保健室はそういう場所だと、終わって閉じて泥のような場所だとしたから、

 何より、私がそういう気に入り方をしてしまったから。

「そうですねえ」

「ふふ。どうしましょうか、私たち」

 前を向くわけじゃない。後ろを向ききることもない。けれど、落としたものを拾っている。彷徨って、立ち止まる。一つ一つ、大切に。それだけのことなら、私たちの未来はわからないままでいい。不安なままでいい。

 後ろ向きなのが怖いとして。

「このまま保健室で、ずっと過ごしますか?」

「スカイちゃんはそんなに保健室が好きですか」

「割と好きになりました。待っていたらトップロードさんが来るなら、まあまあ」

「まあまあ」

「面と向かって大袈裟に言えるほど度胸がないもので」

 前向きになるのは眩しいとして。

「でも、私も好きです。スカイちゃんとの時間」

「保健室通い、トップロードさんは日課にしちゃダメですよ? 善良優等生なんだから」

「じゃあちゃんと、スカイちゃんも復帰を目指して」

「そりゃもちろん。苦しんで苦しんで、また走れるようになりますよ」

「諦め悪いですね、私たち」

「ね」

 まだ、私たちは立ち止まる。毎日毎日を、保健室で過ごす。いずれ終わる。いつかはわからない。まだ。まだ。だからまた、ここで。私たちの時空は、私たちだけのもの。一緒にいる。

「それでも、毎日過ぎてるんですよね」

「そう、ですね」

「どこかには、進んでいるんですよね」

「……前向きじゃないかもしれないけど」

「後ろ向きかもわからない」

「でも」

「立ち止まることは、進むため」

 それでいい、と思った。多分。少し。初めて。やっぱり、抱えたものが解決したわけじゃない。だとして、捉え方に気づいたのだ。私がやっていることに。私がやりたかったことに。

 あなたに伝えたいことに。

「わからないままのバカで、何が悪いんだって」

 未来。将来。ゴール。終わりの先。そういうものが、わからない。知らず知らずのうちに、私たちはそれを袋小路にしていたのだ。ただ、暗いところが怖いというだけで。わからないという、それだけで。わからないこと、怖いこと、病室が閉じていること。だとして、そこで出逢ったのだ。光でなくても何かは分からなくても、嬉しかったのだ。

 考えてみれば、何も悪くない。

 後ろに向かうことは避けられない。私たちの未来は、運命は、煌びやかじゃないかもしれない。遠く、遠く、遠くのものはどんどんと離れていく。過去は私を見つけない。過去自体が私を呪うんじゃない。過去の捉え方が、今の捉え方が、私を変えていく。そういうものを一つ一つ拾って、未来に向けてまとめていく。進むということのうちに、立ち止まってまとめる時間があるのだ。他の人たちは知らないけれど、私たちは偶然、そこが一緒だった。

 だからお互いを、鏡にできた。

 未来とは、一つ一つ終わらせていくことだ。私の中で、完結させることだ。だとして、その道のりは、当たり前のように価値がある。どこを通って、どう苦労して、どう悩んで、どう回り道をして。前か後ろか、わからなくても、

「今のどうにもならない私たちだって、ちゃんと考えて頑張ってるんだって」

 今の私たちは、未来に向いている。

 ほつれた言葉が、ほどけていった。

 気持ちがいい。吐いただけで。それだけのことが、遠かった。自分のいる場所が確定することが、閉じることを肯定することが、未来を断定することが、こんなにも。

 何もかもが、遠かった。それが今、遠いけれど、

「これから先、見えた」

「これから先」

「はい。立ち止まり続けて、その目標」

 見えていた。

「教えてくださいよ、スカイちゃん」

 聞かれたので、

「また、走るんですよ」

 当たり前じゃないか、と、

「……次は、トップロードさんです」

 逃げるでもなく、そう言えた。あなたのためになりたいくらいには、あなたのことが好きだから。

「私と一緒のあなたは、」

 あなたの見据えている未来は、

「これから先は、どうするんですか?」

 取るに足りない質問が、重みを持つこと。それが、関係だ。

 

 

 私の目標。思えばそれを決めたかったのだ。将来について。一つでも何か、意味のあることを作りたかった。いつでも。だから立ち止まりたくなかった。ここはスカイちゃんとは似ていて、少し違う。でもわかってくれる。

「また走りますよ」

 私の答えは決まっていた。私も、だった。だって、

「スカイちゃんとも、走ります」

 今、この瞬間、決まったから。あなたが言うから、それに釣られる。あっけなく視界が開けて、わからないものが消えていく。わからない、わからないそういう不安が消えて、安らかに立ち止まれる。

「真似だ」

「同じがいいなと」

「そうしたら、今から続きますね」

「はい。立ち止まった先に、進むんです」

 いつか。いつかの目標を、寝転んだまま語らった。いつになるだろう。まだ。まだ、遠く遠く果てしない。だけど、遮るものはなくなった。私たちの世界は、私たちの捉え方で変わるのだ。

 朝の日差しが目を焼くように、未来の眩しさは私たちに降り注いでいる。二人で寝転ぶ、二人だけの時空に。

 時を止めて。空を私たちにして。終わってみて、消えなくなって、どうしようもなくなって、それでもダメにはならなくて、私は丈夫だ。スカイちゃんはどうかわからなかったけど、頑張るらしい。

「そして、未来は」

 あなたと一緒の私。この時空にある猶予を溜め込む私。食べて、飲み込んで、また。またこの時間を、何度でも。あなたとの時間は、いつまでも。それがよかった。それもよかった。だけど、私を待っていると言ってくれた「みんな」のために、

「……多分、いつかは前を向かなきゃですね」

 遠くを見つめて、二人で見つめて、私たちはそう宣言した。この時空は立ち止まる場所。取りこぼしたものを、一つ一つ集め直す世界。くだらなくて、みみっちくて、だけど私は私を超える。簡単な理屈。あの頃より進んだ私が、あの頃のことも取り戻す。それだけで、後ろ向きでも未来に進める。昔の私を拾ったら、今の私はその先に行く。

 だけど、それだけじゃないのだろう、と思う。あれだけ輝いて眩しかった昔の私を見つめてみると、今はなんだか、幼い。なんとなく、だ。これだけじゃ足りない気がする。なんとなくそう思うから、私たちは立ち止まっても、終わらない。終わるつもりがなかったら、終わるわけがない。

 昔の私に捨てられるのを防いでも、未来の私にも捨てられないようにしないといけない。全部の私をひっくるめて、私にしなくちゃいけない。私にしたい。私にすべきだ。二つが一致しているから、とってもいい。

 新しいものは必要だ。私たちはまだ、幼いから。大人じゃないから。これから先、これからの夢。将来というものが、走った「あと」に待っている。大学に行ったり、仕事を持ったり。昨日スカイちゃんが言っていたことにも含まれるそれが待っていて、それでも私たちは走ることを選ぶ。

 だから、走ることは、立ち止まることに似ていた。

「まだ、走っていい」

「また、走りたいです」

「そのあと困ったら、また考えましょう」

「じゃあそれは、まだ来ないといいですね」

 だから、いつかは。いつか、ここから旅立つ。停滞と安寧はモラトリアム。後ろに進むことは確かに未来の一つ。なら、私たちもここからいなくなる。そう言ってみると、

「……寂しいなあ」

 思っていたことを、先に言われた。これだけ走ることにこだわって、昔の自分を大切にして、それこそが今の私たち。今で、立ち止まり、全部拾おうとしている私たち。いつか、その先に進む。

「なんであっても、私を助けてくれたのに。トップロードさんがいたから、また走ろうって、本当の本当に思えたのに」

「心の底から、みたいな」

「そうですよ。でも考えてみたら、結局ずっと走れるわけでもないって。怖がっているうちは気づいてなかったですけど、そんなの当たり前なんですよね」

 ずっとじゃない。でも、まだ。そして、また、

「また、いつか」

「……まだ、いつも」

 なら、今はこれでいい。だって私たちは、今生きて、頑張っているから。

 そこで、ふと、気づいた。

「いい笑顔、ですね」

「……にゃはは」

 顔がほころぶとは、こういうことを言うのだろう。素直に、微かに、今までで一番の笑顔を見せていた。

 欠けたピースを拾い直す。それぞれの世界を取り直す。そのために、立ち止まることを肯定する。そして、

「スカイちゃんも、前に進むんですから」

 いつまでもここには、いられない。

 そう言って、言ってしまった。

 ああ、

 どうして離れなくてはならないのだろう。

 そう思ってしまうのも、仕方ない。

 

 

「じゃあ」

 ぐるり。ベッドの中で半回転。立ち止まるのはしばらく。いつかそれぞれ走る。走っているうちにまた会って、また離れる。ならば多分このゴールデンウィーク明けくらいから、だんだんと疎遠になっていくわけだから。

 まだ、まだ近いうちに。

 私は私を見つめ直す。あなたはあなたを見つめ直す。過去を追いかけることを、否定的に捉えない。立ち止まることを、悪く言わない。それだけで、気分は前向きだ。本当は後ろを向いていてもいい。前か後ろかは、本当かどうかじゃなくて、自分で決める。自由だ。私たちはまだ、何者でもないから、自由だ。

 過去と今と未来は繋がっているから、世界だ。

 ああ、だから、せめて、これくらいは。

 もっともっと距離を詰めて、さっき当たっていた息をもっともっと近くに感じて、顔と顔の隙間だけが、私たちの世界にあった。保健室より、さらに閉じる。今だけ、世界は、ここだけだ。

 夕陽の瞳だ。

「キス、しませんか?」




同じ時間、同じ空間、同じ気持ちを共有するのなら



 忘れるようなことは、忘れてしまうこと。大切だったのに。外れないのに。記憶はあるのに。感覚はない。寂しい。激情に任せて、激情は冷める。孤独は孤独。世界は世界。覚えていられないことが、あまりにも多すぎる。あんなに美しかったのに。
 だからもがくんだ。あなたのことを忘れたくないから。未来がやっぱりあるとして、未来に何かを持ち込みたいから。私だけのあなたがほしいから。二人を間違いにしたくないから。
 運命を結びたいから。
 それでいいんだ、それだけで。生きる理由がどれだけ傲慢でも卑屈でも、私は私の人生だ。何がダメなこともない。否定されても貫き通す。忘れられないようにしてやる。私は、私だけは忘れないように。
 そう思った。
 そして、あなたもそうだったらいいなと、
 また。
 また、そう思う。
 ただ、思いたい。
 今の私だけは、あなたが一番だ。



「じゃあ」
 私は、私が一つだけ、その提案に対して文句をつけるとしたら、
「ちゃんと、恋人やりましょうか」
 一生をかけたって構わないと、今の私は思っているということだ。
 しばしののちそう返すと、とても赤くて可愛らしい顔をしていた。
「ちゃんと」
「はい。ちゃんと」
「えっと、つまり」
「まだとか、またとか、じゃなくて」
 続くのだから、続けたいと、私が、思うのだから、
「末永く、よろしくお願いします」
 多分私も、とっても照れていた。すごく恥ずかしかった。
 それでも想うから、とても嬉しい。
 生きることは昔とか、今とか、未来とか、いろいろなものがある。もちろんわからない。わからないことばかりで、それを探していく。そして、離れていったり、新しく見つけたり、そういう変化もあるに決まっている。
 だとして、
 別に、一生続くものがあってもいいじゃないか。
 ああ、
「やっと、捕まえた」
「……うん」
「ふふ。可愛い」
 恋をしている。

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