【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
どうして。
「あ」
「え」
どうして。
「……いや、いやいやいや」
「……ふっ」
いや本当に、どうして。
「久しぶりだねキング君! 卒業以来! まさか! こんなところで!」
「どうして今、あなたと不動産屋の前で鉢合わせなきゃいけないのよー!」
雑踏行き交う街の一角、知った顔に巡り逢うのだろう。
どう考えたってありえない、そんな未来の話だ。
※
今は何月か? 三月である。大学が始まるのはいつからか? 四月である。入居先は決まっているか? まだである。そう、私キングヘイローはただ今そういう局面だったのだ。トラブル、出遅れ、こだわり。ええい、こだわりは許してくれと言いたい。ともかくそんな様々で、一人暮らしの住まいが決まっていなかった。
大学からの距離は何度か妥協したし、予算は上げ……下げるのは嫌だから上を見る方向で妥協してきた。しかしちょうどいい物件というものはどうにも一手及ばず先に決まっているもので、多分そこにはちょっとした巡り合わせやほんの少し迷っている時間もことごとく悪く作用して、こうやって物件探しが終わらない人間になってしまったというわけである。とはいえ実家からなど死んでもごめんなので、今日も今日とて少し暖かくさえなってきた街を巡っていたのだ。
……で、どうして。
「どうしたんだいキング君! 久方ぶりの再会に驚きすぎじゃないかい! 君ともあろうものがと思わなくもないが、覇王の威光の前には仕方ないのかもしれないね!」
どうしてそんな面倒な状況で、存在自体が面倒なテイエムオペラオーさんに会わねばならないのか、と。私はそう思わざるを得ないが、相手はそうは思ってくれないらしかった。泣きっ面に蜂だ。そう言っては可哀想というか八つ当たりなので、とりあえずは潔く黙ってみたわけだが。
「じゃあ、ボクはここに用事があるから。また会お」
「いやいやいやちょっと待って!」
なんとこの人、一秒で転身した。それも最悪の方向へ。どうやら黙っていれば更に状況が悪くなるようなので、私はその一秒で決心を変えたのだった。変えるしかなかったのだった。
いや、何? 街中で会ったのはとんでもない偶然である可能性を信じていたけれど、そんな運命じみたものでもないというシビアな結論が飛んできた。ある程度ここに来る理由が、お互いに同じような理由で同じような場所にいるという結論が。
すなわち街中であることより、やはりここが不動産屋の前であることが重要なのだ。重要というか、致命的。
つまるところ、つまり当たり前のように。わかりきっていながら、こわばった声で私は問う。
「……あなたも、家探し中なの?」
「ハーッハッハッハッ! 今週中に見つけないとまずい!」
「なんでそんなところが一致するのよ!!」
案の定、であった。
かくして私たちの再会は、遅れに遅れた家探しの末路と明白になったのである。
「ふむ。するとキング君もまだ新たなる王宮を定めていないのかい」
「王宮なんて高級志向はしてないわよ! お風呂とトイレくらいは分かれててほしいだけ!」
「ボクは洗面所と風呂場も分かれていてほしいけど?」
「そんなところで張り合わないで!」
そんなこんなで口八丁、参った。この通り、話の先は決まってしまった。どうせ今日こうなった時点で、出会った時点で決まっていたが、なんとか話が変わらないかと祈ってみたりして、結局乗せられて乗せに行くようである。仕方ないな、あなたも私も。やれやれ、本当に仕方ない。
「じゃあ私、ここに用があるから」
ならばせめて、先手は奪う。
「ボクが先に入る!」
久しぶりの勝負は、どちらが先に不動産屋に入るか。
……いや、もうちょっとある。
「どちらが先に、新しい生活を決められるか」、だ。
どんなに遅かろうが、主役は私だ。
※
「四月からの生活に向けての家を探しているのですが」
「どういった物件をご所望でしょうか」
「独立式洗面台!」
「ふーむ、それですと絞られますね」
「いえこの人の家じゃなくて! 私はとにかく大学から電車で四駅以内がいいです! ここです! ここから!」
「それも絞られますね」
「うぐっ」
そんなこんなで始まった物件探し幾回目、オペラオーさんと共に。先に喋り出さないでほしい頼むから。口を挟まないでほしいお願いだから。
と、ともかく。案の定、残っている建物は少なかった。いやわかっている、わかっていた。手間取っているうちに手頃な物件は減っていき、あとになるほど厳しくなる。だがそれでも諦められないというか、流石に諦めるわけにはいかないのである。どこでもいいから家がなければ、さすがに大学には通えない……ので、邪魔しないでほしい! 私に先に決めさせて!
「ユニットバスは却下だ! 湯船は1618」
「どんな贅沢な家に住むつもりよ! あと風呂にこだわりすぎ!」
「それだとかなり絞られますね」
「じゃなくて、私の話を聞いてください!」
……ええい、こうなれば負けてられるか! 会話に入ってくるなら、押し出すくらいの圧をかけてやるしかない! オペラオーさんも家探しに必死なのはわかるが、必死同士で引き下がるわけがない!
「リビングと寝室は別! 私もユニットバス以外を希望します! この際ちょっと値が張ってもいいので、保証人も……仕方ない仕方ない仕方ないので!」
「ボクはこの日のために毎年のお年玉を貯めていたのだよ! 敷金はいくらでも出す!」
「それなら私は!」
「だとすればボクは!」
そういう言い合いが始まってしまって、どうにもならなくなっていく感じがあった。いや、何を競っているのだ? と一歩引いてみる間もなく、なんとなく言い合いをしているのである。自分の身の丈に合った物件を、という大前提が少しずつずれていき、横の人よりはいい家に住んでやろう、などと思い始めるわけだ。
となると、相手のこだわりを無視するわけにもいかなくなるのであり。だってそこを無視しては、勝ったとは言えないじゃないかとかなんとか。
「私の物件は三部屋以上! 浴室は1620でキッチンスペースあり!」
「ええとですね、そうなりますと」
「ボクからすればエアコンも欠かせない! もちろん三部屋すべてに! リビングは広めにテーブルもテレビもソファも置けるくらいがいいね!」
「それだとですね、うーん」
正直言って、久しぶりの勝負で舞い上がっていたのだと思う。楽しかったと、やっぱり思っていたんだと思う。冷静になるとこれからの生活が懸かっているわけだが、まあ未来の形で勝負すると決めた仲だ。だからそれくらいの勝負なら許容してしまっていると、そういうこともあったかもしれない。
オペラオーさんも、多分そうなのだ。なんだかんだとあのあと、とんと話すことはなかった仲だった。そのまま緩やかにすれ違い、確かにいつかまた会おうと。そう安心していたからこそ、途切れていた。わかりきっていたとしても、信じ切っていたとしても、開幕というものはどうしても━━。
「とにかく!」
どうしても。
「私は!」
どうしても、どうしても。
「ボクは!」
どうしても、どうしても、どうしても。
「オペラオーさんより」
「キング君より」
「いい物件に、住ませてください!」
心、躍る!
あなたには絶対、勝ちたいから!
……と、思ってしまったので。
「……えーと、申し上げにくいのですが」
「はい」
「なんでしょうか」
譲れない姿勢を一度見せて退けるほど、器用な二人ではなかったので。
「お二人の条件に合う物件、お値段は張りますが」
「それなら」
「まあ、この際」
しかも迂闊にもこんな感じで、飲み込んでしまったので。
「一部屋だけなら、空きがあるのですが……」
「え」
「は」
「差し当たってはどちらが住むか、決めていただければ……」
思ったよりの大勝負になって、本当に勝ち負けを競うしかなくなってしまった。
舞台準備とはかくも、難しい。
※
「こちらが玄関で、上がってすぐ横がトイレです」
「ほう! 見たまえキング君! 綺麗! 広い! 美しい!」
「……はぁ」
さて。
「そして正面が廊下で、左に行きますと……」
「リビングね」
「綺麗! 広い! 美しい!」
「10.8畳ありますから」
「……えぇ」
どうしたものか。
「そしてこちらが一つ目の個室で、反対側にもう二つ」
「これはすごい! 大宮殿だ! まさに千年帝国!」
「気に入ってもらえて何よりです、いや本当にいい物件でして」
「そうだともそうだとも、キング君もそう思うだろう」
「……ええ、まあ」
……どうやってこの「大勝負」を、着地させるべきか!
我よ我よと二人で変な意地の張り合いをした結果、気がつけばとんでもない条件の住まいを要求していた私とオペラオーさん。そして幸か不幸か、「そこまで条件を上げてしまえば」一つくらいは部屋があるもので。
間取りと家賃の説明を受けていくうちにどんどん冷静に、もとい血の気の引いていく私をよそに、なんとオペラオーさんは内見を申し出たのだ。そして当然不動産屋は乗り気になった。流石に私だけ置いていかれるわけにもいかないので、着いてきた。そして今だ。あからさまに高級な、若者には不相応な部屋にいた。
いやいや、冷静になれ、冷静になっているのだ。こんな規模の家、大学生が一人で住むのはどう考えてもおかしいだろう。しっかりした大人の社会人が家庭を持ってから長年住み続けるとかそういうレベルのあれであって、今更ながら住居というものは身に余ることを言ってのけるものではないと痛感しているのである。
つまるところ、住処というのは勝負に使うものではない。……もうちょっと現実的な規模の家の立地やらちまちましたところを自慢し合うならともかく、こんな一生物にできるような住居で張り合うのは一流ではない! というか勢いでここまで来た一連の流れが全然一流じゃない!
……などと思うわけだが、今更そんなことを口にはできず。流されると弱い、そんな自分に呆れるばかりだ。オペラオーさんと不動産屋が家をうろうろしつつもうこれから買ってしまおうかという勢いになっているのを脇目に、一人で誰かが住むらしい家の中を……まさか本当にオペラオーさんは契約してしまうのか? と、心配するのが唯一できることだった。
それこそオペラオーさんもさっきの勢いでノリノリで綺麗広い美しいとかなんとか言ってしまってるだけで、どう考えても身に余る。だとしてもこんな家に住んだら、数年はもったいなくて引っ越せないじゃないか。身を削ってなんとか住んで、苦しい思いをして結局引っ越すまで、どんな生活になるのか、考えただけで恐ろしい。バイト漬けで足りるのか? わからない。怖い。
そもそも一度大きい家に一人で住んだらそれ以下のサイズに下げるのは大変なのだ、本当に。小さい絵に収めるための家具の処分、生活水準の低下による体調の悪化、様々が高望みの代償として降り注いでくる。無理して契約して負債を抱えて……そう、それこそ負けだろう。この家に住む勝負に勝って人生に負けている。オペラオーさんに、そうはなってほしくない。
の、だが。
「こちらも」
「なんと!」
「こちらは」
「エクセレント!」
ダメかもしれない。勝負とか関係なく、どう考えてもどう見ても完璧にこの家を気に入っている。
いや、もしかしたら住むあてがあるのか? などと考え始めるしかないくらいだった。小さな可能性に縋る段階である。下世話な話だが、実家が太いならその芽は出てくる。いや私も恐れ多くも母親に縋れば金は出てくるかもしれないが、それはちょっと……ならオペラオーさんにそういうことをさせるわけにもいかないんじゃないか? どうなんだ?
と、私キングヘイローはまさにてんてこ舞い。どちらかが住む、なんて話の持ちかけをするあの不動産屋が元凶だと言いたくなくもないが、どう考えても私たちがいかにも契約しそうなそぶりをしていたのが悪くはある。……それに、ここが値段相応にいい家なのは、本当だ。大学生一人には身に余るだろうというだけで、誰か貰い手がつくならいいことだろう、とは思う。高嶺の花だからひとりぼっちだなんて、あまり面白い脚本とは呼べないから。
……それはそれとして、そんなこんなで。そう考えているうちに、いつの間にやら。奥の部屋からこちらの方へスタスタと、わざわざ私に近づいてくる人がいた。私はなんとなくキッチンに立って、冷蔵庫の置き場所などを考えてしまったりしていたところだった。
近づいてきたのは言うまでもなく、あのやかましくて眩しい覇王様である。
「いい家だね」
「そうね」
「この家に住めば、きっと素晴らしい生活ができるだろうね」
「それは間違いないでしょうけど」
「ふむ。なら、決まりだ。……すみません!」
……あーあ。
止められなかった、か。
廊下まで行って不動産屋と話すオペラオーさんを見て、色々な意味のため息を吐いた。
今日の勝負、久しぶりの勝負。あんなに最初は楽しんでしまったけれど、最後の結末はこんなに複雑だ。なんでもかんでも子供のように勝負したって、これから先の未来はそんなに上手く白黒で分たれない。
そうわかっているはずなのに、あの頃みたいに輝くあなたを止められなかった。きっと若気の至りで、勝負というには不健全で、それだけで人生を決めてはいけないのに、止められなかった。そういうことがこれからたくさんあると、傷つく前に伝えるべきなのに、止められなかった。
がちゃり、ばたん。扉を閉じて、車に戻って、三人で立派な部屋を後にする。
残念ながら、私の負けだった。
※
どうやら、そのまま今日のうちに契約してしまうようだった。車の中でそういう会話が聞こえた気がするし、戻ったらすぐに不動産屋が書類を取りに奥へと入っていった。まあ新生活も近いし、早めに契約するに越したことはないのだろう。私も今日は諦めて、また明日探さなくてはならない。トレセン学園の寮にいられるのは、三月いっぱいまでだ。どんなところでも家を見つけるのが正解なら、オペラオーさんが正しい可能性もある。私が今日に勝敗をつけたとして、是非は問えるほど大人じゃない。そんなのは、わかっていた。
契約書を待つためにカウンターにいるオペラオーさんがいて、その後ろには決まりきった結果を何故だか見届けないといけない気がする私もいた。未来が決まったあなたと、未来の決まらない私。そういう勝敗をつけてもいい気がするし、やはり勝負を持ち込んではいけないことがあるだけのような気もした。それぞれの道でいい、それぞれの未来でいい。いつかは必ずやってくるから、明日である必要はない。
ただそうだとしたら、あなたの未来というものを無理やり決めさせてしまった気もしていた。私と競うために未来を定めてほしいなどと、そうまで願うことはない。勝負は己を勝ち誇るものであり、相手を負けさせるものではない。互いの視界を横切るのは、あくまで横切る側の使命であるはずだった。
些細なことかもしれない。くだらないことかもしれない。それでも今日彼女が住処をこんなところに決めた幕引きは、大切なことだと思った。これからの未来がすべて決まっているわけじゃないけれど、未来は一つずつ決めていく。それが間違いか正解か、勝負のように明確にはなってくれない。……なんて。
「……はぁ」
「どうしたんだい、キング君」
「頑張ってほしいと、そう思うだけよ」
「素晴らしい家だからね」
「それに見合う生活も、よ」
露骨に力のない返事をして、隠せなかったことを恥じる元気もなかった。どうにも、駄目になってしまっている。この勝負の結末は、些細なのに難しい。大人の未来に足を踏み入れていて、今までとは少し違う。私たち二人を分つものは、決断力の差か、焦りの有無か、すぐに判断できない事柄だ。大人になればこんなことばかり増えていき、未来は勝負で決まらないかもしれない。
そう思った。
終わり続ける終幕再生。永遠に廻る永劫円環。そう願った青い私たちは、あなたの中にだけ生きている。この危うい契約も、あなたなら乗り越えてしまえる気はしてしまった。そしてそのぶん、多分私は負けたのだ。
そう思った。
「あの家に見合う生活、か。無論問題ない。だってボクは素晴らしく──」
テイエムオペラオーは、変わらない。やはり永遠に等しく、私はどんどんと大人になっていた。すぐ冷静になって、あの頃のようにはいかなかった。バカげた勝負だからって冷静になれるほど、あの頃は賢しくなかったのに。久しぶりに会っても変わらないからこそ、置いていかれそうな気がした。
そう思って、
「──共に生きる君も、素晴らしい存在だ」
……当たり前みたいによくわからないことを言うのには、流石につっかえてしまったのだった。
……いや。
「え」
「はいお待たせしました、こちら契約書になります」
「すみません、こちら居住者二名にできますでしょうか」
「え、ちょっと」
「はい、可能です。ちなみに一応確認ですが、もう一人とは」
「こちら、キングヘイロー君です。ボクの、そう──」
そこで彼女は、言葉を切って。
「──似た者同士、だろう?」
あの頃みたいに傲慢な笑みが、鮮烈に焼きついた。
※
「ハーッハッハッハッ! 断られたら終わってた!」
「……そういうことは事前に相談しなさいよぉ……」
一時間後の喫茶店。お茶会の名目はもちろん、「これからの共同生活について」。
「というか二人で割ってもとんでもない家賃なんだけど、バイトは探すんでしょうね」
「大学がそもそもここから一時間だから、どちらの近くにするかだね」
「……なんでそれでここらで家探してるのよぉ……」
「広い風呂がほしい!」
そんなこんなで、どうやら全部決まっていたらしい。あそこが不動産屋から出てきた時点で、彼女の頭の中には同居しかなかったわけだ。無理やり連れていって、なんとなく気に入らせて、不意打ちで同意を取る。……そこまで策謀を張り巡らせていた気はしないが、正直やられた。まんまと返事をしてしまったし、その場で否定する材料が思い浮かばなかった。この辺り、私もまだまだ青いのかもしれない。
「というかあんな家に持ち込める家具の一つも用意してないけど、結局いつから入居なわけ」
「来週月曜だね!」
「来週月曜!?!?」
「まあ住めば都と言うし」
「あそこがそうなのはわかってるのよ! 冷蔵庫と洗濯機くらいはないと困るのよ!」
「むう」
「むうじゃない! ……もう」
ただ、今回は彼女の青さに救われたのだ。言うまでもなく素晴らしい住居を、どうにも奇妙な同居人と騒がしく過ごす。いかにもモラトリアムといった感じの日常が予想されるが、まあ悪くない。大学生なんてそんなもので、未来なんてそんなものだ。未来が常に不確定なことなんて、走っていた頃に嫌と言うほど教えられている。
「……こんなことで勝負するから、こんな無茶な決着になるのよ」
「おや、楽しくはなかったかい? 心躍る勝負だったとも」
「何でもかんでも天秤にかけたらいいってものじゃないって、すごく反省してるんだから。これからの生活、数年の未来。そういうものにはお金や時間や色々なものが絡むし、もっと現実的に決めていったって」
「それでも、素晴らしい結末だ」
「結果的によかったで済むものじゃ」
「この結末は、こうしなければ辿り着けなかったよ」
……なんだ。
本当に、なんなんだ。
そんなにあっさり、「これが最高」なんて決着させてしまえるなら。
「……勝負、また同着ね。同じ部屋、同じ生活」
「そうとも。そしてこれからも、勝負し続けるというわけだ」
大人になったら決着がつかないなんて、そんなことだって決まってないじゃないか。
全部全部決まってないなら、信じたいものを信じていい。
揺らいでも成長しても、変わらない。
新しい未来の中でも、私は私のままなのだ。
「奢るわ。カフェラテ二杯ね」
「おや、別にいいのに」
「……おばか」
それなら結構。私も決めた。ならばと席を立つ前に、しっかり一言言っておいた。その反応、こういうところも、まだ青い。
「この奢りの意味を考えるのが、明日までの宿題ね」
変わらないのも結構だが、私ばっかり大人になりたいわけでもない。そういう釘は、刺しておこう。
勝負をするためには、着いてきてくれなくては困るのだ。
「そうか、明日か」
「……買うものいっぱいあるのよ……」
「まずは大きな姿見!」
「あってもいいけど優先順位! だからとにかく、明日から毎日買い出しよ! 来週月曜って本当、本当急に決まるんだから」
「急だろうとも! 劇的であろうとも! 『この世は舞台、』」
「『人はみな役者』。……はあ、本当にその通り」
追いつけていないところがある。
追いつかれていないところがある。
だから、私たちは対等だ。
たそがれも世紀末も、等しく美しき終焉也。
※
「じゃあ、今日はお疲れ様」
「ああ。……また、明日」
多分これから毎日繰り返す台詞が、その日初めて浮かび上がった。
あなたのイチオシの幻覚症状は?
-
アヤスペ
-
キンオペ
-
セイトプ