【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜   作:春華ゆが

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これにて全編完結です ありがとうございました


セイウンスカイとナリタトップロードの引越

「新居に荷物を運び込むんですけど」

 ある日の放課後、トップロードさんから電話がかかってきた。

「今週末、引っ越し手伝ってくれませんか?」

 すごい。卒業したのに中高生の時間割に沿って連絡をしている。まずそういうことを思うわけである。で、

「いいですよ」

 そう返した。二つ返事にしない理由もない。助け合いの精神だ。多分報酬的なものもあるので、そういうこと。

 ちなみに今は秋だ。九月だ。そんな半端な時に引っ越しとは。気にならないこともないが、聞かなくてもいい。なんかそんな感じの状況だったので、とりあえずOK。

「お邪魔しまーす」

 気になったことは、その場その場で直接聞けばいいか。電車に乗って、スマホで住所を確認。そして駅から五分のそこそこの位置だな、ということを確認して、歩く。歩いて、ぴんぽーん。

「あ、いらっしゃい!」

 玄関はすぐ開いた。相変わらずおでこが眩しいトップロードさんに、半年ぶりくらいに会った。笑顔も眩しい。この人はいつまでも若いタイプかもしれない。私は歳をとるかも。というわけで、再会したのだ。

 というわけで、

「じゃあ、車を出しましょうか」

 善は急げと、言ってみた。当然だが免許はトップロードさんのものだ。レンタカーで引っ越しをする、まあまあよくあるやつ。電話で聞いた。ので、その通りにしようと言うと、

「ええスカイちゃん、一旦上がってもいいんですよ」

 何故か変に食い下がる。そんな予定は教わっていないぞ。

「いや、何もないでしょ……椅子もないなら助手席に座る方がマシじゃないですか」

「まあ、はい」

「でしょ」

「ですね」

「じゃあ行きましょう」

 ウマ娘のパワーを持ってしても、たくさんの荷物を運ぶのは難しい。というわけで、車の出番である。というわけで、今日の車自体は必要なのだが、

「しかし」

「なんでしょうか」

「引っ越しとか、レンタカーにしか使わない免許、取る意味ありますかね」

「……うーん」

「そんなすぐ言葉に詰まるんですか」

「核心をついた質問だったもので」

「旅行とかあるでしょ」

「意味あるかって聞いたのに、スカイちゃんが免許の使い道をフォローしてくれるんですか?」

「そこまで素直に受け止めて悩む方が逆に想定外なんですよ」

 玄関口で微妙なコントが始まる。コント、すなわち押し問答をしに来たのではないが。引っ越しの手伝いである。なんで私の方が真面目な感じなんだ。というわけで茶化したはず。多分。適切さからは程遠い会話だけど、こんなものでいいだろう。

 家はアパートの二階、2LDK。らしい。広くないか? と思ったが、まあ広くて悪いことはない。多分この人のことだからバイトは頑張っているから、家賃の心配もない。というわけでいい部屋を借りて、今引っ越し。

「今引っ越す理由って」

「お金が貯まったからですね」

「忙しくはないんですか?」

「大学は今休みですよ」

「ああ、そうか」

 大学では九月が夏休みだった。大学生は夏合宿もない。ひょっとしてトレセン学園の方がおかしい。いや、そりゃそうか。

「トレセン学園ってハードですね」

「校則に走れって書いてますからね」

「大学では歩くんですか」

「当たり前じゃないですか、はしたない」

 そう言われても、大学生の当たり前なんて知らないのである。トップロードさんについて、有無を言わさない感じが若干出てきたな、と思った。前からそういう気配はあったけど、妙な方向に進化した気がする。

「とりあえず車、早く出してくださいよ」

「せっかちですね」

「いいから」

「……久しぶりなのに」

 むう。

「ちゃんと車の中で話しますよ」

「やった」

 そういうことになった。

 

 

 車を走らせてもらって、そのルートで気づく。ちなみに大きいボックスカー。

「これ、もしかしてトレセン学園に荷物取りに行くんですか?」

「そうですね。保管しておいてもらったので」

「……私一度トップロードさんの家に行く必要ありました?」

「……あっ。ごめんなさい」

 新居を見せたいとかですらなかった。やっぱりトップロードさんはトップロードさんなのだ。助手席でため息を吐く。

「仕方ない人ですね」

「面目ないです……」

「落ち込んでないで前見てくださいよ」

「それは見てますよ」

「あんまりお喋りもしない方がいいかもですね」

「意地悪。するって約束したじゃないですか」

 しかしながら、運転は丁寧なのである。流石。変わらないというか、安心感がある。丁寧な上に慎重。自分は曲がれないカーブも車なら曲がれる。変にこなれていない。流石だ。

「いつ免許取ったんですか」

「今年の春ですね」

「うわ最近」

「まあここら辺に住むうちは大体足で済むので、急いで取るものでもないですから」

「私なら絶対ペーパーになりますね」

「案外原付とか似合うんじゃないですか?」

 それはそうかもしれない。言われて想像する。気ままにゆっくり二輪を走らせて、釣り場へ。自分の足があるだろうと言われるかもしれないが、風情の問題である。

 しかしいいな。原付釣り場行き。かなり大学生が楽しみになってきたかもしれない。車より維持しやすいし、実利を兼ねた趣味にカスタマイズを……うん、

「悪くないですね」

「やった」

 何がやったなのか。自分ごとのように喜ぶので、面白かった。

「じゃあまあ、考えておきましょう」

 だから乗っかった。

「というわけで、引っ越しはちゃんと手伝ってくださいね」

 乗っかったのに話を戻された。ままならない。

「めちゃくちゃ無理やり話戻しましたけど、忘れてるわけないじゃないですか」

「律儀ですねえ」

「いや、トップロードさんほどではないかな……」

 そういう感じだった。引っ越しとなると、この人もテンションが高くなるらしい。

 

 

「じゃあ、これを全部、どん、です」

「服。服。服。他の荷物は?」

「生活必需品というか、そんな感じのものは前の家から持ってきてたんですよ。だけど今回新居なので、全部と」

 前の家。初耳だ。ということはわざわざ更なる引っ越しか。すごい。生活の水準を上げようという気概がある。

「逆にこれまで服をどうしていたんだと思いますけどね」

「……えっと?」

「着替え全然なかったんじゃないですかこれ」

「いや、そんなことは! あんまり、あんまりはないですけど」

「ほらー」

 まあそれを気にしていたから、服を取りに来たのだろうけど。物持ちがいいのはいいことだ。長く使おうとしているわけだ。

 ただ、言ってしまえば中高の古着で大学も過ごそうというのは、どうなんだと思わなくもない。自然な帰結で、私はこう提案した。

「服を運び込むのはいいですけど」

「はい」

「新しい服、買いに行きましょうか」

「……はい!」

 嬉しそうだった。

 なんだか、乗せられている気がする。

 

 

 近所のショッピングモール。量販店の服屋。おしゃれは値段ではなく着こなしだと、どこかで聞いた気がする。実演したことはない。というわけで、更衣室で取っ替え引っ替え着替えては出てくるのを、見ていた。見ているだけではある。

「うーん、どっちがいいでしょうか」

「どっちもでいいんじゃないですか?」

「なるほど」

「……本当に腑抜けてますね」

「えへへ」

「えへへじゃない」

 トップロードさんは、しばらく会わないうちにおかしくなったのかもしれない。そういう疑いを持ち始める頃合いだった。テンションが変。態度がふわふわ。そりゃあ抜けているところのあった人だけれど、抜け方がこなれてきている。成長? 大人になった? まあ、そういう感じがある。

「これとこれはどっちがいいですか?」

「どっちもでいいんじゃないですか」

「ちゃんと見てくださいよー」

「服に興味あるのかないのかどっちなんですか」

 はあ、とため息をこぼす。一時間は服を吟味中だ。律儀に脱いでは着ているから時間がかかる。どんどん買い物かごの中身は増えていく。まだ買うらしい。なんのスイッチが、多分私の手で押されたのやら、だ。

 かなり無軌道に、気ままに、トップロードさんは買い物を楽しんでいた。なら、いいか。そこでなんとなしに考えるのをやめるあたり、私も大概いい加減。

 というよりいい加減は私の領分のはずだ。この人はいったいどこでこんなのを習ったのだ、と聞いたら、はい私です、と名乗り出なければいけないくらいに。

「これくらいでいいですかね」

「これ以上は値段が大変ですよ」

「……うわ。ちょっと減らしてきていいですか」

「どっちがいいか、見た方がいいですか?」

「……はい! ありがとうございます、スカイちゃん!」

 でもなんとなく、しっかりと芯がある気がした。

 

 

 そんなこんなで夕暮れだ。小腹が空いた。

「お茶しましょうよ」

 私からわがままを言うことにした。振り回されっぱなしも癪だ。時間を使わされているのだから時間を使わせてほしい。

「いいですよ」

 喜んでくれるなら尚更いい、と思う。それでショッピングモールの中を歩いて、喫茶店に入る。服という名の荷物が多くて雰囲気はない。まあなんか、いいか。ケーキが食べたい。コーヒーもあるといい。そんな感じ。

「チョコレートケーキ二つで」

 お揃いにした。

「いやあ、疲れましたね」

 ふう。そう言うと、

「まだ引っ越しはこれからですよ」

 たしなめるみたいに。誰のせいだと思っているのか。わからない。

「服を整理するだけじゃないですか」

「他にも運び込んだだけの荷物をなんとかするんですよ」

「ええ、聞いてないです」

「言ってなかった」

「予想しておけと言われたらそうですけど」

「いや、私が悪いですね……」

 あはは。たはは。多分そんな擬音をつけられる感じで、音なく笑った。いい感じだ。久しぶりに会ったけど、

「元気でよかったです」

 まったく、なによりだ。

 そしてケーキが来た。カフェラテも。甘いものが染み渡るし、眠気にカフェインが効く。いや、普段なら眠気を覚ますなんてやらないのだが、今日は特別である。トップロードさんのためならと、私もそれくらいの誠意は持ち合わせているのである。

「美味しいですね」

 一口。

「はい。すごく……甘い」

「甘いですね」

 相槌を打って、一口。

「そうです。それで、その、美味しい」

「さっき言いましたね」

 コーヒーにも手をつける。真面目に相手をしても仕方なさそう。

 ループしそうだ。まあループしてもいいか。ぐるぐるぐるぐる、時間は順々と回っていく、みたいな。

「いやあ、ホッとするなあ」

「そうですね。喫茶店って落ち着きます」

「違いますよ、トップロードさん」

「えっと、じゃあ」

「あなたといると落ち着くって」

「……ふふっ」

「嬉しいでしょ」

「嬉しい、ですね」

 流石に、夕方までには帰った。

 トップロードさんの新しい家に。

 

 

 で。問題は、

「なんで」

「はい、なんでしょうかスカイちゃん」

「いや、なんでこんな広いんですか」

 トップロードさんの新居は、広かった。2LDK。すなわち、リビングダイニングキッチン。に、部屋二つ。二つである。二つなのだ。着いて、荷物を移動させて、整理して、そうしてみると、部屋一つに入る。

 服とベッドと机とタンスとその他諸々、一つの部屋は八畳か十畳か、広い。思ったより広いのであった。つまりはどういうことかというと、

「部屋余りましたね」

「そうですね」

「いや、そうですね、じゃなくて」

 薄々感じ始めている。一つ部屋がもう、伽藍堂で空けられているのである。なんでも入れたまえ、と。誰に「入れたまえ」と言っているのか、というと、

 そりゃあ。

「これ、私の部屋ですよね」

「正解、ですっ!」

 ……返事の元気が良すぎる!

 が、そういうことであった。私の部屋。私のぶんの部屋がある。トップロードさんの家に。つまるところ、トップロードさんの家、というのは正確ではない。

 トップロードさんと、私の、家である。

 同棲。

「そういうことですか」

「……えへへ」

「もう、本当、この人は」

「あははっ、ふふふっ」

「……もう、もー……」

 そういうことは、事前に言うべきではなかろうか、などと、当たり前のことは、多分、意味がない。

 驚かせたかったわけだ、トップロードさんは。そういうわけで、なんだか迂遠に投げやりに、遠回しに、つまりは隠し通した。

「……やられたなあ」

「スカイちゃんを出し抜けるとは、私も成長しましたね」

「本当」

 やれやれ、

「いつの間にそんな、ずるくなっちゃったんですか」

 今日のあなたは、どうにも悪巧みが多すぎる。

 しかも愛嬌たっぷりだから、始末に終えないのだ。返事はわかりきっているし。

「スカイちゃんのせいですよ」

 ほら、やっぱり。

 私と一緒のあなたは、こういう人になれるらしい。

 誰もが何者かになれる。未来の話。いつもの話。今の私が、やっぱり今の私だ。昔の私とは違うところにいて、だけど繋がっているらしい。別人みたいなだけで、別人じゃない。そういうことを知っているから。

「仕方ない、なあ」

 笑ってしまった。

 どれだけ経っても、好きなまま。一緒のまま。変わっても、あなたと私と時空がある。

 ああ、

 素晴らしき、世界かな。




無事全員書き上げることができました 幻覚ですが、私の中では現実です
感想、評価、完結記念と思って是非いただけると嬉しいです

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