【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
きっと、いつもの私たちはたまたまだ。たとえばアヤベさんにファッションの相談をしたのも、多分あの日にアヤベさんを見つけなければ思いつかなかったことだ。たまたま見つけて、たまたま話して。たまたま、その話題が盛り上がって。
だけど、今日は少し違う。ほんの少しだけど、大切な差。今日の私は、あなたが来るのを待っている。
待ち合わせをした。たったそれだけで、偶然は必然へと変わるのだ。
きっと、今日は素敵な日になるだろう。それも、必然だ。
「あっ、アヤベさん! こっちです、こっち!」
「おはよう、スペシャルウィークさん。待たせてしまったかしら」
「いえいえ、そんなこと! ちょっと楽しみすぎて、早く来すぎちゃいました」
トレセン学園近くのショッピングモール、その南口の前での待ち合わせだった。先程から自動ドアが私たちを招き入れるみたいに何度も何度も開閉している。いや、私の立ち位置が悪くてセンサーに反応してしまっているだけなのだけれど。気づいた時にはもう遅く、アヤベさんが来てしまって移動のタイミングを失ってしまったのである。そんな扉をちらりと一瞥したあと、アヤベさんはため息をついて。
「楽しみって、そんなに面白いことはしないわよ。ただの買い物」
「そんなことないですよ! アヤベさんとお出かけするのなんて、初めてなんですから」
「まあ、それはそうだけど。それにしたってはしゃぎすぎじゃないかしら」
「……そう見えますか?」
「そう見えるわよ」
ううん、でも仕方ないじゃないか。アヤベさんとの初めてのお出かけ。アヤベさんはそれほど気にしていない様子だけど、私にとっては大きなイベントなのだ。いやもちろん今回の目的たるインタビューに向けての服選びも大きなイベントなので、二重に。
はい。私、二重に緊張しています。
「それにしても、アヤベさんはほんとにずっとセーターなんですね……」
目の前の人の服装は、確かに彼女自身の言葉通り薄手のセーターだった。インナーで厚さは調整できると言えど、今みたいな梅雨時に。そんなに服装に無頓着なのか。いや、あるいは? ふと浮かんだ疑問を、アヤベさんにぶつけてみる。
「アヤベさん、なんでいつもセーターなんですか?」
「使いまわせるからね。内側は見えないから気を配らなくていいし、いつも同じ服装でいられる。気を使わなくていい。……あと」
「あと?」
その「あと」が気になるところだ。なのでちょっと詰めてみる。ずずいと少し顔を近づけると、アヤベさんは観念したようにわけを話してくれた。
「手触りが、いいのよ。えっと、そう、落ち着くの」
少しだけ、言いにくそうに。私に言ってしまうのが恥ずかしいのだろうか。確かにそれは、取るに足らない。やっぱりアヤベさんは、ファッションへのこだわりとかはないのかも。けれどそう思わせる、いつものアヤベさんらしさが垣間見える理由。そして普段の印象とは少し違う、ちょっとかわいらしい理由でもある。
「何よ、その顔」
「えっ、変な顔してますか」
「笑ってるじゃない。理由を聞き出して面白がっているのなら、少し酷いわね」
「ああ、そんなことないですよ〜! でも、理由にはびっくりしたかもです」
「そうかしら」
「はい。アヤベさんにも、こだわるものがあるってことですから」
私は、アヤベさんのことをよく知らない。いつもストイックに走っていて、なんだかんだで私のことを心配してくれて。そんな誰でも知っていることか、私の前で見えたことしか知らない。たとえばどんなことを楽しみに生きているのかとか、そういうプライベートなことは何も知らない。強いて言えば、今までの会話から受けた印象があるとすれば。
自分のことを、一歩引いて見ている。私がアヤベさんの態度から感じ取ったのは、そういうこと。それは彼女の普段の落ち着きにも繋がるのだけど、何故か私にはそれだけじゃないようにも思えた。
今は、言葉にできないけど。
「こだわり、ね。それなら今日の服探しも、それに則ろうかしら」
「はい! アヤベさんが気にいるような服、絶対見つけましょうね!」
「忘れないように言っておくけど、メインはあなたよ」
そんな会話を皮切りに、私たちはショッピングモールの中に入っていく。……そういえば、私がファッション誌のインタビューを受けるための服を探すのが本題だったっけ。見つかるだろうか。というか自分みたいな田舎娘に、都会の服が似合うだろうか。うう、急激に不安になってきた。けれどアヤベさんはずんずん進むので、私はなんとか着いていくしかない。
攻守交代、なんて。そんなワードが頭に浮かんでしまったのも、無理はないと思った。
「何個か服屋はあるみたいだけど、どれから行くの?」
「えっ、何個もあるんですか!? どうしましょう」
「どうしましょうって、あなたね……」
「す、すみませんっ! ほんとに何もわからなくて、ここのショッピングモールなら服屋があった気がするなーって、前来た記憶を頼りにして」
「ちなみに前来たのは何故かしら」
「ここの上階、美味しいご飯屋さんが沢山あって……」
そこまで聞いたアヤベさんは、はあ、とため息。呆れられても仕方ないけれど、そこまで聞き出したアヤベさんの方もちょっと鬼だと思う。間もなくアヤベさんはポケットからスマホを取り出して、すいすいと操作を始める。何をしてるんだろう、それすら見当のつかない私。
ああ、無力だ。
「とりあえず、調べたわ。一階から三階まで、各階に一店舗ずつレディース中心の洋服屋があるみたい」
「れでぃーす……?」
「女物の服のことよ」
「女の人が着る服ってことは、スカートとかってことですか?」
「そうだけど、それだけじゃなくて。……あなた、私の服装を心配してる場合なのかしら」
真剣に心配されている気がする。後で説明を受けたところ、レディースというのは女性が着る用の服ということらしい。いやそれくらい当然私もわかっていたのだけど、なんでも服のデザインなどで男用と女用は違うらしい。はい、親のおさがりしか着ていないとこんなこともわからない女の子になります。全然知りませんでした。
「じゃあとりあえず、一階のお店から。着いてきて」
時間が惜しいとばかりに、アヤベさんは足早に歩き出す。今日のアヤベさんは妙に積極的だ。もしお出かけを楽しんでくれているのなら、それはとっても嬉しいことなんだけど。
「待ってください、アヤベさーん!」
今の私は、とりあえず。こうやってなんとか後ろから追いつこうとするのが精一杯だけど、とりあえず。とりあえず今の私は、あなたと一緒に歩けることだけでも、充分すぎるくらい幸せだった。
きっと、今日のお出かけだってたまたまだ。それ自体は私が約束したからだけど、それにはきっかけが必要で。そのきっかけにはさらにきっかけが必要で、それはどこまで行ってもたまたまだ。きっかけがなければ、私たちは出会うことすら叶わない。すれ違っても互いを認識できないまま、そのことに不都合すら感じないまま。きっと、そんなふうにお互いの日常を過ごしていた。
けれど今、この時間。この瞬間。私たちの関係は、お互いの日常に組み込まれている。あなたがいなければ、私は今ここにはいないだろう。きっと他のことをしていただろう。そんなふうに、互いの時間は分け合うからこそ変わってゆく。そんな時間を共有する一人として、私はアヤベさんともっと仲良くなりたい。
もしかするとそうやって分かち合うことは、お互いの深きに踏みこむことかもしれないけど。立ち入るべきでないところまで、誰かの大事なものを暴き立てることかもしれないけど。
アヤベさんは、時々私を突き放す。きっと私を慮って。私が深く、深く踏み込んでしまわないように。その思いは、わかってしまう。たまたまの出会いでも、何度か重ねるうちにわかってしまう。わかってしまうように、なった。
だからこれからも関わり続ければ、もしかしたら私は見てはいけないものを見るかもしれない。それが何かはわからないけど、やはり一つだけわかることがある。前を行くあなたを追いかけ追い付き、並んで歩けるようにさえなった今だからわかることがある。
何があっても、私は手を離さない。
きっと、もう友達だから。
アヤスペ…
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