【完結】たそがれより世紀末まで〜98×99三強カップリングがイチャイチャしたりするかもしれないしドロドロするかもしれないしの幻覚話〜 作:春華ゆが
編?なのか?
アヤスペそろそろ浸透してきましたね
きっと、そんなことを言い出したのもたまたまだ。アヤベさんとハンバーグを作り出して、それもいよいよ大詰めといったところで。私はアヤベさんに一つの提案をした。大それた提案。当たり前の提案。どちらか判別がつかないから、これも偶発的なものだろう。
「一緒に食べませんか、このハンバーグ」
そう、聞いた。きっと、伝わった。生みのお母ちゃんと育てのお母ちゃん、二人から教わったレシピで作ったにんじんハンバーグ。私自身のために作っているそれを、アヤベさんと一緒に食べるということ。
手伝ったのだから一緒に食べるというのは、ある種当たり前の結論だけど。きっと、その問いにも、答えにも。勇気が必要なのは、それこそ当たり前だった。
ひき肉を捏ねていたアヤベさんの手が止まる。確かに迷い、思い悩む。それが伝わる。けれどその先には否定しかないなんて、決まっているはずがない。
「……これは、あなたの思い出の料理でしょう。あなたと二人のお母さんのためのもので、私は関係ない」
「確かに、そうかもしれませんけど」
やっぱりそうやって、アヤベさんの言葉は否定から始まる。きっと、それは私のことを考えてくれているからこそなのだろう。
「なら、一人で食べるべきよ。……それは、亡くなったお母さんとの語らいでもあるのでしょう」
「はい。アヤベさんの言う通りだと思います。でも。でも、そうじゃなくて」
「……何かしら」
「生みのお母ちゃんはきっと、私が自分のせいで一人きりになって欲しいなんて思ってないはずです。これは、私の勝手な想像かもしれませんけど」
遠くに別れて離れ離れになってしまった、いつか亡くした人を想う。それは絶対に大切なことだ。私はだから、生みのお母ちゃんのことを忘れたいなんて思わない。
だけどそれは、生みのお母ちゃんのことだけを考えるってことじゃない。今の自分が頑張っている姿を見せることで、きっと空の向こうにだって私の幸せは伝わるのだから。
だから。
「だから私は、生みのお母ちゃんのことを考えるのなら。今日ならアヤベさんと、一緒に考えられると思ったんです」
「私と一緒に? それは、無理よ。私はあなたのお母さんのことなんて何も知らないし、その資格はない」
「知らないのは、私も同じです。私にとって生みのお母ちゃんは、物心つく前に亡くなってしまった人ですから」
「……それ、は」
アヤベさんの口が固く噤まれる。何かを言おうとして、それでもそれを止めた顔だ。……アヤベさんはそうやって、私を気遣ってくれている。そして、そんな人だから、私はこうして。
「アヤベさん。アヤベさんはいつも、私に優しくしてくれます。だから私も、二人のお母ちゃんのことまで話しちゃいました。もちろんこんなこと、誰にでもなんて言えませんよ。アヤベさんがそれを優しく受け止めてくれる人だから、話せたんです。さっき言った通り、アヤベさんは優しい人ですから」
「……ありがとう。でも」
「だから、です。アヤベさんは多分、私の生みのお母ちゃんのことを本当に真剣に考えてくれてるんだと思います。だからそうやって、自分からは遠ざけようとして。でも、だから。そんなアヤベさんだから、私は一緒に、生みのお母ちゃんの思い出を一緒に分け合いたい」
きっと、個人的な事情は誰かと分け合うには難しい。辛くとも楽しくとも、一人で抱えてしまうのが一番簡単だから。でも私は今ここに、分け合ってもいいという人を見つけた。だからこれは私のわがままだ。あなたを手放したくないという、私のわがまま。
「だから、お願いです」
だけど、そのわがままと共に願うのは。
「私と一緒に、今日は一緒にいてくれませんか」
いつか今度は私の方が、あなたの抱えるものを分けてもらえたら。
あなたにもわがままになって欲しいと、私は心からそう願っているのだ。
少し、沈黙が走る。人気のない暗くなってきたキッチンで、作業の音さえも一つもなくて。灯りは一つだけ。音は一つもない。そんな世界に確かに存在していたと言えるのは、私たち二人だけだった。
やがて、アヤベさんが口を開いた。少しずつ、言葉を紡いだ。世界は、ゆっくりと動き出した。
「いいのかしら、私で。私はあなたが思ってるほど、立派な人間じゃないのに。信じてもらうことだって、間違ってるかもしれないのに」
「それでもいいです。私はもちろん、アヤベさんのことをよく知らないと思います。それでもきっと、大丈夫です。アヤベさんのことを見誤ったりなんてしてないって、自信を持って言えます」
そう言って、私は。すっかりひき肉まみれになったビニール手袋のまま、もう一人のビニール手袋を掴んで。少し逃げようとするその指を、ぎゅっと掴んで離さないで。
薄いビニールで仕切られていたけれど、それでも確かに握っていて。二人で、手を繋いでいて。
「だから、大丈夫です。私はアヤベさんと、一緒がいいです」
きっと、私たちの出会いはたまたまだった。最初から、何度か会うまで。もしかしたら今日だって、少しタイミングが合わなければこんなことにはならなかったかもしれない。
だけど今、私たちは二人で一緒にいる。私はそうしていたい。あなたもそうしていたいと思っていたなら嬉しい。私たちの気持ちが、たまたまでも一致するのなら。確率は低くとも、それが一緒になるのなら。
それが運命でないのなら、奇跡と呼ぶのが相応しい。
「ふう、ようやく完成です〜!」
「こうして見ると、二人の分で随分サイズ差があるわね」
「これくらいでいいって言ったのはアヤベさんじゃないですか! 欲しいならもちろん分けますよ! ちょっと、お腹は空くでしょうけど……」
「だからこれくらいでいいって言ったのよ。あなたがよく食べるのは、もう十分知ってるから」
そうやって少し突き放すように、けれど私のことをよく知って喋ってくれるアヤベさん。これから私たちがする話は、先程の流れの通りの話だ。つまりアヤベさんは、私の願いを聞き入れてくれた。
「……それで私は、何を聞けばいいのかしら」
「はい、それはですね、えっとですね……どこから話しましょうか」
「知らないわよ。……でも、亡くなった人の話って難しいものよ。だから、ゆっくりでいいわ。……ある程度は、なんでも聞いてあげるから」
「ありがとうございます。ならまずは、育てのお母ちゃんから聞いた思い出話から」
「ええ。聞かせて、スペシャルウィークさん」
それから、一晩をかけて。色々なことを話した。トレセン学園の誰かに生みのお母ちゃんについてずっと話すなんて、多分初めてのことだった。育てのお母ちゃんから聞いた普段の二人の話、私を身籠もっていた頃の二人の話。そして私が初めて生みのお母ちゃんのことを聞かされた時の話。色々なことを、話した。
その相手がアヤベさんだったのは、私にとってはきっととっても幸せなことだったのだろう。ずっと優しく聞いてくれて、私の伝えたいことに頷いてくれて。時には相槌だけじゃなく、アヤベさんなりのアドバイスや返事をしてくれて。その中でも一番心に残っているのが、この言葉だ。
「あなたがそんなふうに育ったのも、きっと生みのお母さんのおかげなのでしょうね」
アヤベさんのその言葉で、私は一つのことに気付けた。遠くへ行ってしまった人のことも、今その想いを受け継いでいる人から垣間見ることはできる。だからたとえ遥か彼方へ去ってしまっても、その想いは決して消えないのだ。
それが、私たちが走るということの意味。私たちはウマ娘は、誰かの夢を叶える存在だから。
そんな、ある意味では当たり前のことだけれど。
きっと、あなたのおかげで気付けたことだった。
きっと、これからの私を支えてくれることだった。
きっと。
きっと、それくらい大事な。大切な言葉を、私はあなたから受け取った。
※
今日の私は、どんな顔をしてあなたを見ていただろうか。あいも変わらずあの子の影を、あなたに見ようとしていただけじゃないだろうか。生みのお母さんのことさえも話してくれるあなたに、私はちゃんと向き合えていただろうか。それを話せてしまっている時点で、私とあなたは明確に違うのに。あなたが私を見ているほど、私はあなたを見ていない何よりの証明なのに。
あなたを見ていない。だから信頼していない。だからきっと私があなたの話を聞いて吐けた言葉も、薄っぺらなものに違いない。なんとか苦しみ絞り出して、それでも吹けば飛ぶような言葉しか重ねられない。あなたと私は、それほどまでに違うのだ。
それなのに、今日の私は。あなたに心を開かれたことを、どこかで嬉しいと思ってしまっていて。だから否定しきれなくて、否定した自分の方があなたから否定されるのがたまらなく怖くて。あなたはそれすらあり得ないと言うけれど、あなたを見ていない私にはその言葉は信じられない。
きっと、私はあなたに何も出来ていない。
きっと、これからも私はあなたを騙して生きていく。
きっと。
きっと、それくらい罪深い。そんな咎を告げる役割を、私はあなたに背負わせている。
アヤスペは大詰めに入りそうな雰囲気ですが無限の可能性があります
信じて!
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