>>1「すべてのポケモントレーナーは孵化厳選をやめろ」 作:一宮 千歳
現在ホウエンとパルデアを結ぶ船上の人となっている。
とはいえ船といってもサントアンヌのような客船ではなく、
アクア号のような連絡船でもない。
なんと! 本編には出てきてないような、名もないでっかい定期貨物船に乗せてもらっているのである。
いやあ、今はこちらが現実世界、であるが故にうまいことやればゲームにする上で端折られてるような部分の有効活用ができるんですね。
「スターミー! 10まんボルト!」
そしてなぜ俺がスターミーに10まんボルトを指示しているかというと。
「ああーッ! 俺の大事なトサキントちゃんがーっ!」
話はシンプル、ポケモンバトルをしてるからである。
今回船に乗せてもらう条件として、船の運航会社の偉いさんに、食事代金と水使用量以外の金は取らない代わりに航海中暇を持て余している船員たちとポケモンバトルをしてほしいと提案された。
武者修行の旅のためにホウエンを出たい、という理由がある俺にとっては多様な相手(まあ基本ふなのりだらけでだいたい水タイプ相手ではあるのだが)とバトル経験が積める、渡りに船の提案である。一も二もなく承諾した。
ただ貨物船内でのバトルは厳禁で、これは貨物が基本的に売り物であるから万が一にでも商品を傷つけることがないようにしなきゃいけないということだ。じゃあどこでバトルをするかというと、洋上バトルになるんだそうな。
「初めての洋上バトル、対戦ありがとうございました!」
「いいってことよ……ていうかほんとに初めてか?」
「たまたま手持ちが洋上バトルに向いてただけですよ」
洋上バトルとは、安定した地面の上でなく、ゆらめく海面と海中、そして空をフィールドとしたバトル。
水上というフィールドに適性がないとそもそも勝負にもならんというハードルの高さ、それに見合った楽しいバトルをさせてもらった。
つつくと指示しといて実はメガホーンとかいうトサキント系王道のフェイクを知らなかったら、こうそくいどうガン積みの機動力に振り回された挙句抜群取られて負けてたからな。
……あれそういやトサキントって特性ひらいしんの可能性があったな? あっぶね!
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観戦してた別の船乗りに早速二戦目を依頼された。
「そういやにいちゃん、手持ちはそいつ1匹かい?」
「ええ、そうですね、エスパーしか使えないもので」
「なんでえ、水タイプ使いってわけじゃあねえのか……じゃあ、洋上バトルで負けてらんねえなあ」
バトル前の会話、ちょっとした雑談。
しかし人間というものは面白いもので、バトル前にトレーナーの腕前がなんとなく察せられる時がある。
まあ、ダイゴは(今のところ)普段割とのほほんとしてるんだが、バトル前は急にプレッシャーというか闘気というか、とにかくそういった"何か"が跳ね上がる。それと同じような気配が、目の前のふなのりから感じられるのだ。
今四天王挑戦中のダイゴクラスのプレッシャーって何者なんだ、と考えてると答えは一戦目のふなのりの口から出てきた。
「にいちゃん、こいつはフローゼル使いのタチバナっていうんだが、この船で洋上バトルが一番強いのは間違いなくこいつだぜ」
いや名前は割とどうでもいいんだけど。
フローゼルを使って、強いと。ほうほう。
さて、フローゼルという種族のイメージは……ぶっちゃけそんなに強いイメージがない。タチバナと呼ばれたふなのりに、素直なイメージを伝える。
「フローゼルっていうと、素早い代わりに打たれ弱い、ってイメージがあるポケモンですよね」
「ああそうだな、にいちゃんの使ってるスターミーも打たれ弱いとは言われがちだが、それに輪をかけて打たれ弱いのがフローゼルって種族…」
話しながらタチバナがボールを構える。
合わせて俺もスターミーが入ったボールを構える。
「だがよ、俺っちのフローゼルはそこいらのとは一味も二味も違うぜ! 行けえッ! タキオン!」
「光速とはまたヤバそうな名前つけてるな……! スターミーッ! 頼んだッ!」
お互いポケモンを海面に向かって開放。
普通のポケモンバトルであれば、お互いのポケモンの姿はバトルフィールドに現れる。
その筈が、バトル開始直後から相手の姿を見失った。
「洋上バトルに慣れてねえとはいえ手加減はしねえぞ! いつものアレ、やっちまえ!」
「ッ!? スターミー! 飛べ!」
洋上バトルにおいて見失うというのは海面にいないということであり、相手のポケモンがフローゼルだとわかっているなら、生態上空中はない。そう思って一時退避のための指示を出したのだが。
「甘えよ!」
空中にいるスターミーに対し、四方八方から海面を突き破って襲いかかる無数の星型弾。……タイプ相性を抜きにすればどんな相手にも必中するという恐るべき技、スピードスター! いやまあ威力は相応に低いので、それだけで決定打になる技じゃないんだけど……こいつはまずい傾向にある。
「ぐっ! すまん! 適宜自己再生だ!」
「こっちは指示出さなくてもこのぐらいは出来るからなぁ……守りに入ってちゃ勝てねえぞぉ…?」
放出系の技は基本的にポケモンの体から放たれる、それはわかっているんだから撃たれた位置から行動予測して打てばいい、本来そのセオリー通りに対応すればいいはずが、おそらく相手の移動が早すぎる。今いる位置が読めず、スターミーはなすがままにスピードスターの弾幕に打たれ続けている。
打たれ弱いなら攻撃を受けなきゃいい。
同じような思考をする相手には必中技を当てればいい。
必中技を打ってるところは相手から捉えられない。
シンプルな戦法だが、それ故に強い。
「……こっちのスターミーにスピードスターがあったらどうなってました?」
隣に立つタチバナに声をかけてみる。洋上バトルはお互い隣に立つのが特徴的だ、公式戦ならフィールド挟んで対峙するからな。
「いやあ、そもそも見えない相手には狙えないだろ? スピードスターが必中するのは狙えるからであって、狙えない速度で動いてるタキオンにスピードスター発射がそもそも無理だ」
「まあ、ですよね」
古来からこういう高速移動する手合いは"なにかを置いて激突させる"という解法がある。
しかし洋上バトルは天然自然の海のフィールドにしていて、広さについては公式戦フィールドよりずっと広い。
円を描くように一定以上の距離を離して放たれているスピードスターは、見た目より安全マージンを取って放たれていると見ていい。小さな攻撃一つでは悠々と回避されるだろう。
ここら一帯の海を瞬間的に凍らせたり電気を通したり、広範囲を攻撃することができれば打撃を与えることもできたかもしれないが、それには専門のタイプが必要。変わったところではミラクルアイ、こころのめあたりで海中の相手の位置が分かれば一矢報いることはできたかもしれない。
そうできたとしても、普通なら相手の移動速度に追いつける何かが必要になるが、エスパー技の一部なら視界関係なく攻撃できるはずだし、ミラクルアイ+αというのは組み合わせ次第でワンチャンありそう。
しかしまあ、スターミーではどれも不可能。洋上バトルを挑まれた時点で最初なら負け確だったと言えよう。
降参だな。
なお、「負けず嫌いなんでこんどは地上戦でお願いしますよ」と話を振ってみたところ。
「俺だって負けたくねえから洋上バトルしかしないぜ、まあこれで勝ちすぎてるから
船員はみんなバトルしてくれねえんだけどよ」
タチバナはこう返してきた。大人気なさすぎて笑った。
書いてる手が滑って主人公くんはまたボコボコにされました。
伸び代ということで。