異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

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第1話

 

 迷宮都市オラリオ。

『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する、いや迷宮の上に築き上げられた巨大都市。

 都市、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中核にして栄えるこの都市は、ヒューマンも含めあらゆる種族の亜人(デミヒューマン)が生活を営んでいる。

 そしてヒューマンや亜人、ダンジョンに出現するモンスター達とも異なる、一つ次元が違った超越存在(デウスデア)。所謂『神様』が天界から、下界にあたるこの地へと降り立った。理由は天界が退屈で仕方なく、無駄を作りつつ文化や営みを発展させる下界の俺たち、彼らの言うところの『子供達』に娯楽を見出したらしい。

 だが『神様』が天界にいるまま『下界』に来ると大変なことになるし、『神様』も地位や能力を俺たちと揃えることで俺たちと同じように暮らすことにしたのだ。まぁ神様は『神の恩恵(ファルナ)』を俺たちに授けることが出来るが。

『恩恵』とは神様達が扱う【神聖文字(ヒエログリフ)】を、神血を媒介にして対象の能力を引き上げる、神様達のみに許された力。言うなれば敵を倒したり訓練すると【経験値(エクセリア)】を得、成長の糧にすることができる。

 そして『恩恵』を受けた子供達は『恩恵』を授けた神の家族、【ファミリア】となる。

 神様達はゲームのような感覚で暮らしているらしく、楽しくて仕方がないらしい。

 ただそれだけの為だけに下りてきたのかは疑問が残るが、知っていることはその程度。

 

 そんな神様も鍛冶の神や悪戯の神、豊穣の神など多種多様だ。

 そして俺が所属するファミリアの神様、所謂主神様はヘファイストス様。武器や防具を作る鍛冶系ファミリアの中で最も有名であり、世界中にその名が知られている。

 それだけ大きいファミリアだから抱えている戦力もオラリオ内でトップクラスだ。

 

「カルロ……あんたそろそろ【ステイタス】更新したら?」

 

 声がした方を向くと、赤髪の少し癖のあるショートヘア、顔の右半分を覆うような眼帯をした女性が立っていた。少し前に入った先輩といい感じとの噂。

 

「ん? あぁ、主神様。わざわざこんな空気の悪い場所に。でもまぁそうですね……じゃあよろしくお願いします」

 

 そういえば最近全くステイタスの更新をしていなかった。

 そう思いながらノミを置いて作りかけの作品を壁際に置く。そして煙が舞っている作業場の窓を開ける。

 そのまま服を脱いで作品が置いてあった場所に座る。主神様もそこでステイタス更新することをわかっているため、既に椅子に座っている。

 

「それにしても面白いわね。あんたの作品は」

 

 慣れた手つきでステイタス更新をしながら言う。

 

「鍛冶師を名乗っていいのか微妙なところですよねぇ」

 

 作りかけの作品を見ながら呟く。それを聞いた主神様はクスリと笑って揶揄うように言った。

 

「それを入団するときに見せてきたのは誰かしら? 『これが俺の作品だ! アンタといえどコレは作れねぇだろ!』って見せてきたじゃない。そんな事気にするようなタマじゃないでしょ?」

 

 入団希望時のことを言われて少し顔が赤くなる。

 ヘファイストス・ファミリアは入団希望のときに主神様が神の力を使わずに打った、人間が打てる最高峰の武器を見せられる。

 入団希望者はほとんど全てが鍛冶師であり、見せられた作品の圧倒的な完成度に魅せられると共に折れる。自身が生涯かけても作れる領域に無いと悟ってその道を諦めるマトモな奴は入団を諦め、届かないと気づきながらもどうにかして最高の武具を作りたいイカれた奴や、主神様に認められる程の武器を作りたいと思う比較的マトモな奴が入団する。

 しかし俺はあろう事かその武器の素晴らしさに気づくことなく、自分の作品を見せながら張り合ったのだ。なんとも恥ずかしい話だ。

 鍛冶をロクにしないといってもものを知らなさすぎた。

 

「いやぁ、その節はホントすんませんでした……」

 

「いいのよ。見たことないタイプだったから面白かったわよ? ……っと出来た。相変わらず変なスキルね」

 

「それは俺も自覚あります」

 

 更新ステイタスの用紙を受け取ると、その内容と変化に目を通す。

 

 

 カルロ・ヴァリ

 Lv.1

 

 力:E495→D502

 耐久:G235→G236

 器用:B758→B776

 敏捷:I98

 魔力:D590→C604

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

【武具彫刻】

 ・あらゆる素材、金属の彫刻武具作成可能。

 ・彫刻武具使用による経験値補正

 ・経験値補正は武具の完成度により上昇

 

 

 

「レアスキルではあるんだけど、絶妙に噛み合ってないのよね……武器作れって言ってるのに使わないと補正入らないなんて、ダンジョンに潜れって言われてるようなものじゃない」

 

「試し斬りでボーナス入るくらいに考えてますよ。てか最近全く潜ってないから敏捷上がってないのウケますね」

 

 カラカラと笑いながら言う。

 すると主神様は呆れた顔をしながら、たまには外に出なさいよ、と言って立ち上がる。

 

「ではまた! ありがとうございましたー!」

 

 少し声を張って言うと、主神様は右手を軽く上げた。

 それにしてもステイタスの上がり方が面白い。何回か手をザックリいっちゃったからか、耐久が伸びてる。失敗の数が目に見えるというのは恥ずかしいものだ。

 そして作りかけの作品を持ってきて再開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの彫刻家は「素材の中に完成品があり、私はそれを彫り出すだけだ」と言っていた。

 最初は何を言ってんだって思ったが、ファミリア入団の数ヶ月前にその意味を理解することが出来た。

 尤も俺は像ではなく武具だったのだが。

 うっすらと完成系が見え、細部も脳内に浮かび上がってくる。

 それにどれだけ近づけるか、無駄な肉を削げるかの勝負だ。

 削りすぎないように細かく削る。

 

 ヘファイストス・ファミリアの作業場と思えないような火が全くない、ハンマーで金属を打ち付ける大きな音もない。ただノミを石頭と呼ばれるハンマーで細かく叩く音だけだ。

 

 

 そして数時間後……

 

 

「よっしゃ出来たァァァァ!」

 

 両手を上げて、そのままノミとハンマーを手放し、それはカランと軽い音を立てて転がる。

 目の前の作品を見る。そこには土台に繋がれたハルバードがあった。頭の中の完成品と比べると、やはり粗が目立つ。だが今までの中ではかなりいい出来……というか一番の出来だ。

 後は土台と切り離すだけ。ここで雑にすると欠けたりして台無しになる。

 固定器具を持ってきてハルバードを固定する。

 そして土台とハルバードの境目を、少し余らせるように切り離す。

 ハルバードの柄の端に出来た余り箇所をノミで慎重に削る。

 そして……削りきった。欠けることなく、綺麗に取れた。

 最後に名前を彫ると少し光る。これが完成の合図。光ると同時にただ彫られた鋼鉄の塊ではなく、鋼鉄でできた武器になるのだ。ただ尖っているだけの刃も切れ味を手に入れ、重心すら調整される。

 鍛冶師が見れば口を大きく開けて、次に問い質したくなるような光景だろう。

 

 固定具を外してハルバードを手に取って外に出る。隣接されている鍛冶場の中で鉄を打つ背中を見ながら少し開けた広場に着いた。

 そしてそこで軽く振ってみる。多少重いが、ハルバードはそういうものだろう。

 作業場に戻って試し斬りをしていない武具をバックパックに詰め込んでダンジョンに向かう。

 最近は作ってばっかりだったからファミリアの敷地外に出ること自体が久しぶりな気がする。

 

 

「お? 久しく見ないと思ったら、やはり篭っておったか」

 

 黒髪でポニーテール、褐色の肌をした、主神様とは対照的に左眼の眼帯を付けた女性が立っている。珍しく俺と話すことが多いメンバー、ファミリア団長の椿・コルブランドだ。

 俺が浮いているというのもあるが、武具の作り方が特殊だから用具などの貸し借りや相談が無いから話す機会が無いのだ。鍛冶師は話し下手も多いというのもあるだろう。

 

「そうですね。最近はずっと作業場でした。今から試し斬りです」

 

 簡単に答えると、団長はバックパックからはみ出してる剣やハルバードを手に取ってまじまじと見る。

 

「ふむふむ……中々いい出来ではないか? 特にハルバードだが、レベル1とは思えんな。レベル2が作ったと言われても不思議に思わん」

 

「え? マジですか!? 確かにかなりの自信作ですけどそこまでとは!」

 

 まさにベタ褒めだ。レベルの壁というのはまさに越えられない壁。どれだけ頑張っても敵わないというのが常識だ。

 それを越えられたとなると、正直めちゃくちゃ嬉しい。それに団長も武具を作る者としては格上も格上、伝説に片足踏み入れている傑物だ。武具に関しては一切の忖度無く評価する。

 そんな人に褒めてもらっている。それはもう嬉しい。

 

「ああ。だが相変わらず面白い。どれも同一人物が打ったとは思えん」

 

「作り方が普通じゃないですもんね。鍛冶出来ないとそのあたり変になりますよね」

 

「だが悪いことばかりではない。それもお主の才能だ。才能があるならそれを最大限使うべきだ。そうでもしなければ神の領域など…………ああ、話しすぎたな」

 

 少し険しい表情になったかと思うと、パッと表情を変わった。

 

「いえ、ありがとうございました。では失礼します」

 

「ああ、暇が出来ればまた作業場に行く。また手前に見せてくれよ」

 

「是非」

 

 そう言ってダンジョンに向かう。

 すると前から真っ赤な人影が向かってくるのが見えた。

 その人物は走って向かってきており、目は輝いている。てかアレ血か。

 血でズブ濡れになってるにも関わらず、何であんなに嬉しそうな顔してるんだ? あー、血が飛び散ってるよ。

 

 血がかからないように道の端を歩いてすれ違ってダンジョンに入った。

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