異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
誤字報告も助かります。
読み直して気づいた、万能薬をダースで持ち歩くオッタルのおかしさ。
そんな感じでやっております。
名前被りがあった為、ハルバードの『始高』を『始天』に改名しました。
教えて下さりありがとうございます。
ミノタウロス事件から三日、神会の日だ。そしてギルドからベルのランクアップが発表され、神と人問わずお祭り騒ぎになり、【ヘファイストス・ファミリア】の下級鍛冶師たちも自分の顧客にしようと意気込んだ。
レベル1にも関わらずミノタウロスを死闘の末に破ったあの少年は、所要期間約一ヶ月半という前代未聞の圧倒的な速さでレベル1を駆け抜けた。
おそらく俺と同じような経験値補正のあるスキルを持っているのだろうが、効果は俺と比べて段違い。
巷ではズルをしただの囁かれているが、ミノタウロス戦を見た俺は実力で昇ったと断言出来る。
あの命を削り合う戦いは瞼を閉じればその光景が浮かぶ程鮮烈に心に刻まれた。
特性を活かし、確かな技術を持って武器が振られる。あれは素晴らしい戦いだった……互いに高め合うような、限界を超えた戦い。
カルロ・ヴァリ
Lv.2
力:I0→E427
耐久:I0→G256
器用:I0→C607
敏捷:I0→H184
魔力:I0→D583
神秘I
《魔法》
【】
《スキル》
【武具彫刻】
・あらゆる素材、金属の彫刻武具作成可能。
・彫刻武具使用による経験値補正
・経験値補正は武具の完成度により上昇
【天啓】
・天啓を得る。
約一ヶ月ぶりのステイタス更新のステイタス上昇値は圧巻の二千弱。
ここまで急上昇すると、「力が湧き出てくる……!」って感じになり、口をあんぐりと開けて石像のようになった主神様もその様に失笑していた。
溜まった経験値には中層デビューから暴走した3週間、オッタル戦までの全てが詰まっており、それに経験値補正が重なることによって経験値が爆発的に上昇したのだろう。団長案の自作ののみとハンマーを使ったことも大きいはずだ。
それよりも気になるのは【天啓】という謎のスキル。スキル説明も簡潔に『天啓を得る』とだけ。
主神様に聞いても聞いたことがないうえに効果もわからないそうだ。
そもそも『天啓』とは天の神が人に何かを教える事を言うが、迷宮都市では『天啓』を与える神は地上にも存在してコミュニケーションが取れる。
つまり、【天啓】なんてスキルが無くても俺たちは『天啓』を受けているのだ。
態々スキルとして現れるくらいだから何かあるはず。主神様はそう言ったが、能動的に発動する【スキル】ではない為いつ発動したのか、何度発動したのかがわからない。
使いづらい【スキル】を得たものだ。
そして二つ名、か。物珍しさから、武具を彫って作る者がいることは迷宮都市内では都市伝説のような扱いではあるが、冒険者以外にもそこそこ知られている。
冒険者なら【ヘファイストス・ファミリア】にいると知っているし、鍛冶師に詳しい奴ならば名前まで知っている。多分彫刻に関した二つ名を付けられるのだろう。
神会とはその名の通り、神のみが集まる集会だ。元を辿れば退屈しのぎに企画した歓談のための集会だったが、参加する神が増えるにつれて円卓と集会の規模を広め、時代と共に目的も変化していった。
ただの歓談は迷宮都市に入ってくる最新情報の共有となり、【ファミリア】間の意見交換はギルドと提携して『催し』を企画するまでに至った。
そんな神会は諮問機関として認められ、影響力は冒険者達にも及んでいる。
その中でもメインイベント、称号の進呈、所謂命名式もその一端であり、恒例のものとなっていた。
そして現在、情報の交換を終えて命名式が行われている。
『──決定。冒険者セティ・エルティ、称号は【暁の聖竜騎士】』
「イテェエエエエエエエエエッ!?」
性根の悪い神達は酸欠に陥りかねない程の笑いを得る為に『痛恨の名前』を量産する。
悶絶する主神と称号を誇らしげに授かる子供。そんな価値観の相違から生まれる悲劇を指をさして彼らは床を笑い転げるのである。
「酷すぎる……」
涙を流す神とそれを見て笑う神。それを見てヘスティアは呟く。
「あんたの気持ちはよーくわかる……私も最初そうだったし」
どこか遠い目をしながら同調するヘファイストス。
神会では新参の神の扱いは大概酷い。特に二つ名の命名式では上位【ファミリア】を率いる格上の神達が一日の長があるのをいいことに、新人嬲りを始めるのだ。
今の格上の神達は過去に同様の嬲りを受けた経験があり、その時の鬱憤を何の関係もない格下の神にぶつけて笑う。そんな最悪の伝統が出来上がりつつあった。
絶叫して崩れ落ちる者達と笑い崩れる者達、両極端な様相を見て神会初心者のヘスティアは目を背けた。
「ほい次。タケミカヅチんとこの……おおぅ、めっちゃ可愛えぇ、この子。ヤマト・命ちゃんやな」
資料には名前の他に人物情報、そして写実的な似顔絵が貼り付けてある。
「こいつは……レベル高いぞ」
「こんないたいけな娘に残酷な真似をすると、胸が熱く……じゃない。良心が痛むな」
神会におけるまともな二つ名を得る方法はいくつかある。
手っ取り早い方法は買収だが、標的になるのが発展途上の【ファミリア】であることが殆どである為非常に難しい。
だが比較的多い、条件さえ満たせば簡単な方法がある。それは今のように構成員の人物像が気に入られた場合だ。明け透けに、直接的に言うと、顔が整っていれば、もっと言うと女性の方が見込みは高い。
しかし……
「だがタケミカヅチ、てめーがダメだ」
「天然ジゴロがぁ……」
「女神だろうが子供達だろうがぞっこんにさせやがって……」
「な、何言ってんだ、お前等!?」
神ほど気まぐれな存在はなく、主神に恨みがあれば掛けた梯子を外される。ヘスティアやヘファイストスは意見を口にするが、まともな提案など相手にされるはずもなく。
そして主神の抵抗虚しく、トドメを刺される。
「じゃあ命ちゃんの称号は……【絶†影】に決まりで」
『異議なし』
「うわぁ、うわぁあああああああああっ!?」
阿鼻叫喚の光景はしばらく続き、中小【ファミリア】があらかた出つくすと、都市上位の【ファミリア】の出番となる。
【ヘファイストス・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】、【イシュタル・ファミリア】、【ロキ・ファミリア】など、そうそうたる【ファミリア】の団員名が列挙されていく。
それらの団員の二つ名はまともであることが多い。
それは迷宮都市最強の【ファミリア】の主神ロキに謝る神達を見ればわかるだろう。
『あの【ファミリア】は敵に回してはいけない』といった認識を持たせることが出来ればいいのだ。
「んで次、ファイたんのとこの子やな……九ヶ月でランクアップした、カルロ・ヴァリ」
ロキが探るようにヘファイストスを見る。【ロキ・ファミリア】が誇る【剣姫】ですら一年かかったランクアップにこの少年は鍛冶師にも関わらず、九ヶ月という短期間で成し遂げた。
「ウチのアイズたん越えの記録とは大したもんやなー」
口だけを笑わせて問いかける。
「えぇ、相当頑張ったと聞いているわ。命が危ういから注意もしたんだけどね」
それに対してサラリと答えるヘファイストス。これは決して嘘ではない。
武具作りは心身共に消費し、長時間休憩無しに続けると命に関わる場合もある。
そしてカルロも時間を忘れて倒れるまで作業を続けることが多く、ヘファイストスからも数度注意を受けていた。
「……そっか。じゃあ二つ名決めてこかー。なんかええの奴おるかー?」
切り替えるように神達に問いかける。何とか納得はした様子だ。何かあるとは思っているが。
「ヘファイストスのとこかー」
「鍛冶関係の二つ名も増えたし、ネタがなぁ」
先程の狂乱の宴とはうってかわり、盛り上がりに欠ける様相で命名式は進んでいく。
「あれ、この子って例の武器彫る子じゃね?」
「あぁーなんか聞いたことあるわそれ」
ギルドからの資料を見ながら気づく者が現れた。前例のない珍しい子供、それは退屈な神達の興味を非常に引く。
期待の眼差しで神達はヘファイストスを見ると、ヘファイストスは一つ息を吐いて頷いた。
「そうね。カルロは武器を彫って作ることが出来るわ」
「つまり……まさか……!?」
「えぇ、彫刻武器を作れるっていう【スキル】よ」
「「「【レアスキル】きたぁああああ!」」」
「「うっひょぉおおおおお!!!」」
【絶†影】と命名したとき並の盛り上がりを見せる神達。経験値補正を隠したとはいえこのままいけばカルロが大変なことになる、それを知るヘファイストスはすかさず釘を刺す。
「ちょっとでもちょっかい出そうものなら、ウチの武器を金輪際持たせないわよ?」
片目でギロリと周りを睨みつけ、威圧する。『ヘファイストスを怒らせるとヤバい』というのは神ならば周知である上に、【ヘファイストス・ファミリア】は迷宮都市を語る上で欠かせないほど大きな【ファミリア】だ。
単純な戦力ならば【ロキ・ファミリア】に軍配が上がるが、影響力という面では【ヘファイストス・ファミリア】に軍杯が上がるだろう。
そんな【ファミリア】の二つ名命名式だ。
ヘファイストスの性格上簡単には怒らない為、多少の悪ふざけは挟まるが決まった二つ名は真面目に考えられた物となった。
そして最後に残った【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル。
ロキがカルロ・ヴァリについてヘファイストスに対して問い質すことをしなかった理由は彼にもあった。
所要期間一ヶ月半の、【剣姫】やカルロ・ヴァリを遥かに超える、まさに次元の違う大記録。
問い質すならばこちらだろう。
そうしてロキはヘスティアに対して隠していることを引き出そうと言葉で追い詰めた。
そして【ロキ・ファミリア】と双璧をなす【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤによってそれは防がれ、命名式を終えることとなった。