異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
名前被りがあった為、『始高』が『始天』に改名しました。
カルロくんの見た目の描写を希望しない人も結構いるみたいなので、そのうち後書きに書きます。その際は前書きと後書きの最初に注意書きをするのでお気をつけください。
神会から既に五日経ち、俺は壁にかけてある『始天』の後継たるハルバードを作っていた。
元となる素材は鉄鋼よりも質の良いミスリルと鉄の合金であり、神会の日からずっと彫り続けている。
素材が変わった為ノミの進みが緩やかになり、ハンマーを叩く力はより必要となったが、最近の好調にも助けられて音や色といった無駄な情報を排除した最高の集中力の中で作業を進める日々が続いた。
限界が来ればポーションを飲み、ソファに倒れ込んで眠りにつく。そして起きると最低限の食事と飲み物を腹に入れて作業を再開する。
大まかな形は初日と二日目に出来上がり、三日目は柄を完成させた。
完璧な円柱にし、柄の端に小さな槍を付ける。刃は最後の作業のため刃が潰れている状態だが、控えめな装飾と小さな直槍。
そして四日目と五日目の今日はハルバードの穂先の形の調整と装飾、模様の仕上げ。
刺先も直槍だが装飾やサイズは柄の尻よりも長く大きく派手に。
斧刃は半円状で耐久性を保つことを意識しつつ、装飾も兼ねた肉抜き。
そして錨爪も手を抜く事無く慎重に削り取った。
錨爪は引っ掛けることを目的とした部分であるため爪は柄の方を向いており、小さな鎌のようであった。
装飾は柄舌、斧刃、錨爪、刺先へと蔦模様を立体的に彫る。渦巻き状の模様が連なり、斧刃、錨爪、刺先へと違和感なく続いていた。
それに加えて柄のほとんど持たない部分、穂先近くにも蔦模様を這わせる。
それらの装飾や形の最終調整を終えると最後に刃先や切っ先を彫ってハルバードの仕上げをする。
今回は刃が多いため、大変な時間がかかるだろう。
息をついて用具を持ち直し、頭に巻いたタオルを締め直す。
カンカンカン、カンカンカンと以前よりも少し高い音が作業場に響き、叩く度に小さな光を発していた。
素材が変わったことで叩く度に小さな火花が発生していたのだ。
火花を防ぐ為の透明なゴーグルをしているとはいえ急な光の明滅に目は焼け、ノミを持つマメだらけの手は度重なる小さな火傷によって黒くなっており、ポーションを使えば元に戻るとはいえ非常に痛々しい見た目になっていた。
しかし、この作業は素手で行う必要があった。
以前軍手やグリップのついた手袋を試した事はあるが緻密な作業を必要とする為、手元の違和感が少しでもあると刃は毀れ、装飾は思うようには作れなかったのだ。
瞬きすら忘れて刃を作っていく。
今までで最も長い時間をかけた武具。装飾や大きさも最大であり、220C程だった『始天』に対して今回のハルバードは250Cはある。
そして最後の刃を完成させ、今までにない最高の出来の予感に緊張で震える手で名前を彫っていく。ノミとハンマーをカランと落とし、彫刻刀を手に取る。
そして柄舌にある蔦模様が無い部分に小さく『
すると『大樹』が以前よりも強く光って体内の魔力がゴッソリと持っていかれ、耐える暇も無く即座に『
「……ら、起きなさい。ほら」
体を揺すられて目を覚ます。以前も同じようなことがあった気がするが、今回はヴェルフでは無く主神様だった。
それを認めると目を大きく見開いて跳ね起き、そしてすかさず謝る。
「すみません! 武器作ってたらつい……いや、でも完成のタイミングで魔力が……」
「それは、まぁいいわ。最低限の補給はしてたみたいだし」
俺の食事、安くで売ってある干し肉や大量の水差し、そしていくつか空になった大量のポーション、それを見て呟く主神様。
そして目線を俺に戻して告げる。
「それよりも、あなたの『二つ名』が決まったわよ」
「!!!」
そういえばそうだった。作り始めたのも二つ名を待つ時間がもったいないと思ったからだ。長丁場になるとは思ったが、あそこまで集中出来るとは思わなかった。
しかし遂に俺の二つ名が……
胸の高鳴りに身を任せて主神様に問う。
「それで、どんな二つ名を……?」
「そうね、あなたの二つ名は『
「それは何というか……普通? というか、まんまですね」
『混沌たる鍛治職人』みたいな二つ名を考えてたから、『彫刻家』というシンプルな二つ名を呆気ないと思ってしまう。
だが長いのは呼びにくいし、短めなのは良かったか。
「それじゃ、私はこれで失礼するわね。悪くない武器が出来たみたいだし、ゆっくり休みなさい。お風呂に入ってからね」
主神様はそう言って手を挙げながら作業場を出る。
……え? 悪くないのが? 出来た?
「はっ、はい! ありがとうございました!」
大きな声で感謝を告げる。主神様、鍛冶神ヘファイストス様は武器に関して嘘は決して言わない。レベルに関係なく、武器に関する評価は揺るぎない。
まあまあならばまあまあと言うし、素晴らしい物ならば素晴らしいと言い、出来の悪い物ならば容赦なく出来が悪いと言う。
レベル1にしてはとか、成長したとかは言うが、そういった言葉が無ければ完全なる『ヘファイストス』の評価だ。
そんな主神様が俺の作った武器を、『大樹』を「悪くない」と言ったのだ。今の俺にとっての最大級の褒め言葉。感動で涙が出そうになるのをグッと堪えて作業台に向き直る。
そして作業台に固定されたままの『大樹』をゆっくりと手に取る。
やはり『始天』と比べてかなり重い。しかしステイタスの伸びた現在ではその重さが丁度いいと感じられた。
自画自賛にはなるが、ほとんどミスのない美しい蔦の装飾はまるで本物の蔦のようであり、白銀の合金は蔦部分が緑色に変化して武器というよりも芸術品のような見た目だ。
蔦の絡まった白銀のハルバードは冒険者が使うには少々派手すぎる気がするが、持って軽く振れば即座にコレが“使う為の”武器であり、非常に実用性のあるものということが理解出来る。
肉抜きをしたことによって重心が穂先に寄りすぎず、『始天』よりも小回りが利かないとはいえ遥かに高威力で攻撃することが出来るはずだ。
手に取った『大樹』を買ってもらった玩具のように眺めてはポーズを取る。それを十数分繰り返してから我に返り、壁に立てかける。そして手が黒くなっているのを見るや否や思い出したかのように痛み始め、すかさずポーションを呷る。
そして次に自分の臭いが気になった。しばらく風呂に入っていなかったか。
着替えを持って作業場から出て鍵をしっかりとかけ、風呂場に行く。
外は日が昇る途中、昼飯前くらいで陽の光がとても眩しく感じられ、目を細めながら大きく伸びをした。
途中ですれ違い、一瞬顰めっ面を晒してお疲れ様と声を掛けてくれる同僚。
彼らは俺の様子について不思議に思うこともおかしいと思うことも無く、陰口を叩くことも無い。なぜなら彼らも同様の経験があるためだ。それも一度や二度ではなく、多い者ならば月に三度や四度経験する。
たとえ馬鹿にしたところで、だからどうしたと返されるだけなのだ。
風呂を済ませて作業場に戻ると、部屋の中の臭いが鼻についた為窓や扉を全開にする。明日まで全開でいいだろう。
そしてソファを水で濡らしたタオルでしっかりと拭く。使った合金のカスや余った部分を纏めて隣りの同僚に売りつけてから荷物を持って本拠地に戻る。
荷物をベッド以外ほとんど何も無い自室の隅に置き、財布を持って出発。ジャガ丸くんのプレーンと小豆クリーム味を食べた。最初に食べた小豆クリーム味は正直口に合わずに苦戦したが、プレーンは美味しく食べることが出来た。
ギルドに寄ってモンスターの資料を見ながら明日の試し斬りの相手を吟味するが、やはりオーク、若しくはシルバーバックが最適だな。インファントドラゴンが出てきてくれれば最高ではあるが、俺はまだ出会ったことがない。
明日の予定を決めてから本拠地に戻ってもう一度風呂に入り、自室でゆっくり眠る。
やはりベッドはソファよりも遥かに寝心地がいい。目を閉じて全身の力を抜くとすぐさま眠気に満たされ、心地よい眠りへと落ちた。
二つ名は感想で頂いた案を参考に、というかほぼそのまま使わせていただきました。シンプルで最高だァ……
ありがとうございます。