異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

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評価ありがとうございます。
文字数安定しねぇ……


第13話

 あれから数日後、壊れた胸当てを簡単に作った後に売る為の武器を作り、クロスボウの矢を作っていると作業場のドアを叩く音が聞こえた。

 ドアを開けるとベルが緊張した面持ちで立っており、傍にいるヴェルフが「よっ」と手を挙げて軽い挨拶を投げかけてくる。

 俺もそれに応えて手を挙げ、周りをチラチラ見るベルに向き直る。

 

「なんの用だ……っていうのは冗談にして、中層初挑戦(ファーストアタック)で同行させて貰えるのか?」

 

「そっ、そう! 是非カルロに来てもらいたくて……」

 

「それは良かった。いつ初挑戦するかはもう決まってるのか?」

 

 特に外せない用事が無いことを頭の中で確認しながら言う。

 

「それなんだけど、カルロの予定も聞かなきゃと思って。みんなで集まって日程と作戦を決めたいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、もちろん」

 

 そうして俺とベル、ヴェルフ、リリルカ、そして何故かヘスティア神もテーブルに加わって中層初挑戦の日取りや作戦、準備などを話し合って決めた。

 火の精霊(サラマンダー)が関わる『精霊の護布(ごふ)』、『サラマンダー・ウール』の着用や陣形、持っていくポーションの量やバックパックを一つにするか二つにするかなど。

 そして決行日は明明後日(しあさって)。それまでに簡単に使えるような小道具を作る。無いとは思うがいざという時に使える切り札を。

 

 

 

 

 

 

 

 中層に行く途中、俺はベル達の普段の編成を見せてもらっていた。

 

「ふッッ!」

 

 ベルが俺たちを置いていく形で先行する。

 威嚇の声を放つモンスターに、ベルは『敏捷』にものを言わせて奇襲をしかけて群れを崩壊させ、紅の短刀と紫紺のナイフの二本を巧みに使いこなし、ハード・アーマードを、オークを灰に変える。

 混乱した群れのモンスターが凄まじい勢いで灰に変わっていき、灰の山が出来上がった。

 そしてベルの討ち漏らしたインプをヴェルフが大刀でまとめて斬り倒し、向かってくるオークも迎え撃とうと構えたそのとき。

 

『キィイイイイイイッ!』

 

 宙を飛行する『バッドバット』による殺人的な怪音波でヴェルフの平衡感覚が一瞬破壊されてよろめく。

 そんなヴェルフに構うことなくオークは全身を続けて枯木の天然武器を振りかぶった。

 あの様子では躱す所では無い。このままだと直撃するだろう。

 

「ヴェルフ様!?」

 

「任せろ」

 

 リリルカの悲鳴を聞いて投げナイフをオークに投げる。

 投げナイフは狙い通り棍棒を持った手に突き刺さり、オークは堪らず棍棒を手放した。

 そしてそのままオークに肉薄し、『大樹』でオークの手を斬り落として怯んだオークの横腹を蹴る。よろけてヴェルフや俺から距離が離れ、丁度いい距離になったオークの首を飛ばす。

 平衡感覚が回復したヴェルフと急いで向かって来ていたベルを見て、普段の探索が少し不安になった。今回は俺がいたからいつもよりも突っ込んだのだろうか。

 

「ヴェルフ! カルロ! 大丈夫!?」

 

「……あー、悪い。カルロ」

 

「こっちは大丈夫。ヴェルフも気にすんな。アレは上層で最強クラスのコンボだ。だがベル、ちょっと突っ込みすぎだ」

 

「う、うん」

 

 バッドバットによって硬直させられ、そこに他モンスターからの攻撃を受ける。他に攻撃する者がいないソロではダメージを受けてそのコンボを止められず、抜け出せない連鎖に嵌ってそのまま命を落とす、なんて事もあるそうだ。

 そう言いながら投げナイフを投げると、スパァンッ、と。

 俺の放った投げナイフとリリルカの放った矢が、バッドバットを撃ち落とす快音が響き渡った。

 

 

 

 

「では、最後の打ち合わせをします」

 

 ルーム内のモンスターを一掃して床に膝を着き、土の地面に絵を描きながらリリルカが口を切る。

 

「中層からは事前に話し合った通り、隊列を組みます。まず、前衛はヴェルフ様」

 

「ああ」

 

「ベル様は中衛を。ヴェルフ様の支援です。前衛と後衛の戦況を把握して支援に行く必要がありますが……よろしいですか?」

 

「うん、大丈夫」

 

 頷くベルを見て、リリルカは最後に「カルロ様とリリは後衛です」と最後尾の丸を指した。

 

「カルロ様はバックパックを背負っていますので基本的に戦闘は少なめになりますが、中層での単独探索の経験を生かして指示をお願いします。リリの護衛もお願いします」

 

「ああ、任せろ」

 

 あくまでパーティの補助ということで、俺はあまり戦わない予定だ。その為バックパックはリリルカと俺が背負っている。それに四人分に増えた荷物をリリルカ一人で持つのは難しく、俺はバックパックで戦うことに慣れている。

 

「わかっていると思いますが、このパーティで中層にどこまで通用するかはわかりません。一人でも役割を果たせなくなると取り返しがつきません」

 

「一度でも判断を誤れば命取りか」

 

 ヴェルフがそう言うとリリルカが煽り、ヴェルフがハッと笑う。その距離感の近いやり取りにヴェルフが馴染めていることを感じて少し嬉しくなった。

 

「なんで笑ってるんだ、お前?」

 

「ベル様、緊張感が足りていないのではないですか?」

 

 一瞬俺かと思ったが、ベルのようだ。黙っていたベルを見ると、確かに頬が緩んでいる。

 ベルは慌ててごめんと謝罪した。

 

「すごいパーティらしくなってきて、嬉しいというか。それに、さ。こういうのワクワクしてこない? 冒険って感じがしてさ」

 

 ベルは少し興奮したように小さく笑って冒険への思いを馳せ、少年のように瞳を輝かせていた。

 俺とヴェルフ、リリルカは互いに顔を見合った後、ヴェルフは豪快に笑い出し、リリルカも苦笑を浮かべながら目尻を和らげ、俺も気持ちが分からない訳では無い為、ニヤリと口角が上がる。

 そしてベルはそれを見て笑みを深めた。

 

「それでは、準備はよろしいですか?」

 

「ああ、問題ない。行こうぜ」

 

「こっちもオッケーだ」

 

「うんっ」

 

 俺には見慣れた、黒々とした中層への入口に入り、下り坂を下りていく。三人の緊張感が高まっていくのを感じながら、しっかり補助しようと心を引き締めて中層へと進出した。

 

 

 

 

 

「じゃあまずは事前に言ってた通り、俺がヘルハウンドとアルミラージの相手するから、速さとか見といて」

 

「うん、よろしくね」

 

 そう言って『大樹』をバックパックに固定し、『雪鋼』を抜く。

 そのまま俺を先頭にしばらく歩くと、ヘルハウンド三匹を50M程先に確認した。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 三人に声をかけて走り出す。その足音に三匹はすぐさま気づき、威嚇を放ったヘルハウンド達もまた、こちらに突っ込んできた。

 そして二匹が途中で立ち止まって口に炎を溜め始める。その開いた口に投げナイフを投げ込み、そのまま飛びついてくるヘルハウンドを下顎からナイフで串刺しにした。

 ヘルハウンドの脳天からナイフの先端が顔を出す前にヘルハウンドは灰に変わり、投げナイフの当たった一匹も灰に変わる。

 そして投げナイフに反応した一匹は即死はしなかったが、右顎の内側から投げナイフが外に飛び出る大きな傷を負っていた。

 そのまま半狂乱になって突っ込んでくるヘルハウンドに落ち着いて投げナイフを額に叩き込み、三匹目も灰にする。

 

「す、すごい……」

 

「凄まじい手際ですね……」

 

「慣れてるからな。とにかくヘルハウンドとの戦闘のキモは火炎攻撃をさせないことだと俺は思ってる。『サラマンダー・ウール』を着てるとはいえ無傷じゃ済まないからな。ちなみに俺は投げナイフを使ったが、その辺に落ちてる石ころでも口に投げ込んだら火炎攻撃を遅らせることが出来るぞ。あと相手にするのは基本的に一匹だ」

 

 尊敬の眼差しで見てくるベルにむず痒さを感じながら、投げナイフを灰の中から拾いながら言う。

 慣れればベルも簡単に出来そうだがなぁ。

 

「それにしても、やっぱり派手だよな、コレ」

 

 ヴェルフは『サラマンダー・ウール』を摘みながら軽い口調で言う。光沢のある赤い生地。確かに派手だし、目を引くからダンジョンに入る前は多少恥ずかしがった。

 

「リリはこんな立派な護布を着れる日が来るなんて、思いもよりませんでした。ありがとうございます、ベル様。大切にしますね?」

 

「あははは……割引してもらったけどね」

 

 ひょい、とベルの後ろから顔を出して嬉しそうに微笑むリリルカ。

 

「精霊が一枚噛んでる装備なんて、とんでもない値段だったろ? 四人分でいくらだ?」

 

「えーと……簡単にゼロが五つ並んだくらい……」

 

「ヴェルフ様、その分のお金はしっかり返してくださいね?」

 

 ベルから値段を聞くや否やすかさず言うリリルカ。

 

「ほんと清々しいくらい現金な小人族だよ、お前は。というかカルロはいいのかよ!?」

 

「俺はもう払った。金の貸し借りはすぐ返すようにしてるんだ」

 

「なっ……」

 

 ヴェルフは驚き、ガーンとした様子で肩を落とす。

 そのまま談笑していると、前方に白い影が見えた。

 

「お、アルミラージだ」

 

 兎の外見をした三匹のモンスター。長い耳に白と黄色の毛並み、赤い瞳にふさふさの尻尾、額にある鋭い一角。

 

「あれは……ベル様!?」

 

「ベル相手か……冗談きついぜ」

 

「今まで俺はベルを……!?」

 

「違うよっ!?」

 

 何言ってんの!? とベルから突っ込みが入る。

 ベルみたいに大人しそうな外見だが非常に好戦的であり、小型の石斧を持っている場合が多い。

 

「じゃあ俺に任せてくれ」

 

 アルミラージも近づいてきていた為、ふざけた流れを断つようにスっと前に出る。するとベル達も真剣な表情に変わった。

 アルミラージはこちらに気づくと走り出し、俺も同様に肉薄する。そして石斧が投げなくても当たるほど接近してから後ろに下がった。当たりそうな位置で石斧を振らせる。

 そして石斧を空振った先頭のアルミラージに『雪鋼』を突き刺し、そのまま残った二匹のうち一方を蹴り飛ばす。

 体躯の小さなアルミラージは吹っ飛んで壁に当たって落ち、もう片方は石斧を振り下ろそうとしていた。

 それを左手の『雪鋼』で受け止めて右手で殴り、仰け反った体に『雪鋼』を振り下ろす。

 その流れのまま床に落ちたアルミラージにトドメ。

 いつもは投げナイフを使っているが、今回は石で替えがきかない為ナイフをメインで戦った。

 

「すごいっ!」

 

「ヘルハウンドの時といい、複数相手でも難なく捌くなんて……」

 

「大したもんだ」

 

「……いや、それはいいんだ。見てわかったと思うが、アルミラージは小さいから殴ったり蹴ったりするのも有効打になる。基本は引きながら一体ずつ処理していく感じだな」

 

 その都度褒められるのに小っ恥ずかしく思いながら、戦うコツを話す。

 

「そうですね……基本的に全員で一匹を集中攻撃して数を減らすのが良さそうです」

 

「ああ、それがいいだろうな。じゃあ次からは事前に決めた隊列を組んで行くか」

 

 そう言って懐からクロスボウを取り出す。後衛ではリリルカの護衛をしつつ、投げナイフやクロスボウで援護する。

 

「そうだね……!」

 

「やるか!」

 

 そして俺はリリルカと同じ位置、後衛に下がり、ベルは中衛、ヴェルフは先頭、前衛に出て歩き始める。中層初挑戦ここからだ。

 

 ベル達の冒険が、今始まった。


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