異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
箸休め回です。
最初に感じたのは、今までにない体のだるさだった。
手足が思うように動かず、泥の中を動いているかのような倦怠感。意識が浮上しては沈んでいくのを繰り返し、目を開けて体を起こそうとしても中々うまくいかないもどかしさを感じていた。
しばらくそれと格闘していると「すいませんっ!?」という聞きなれた声に引き上げられ、意識がゆっくりと浮上していく。
そして何かが俺の体に当たった。
目を薄らと開けると、ぼやけた視界ではあるが、布地の天井が見える。
抜けきらない倦怠感に包まれながらゆっくりと顔を上げると、頭に包帯を巻いたベルがいた。
「カルロ、ヴェルフ、リリ……」
「おう」
寝起きの乾ききった声で返すと、ベルが驚愕の声を上げ、すぐに笑みを浮かべた。
「カルロ!」
「その人の怪我、岩の刺さった場所が少しズレていたら危なかったって……」
ベルの奥から知らない女性の声が聞こえ、目線を奥に移す。
すると、【剣姫】がいた。最近ランクアップした、人からも神からも超有名な【剣姫】が、いた。
「は!? なんで【剣姫】がここに……って痛ぁ!?」
大きな声を出した直後、背中に激痛が走る。
その突然の大きな痛みに目を大きく開いて声が上がった。
「だ、大丈夫!?」
「あ、ああ。悪い」
「……私達は、『遠征』の帰り。休憩してると君達を見つけて」
「なるほど、そういう事ですか……ありがとうございます」
そう言うと【剣姫】は「ううん」と顔を横に振る。
そして俺に「君は休んでいて」と言った後、おもむろに顔を上げてテントの出入り口を見た。
「もう、動けそう?」
「あ……は、はいっ」
「フィンに、私達の団長に、連絡するように言われてるから、付いてきて?」
ベルは咄嗟に頷き、【剣姫】は腰を上げる。
それに追従するようにベルも立ち上がると、下を向いたベルの目が大きく見開かれ、冷や汗が出ていた。やっぱり体が痛むんじゃねぇか。
「カルロ、ちょっと待っててね?」
「悪いな……そうさせてもらおう」
ベル達がテントを出るのを見届けると、再び脱力する。隣をちらりと見るとヴェルフとリリルカが眠っており、上下する胸が無事であることが分かった。
身動ぎ一つで痛む体に苛立ちながらも、どうにも出来ない為天井を見つめながら中層初挑戦について思い返す。
パーティを無事に返す為に参加したというのに、この体たらく。ヘスティア神とリリルカの主神に合わせる顔がねぇな。
【ヘファイストス・ファミリア】も参加してる遠征組がいるし地上に帰るのは簡単だろうが、心配してるだろうなぁ……
行ったとしても道が分かる14階層までって約束だったのが、今は18階層。
運が悪かった事が大きいが、すぐに退かなかった俺にも責任はあるだろう。誰も命を落とさなかったことは個人的にも、【ファミリア】的にも良かった。
ベル達が一命を取り留めたことに感謝しながら、頭の中でどう謝罪するか、償いをするかを熟考する。
そうしていると次第に睡魔が大きくなっていき、瞼が徐々に落ちてきた頃。
「起きたと聞いたぞ、カルロ!」
大きな声を出しながら団長がテントに入ってきた。
その声に脱力し切った体が大きく跳ね、体が痛んだ。
「痛っっ…………ふぅ。いきなりなんですか、団長?」
少し非難するような声色で言うと、笑いながらすまんすまんと言いながら近づいてくる。
そして俺の傍にドサリと座り、回復薬と色が違う、高等回復薬の入った瓶を差し出してきた。
「ほれ、飲め」
「え、あぁ、はい」
渡された瓶を受け取って飲むと、高等回復薬特有の甘みが口の中に広がらないように喉に流し込む。
そうすると次第に背中の痛みが引いていき、身体中にあった細かな痛みも消えた。
「おお……ありがとうございます」
「なに、そのままだと歩くこともままならんからな」
「え? そんなにデカかったんですか、傷?」
驚きながら、問う。かなり痛むとは思ったが、そこまでのものとは思わなかった。
「ああ。岩がかなり深くまで刺さっておった。一度の高等回復薬だけでは治らなくてな、手前が高等回復薬を持ってきたという訳だ」
「そうだったんですか……ありがとうございます」
「構わん構わん。それよりも手前が直接持ってきたのは、コレだ」
そう言って団長は『大樹』をテントに持ってきた。
最後の全力疾走の時には手放していたと思ったが……
「これは普通のハルバードとして見ればレベル2の最上級品に一歩届かないといったところ。だがそれだけでは無いと見た。違うか?」
「はい。魔力を通すと蔦による中距離攻撃が出来ます」
体の調子を確かめるようにゆっくりと立ち上がりながら言う。
よし、どこも痛くない。寝床が固かったからか、体が凝ってる感じがするが。
「おお! やはりそんな効果があるのか! 是非とも手前に試させてくれ」
ニコニコと笑いながら『大樹』を持ってテントを出ようとする団長。
「いや、ちょっと待ってください。俺もついて行きます」
流石に範囲も知らずにブッパなされると他所のテントに当たるかもしれない。
「そうかそうか。体は動くな? ならば手前についてこい!」
上機嫌な団長に続いてテントを出ると、噂以上の絶景が目に入ってきた。
まず最初に驚くのはその明るさだ。終始薄暗い迷宮内とは打って変わって、地上の昼のような明るさ。『嘆きの大壁』よりも高い天井は水晶で覆われており、眩しいほど光り輝いている。
そして目の前には迷宮内では滅多に見ることの無い、青々とした木々。一見すると地上では無いかという光景だが、所々から生えている水晶が迷宮内ということを思い出させた。
「ではカルロよ。ここで構わんか?」
『迷宮の楽園』に見惚れていると声がかかる。
団長が立っているのは、テントとテントの間に出来た小さな空き地。
……狭い。狭い上にあたってはいけないものが多すぎる。
そう告げると、ではこっちだ、とご機嫌そうに木々の間に進んで行った。
しばらく進むと木々が疎らになっていき、視界が開かれる。
そして眼前に飛び込んでくるのは、超巨大な一つの水晶。『ゴライアス』にも匹敵するのではないかというサイズだ。
天井からの光を中で乱反射させて虹色に輝いており、麓の木々とのアンバランスさが美しさを際立たせていた。
「よし、では始めるか」
団長の声が聞こえて向き直ると、既に『大樹』を構えていた。
周りに何もないようだし、問題ないだろう。
そう思って見ていると『大樹』の蔦がうねうねと動き始めた。
「お、おおっ!? これは、中々……!」
そして一本の大きな蔦を作り、操って遊び始める団長。
「はっはっは! 中々楽しいな、これは!」
そう言いながらはしゃいでいると、突然動きが止まり、パタリと倒れた。
「え、団長?」
走り寄ると普通に気絶してた。というかこれ。
「『精神疲弊』だ……」
その呟きは蔦が縮まる音に虚しく吸い込まれていった。
椿さんの魔力ステが伸びてる事にしました。
魔力無かったとしても使用直後に『精神疲弊』するから結末は変わらないってことで許してヒヤシンス