異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
箸休め回その2です。
映画を観に行ったのでかなり急いで書きました。
団長をテントまで運んでテントに戻った頃には天井の照明も暗くなってきており、さながら日暮れといった様子だ。
団長の様子を見た団員が悲鳴をあげ、それを聞いて事態を重く見た団員がパニック状態になったという事件はあったが、経緯を話すといつものやつね、と言った感じで納得して収まった。
俺達の、では無いが俺達が休んでいたテントの前に立つと、外まで話し声が聞こえている。どうやらもう起きたようだ。
「ヴェルフ、リリルカ、調子はどうだ?」
中に入るとベル達三人が全員揃っていた。
「あっ、カルロもおかえり」
「おう。万全って訳にはいかねぇが、いい感じだ」
「リリも問題ありません」
その口ぶり通り全員の顔色は良いが、巻かれている包帯が負傷を示していた。
それを見て少し深刻な顔になると、それを感じとった三人も少し背を正す。
俺はそれを見ながら膝を着いて頭を深々と、最大限の詫びる意を伝えた。
「今回の中層初挑戦、本当にすまなかった。無事に地上に返すって約束なのに、この体たらく」
それを見た三人からは戸惑いの声と視線が発せられる。
「いや、僕達も見通しが甘かったっていうか、事故みたいなものだよ! それにカルロに助けられた場面もたくさんあったから、謝るなんて!」
「カルロ様には状況に応じた的確な意見を出していただきました。最善を尽くした上での結果ですので、リリには文句なんてありません」
「そうだぜカルロ! 今回はお前が気に病むことじゃない」
思っていた通りというか、それ以上の励ましを受ける。だが俺は中層経験者として、パーティを無事に返すことを約束した身だ。運が悪かったとか、事故とかそういう話ではない。
「いや、今回の臨時加入は無事に中層初挑戦を終わらせる、という『契約』だった。正式なものでは無いといえ、ベル達と俺の『契約』だ。それを破ればペナルティが与えられるべきだ。使える道具をいくらでも提供する。そうじゃないと『筋』が通らない」
頭を下げながら捲し立てるように食い下がる。
すると、ベルから顔を上げて、と声がかかった。
顔を上げると困ったような顔をした三人。
「本当に助けられたから、ペナルティなんて言わないよ。それに臨時加入とはいえ仲間なんだから」
「だな。仲間同士で言いっこなしだ!」
「ですね!」
そう言って許しを与えてくれるベル達。悪どいパーティとのトラブルだと最悪【ファミリア】間の問題になる場合すらあるというのに。
正直納得がいかないし、申し訳ない気持ちが溢れてくるが……これ以上は逆に迷惑、俺の我儘だな。
目を閉じて大きくふぅっと息を吐き出す。
そして地面に頭をガンッと強く打ち付けてから顔を上げ、笑顔で言う。
「よし、わかった。ありがとう。それと、本当に無事でよかった」
ベル達は顔を引き攣らせながら頷き、返事を返す。これに関しては自分から自分への罰であり、切り替える為だ。勘弁してもらおう。
そして夜、天井の水晶の光が小さくなって星のようになった頃。
俺達は【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の遠征組で出来た集団の一部に入って晩飯を食べていた。
ベルは【ロキ・ファミリア】の幹部、それも女子達に群がられて傍から見ればハーレム状態。ミノタウロス戦を見ていた面子だ。
そしてそこに負けじとリリルカが参戦するというカオスな状況になっていた。
それを見る男子共の視線は目線だけで射殺そうとするかのように鋭く、殺気が篭っている。
そんな中俺はというと、【ヘファイストス・ファミリア】の遠征組が固まっているところで談笑していた。いかにもゲスト席といったあの場所が少し居心地が悪かったのもあり、ベル達に声をかけてから離脱した。
そして先輩と両手に花なのに冷や汗が止まらないベルを笑いながら、何があったのかを話し、遠征の様子を聞ける範囲で聞きながら、本拠地でたまに見るクソ甘い果物を食べる。雲菓子と言う瓢箪の形をした果実は18階層で採ったものらしく、甘味が好きな俺でもギリギリ美味しいレベルの甘さをしていた。甘味が苦手な人からすれば、吐き出しそうになること必至だ。
あ、ヴェルフに団長が絡みに行ってる。回復したんだな。ヴェルフの本気の悲鳴を肴に貰った干し肉と雲菓子を交互に食べていると。
「──ぐぬあぁっ!?」
突然の悲鳴。そこそこ距離があるはずだが、ハッキリと聞こえてきた。聞いた事があるような無いような声だな……
先輩と顔を見合わせて首を傾げていると、ベルとリリルカが突然悲鳴の聞こえた方向、17階層へと続く洞窟の方向へ走り出した。少し遅れてそれを追うヴェルフ。
それを見て何事かと更に遅れてベル達を追うと、既に到着していた【ロキ・ファミリア】の団員によって見えなくなっていたが、聞こえてきた。
神様、ヘスティア様、と。
神が迷宮に潜ることは禁止されており、バレると【ギルド】から【ファミリア】に罰則が下るはず。神達がたまに言う、バレなきゃオッケーというやつか?
どうやら怪我人もいないようだし、折角の再会だ。野次馬のようになっていた俺達はいそいそと元の場所に戻っていくが、その途中で呼び止められた。
「カルロ、ちょっといいかな?」
振り向くとベルの奥には、ヘスティア神と橙黄色の瞳と髪を持つ男性……あれは多分神か。と『豊饒の女主人』で見た顔と、水色の髪と眼鏡をかけた女性冒険者。
そして、東国の意匠を思わせる防具を身に纏う三人の冒険者が立っていた。
……『怪物進呈』の際に見た背中とそっくりだな。
「誠に、申し訳ありませんでした!」
【ロキ・ファミリア】に借りた一つのテント内。
そこで少し前に俺が見せた謝罪とは比べ物にならない程、美しい東国の謝罪ポーズを見せる黒髪の女性冒険者、命と視線を受けて忙しく頭を下げる女性冒険者、千草。
そのポーズの完成度と誠心誠意の謝罪に一種の迫力を感じた。
だが、ヴェルフやリリルカは険しい口調で返す。
「……いくら謝られても、簡単には許せません。リリ達は死にかけたのですから」
「まぁ、確かにそう割り切れるものじゃないな」
「あの、その、本当に……ごめん、なさい……」
「その怒りはごもっともです。いくらでも糾弾してください」
そして平謝りする命と千草。
『怪物進呈』自体はある事だし、俺も何度かやられた事はある。『怪物進呈』自体はそこまで大問題になり得ない。
だが今回は珍しく、俺達が死にかけた。そしてそうなると分かるような状況で押し付けられた。
それが問題となっている。
「あれは俺が出した指示だ。そして俺は、今でもあの指示が間違っていたとは思っていない」
そんな落とし所を探ろうとしている中に態々油を注ぐ巨漢、桜花。
「それをよく俺等の前で口にできるな、大男?」
それを聞いて眉を釣り上げて睨みつけるヴェルフ。一触即発といった空気だ。そらそうなる。
収拾がつかなくなるような気配がした為、口を挟む。
「それで?」
「だから、俺が……」
「そういう事じゃない」
変わらずに非難の的を集めようとする桜花に被せて言う。心意気は買うが、それをするのは謝ってからだろうに。
「謝らないのは論外として、だ。謝ってからどうするかが問題なんだよ」
それを聞いた【タケミカヅチ・ファミリア】の面々はハッとした表情を浮かべた。
「自分の失態を棚に上げて言うが、何をもって手打ちとするかを考えるべきだ」
そう言うと命と桜花が重なるように自分がどんな事でもすると申し出る。
俺はベルに向き直って、どうする? と問いかけた。
ベルは無条件で許そうとするかもしれない。
それでもこんなに詰めるのは彼らの為でもある。
「いやいや、もっと単純でいいじゃないか。命ちゃん達がベル君達にでっかい借りが出来たって事でいいんじゃないかな?」
えっと……とベルが悩んでる中で、いつの間にかテントに入ってきていた男神、ヘルメス神がそう提案する。
まぁ、ヴェルフやリリルカに不満がある中での落とし所はその辺か。
ベルはその提案にすぐさま了承し、ヴェルフやリリルカも不服ながらもベルの決定もあって納得した。
そして次の日、俺達は『世界で最も美しいならず者の街』と言われているリヴィラの街に来ていた。リリルカは駄目になったバックパックを買いに。ベルは好奇心と【剣姫】とのデートの為に。ヘスティア神とリリルカによってその願いは叶わなかったようだが。
ちなみに俺は観光だ。バックパックに詰める物は全て落とした為、『大樹』と装備品を着るだけでいい。
それにしても何もかもが高価だ。地上と比べてはいけないとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。バックパックだけで一回の探索分近いヴァリスが取られる。
だが地上で見ないような非合法品がそこかしこにあるのは中々面白い。金さえあれば『更新薬』でも……いや、主神様に怒られそうだな。買えたとしてもやめておこう。
そして午後、俺はヘスティア神を呼び止め、ベル達を命の危機に晒したことを謝罪した。
最初は驚いた様子だったヘスティア神だったが、話し終えた頃には真剣な表情で聞いてくれた。
ヘスティア神は俺は役目を果たした、今回の事は事故みたいなものであり、それは防ぎ得ないことだったと言う。そしてその上でも罪悪感に苛まれるのであれば、ベルが困った時に力になってくれと頼まれた。
断るはずがない。
俺はその身から溢れる神の慈悲に深々と頭を下げ、感謝を捧げた。
主神様以外の神で、本当に神様なんだな、と思ったのはこれが初めてだ。
カルロ君(17歳)は柔軟そうに見えて頑固、その上ちょっと達観してたりと微妙にめんどくさい性格です。