異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
話が進まぬ……
ダンジョンの中は天井から点々と燐光が差しており、陽の光が全く届いていないにも関わらず常に明るい。それは夜だとしても変わらないため、時間を忘れて潜りすぎる奴もいるらしい。
本格的な探索ではなく、試し斬りを目的とすることで潜りすぎることもない。
潜れば潜るほど強くなっていくため、最初の方はあまり出来の良くなかった妥協点ギリギリくらいのものから使う。
ゴブリンやコボルトは多少ずる賢い動きをするがステイタスによるゴリ押しが出来る。そのため先手必勝、俺に気づいて驚いている顔を鉄爪を付けた手で殴りつける。すると鉄爪はすんなりと刺さり、ゴブリンは反撃する暇もなく地面に叩きつけられる。
そしてすぐさま絶命すると豆粒ほどの小さな魔石を落として消える。
その後数匹の雑魚を倒して鉄爪の使用感を確認すると、次は短剣、その次は直剣と、代わる代わる試していく。
そして10階層に着いた頃にはほとんどの武器を試し終わっていた。
残るは大剣とハルバードだけ、今回の自信作トップ2だ。俺としては使う武器だけ作りたいのだが、顧客を持たないペーペーは様々な武器を作って見てもらう機会を増やす。
そうでもしなければ金欠で材料すら買えなくなるのだ。というかダンジョンに潜って稼ぐことも必要になる。
それに、俺の作り方は普通の鍛冶師よりも金がかかる場合が多い。必要以上の材料を用意しなければならないためだ。
余った金属は鍛冶師ならばもう一度溶かせば使えるため、お隣さんには安値で売ったりもしている。
霧が深くなってきたためバックパックを下ろして大剣を持つ。
すると霧の向こうで薄らと大柄なシルエットが揺らめいている。近づいてくるにつれて足音と地面の振動が大きくなっていく。
「ブゴオォォォォォ!」
大きな雄叫びとともに大型級のモンスター、オークが現れた。茶色い肌の豚頭、身長は三Mを越えている。丸く太ったずんぐりむっくりした体型だ。黄色い目は脂肪からか潰れている。
『ブギッ、ブォフオオオオッ……!』
黄色い目が俺から外れて枯れ木へと移る。そして俺の肩周りと変わらないほど太い巨腕でその木を引き抜いた。
『
わざわざ枯れ木を砕いて回るというのは可能だが、気がつけばまた生えている。そのため暇があれば破壊するといった感じ。
オークの荒い呼吸の間隔が狭まってきて、その音もやたらと大きくなっている。
何度か戦ったことのある大型級モンスターとの戦闘。オークは動きが遅く、予備動作が大きいため、俺の敏捷でも対応出来る。
『ブゴオォォォォォォォォォォッッ!』
オークが枯れ木を大きく振り上げる。
その大袈裟な予備動作を見て余裕を持って躱し、腕を下ろして両手で大剣を構える。
真横に枯れ木が叩きつけられ、衝撃が地面を通じて足を揺らした。枯れて脆弱になった木はそれに耐えることなく無惨に折れて炸裂する。枝の何本かが身体に当たるが、軽い上に勢いも弱いため気にならない。
そして構えていた大剣を全力で振り上げる。
良し悪しがわかる程度にしか技術は持っていないが、それでも狙った箇所に刃が滑り込む。
その大質量はオークの骨を持ってしても勢いを止めることはなく、そのまま肉と骨を断ち切った。
胴体が斜めに深々と切り裂かれ、その軌道にある枯れ木を持っていた右腕も切り落とされる。
そしてそのまま灰になった。
「結構いい感じだな……」
地面に大剣を突き刺して魔石を探すが、無い。おそらく魔石ごと斬ってしまったのだろう。
それにしても良い出来だ。この大剣は装飾がやたらと多かったため、ミスが多かった。だが装飾が多い分完成度が高く判定され、出来が良くなったのだ。
そして次はハルバード。今度は足音を頼りにオークの場所を割り出す……いた。
オークは気づいた様子もなく、だらしない体を揺らしながら呑気に歩いている。
『迷宮の武器庫』を使う素振りも見せないまま、後ろから忍び寄って飛びかかる。
そして飛んだままほぼ一周回して首にハルバードを叩き込む。
元々重量があり、重心も外寄りのハルバードはステイタス以上の威力を発揮し、先程の大剣を凌駕する破壊力を有した。
当然会心の一撃に耐えられるはずもなく、オークの首は高々と飛んでいく。そして体が弾け飛ぶように灰に変わり、紫紺の魔石が落ちた。
使ってみると分かる。このハルバード、切れ味が良いだけでは無い。重量や重心が絶妙なバランスで噛み合っており、非常に扱いやすい上に威力を出しやすい。
ハルバードの出来に満足したし、そろそろ帰ろう。
あ、ギルドで魔石を売る前にバベルに行くか。
特にトラブルが起こるわけでもなく地上に戻り、そのままダンジョンの上に
そしてそこにある【ヘファイストス・ファミリア】のテナントに入ると久しぶりに見た
「こんちはー」
「ん? カルロか。久しぶりだな。随分と多いが、全部武器か?」
「ああ。取りあえずハルバード以外全部売りに出す」
店の裏に入ってハルバードをカウンターに立てかけ、武器がびっしり詰まったバックパックを床に下ろす。
するとおっちゃんは紙を渡してくれた。
ありがとうと簡潔に礼を言い、名前を書き込む。そして樽に武器を入れて紙を貼り付けておいた。
そうすることでファミリアの経営陣が値踏みをして値をつける。そして八階のレベル1の鍛冶師がアピールする場所に置かれるのだ。
そして手に入ったヴァリスはファミリアが少し持っていき、俺の元に残りのヴァリスが入ってくる。
高値で売れますようにと願いながら、ギルドの魔石換金所に向けて歩き出した。バベルにも換金所はあるのだが、換金所が少ない上に利用する人が多いため、結局ギルドに行った方が早い場合も多い。
12000ヴァリス。それが今日の稼ぎだった。大量のモンスターを倒した訳でもないのに、中々いい値段だ。やっぱりオークはあの強さにしては稼ぎがいい。
試し斬りは荷物が多くなるため、稼ぐ量が減りがちだ。
武器が売れるのももう少しかかるだろうし、久しぶりにダンジョンで稼ぐか……
その後ファミリアの食堂で夕飯を食べ、風呂に入ると久しぶりに見たと驚かれた。そういえば食堂とかに入るの一ヶ月ぶりくらいだったか。風呂も水浴びるくらいだったしなぁ……
ここで心配にならないあたり、鍛冶師がどんな生活をしてるかがよく分かるだろう。寝食を惜しんで槌を打つ。そんな生物だ。
久しぶりのマトモな食事とベッドによって心身共に清められ、気絶するように眠りに落ちた。
そして翌日、朝イチに動きを阻害しない程度の大きさのバックパックを持ってダンジョンに潜り、魔石でいっぱいにして戻る。
一日だけなのに、30000ヴァリスと少し稼ぐことが出来た。
小さく鼻歌を歌いながらギルドを出ると街道は薄暗くなっている。上機嫌なまま本拠地に向かって歩き出すと、『豊穣の女主人』が目に入る。冒険者の中ではかなり有名な、値段の割には量を食える店だ。当然ファミリアで食べると無料なので、比べるまでもないが。
だがそうだな……久しぶりに外食するか。
薄暗い街道から眩しく感じるほど明るい、賑やかな店に入った。