異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか 作:のん野のん太郎
『可変』シリーズの試し斬りを終えた翌日の朝、俺は素材を買う為に財布を持って作業場を出た。日の高さを見るに、少し寝坊してしまったようだ。
それでも午前中に起きることが出来たのは、外から大きな破壊音が聞こえてきたからだろう。
キョロキョロと見回すが、作業場に遮られて遠くまで見ることが出来ない。俺にも野次馬根性があったのだろうか、気になった為作業場エリアの出口に向かう。
するとそこには人だかりが出来ており、先輩や同期など見知った顔も数多くあった。
「何かあったんですか?」
先輩に並ぶように立って観客の視線の先を見つめると、屋根が欠け、道路が抉れ、壁が崩れていた。
明らかに尋常な事態ではないし、冒険者によるものだ。見た感じ色んな魔法で襲われたっぽい。
「ん? ああ、カルロか。なんでも神様抱えた冒険者が大勢に追い回されてたらしい。ここまでガッツリ襲われるなんて、何やらかしたんだか」
「それにしても一般人なんてお構い無しって感じの暴れ方、これギルドに怒られますよ」
無関係という立ち位置なこともあり、暢気に先輩と談笑する。体験した訳では無いが少し前にとんでもない大抗争があったらしいし、先輩慣れた様子。
「こういった揉め事って、良くあるんですか?」
「いやー……ちょっと前まではあったんだけど、最近はまぁ見なかったな。久しぶりに起こったからほら、こんなに野次馬が来てる」
周囲を見回すようなジェスチャーをしながら教えてくれる。
「そうなんですか。あっ俺素材買いに来てたんでした。なのでここらで失礼します」
「おう、最近お前の武器のファンも出来たらしいし、頑張れよ!」
「俺の武器にファン!? マジですか、超嬉しいです! 気合い入りました。では!」
一礼して体を翻し、素材売り場へ走り始める。道中にも破壊痕が目立ったが、怪我人が出たような様子はない。流石に一般人を巻き込もうものならギルドも本格的に介入してくるしな。
そのままミスリル鉄鋼などを購入して作業場に送ってもらう。
ギルドの職員が調査に来ているのを横目に見ながら買い食いして作業場に帰ると、作業場横に素材が積まれていた。流石【ヘファイストス・ファミリア】のスタッフ。仕事が早いな。
作業場に運び入れて端に積み、武具作りを再開する。
そう、だな……今回は変わり種じゃなく、純粋な武器を作ってみるか。うーん、王道のロングソードでも作ろう。
丁度いいサイズの鉄鋼ブロックを作業台に置き、ノミとハンマーを手に取る。
すると薔薇の装飾が凝ったロングソードが頭に浮び上がる。武器としては王道だが、貴族の剣みたいになるな……
よし、やるか。
最初は豪快に、大まかなシルエットを作る為に大きなノミとハンマーで削っていく。そして徐々にノミとハンマーのサイズを小さくしていき、ロングソードの形を彫り出していく。
薔薇が巻き付くような装飾が付いている鍔は手をつけずに塊を残して、柄頭や握り、刀身は丁寧に。
すると突然、火花を散らしながら、鉄の削り節が舞った作業場に男が飛び込んできた。扉が蹴破られたかのような勢いと音が作業場に響く。
「カルロ! 頼む。力を貸してくれ!」
ノミを打つハンマーが寸前で止まる。危ねぇ、丸ごと駄目になる所だった。
ノックも無しに飛び込んできた失礼な男を睨みつけるように振り向くと、そこにいたのは先輩ヴェルフ。こんな事をするような奴では無い筈だが。
「ヴェルフ……流石に今のは無作法だろ。駄目になる所だったぞ?」
ジロリと睨みつけながら非難するが、ただ事ではないその表情を前にしては怒るに怒れなかった。
ボロボロだし、一体何があったんだろうか。
「うっ、すまねぇカルロ。だが、話を聞いてくれ。ベルとリリルカが、【ヘスティア・ファミリア】がやべぇんだ!」
「…………何があった?」
異常事態を察した俺は怒気を横に放でて回復薬を差し出し、ヴェルフに聞く。
するとヴェルフは回復薬を飲み干し、ベル達に何が起こったのかを話し始めた。
四日前に酒場で【アポロン・ファミリア】とのトラブルが発生し、神会でそれに関するイチャモンをつけられて『戦争遊戯』を申し込まれるも、それをヘスティア神は拒否。
その翌日、つまり今日【アポロン・ファミリア】が【ヘスティア・ファミリア】の本拠地を襲撃し、ベルがヘスティア神を抱えて逃走。
ヴェルフとリリルカ、【タケミカヅチ・ファミリア】や【ミアハ・ファミリア】の加勢を得たものの【アポロン・ファミリア】にも【ソーマ・ファミリア】の加勢があり、苦戦。
【ソーマ・ファミリア】はリリルカがベルに誑かされたと嘯き、ベル達の為にリリルカがその身を差し出すことに。
最終的にベル達は【アポロン・ファミリア】の本拠地に乗り込んでアポロンに『
「……ってことだ」
「成程、今朝の騒動はベル達だったか。だが、俺達に何が出来る? 理不尽とはいえ【ファミリア】間の問題だし、下手につつくと主神様にまで迷惑がかかる」
「だ、だが……!」
「ちょっと待て。一度考える」
そう言って顎に手を当てて考えを巡らせる。
『戦争遊戯』。
対立する神々の派閥が総力戦を行う神の代理戦争。今回はヘスティア神とアポロンだな。
勝った派閥の神が相手に対する要求を通し、負けた派閥はそれを受けなければならない。
これはギルドの許可を得て行われる迷宮都市でも有数のお祭りであり、不定期である為盛り上がり方が凄まじい。暇を持て余している神は最高の娯楽に心躍らせ、飲食店の経営者は書き入れ時だと意気込む。
グッズまで作られることがあるらしい。
そんなギルド公認のイベントは観客の神々によって邪魔をされないように監視されている。
ちょっかいを出した【ファミリア】は袋叩きに会うこと間違いなしだ。
その為【ヘファイストス・ファミリア】である限りは手出ししづらい。
「…………しゃあねぇか」
「な、何か思いついたのか?」
「ああ。まぁ、な」
「どんな方法なんだ!? ベルとリリスケを助ける為なら、俺は何だってやってやる!」
ふぅ、と息を吐く。
「
「改宗……!?」
「ああ。【ヘファイストス・ファミリア】では動けないからな。【ヘスティア・ファミリア】に入る必要がある。戦力を欲してる筈だしな」
だがそれは、【ヘファイストス・ファミリア】の恩恵を失うことを意味する。武器を売る場も、素材の身内価格、そして後ろ盾など、それら全てを最低一年失ってしまうのだ。
「……ああ、俺も覚悟を決めるぜ」
「そうか。なら主神様に改宗を頼みに行け。俺は準備を済ませてから行く」
ヴェルフが出ていくのを見送ってソファに座り込む。
なんでこんな事になってんだか。
武器を作りたいが、ベル達を無視して続けられるほど図太い精神を持っていない。武器を作りたいという思いは変わらず大きいが、今がヘスティア神との約束を果たすときだ。
筆舌に尽くし難い、荒れ狂うような怒りが体の中を暴れ回る。
その怒りに身を任せ、発散するように作りかけのロングソードを彫り進めた。
いつもとは違って軽い音ではなく、ガンガンと強い音が作業場に響き渡る。
先程までの丁寧なものでは無い、荒々しい削り。
それは翌日の朝まで続いた。
名前を彫って完成したのは頭の中に浮かんだ美しい品のある真っ直ぐなロングソードではない。
薔薇の装飾を削り落とした、無骨で触れるだけで怪我をするような妖気を放った剣だ。
王道からは大いに外れた剣だが、妙に目を惹かれるそれを作業台に置く。
この状況に対する怒りは収まらないが、暴れ回るような怒りは静かな怒りに変わり、覚悟も決まった。
貯めた水で顔を洗い、眉間の皺を戻して主神様の元へと歩き出した。
前回の後書きで書き忘れていた分の武器
『飛嵐』……投げナイフの代わりとして作ったナイフ。刃は無く、精神力を使って風の刃を飛ばす。精神力の消費は少ないが、その分威力も少なめ。投げナイフと一緒に使うことで投げナイフの消費を減らすつもり。
アポロンをアポロン神と呼んでないのは尊敬してないから。
基本的に神様は尊敬してるけど、闇派閥とか難癖付けるような神は呼び捨てで嫌いな相手はとことん嫌うタイプ。仲直りが難しい系男子