異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

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第21話

 ヘファイストスは机の上に置かれた曲刀を見下ろしていた。

 腕はまだまだ未熟だが、無骨で異質なその武器は目を引くものがある。それは『可変』と銘打たれたシリーズの二作目であり、誰も使った事の無い変形武器だ。

 誰も買い手がつかないと思われ展示されていたが、その妖しい魅力に魅了されて買いたいという冒険者は多かった。

 その横にある、『熱』が入った短剣の作り手と並ぶ才能の持ち主、宝石の原石だ。

 

 そんなヘファイストスの耳に、ノックの音が入った。

 

「入りなさい」

 

 ヘファイストスが促すと、開けられた扉からよれた服を着た青年、カルロが現れた。

 

「今度はあなた……何の用?」

 

 尋ねると彼は部屋の中央、ヘファイストスの前で立ち止まって頭を下げた。

 

「【ヘスティア・ファミリア】の元へ、助けに行くことを許可して頂きに来ました。どうか、お願いします」

 

 それは前日に現れた青年とは違って固まりきっていない、迷いを感じる意志から来る懇願であった。

 ヘファイストスは息を吐き、厳しい目で尋ねた。

 

「理由を、話しなさい」

 

「恩のある【ヘスティア・ファミリア】が危機なんです。今駆けつけないと、俺は多分後悔する」

 

「この【ファミリア】を抜けることよりも、後悔する? 最低でも一年は戻れないし、私が戻ることを許可するとも限らない」

 

 揺らいでいる心を容赦なく突くヘファイストス。

 

「それは当然! …………わからないです」

 

 勢いよく顔を上げるが、すぐに歯を食いしばり目を伏せるカルロ。神の前では嘘が通用しない。目が合った瞬間、自身の迷いが見破られていることを悟ったのだ。

 それを見たヘファイストスは目を閉じ、嘆息して考える。

 カルロはまだ17歳。働き手として大人の括りには入れられるが未成年であり、半人前と言われる程若い。

 自身の感情と、じっくりと向き合うことを知らない。幸せな家庭で苦労無く育ったともなれば尚更だ。

 

「今のあなたには、許可できない。一度時間をかけてじっくりと考えなさい。あなたが【ヘスティア・ファミリア】に出来る事が改宗(コンバート)する事だけなのかどうかも含めてね」

 

 決意して入ったはずなのに、一瞬にしてそれが崩れ去るカルロ。ベル達と話している時は大人びて見えていたが、今は年相応だ。

 その光景は神と子ではなく、親と子のよう。

 

「承知しました。ありがとうございます」

 

 ヘファイストスは小さくなった背中を見送り、腰を深くおろす。

 手のかかる子ほど可愛いとは言ったものだが、やはり厳しく接するのは心が痛む。

 ヘファイストスは曲刀を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 俺は、どうすればいいんだ……? 見ないようにしていた部分をつつかれて直ぐに揺らいで、何も言い返せなくて。

 かっこ悪ぃ。

 

 本拠地の廊下を自責しながら歩いていると、背後から声がかかる。

 

「どうしたカルロ。そんなしょぼくれた顔をして。何があったか手前が聞いてやろう」

 

【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランドが立っていた。キョトンとした表情で、上機嫌で。

 

「え? いや、何もないですよ」

 

 努めて明るく返すが、その声色は明らかに普段のものとは異なる。表情を見てもどこがやつれているように見えた。

 

「……仕方のない奴だ。それならいい。だが手前に付き合ってくれ」

 

「え、はい。わかりました」

 

 そうして案内されたのは、団長の鍛冶場。団長は「見ていろ」とだけ言ってそのまま鉄を打ち始めた。

 炉の火がジリジリと肌を焦がし、煤と炭を吹き出す。

 普段見慣れない赤熱した鉄を叩く団長を見ているとポツリと言葉が溢れだしてきた。

 ベル達を、【ヘスティア・ファミリア】を助けたい事。そして、自分に出来るのが何かが分からなくなった事。

 なぜ口に出したのかはわからない。団長の技術に感動したからか、火の炉を見て感傷的になったからか。

 一度溢れた言葉は全て吐き出すまで止まらず、団長には苦悩も、迷いも、望みも、感謝も、全て話した。

 団長は口を挟むことなく黙って鉄を打ち続ける。

 洪水のように溢れた言葉が止まると、作業場が再び鉄を打つ音と火のはじける音で満たされる。

 張り詰めたような沈黙ではなく、どこか安心感のある沈黙が続いた。

 そして暫く経つと、団長は手を止めてこちらに向き直る。

 

「なに、お主は武具を作れば良い。お主の宿願を、手前らの高みへの渇望を思い出せ。そもそも手前らは鍛冶師だ。義理も道理も、武具で返せば良い」

 

 真っ直ぐな瞳で俺に語りかける団長。

 そうだ。俺は神の領域へ踏み入れる、神の武器を作るんだ。最近のゴタゴタで目標がブレていたかもしれない。

 そして武器で返す。【戦争遊戯(ウォーゲーム)】で使える武具を、リリルカを助けられる程強力な武具を。

 

「…………ありがとうございます。久しぶりにいい武器が作れそうだ」

 

 生気を取り戻してきた俺の瞳を見て、団長は笑う。

 

「よし、それならば早速打ってこい。鉄は熱いうちに、だ。期待しているぞ」

 

「はい。ありがとうございます。いってきます!」

 

 そう言って俺は団長の鍛冶場を飛び出す。

 

「奴もまだまだ子ども、ということだな」

 

 そして一人になった鍛冶場に、団長の優しい呟きが染み渡った。

 

 

 

 

 

 

 作業場に駆け込み、ミスリルブロックを床にどさりと置く。

 そしてノミとハンマーを手に取ったその瞬間、頭に白い閃光が弾けた。

 今までに無い程荘厳で、秀麗で、流麗で、不気味で、洗練された力強いロングソード。それが頭の中に、どこからともなく湧き出るように浮かび上がってきた。

 ロングソードを作りたいと思った訳でもない。それなのに浮かび上がってきた。

 目と口を大きく開いて目が血走るが、思考は正常で意識はハッキリとしている。

 そして導かれるように、しかしあくまで自分の意思でノミを入れていった。

 脳内に浮かび上がる体験を、溢れかえったインスピレーションを余すことなく、一打ち毎に注ぎ込む。

『始天』で突き詰めた基礎を、『雪鋼』と『暴風球』で知った神秘を、『鱗手』と『可変』シリーズの機構を、『大樹』で手にした破壊力を全て詰め込む。

 脳内のロングソードと比べて『神秘の格』と『技術』が圧倒的に不足していることを自覚しながらも、それでも食らいつくように彫り進めた。

 

 

 

 

 

「……ぃ……おい! カルロ、大丈夫か?」

 

 目を薄らと開けると、そこにはヴェルフの顔。真剣な表情で俺の頬を叩いていた。

 既視感があるな……

 

「悪い。大丈夫だ。それよりも伝えておかないといけない事がある」

 

「おう、なんだ?」

 

 ヴェルフから受け取ったポーションを飲み、告げる。

 

「俺、やっぱり改宗出来ねぇ。借りは俺のやり方で返させて欲しい」

 

「え? いや、いやいやちょっと待て。なんでカルロが改宗って流れになってんだ? その借りってのも……」

 

「え? だって昨日話した─」

 

「改宗するのは俺で、良い案が思いついたら教えてくれるってことなんじゃ? カルロが改宗するなんて聞いてねぇぞ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

 沈黙が訪れる。

 

「……どうやらすれ違いがあったようだな」

 

「…………ああ。そうみたいだな」

 

「と、とにかく! リリスケを助けに行くんだが、作戦のアドバイスが欲しいんだ。今まで作戦を練っていたリリスケがいない今、頭の回る奴の意見が一つでも多く欲しい」

 

 切り替えるようにヴェルフが言う。

 

「あ、ああ! 任せろ! 案内してくれ」

 

 そう言って誤魔化し、出来上がったロングソードを手に取る。

 ロングソードの握りと柄頭は白銀色で普通のものと変わらないが、鍔は流れ星の軌跡のような流線状の装飾が複数本、沿うように付いてある。

 白銀の刀身には一つ巴と呼ばれるマークが両面に一つずつ鍔近くに刻まれている。

 単純な武器としても俺の作った中では最高。そして込められた『神秘』も最大。銘を『落陽(らくよう)』、太陽(アポロン)を落とす剣だ。

 新調したバックパックに突っ込み、ヴェルフの後を追った。




という訳で、カルロ君は【ヘファイストス・ファミリア】のままです。この件を書くか悩みましたが、カルロ君ならこう動くかなと。
そして望みを押し殺して筋を通したいって理由だとヘファイストス様は許可しないと思いました。それを自覚出来ずに迷ってるなら尚更。
アンジャッシュは一回書いてみたかっただけです。

これからは不定期更新になります。多分。
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