異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

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評価ありがとうございます。
ヘスティアの格好に慣れてしまった自分が怖い。



第3話

 店に入ると外に聞こえていた通り冒険者たちが酒を飲みながら耳障りにならないギリギリのデカい声で騒ぎあっていた。それもそのはず、騒ぎすぎると超怖い店主が怒る。見回すと満員ではないが、空いてる席は数える程度。

 テーブル席は一つだけ予約済みのようでぽっかりと空いている。

 カウンター席もひとつ飛ばしに座られており、両隣が空いてるような席がない。まぁ気分も悪くなかったし、隣の人と話して仲良くなるのもこういう冒険者が多い店特有のものだ。そう考えてカウンター席に座る。

 レベルで判断するような人じゃないことを祈りながら真っ白な毛をしたヒューマンの隣に座った。

 ヒューマンは店員さんと話しており、物腰の柔らかさから人の良さが伺える。

 

 ミア母さんと呼ばれている店主に肉とパン、酒を頼み、未成年だろアホンダラと言われて水を置かれる。しばらくすると隣が話し終えたようで、手持ち無沙汰にキョロキョロしだした。こういう店自体初めてって感じかな? 

 

「なぁ、この店初めて?」

 

 軽い雰囲気を心がけて話しかける。すると白髪のヒューマンは怯えたような顔をした後、おそるおそる、はいと答えた。

 

「マジで? てことは冒険者始めてそんなに経ってないんじゃないか? ……っとそうだ。俺はカルロ・ヴァリ。よろしく」

 

「あ、僕はベル・クラネルです! カルロさんの言う通り、この間ダンジョンに潜り始めたばかりです」

 

 予想通りダンジョンに潜り始めて日が浅いようだ。

 

「敬語はいいよ。俺もレベル1だし、敬語使われるとむず痒くなる。カルロでもヴァリでもカルロヴィ・ヴァリでも好きなように読んでくれ」

 

 そう言ってニコリと笑い、右手を差し出す。

 

「はい……いや、うん。わかったよ、カルロ」

 

 少し固い気もするが、ベルも笑って握手に答えてくれた。

 その後戦い方や探索準備に始まり、やれ稼ぎが少ないだの武器の準備や手入れも大変だというような愚痴を吐く。

 そしてメシも残り半分、話も英雄譚に入ってベルが盛り上がってきたころに、予約していた客が訪れた。【ロキ・ファミリア】だ。無表情な金髪美人(アイズ・ヴァレンシュタイン)顔の整った金髪ショタ(フィン・ディムナ)緑髪の高貴なエルフ(リヴェリア・リヨス・アルーヴ)覇気を纏うドワーフ(ガレス・ランドロック)。顔は似てるが体つきは全然違う双子アマゾネス(ティオネとティオナ)狂犬(ベート・ローガ)赤髪糸目絶壁神(ロキ)。他にもヒューマンやらエルフやらが数人……

 その誰もがオラリオにおいて超有名人。ウチのファミリアを懇意にしてくれている大ファミリアだ。まぁ俺みたいなペーペーは関わることなんて無いんだが。

 まぁ、そんな連中がいきなり大所帯で店に入ってくる訳だ。当然喧騒も一瞬ではあるが静まり返る。格上を見て顔を顰める者や、整った顔を見て鼻の下を伸ばす者、その迫力に圧倒される者など様々だ。美人が多いから口笛を吹かすバカもいるが。

 

「まさかの有名人だな。幹部勢揃いなんて久々に見た。ベルは知ってる……か?」

 

 ベルの方を向きながら話しかけると、ベルは鼻の下を伸ばす……とも少し違うが、完全に見蕩れていた。

 肩をポンポンと叩くと、ハッとした顔をして誤魔化すようにこちらを向く。

 

「え!? ナニカナ!? あぁぁ……えっと、もちろん!」

 

 顔を真っ赤にしながら答える。なんとまぁウブな……隠そうとしてるつもりなのだろうが、目線がチラチラとロキファミリアの方に行ってるぞー? 憧れてるヤツでもいるのだろう。

 

「ほーん? で、誰のファンなんだ? 男らしさを求めてガレスとかか?」

 

 そう聞くと、予想外の反応が返ってくる。

 

「え!? いや、僕はそういう趣味はないっていうか……じゃなくて!」

 

 それを聞いて思わずキョトンとした顔をしてしまう。まさかコイツ……

 

「え、まさか惚れちゃったの?」

 

 そう聞くとベルはただでさえ赤かった顔をもっと赤くした。もう茹でダコを貼り付けたような赤さだ。

 だがしかし、違うファミリアの構成員(メンバー)同士の恋愛は基本的にご法度だ。それも大幹部ともなるとそれは100%ムリと言ってもいい。

 なぜなら結ばれてしまった場合、どちらかが改宗することが多い上に、その子どもはどちらのファミリアに所属するか揉める。

 他にもファミリア同士の繋がりが深くなってしまうことや、主神同士の仲が悪い場合は取った取られた、誑かした誑かされたで、最悪戦争が起こる。主神に祝福されない場合は所属ファミリアとケリをつけて、永遠に無所属になるくらいの覚悟が必要だ。

 そんな無謀な恋愛を目の前のベルはしようとしている。

 

「……まぁ、悪いことは言わん。やめておいた方がいい。あの中の誰であれ、全員が幹部。ロキ神の超お気に入りだ」

 

「で、でも……!」

 

 顔は赤いままだが決意の表情で食い下がる。多分思ってるよりもデカい壁ということは知らないらしい。でも相手もそれをわかってるからなぁ……

 でもこんな純粋な恋心を無理に折るのも忍びない……

 

「たとえ振り向いてくれたとしても、だ。無事に結ばれたいならベルが超絶強くなって、ロキファミリアと同格以上になって、運が良ければワンチャン…………それか、かなり無理くさいけどロキ神を納得させるか。どっちにしろ達成は超困難だぞ?」

 

 ちょっと真剣な顔をしてほぼ実現不可能な難題を言う。

 すると、ベルも想像していた以上だったのか、顔色を赤から青に変える。面白い奴だ。

 ちょっと弱気な表情になったが、それをすぐさま誤魔化すように笑う。

 

「で、でも僕、最近成長期に入ったから! ステイタスなんて」

 

「ストップストップ!」

 

 いきなりとんでもない事を口にしだした。

 

「え?」

 

「いや、え? じゃねぇよ。ステイタスなんざいくら秘密にしても足りないくらいだぞ? 伸び盛りとかも出来れば言わん方がいい。それで悩んでる奴とかもいるしな。よっぽど親しくなきゃ話さねぇし、ましてやこんな耳のあるところでする話じゃない。俺とベルは今日、それもここで会ったばっかりだろ?」

 

 そう言うと、笑顔が固まった。そして顔から汗を流しながらカクカクと壊れた玩具のように頷く。

 表情がコロコロと変わって面白いが、シャレにならない程オラリオの常識がない。ステイタスは絶対人に言わないなんて事も知らない。

 

「……そうだな。ここで会ったのも縁ってやつだ。絶対にやっちゃいけないことは今教えてしんぜよう」

 

 ニヤリと笑いながら言う。時折チラチラとロキファミリアの方に目線を送るのは変わっていないが、目を輝かせてありがとうと言ってくれた。

 それに俺も気を良くし、店員さんから紙を一枚貰う。そしてポケットに入れてある、引っ掻けば色が出る石で要点を書いていく。

 

 ・ステイタスに関しては基本的に絶対秘密。知られればカモにされる事がある。

 ・別ファミリアの内部事情には首を突っ込まない。最悪戦争になる。

 ・(ポーション)の効果(濃さ)や相場を知っておく。カモられる。最初の方はギルド直轄の所で買うべし。

 ・パーティーを組むときは同じファミリアメンバーか、ギルドの紹介がオススメ。自分で選ぶ際は相手をよく見極めること。基本的に見極めることは難しいから、主神様や他のメンバーともしっかり相談すること。

 ・報酬など、金が絡むことは事前に明確に決めておく。揉める。

 

「他にも……」

 

 そう言ってベルの方を向くと、何やら悔しそうな顔をして下を向き、震えている。

 どうしたんだと聞こうとすると、その前に呂律が曖昧になった大きな声が聞こえてきた。

 

「それでそいつ、くっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

 

 と、笑いながら言う。

 あれか、この前すれ違ったロキファミリアの被害者。それにしても胸糞悪い。

 

「自分たちの失態を笑い話にするとはなぁ……上層に潜ってる奴がミノタウロスに勝てるわけねぇだろうが」

 

 吐き捨てるようにベルに言うが、反応はない。どうにも様子がおかしい。

 

「どうした、ベル? 大丈夫か?」

 

 体を揺らすが、歯を食いしばり、目を瞑っている。まるで拷問でも受けているような苦しそうな表情。

 流石にマズイのではないかと思って揺すったり、呼びかけるのを強くする。しかし、目を開いても下を向いたまま表情が変わらない。顔は血が上ったように赤い。

 そんな中でも酔った狂犬(バカ)の無様な暴言は止まらない。そして……

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 と言うや否や、突然椅子を飛ばして立ち上がり、突然集まった注目を振り切るように外へ飛び出した。

 

「おい、ベル!?」

 

「ベルさん!?」

 

 俺や店員さんが呼ぶが、それどころではないといった様子で気に止めることも無く走り去った。

 

「あぁン? 食い逃げか?」

 

「うっわ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて……怖いもん知らずやなぁ」

 

 そんな呑気な声が店内で広がる。

 

「……あぁー、すんません。ベルの分は俺が払います」

 

 そう言って残ったパンと肉を一口で平らげ、そしてベルが残していった少しのパスタを食べ切る。

 

「ふん。あの坊主に払わせる。アンタは自分の分だけでいい」

 

「いえ、パスタも食ったので。それと、多分金返しにくると思うので、その時はベルにコレ渡しといてくれませんか?」

 

 ベルのパスタも食ったし、まぁ俺も食ったってことになる……ハズ。あぁ、顔怖ぇなぁ。

 そう思いながら途中までしか書けていない常識リストに名前とファミリア名を書いて差し出す。

 あんな純粋なベルなら多分金を払いに来るはずだ。

 

「……まぁいいさ。ウチとしては金が入る。シルにでも渡しておくさ」

 

 険しい顔をしていたミアさんはため息をついてから笑う。どうやら了承してくれたみたいだ。

 

「……ありがとうございます」

 

 内心ビビり散らかしたが、なんとか表に出さずにすんだ。

 そして素早く代金を払って店を出る。

 ロキファミリアに文句の一つでも言ってやりたかったが、ベルがああなった理由もわからないし、それよりもベルが心配だ。

 そう思ってベルが去っていった方に走り出すが、どの店にも路地にも姿がない。あんな防具一つ装備していない状態で、ダンジョンに行くとは露ほども思わなかった。

 

 

 そして夜更けまで見つけることが出来ず、半ば自棄でダンジョンに入る。防具はなく、手持ちは常に持ち歩いているナイフひとつというダンジョンを舐めてるとしか思えない装備でだ。

 すると、6階層でボロボロのベルを見つけた。全身から血を流しながら戦っている。どれも致命的ではないようだが、それでも尋常ではない。

 ベルを後ろから襲いかかっていたウォーシャドウを仕留める。

 

「ベル!」

 

 声をかけるとコチラに気づき、糸が切れたように倒れこんできた。

 

「ごめん……カルロ……」

 

 掠れた声でベルは言う。

 

「何があったかは知らんけどな、命あっての物種だ。説教は主神様にしっかりして貰え」

 

 フゥと息をついてベルを背負い、ダンジョンから出る。6階層程度ならベルを背負っていても問題ない。

 

「ほらベル、地上だ。ファミリアの名前は? 本拠地(ホーム)どこだ?」

 

「う……ヘスティア、ファミリア……ここを真っ直ぐ……」

 

 ヘスティア・ファミリア。聞いたことが無いファミリアだ。そのため当然本拠地も知らない。

 そのためベルに案内させる。

 本来は小さなファミリアの本拠地なんて教えるべきでは無いし、聞くべきでは無いのだが、やむを得ない。

 バベルで薬を買い、案内のまま進んで辿り着いたのは街から少し離れた廃教会。その頃には夜も明けてきていた。

 前を見ると服を紐で止めている、痴女寸前の神様がいた。あの格好で神様じゃなければただの痴女だな。神様ならそういう神様としてまだ納得出来る。

 ともあれ、その神様らしき人は俺が背負ったベルに気づいたようで、駆け寄ってきた。

 

「ベル君!? だ、大丈夫かい!?」

 

「あー……ヘスティア様、ですか?」

 

「あ、あぁ。ボクがヘスティアさ。これは一体……」

 

「とにかく、ベルが寝れる場所ありますか?」

 

「う、うん! まずはそうだね! コッチだよ!」

 

 ヘスティア神はそう言って廃教会の中から地下に案内した。

 地下は思ったよりも狭く、一つだけあるソファーにベルを下ろし、(ポーション)を飲ませる。

 その後酒場での出来事やダンジョンの6階層で見つけたことなどの経緯をヘスティア神に説明し、しっかり叱るように言ってから帰った。ヘスティア神も引き止めることはせず、本当にありがとうと言って送り出してくれた。

 もう朝だし、起きている団員も何人かいるだろう。

 そう思い、朝帰りになったことをつつかれないように静かに作業場に入り、ぐっすりと眠りについた。

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