異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

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評価ありがとうございます。
毎日投稿が厳しくなってきやがったぜ……


第5話

 ランクアップしてから数日経った今、やれることが増えた俺は今日も新しい武具を彫る…………ということはなく、ダンジョンに毎日潜っていた。

 その理由は、レベル1→2のランクアップ最速記録を叩き出したことにある。

 大記録は他所(よそ)の神の興味を引き、勧誘の嵐。そして、今まで俺の武具に興味を示したことも無い奴らが作ってくれと押し寄せた。

 知名度が上がったが故の弊害だろう。団長にも言われてたし。

 しかしそこは天下の【ヘファイストス・ファミリア】所属ということに助けられた。【ヘファイストス・ファミリア】から公式に、無理な引き抜きに対する報復や俺への直接の注文は禁止が発表されたのだ。

 報復を恐れた神様の勧誘は遠回しなものになり、俺に直接接触してくる神や人は減った。

 だが作業場に忍び込んで来る者や入口で大声で依頼する者は未だにいる。

 そのため武具を作るどころではなくなってしまった。だから俺はダンジョンに潜り、素材を買うための金を今のうちに稼いでいる。

 パーティーを組むのも考えたが、今の俺では邪魔になるだろうし、ランクアップにも体を慣らしたい。

 よって今は一人で上層と中層を繋ぐ階段の近くで、中層のモンスターを狩ってまわっていた。

 深入りせずにヘルハウンドやアルミラージをちまちまと狩る。

 ヘルハウンドは口から繰り出される火炎攻撃を落ち着いて躱し、ナイフを投げて動きを阻害。そして怯んでる隙に近づいてハルバードで両断する。

 また、使ったナイフは魔石と共に拾って使い回す。

 アルミラージは手斧を投げてくるなら掴み取って投げ返し、近づいて攻撃してくるなら左手の手甲と一体化した盾で受け、すかさずハルバードで串刺しにする。

 それにしてもそろそろ盾にガタがきたな。接続部が危うい。また作るか。

 中層でも一対一ならまず負けないし、多対一でもナイフを使えば一匹ずつ削り潰すことが出来る。

 やはりランクアップの影響は凄まじい。今やっている戦法のどれもがレベル1では出来なかった。

 力、速さ、正確さの全てが底上げされている。

 

 

 ……よし、これでバックパックが満タンだ。水を飲んで喉を潤し、地上に戻る。

 すると丁度【ガネーシャ・ファミリア】がモンスターを地上に運び出すところだった。

 そういえばそろそろ怪物祭(モンスターフィリア)か……【ヘファイストス・ファミリア】も出店を出す予定のはず。

 その日くらいなら作業場で落ち着いて新しいナイフでも作れるだろう。

 怪物祭(モンスターフィリア)はオラリオ内でも有数の大規模な祭りだ。冒険者や神たちもメインイベントや出店回りに夢中になるだろう。

 それに円形闘技場(アンフィテアトルム)からかなりの距離があるし、出店が出る大通りからも離れている。

 寝る前の日課、腕を錆びつかせない為の武具作りも短時間だし、今のペースだと完成にあと一週間かかる。だからこそ久々の長時間作業に心が弾む。

 

 あ、祭りといえば確か次の神会(デナトゥス)はあと一ヶ月くらいだったか。

 その時に俺の二つ名が決まるんだな。なんか良さげな二つ名が貰えることを祈っておこう。

 そう思いつつ、食料を買い込んで作業場に戻った。

 

 

 

 

 

 

 怪物祭当日。

 早朝に起きて買い込んでおいた食料の中でも足が早いモノを選んで食べる。そして扉や窓を閉め切って外からの音を可能な限り遮断。まぁそれでも隣の鍛冶場の扉の開閉音は聞こえるんだが。

 そして作りかけのナイフを持ってきてノミとハンマーで彫っていく。

 ナイフの大まかな形は出来上がっているが、後は削りの甘い部分を調整し、頭に浮かぶ装飾を彫る。そして刃を付けて終了だ。

 脳内シミュレーションを済ませると、ナイフと繋がっている台を固定してノミを入れていく。

 

 

 トントンと音が響く。ノミの角度、そして叩く強さを慎重に、慎重に調節する。

 よし、これで側面や持ち手は完成だ。

 ランクアップによる力の上昇を調整するのには時間がかかったが、ランクアップによる器用の上昇によって力の調整やハンマーの打ち込む場所の正確さは飛躍的に上達した。

 これを体感するとわかる。たしかにレベル差を覆すことは非常に難しい。それ程作業がスムーズに行くのだ。

 だが力の加減や角度を間違えると刃なんてすぐに欠ける。先端も気がつけば折れている。ここはランクアップしても変わらない。

 そのため刃や先端は後回し。先に装飾を彫っていく。

 今回頭に浮かんだ模様は珍しく幾何的だ。なんというか、未来的。初めてだし、ちょっと楽しみだな。

 

 小さめのノミとハンマーに持ち変えてノミを入れる。

 ナイフの柄側から先端に向けて数本線を伸ばし、線を途中でカクリと折る。そして元の方向に戻す。また、途中で線を止めるようなものもある。

 彫り進めていくと、段々と未来の武器のような雰囲気が醸し出てきた。

 形も通常のナイフとは大きく異なっており、刃と持ち手の境目がほとんど無く、投げナイフをそのまま大きくしたような見た目だ。

 そして裏側も同様に彫り進める。

 

 ふぅ……なんとか模様は彫り終わった。そして後は刃と先端の調整だ。

 今までとは大きく違う、低い頻度の小さな叩く音。何よりも繊細に、一ミリのズレもなく。

 滲む汗を拭うこともせずに彫るが、眉に汗が溜まってきたのを感じたため、中断して汗を拭き取ってタオルを額に巻く。

 そしてもう一度彫り進める。

 

 

 そして一時間程が経って刃が完成した。

 これでナイフ自体は完成。

 後はナイフを切り離して名前を彫るだけだ。ちなみに今名前を彫ると台を含めて完成品になる。つまりは持ち手の端に刃が付いたタダの鈍器、大失敗作だ。多分斬れ味は無いに等しいだろう。

 

 そしてナイフを無事に切り離し、【カルロ・ヴァリ】の名を刻む。

 するとナイフは光り、銀色だった刀身や持ち手は色を変えて持ち手が黒く、刀身は少し青みがかった銀色になった。

 そしてそれと同時に今までとは違ってゴッソリと魔力を持っていかれる感覚。

 

「なんだ、これは……」

 

 三十六(セルチ)程のナイフを手に取ってまじまじと見つめる。

 魔力を取られるのも、色が変わるのも初めてのことだ。

 これもランクアップの影響か……? 

 いや、もしかして『発展アビリティ(神秘)』の影響か? 

 持ってみた感じでは特に違和感もないし、振っても何も無い普通のナイフ。また今度ダンジョンで試すか。

 

 

 ふぅと息をついて窓を開けて日の昇り具合を見る。昼過ぎってところか。

 思ったよりも時間食ってしまった。『生でも食える! 絶品野菜!』という触れ込みだった野菜をボリボリ齧る。

 いやコレ食えんことは無いけど、別段美味いって訳でもないな。

 

 ソファーに深く座って野菜を齧りつつ、先程のナイフを手に取って眺める。うーん、綺麗だ。よく見ると刀身の銀青色にある彫り込みの中は時間と共に色が変化している。魔剣ではないが、確実に普通のナイフでもない。

 俺は基本的には武器に名前はつけない。

 武器の性能が落ちるという理由ではなく、ピンとくるモノがなかったのだ。

 武器の性能は俺の名前を彫った時点で武器として完成するため、完成後に彫れば問題ない。そうじゃなければ手入れも出来んしな。

 

 そうだな……気に入ったし、名前を付けよう。今までは作ることに夢中だったが、よくよく考えれば作った武器に名前を付けるのは一般的だ。それに名前がついてると『名刀』っぽい。

 ……そうだな、名前を付けるにしても最初はやはりハルバードだろう。レベル1の最高傑作、俺のランクアップの象徴にしてメインウェポン。

 

 ハルバードを作業台に置き、文字を書く用の彫刻刀を手に取る。そして持ち手の端、俺の名前が書いてる下に記す。

 

始天(してん)

 

 天の領域へ辿り着く為の道の始まり。それを思って彫る。

 何か変化があるかと期待したが、どうやら銘を刻むことでは変化は無いようだ。

 ダメ元だった訳だが、少し残念。

 

 よし、次はナイフだ。

 えーと……『雪鋼(ゆきはがね)』っと。これは見たときからピンと来ていた。

 うん、やはり変化はない。まぁそれは良い。

 

 

 気分転換も終えた所で縦横五十(セルチ)、高さ二十(セルチ)の鋼鉄塊を取り出す。

 今度は手甲と盾を一体にした防具の作成だ。おそらく今から作り始めると出来上がるのは夜中か翌日の朝。

 中をくり抜くことや、手にフィットさせる為の開閉機構も彫らなければならない。

 まぁそういう機構はそれっぽく彫れば自動的に機構として完成させてくれる。しかし完成度を高めるためにはより精密に彫らなければならない。

 あれ、下手をすると明日の朝では済まないかもな……

 

 頭の中で思い描いた防具を全ての面に、その面から見たものを彫刻刀で描く。

 そして大きなノミを使って余裕を大きく持たせて削り、徐々にノミの大きさを小さくしていって段々と脳内の防具の形に近づける。

 そして時間をかけてシルエットはほぼ完璧に削り取った。

 そこからは盾の装飾や機構を彫っていく。そして手甲内部に入れるクッションを固定する為の反りも作る。

 

 

 

 俺は当初の予想を遥かに超えて超長時間彫り続けることになり、出来上がった頃には次の日の陽も沈む間際だった。

 装飾や機構を彫り終わっても集中が途切れることなく、音と色が消えた世界で土台と切り離す。

 そして最後に名前を彫り込むと、フッと一瞬で意識が飛び、防具と共に床に転がった。

 




未だに決まってない二つ名、神会は目前。やべぇ……
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