異端の武具職人が神の領域を目指すのは間違っているだろうか   作:のん野のん太郎

9 / 22
評価ありがとうございます。
不意打ちの30分早めの投稿!
そしてサンブレイクが始まりました。毎日更新の危機だぁ……


第9話

「……! ……は…………だ!」

 

 遠くから聞こえる声を追いかけるように意識を浮上させていく。段々と声がはっきりと聞こえるようになり、靄がかかっていた思考も徐々に回復してきた。

 たしか俺は……

 

「っ……!!!!」

 

 無理矢理体をたたき起こし、跳ね起きる。そして『始天』……『雪鋼』……投げナイフ……クソッ何も無い! 

 慣れない素手の戦闘を想定して前を向くと、そこには【猛者(オッタル)】の姿はなく、今朝見た【ロキ・ファミリア】の幹部たちの背中が見えた。体は傷一つないが、胸当ての大きな歪みが夢ではないと証明している。

 状況を飲み込みきれないでいると、口の中の血と砂の感触に気づいて思わず咳き込み口から吐き出す。すると砂の混じった血の塊が口から零れ、べチャリとダンジョンの床に落ちた。

 

 彼らはその音で俺が起きたことを感じ取り、【怒蛇(ティオネ)】はチラリとこちらを向いたがすぐに前を向き、【九魔姫(リヴェリア)】と【勇者(フィン)】だけが振り返ってこっちに歩いてきた。

【九魔姫】はローブが血で濡れた小人族(パルゥム)を抱えており、一つ一つの丁寧な所作からその小人族への慈しみを感じ取れる。

 

「起きたかい? オッタルがいた部屋に君は倒れていたんだ。説明しても、いいかな?」

 

【勇者】はいつもの爽やかな笑みで俺に話しかけてくる。相違点が見つからない程いつも通りの笑み。裏で考えていることが分からないそれが俺は苦手だった。そんな彼を真正面に見据え、居心地の悪さを感じながらも頷いた。

 

「はい……いや、ミノタウロスは!? ミノタウロスはどうなりましたか!? 犠牲者は!?」

 

 頷いてすぐにミノタウロスに襲われている冒険者がいたことを思い出す。

 声を荒げながら聞くと、【勇者】が答える前にこちらを見向きもしなかった【怒蛇】が口を開いた。

 

「団長に大きな声出すな!今、丁度戦ってるわよ」

 

 まさかそんな事があるのかと【勇者】と【九魔姫】の顔を見ると、首を縦に振った。

 何を呑気に、コイツら馬鹿じゃないかと思いながら急いで前に進む。血が減った為か少しクラクラするが、歩けない程ではない。少し時間をかけて【ロキ・ファミリア】の幹部たちが見る戦いの見れる場所に着く。

 そしてそこで信じられないものを見る。

 片角のミノタウロスと白髪の冒険者、ベルが命を削った戦いに身を投げている光景だった。

 ベルはレベル1の筈だが、ミノタウロスと互角に戦っている。どちらが勝ってもおかしくないと思える程に拮抗した死闘。

 地面はミノタウロスの攻撃によって凸凹が目立っており、戦闘の苛烈さの証明だ。

 自分では経験のない、英雄譚の山場のような戦いに目が釘付けになり、魅了される。

 あらゆる技を。

 あらゆる駆け引きを。

 あらゆる機転を。

 あらゆる武器を。

 あらゆる魔法を。

 この一戦に、そそぎこむ。

 そしてミノタウロスも通常のモンスターと異なり、力任せな攻撃だけでなく確かな技術と駆け引きを感じ取れる。

 ミノタウロスは既に全身から血を流しているが、致命的なものはなく、ベルは体の各所から血を流しており、その傷は一つ一つが軽くない。どちらも長期戦は出来ない様子だ。

 手を突き出し、ノータイムで放たれる炎雷。

 観客たちはその無詠唱魔法に驚くが、決定打になり得ないという評を下す。中層でも並外れた耐久を持つミノタウロスには威力不足と。

 そして決定打を持たないベルは攻められる時間が長くなっていき、ミノタウロスがそのまま押し切ると思われた。

【勇者】も冷徹なまでに淡々と言う。

 

「彼には、武器がない」

 

 ベルが衝撃波に踊らされながらも地面に着地する。

 そして、 折れたバゼラートを牽制に使って白いナイフで斬り掛かり、ミノタウロスは不安定な体勢のままそれを大剣の腹で受け止めようとする。

 しかしベルはそれを予期していたようで、右手の白いナイフを手放し、左手に隠し持っていた漆黒のナイフが逆手に持って大剣の柄を握るミノタウロスの右手に叩き込まれた。

 漆黒のナイフは光が当たって紫紺に煌めき、ミノタウロスの強靭な筋繊維と骨を断絶して大剣ごと腕を斬り飛ばした。

 

 そしてすぐさま大剣を両手で掴み取り、武器の重さ、そして肉厚の刃を駆使してミノタウロスを追い詰める。

 大剣に振り回されているような下手くそな戦い方だが、流れは完全にベルにあった。その怒涛のごとき勢いはミノタウロスを圧倒し、ナイフのような浅い傷ではない、確かなダメージが裂傷として蓄積されていく。

 

 そしてミノタウロスは吹き飛ばされ、間合いがおおよそ5Mになった。

 ミノタウロスは両手を地面に振り下ろして地面を踏みしめ、頭を低く構える。臀部の位置は高く保たれ、猛牛を彷彿とさせる姿になった。

 ミノタウロスの必殺技とも言える強力無比なラッシュ。

 ミノタウロスが大きく吼えて走り出すと、ベルはそれに応えるように大剣を構えて突っ込む。

 多分、ヤバい。あの大剣は決して良質なものでは無く、もう既に限界だ。今までの激戦で砕けなかったことが奇跡とも思える程に摩耗していた。

 そんな状態の大剣がミノタウロスの全力の一撃に耐えられる道理はない。

凶狼(ベート)】からは罵声が、【九魔姫】に抱えられていた小人族からは悲鳴が響き渡るが、ベルとミノタウロスは加速を続ける。

 一気に間合いが縮まり、大剣の振り下ろしと残った片角のすくい上げが衝突した。

 そしてブレーキにならない程簡単に大剣が砕ける。ミノタウロスの角は傷一つ付いておらず、ミノタウロスは自らの勝ちを確信して剛毅な笑みを浮かべた。

 しかし、砕けた大剣に紛れてベルがミノタウロスのすぐ後方でナイフを突き立てる。

 右手を斬り飛ばした時のように、 天然の鎧を貫いて右脇下にナイフが突き刺さった。そしてそのまま砲声した。

 ファイアボルト、と。

 ドゴンッ、とミノタウロスの全身が痙攣し、胸板が膨張する。体に走った無数の傷からは火炎の息吹が溢れ出し、ミノタウロスの目が限界まで見開かれた。

 ミノタウロスはこれはマズイとベルを引き剥がそうとするが、ベルは何度も何度も続けた。

 ファイアボルト。ファイアボルト。ファイアボルト。

 魔法を繰り出す度にミノタウロスの上半身が膨れ上がっていき、遂には鼻腔や口腔、目からも炎が噴出した。

 そしてミノタウロスの超強力な肘鉄がベルに到達する直前に唱えた速攻魔法。

 それによってミノタウロスの上半身は限界を迎え、空気を入れすぎた風船のように爆散して粉々に弾け飛ぶ。そして体内で暴れ回っていた炎は押さえつけるものが無くなって大きな炎の花を咲かせた。

 

 そして最後に残ったのは気絶しながらも未だに立つベルと大きな魔石が一つ。誰がどう見てもベルの勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺とベル、ベルのサポーターの小人族リリルカ・アーデは【九魔姫】と【剣姫】によって地上に連れていかれた。

 武器は大剣以外の落ちていたものを纏めてくれており、『始天』以外は無事に回収出来た。だが『始天』はオッタルとの攻防の際に柄が歪み、斧刃には【猛者(オッタル)】が掴んだ箇所に小さくヒビが入っている。これではもう使えない。修復しようにも正直不可能だ。それでも大切な俺の相棒。俺はこれ以上ヒビが広がらないように穂先を布で包んで持って帰った。そして【猛者】を10回泣かすと心に決める。

 その後帰り道で俺にあったことを言い、俺が気絶した後のことを教えてもらった。

 俺が倒れた直後に【剣姫】は広間に到着。【猛者】の足に突き刺さったナイフを見てそれはもう驚いたそう。

 そして【猛者】は俺を抱えて壁際に寝かせ、万能薬を使って俺を完治させたらしい。

 そして【猛者】は【剣姫】も足止めしようとしたそうで、しばらく戦った後追いついた【勇者】や【凶狼】たちによって撤退した。

【猛者】は去り際に俺への謝罪としてこれを届けてくれと【ロキ・ファミリア】に言い残し、去っていったらしい。

 誰が許すかよと思いながらその包み紙を受け取って開けると、中には見たことの無い色の薬が1ダース。

 瓶をつまみながら頭の上にはてなマークを出していると、【九魔姫】が微笑みながらこれが万能薬だと教えてくれた。

 そのとき、俺は18年の人生の中で一番驚いた。口を大きく開け、目が尋常ではない程泳ぐ。

 万能薬は一つあたり約50万ヴァリス。それが1ダース。俺の1年ダンジョンに潜って稼ぐ金額以上だ。多分目がヴァリス模様になっていただろう。

 許すわけはないが、【猛者】を泣かすのは5回にしてやろう。

 




『あらゆる』が5行連続するところ、ソード・オラトリアの中で一二を争うくらい最高に好きです。
改めて思うこと…………ベル君つっよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。