今日の空、まさに快晴。雲なんて殆どない。何て素敵なお弁当日和なんだろう。
瑞希がビニールシートを用意した。他に人がいない事もあり、貸し切り状態となった。もうこれ軽いピクニックだよね。
それはそれとして、気になるな〜瑞希のお弁当。
「あの、あんまり自信はないんですけど……」
そう言うけど、瑞希が出した重箱の蓋を開けた。
「おおおぉぉっ!!」
私達は一斉に歓声をあげる。唐揚げ、エビフライ、おにぎりにアスパラ巻き、定番と言えば定番だけど問題はそこじゃない。
こんな綺麗に納められた食べ物達、しかもおかずの一つ一つがとても良く出来ている。特におにぎりなんてお米一粒一粒に艶がある。美味しそう……ん?だけど何だろこの匂い?何か僅かに変な匂いが……
「それじゃ、雄二には悪いけど先に……」
(ヤバい!この匂い……)
「……(ヒョイ)」
匂いの正体に気が付いた時には遅かった。吉井君がつまみ食いしようとした時、素早い動きで土屋君がエビフライをつまんで口に運んでいた。
バタッ ガタガタガタガタ
土屋君が豪快に倒れて痙攣してる。それを見た私達は顔を青ざめてしまっている。いや、青ざめて当たり前だろう。
「わわっ!土屋君?!」
慌てた瑞希が皆に配ろうとしていた割り箸を落とした。
が、途端に土屋君が起き出し……
「……(グッ)」
サムズアップ。けどまだ痙攣してるし、顔色悪すぎでしょ?!明らかに瑞希のお弁当が原因だよね?!何でそんな『美味い!』みたいなリアクション?!
「お口に合いましたか?良かったですっ」
アンタの目は節穴かぁっ?!サムズアップする前の反応見たらそんな満面の笑みで喜ばないでしょうがよ!
「良かったらどんどん食べてくださいね」
ヤバい、瑞希のような可愛い笑顔で勧められると断りにくい!
この子自覚ないだろうけど、この子の方が本物の悪魔だよ!こんな無自覚に作り出した凶悪兵器をそんな満面の笑みで勧めるなんて!
だけど瑞希の笑み、男子にはかなりの破壊力だよ!特に吉井君が!
(吉井君、秀吉君、死にたくなかったら食べるんじゃあない!)
何とかアイコンタクトで伝える。
二人は気付いてないけど、さっきの匂いの正体は塩酸だ。っていうかどんな思考回路をしたら料理に塩酸をぶちこもうなんて考える?塩麹と間違えたんだよね?きっとそうだ。そうに違いない。
とはいえこれが悪戯だとしても、これは明らかに度を越している。悪魔である私ですら悪戯でも料理に塩酸を使おうなんて真似はしない。
けど瑞希の性格上、そんな事はあり得ない。つまり、これが瑞希の料理の腕だ。
しかしどうしたものか、瑞希を傷つける事なくこの殺傷力満点の凶悪兵器を処分する方法が思い浮かばない。いやそもそも……これ詰んでるっぽい。
そんな方法なんて、最初からどこにもないんだ。多分悪戯したツケが回ってきたのかもしれない。神様、どうもすみませんでした。
「わ、私が食べ……」
「おう、待たせたな。へぇ、こりゃあ美味そうじゃないか。どれどれ?」
ここで飲み物を買ってきた雄二が卵焼きを口の中へと放り込んだ。
「あ……」
雄二が来たのに気付くのが遅かった。とはいえ、今度は雄二が犠牲になった。
見事に倒れた雄二をまともに見ることなく、この危機的状況を回避する為の策を思案する。雄二が何かアイコンタクトを取っているが、今はそれどころではなぁい!
「ちょ、坂本?!どうしたの?!」
美波、君が知る必要はない。
「あ、足が攣ってな……」
そうだ、君は足を攣ったんだ。
「あはは、ダッシュで階段の昇り降りしたからじゃないかな」
ナイスアシスト吉井君。
「そうなの?坂本ってこれ以上ないくらい鍛えられてると思うけど」
こらぁ美波ぃ。余計な事を言うんじゃぁない。こうなったらここは美波には退場してもらうしかない。
「あ、美波」
「どうしたの?」
「さっき、虫の死骸がついてた」
「えぇっ?!早く言ってよマリ!」
まあ、嘘なんですけどね。けど騙された。
「早く手を洗って来なよ」
「そうね、ちょっと行ってくる」
何とか邪魔者は消えた。だが別に解決策が思い浮かんだわけじゃない!どうする?!久しぶりだよこんな進退窮まった状況!
一先ず、生き残りの皆と作戦ターイム!
(浦方さん!何か良い方法はないの?!)
(そんなすぐには思いつかないよ!)
私は悪知恵に関しては機転が利くが、それ以外に関しては凡人なのだ。
(明久、今度はお前が行け!)
あ、雄二まだ生きてたんだ。てっきりお陀仏になったかと思ってたけど、もうその一歩手前まで行ってるよね。
(無理だよ!僕だったらきっと死んじゃう……)
普通だれが行っても死ぬと思うな。秀吉君も流石に躊躇ってるみたいだし……しかたない、もうこれしか方法はない。
再び吉井君とアイコンタクトと野球でよくあるサインを吉井君以外にバレないように送る。
(吉井君、私が時間を稼ぐ。そうしたらそのおかずを……)
(分かった!)
とりあえず伝わった。よし、ブレザーのポケットから蜘蛛のおもちゃをさり気なく投げる。とりあえず屋上の扉の方に投げたら
「あっ!瑞希!そこに蜘蛛の死骸が!」
「ひゃぁっ!な、な、な、何ですかぁ?!」
よぉし!瑞希の注意を逸した!今だ吉井君!
(おらぁっ!)
(もごぉっ!)
瑞希が見ていない隙に、吉井君が
もう犠牲者を出さずにこの凶悪兵器を片付ける事を諦めた。だったら犠牲を最小限にしようと、雄二をスケープゴートに選んだ。
雄二って、小学生の頃にデスソース饅頭を三個も平らげたからね。まあ私の悪戯で本物のこし餡の饅頭とすり替えたんだけど。
こら、吉井君!雄二の口からお米が一粒落ちたよ!米粒一粒も残さず食べましょう!
「これでよし」
何とか片付いたみたいだね。これで私はお役御免になった。蜘蛛の死骸と偽った玩具をポッケにしまって、あたかも捨てたように振る舞う。
「これでオッケー。あービックリした」
「そうですね。私もビックリしました……」
安心した私達が振り返ると、なんてことでしょう……野生の赤毛ゴリラの死体が目に映るではありませんか。
「お主らも存外鬼畜じゃのう……」
秀吉君が何か言っているが、気にするな!
「あ、もう食べ終わっちゃった?」
「うん。美味しかったよ。ご馳走さま」
「うむ、大変良い腕じゃ。」
「早いですね。もう食べちゃったんですか?」
「雄二が半分以上食べちゃったんでしょ?アイツってば、小学校の時も給食が足りないからって私の分も食べてたんだから」
※なお今の話は半分だけ本当にあった出来事です
「そうですかー。嬉しいですっ」
ほにゃぁっとした笑顔の瑞希。そんな笑顔を見せられては、何でも許したくなってしまう。
「あ、ありがとうな……姫路……」
ほら、こんなゾンビみたいな状態になった雄二もこの通り。けど、本当にヤバそう。目が死にかけてる。
「あ、そうでした」
瑞希が何か思い出したかのように、ポンッと手を打った。
「どしたの瑞希?」
「実はですね……」
ガサゴソと鞄を探ると……
「デザートもあるんです」
な……な……何だとおおおおぉぉぉーーーー?!そんなの聞いてないぞおおおぉぉーーー!!
「あっ!姫路さんあれは何だ?!」
よし、吉井君が瑞希の注意を逸した!けどどうすればいい?!既に死にかけの雄二にあの殺人ヨーグルトを食べさせたら確実に命はない!
どうする?!もう流石に都合のいいスケープゴートはいない。吉井君と秀吉君にあれを食べさせるのは流石に気が引ける……
(俺なら良いのかマリ……!)
何か雄二の幻聴が聞こえてきた気がする。これはあれか……もう腹を括れということか。仕方ないか……後ろで作戦会議をしている三人(そのうち一人は死にかけ)の間に割って入る。
(私が行く……)
(浦方?!お主正気か?!)
(駄目だよ浦方さん!そんな事をしたら死んじゃうよ!)
うん、そうかもね。けどさ、もしかしたらデザートは大丈夫だったりするかもよ?
「じゃあ瑞希。ヨーグルト頂戴」
「はい。あっ、ごめんなさい。スプーンを教室に忘れちゃいましたっ」
確かに容器に入ってるフルーツミックスヨーグルトを箸では食べられないわな。
「取ってきますね」
階段を降っていった瑞希。けど、見ていない方が都合が良かった。
「じゃあ、この隙に食べますか……」
本当は嫌だけど。
「すまんマリ……」
「ありがとう浦方さん」
「すまぬ……」
「良いよ三人とも。そうだ」
「どうしたの?」
「もし私が倒れた後でお腹空いたら、そのサンドウィッチ食べていいよ」
多分、これを食べた後は私お手製のサンドウィッチを食べている余裕はないからね。それに、お腹空かせたままっていうのも気が引けるし。
さて、瑞希が戻って来る前に食べるとしますか。
「いただきます!」
容器のヨーグルトを口の中に注ぎ込んで、それを飲み込んだ。
あ、お婆ちゃん……会いたかったよ……
バタッ チーン
「浦方さああぁぁーーーん!!」
一輪の花が、儚くも散った。
バカテスト
問 以下の問に答えなさい
マザーグースの歌の中で、『スパイスと素敵なもので出来ている』と表現されているものは何でしょう
姫路瑞希の答え
『女の子』
教師のコメント
正解です。流石ですね、姫路さん。
女の子の材料は砂糖とスパイスと素敵なもので、男の子の材料はカエルとカタツムリと仔犬の尻尾と歌われています
吉井明久の答え
『カレーライス!』
教師のコメント
女の子は食べ物ではありません
浦方真梨香の答え
『瑞希のお弁当……ゴハァッ!』
教師のコメント
一体何がありましたか?