機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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幕間 あがき

 

 

「なぁ、おいって!」

「何よ、ついて来ないで!」

 

 アークエンジェルの艦内を歩く2人の男女。

 追い縋るディアッカ・エルスマンと、逃げるミリアリア・ハウである。

 

 事は1時間程前に遡る。

 

 タケルとアスランが引き起こした『カガリ裸未遂事件』の際にディアッカが放った一言を、傍で耳に入れたミリアリアは、そのデリカシーの無い発言に“最低“と呟いた事に端を発する。

 

 至極、どうでも良い。

 

 とは言っても、ディアッカからすればなぜか最低と蔑まれのだから必死だ。

 彼は一度彼女の琴線に触れる、とてつも無い爆弾を落としている。

 知らずまた自分の言葉が彼女を傷つけてしまったのでは無いかと、焦燥に駆られていた。

 

「なぁ、おい待てってーの!」

「放してよ。っていうかなんでついて来るのよ!」

「だってお前、また怒ってるじゃんかよ!」

「怒ってないわよ。アンタのデリカシーの無さに呆れてるだけ」

「はぁ? デリカシーって、さっきの格納庫での奴か? あんなの男同士なら普通の会話だろうよ。俺達もうガキじゃ無いんだぜ?」

「ガキで悪かったわね、大きなお世話よ!」

「そういう意味で言ってねえだろって」

「周りが皆そうだと思ってるのがおかしいって事よ!」

 

 再び歩きだそうとするミリアリアを、しかしディアッカはその腕を取って止めた。

 

「放してって!」

「あぁもう悪かったって。気遣いが足りなかった……そういう事だろう。だから怒らないでくれって。

 お前に嫌われるのは……ちょっと堪えるんだからよ」

「なっ、何よ急に。変な事言わないでくれない?」

「マジな話だっつぅの!」

 

 思わず語気が強くなってしまう。慌てて取り繕う様にミリアリアの腕を離して、ディアッカは真剣な面持ちでミリアリアと真っ直ぐ相対した。

 

「俺はその……お前に本当に酷い事を言っちまった。

 悪いと思って謝ったし、お前も許してはくれてるけど、やっぱりそれだけで済ますには足りないくらいに酷い事を言っちまった」

 

 捕虜として最初に捕われていた時。

 知らなかったとは言え、自身の不用意な発言がもたらした事件が、ディアッカの心を罪悪感で埋めた。

 死した彼女の大切な人間を、それは酷い言葉で侮辱したのだ。殺されかけた事、ディアッカは怒りなど覚えるはずもなく納得した。

 殺されても文句を言う資格が無い程、彼女を傷つける言葉を吐いたのだ。

 

「だから、もう俺の言葉でお前の事を傷つけたくねえんだ。

 お前がそういう顔するの見ると、罪悪感が湧いてきて仕方ねえんだ」

「な、何よそれ。私は別にもう──」

「気にしてないのはわかってる。だけど、それで簡単に許されて良い言葉じゃなかっただろ。あんな風に、躊躇なく殺したくなるほど憎しみを抱くなんて……」

「や、やめてよ……それなら私だって、アンタを迷わず殺そうとしたのよ。許されないって言うなら同じじゃない」

「それは俺の言葉のせいだろ。あんな風になっちまう程、お前の心を傷つけた──正直、一生分の傷をつけちまったって思ってる。だから、お前が傷つくの……もう見たくねえんだよ」

「もしかしてそれでアンタ──今日バスターに乗って?」

「あ、あぁ。オーブを守ろうとしてるお前の顔を思い出したら、居ても立ってもいられなくて……」

「そう……なんだ」

 

 ミリアリアも含めて、アークエンジェルの皆が不思議に思っていたディアッカの行動。その理由に触れて先程までささくれ立っていた自分の気持ちが落ち着き、どこか胸が温かくなるのをミリアリアは感じた。

 まさか今日の介入が自分を想って……それも自身を悲しませたく無いなどと言われてはいくら毛嫌いしていようとも、悪く思う事はない。

 胸の内を締めるのは微かな嬉しさの熱であった。

 

「その、ありがとう……アンタのおかげで、アークエンジェルもオーブも助かったわ」

「別に礼なんか要らねえよ。俺は、自分がそのままじゃ耐えられなかったから戦っただけだ」

「だったら、私だってお礼を言わないままじゃいられないからちゃんと言わせてもらうわよ──助けてくれた事、その……感謝してるわ」

 

 少しだけ恥ずかしそうに、視線を合わせない様にしたまま礼を述べるミリアリアに、ディアッカは僅か見惚れた。

 考えてみれば、彼女が年相応に少女らしい気配を見せたのは初めてだ。

 最初の邂逅は空前絶後で最悪の黒歴史であったし、それ以降は決して良い関係では無い。

 ミリアリアが悪感情では無く、好感情を向けてくれたのはきっと今が初だ。

 

 そして、その姿にディアッカは見惚れてしまった。

 

「な、何よ。急に黙って」

「いや、お前って……そんな女の子らしい顔するんだなって思って」

「はぁ? 今までは女の子らしく無かったって、そう言いたいの? アンタ、さっき自分で何て言ったかもう忘れたわけ?」

「い、いや違、違うってマジで! これまでと全然違う雰囲気で可愛かったから!」

「はぁ!? な、何言ってるのよホント!? 意味わかんないもう! おやすみ!」

「あっ、おい!!」

 

 顔を朱に染めてその場を去っていくミリアリアに、今度こそディアッカはその背を見送った。

 

 やっちまったと肩を落としてその場に立ちすくんだディアッカを、一部始終を見ていたマードックがバスターの整備話がてら声をかけて連れて行く。

 お陰でその夜、ディアッカは余計な事を考えずにバスターの事に専念することができた。

 

 

「────何考えてるのよ私は。こんなの……トールに悪いじゃない」

 

 

 その日。少女は1人、胸の内に居座り始めた小さな想いを自覚して。

 1人静かな部屋で思い悩むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静まり返ったモルゲンレーテの格納庫で。

 タケルとカガリが揃って端末の前に佇んでいた。

 

 2人の前には金色の鏡面装甲を持つカガリの機体、アカツキが鎮座している。

 タケルが設計したアカツキの完成度としては50%。バックパックの武装がまだ出来上がっておらず、本来欲しかった装甲の新規技術も完成を見られず。

 いうなればこれは、タイプゼロ。

 ORB-01 アカツキ・零式、と言った所だろうか──実戦には本来出せない未完成機体である。

 

 だが、それを2人は次の戦闘に投入する気でいた。

 

「どうだ、兄様?」

「──もう終わるよ。そしたら一度乗ってシステムを起動してみてくれる?」

「あぁ、わかった」

 

 タケルの言葉に従い、カガリはラダーを使ってアカツキへと乗り込んでいく。

 数分後には調整を終えたタケルの声が響き、カガリはアカツキのシステムを起動した。

 

「どおー?」

「あぁ──問題は無さそうだ」

「OK。それじゃ降りてきて」

「あぁ、わかった」

 

 システムをシャットダウンしてから、カガリはアカツキを降りてタケルの元へと戻った。

 既に夜も深い時間。激戦をくぐり抜けたオーブ軍は皆休息をとっていた。

 静寂に包まれた格納庫の暗がりの中、照明で照らされたアカツキが殊更輝いて見えて、カガリは少しだけ自身の専用機という特別感に胸が躍る気がした。

 

「良い、カガリ? 戦うことがカガリの目的じゃないからね」

「兄様、わかっている。私の役目は演出して見せること──何度も聞いた」

「カガリが思うよりずっと、カガリ・ユラ・アスハの名前は大きな意味を持つんだ。

 内外問わず広く知られるオーブの獅子、父さんの娘。そんなカガリが前線に立ち、戦う姿勢を見せる事で味方を奮い立たせ敵の戦意をくじく。それが、カガリの役目」

「だが兄様……それでどうにかなるのか?」

 

 投げられた問いに、タケルは考える様にして曖昧に視線を逸らした。

 

 確かな事として、今日はどうにかなった。だが、明日も同じようになるとは限らない。心配の種はいくつもある。

 

 今日出たオーブ軍の損害。連合の損害とは比べものにならないとはいえ、少なくない命が失われている。

 数で圧倒的に劣るオーブが、その戦力の数を減らせば劣勢は明らか。

 プラントと連合の戦争を縮小したような状況だが、MSとMAの違いに比べれば、体勢を決めるストライクダガーとアストレイの差はそこまで大きくはない。

 

 防衛戦と言う不利な状況で戦っている事も考えれば、今日の結果こそがおかしいのである。

 オーブが抗い切ってしまった以上。連合の再侵攻には相応の戦力が投入されるだろう。

 

 そして、次は恐らくあの紫の新型も最初から……そう思ったところで、タケルはさらなる不安に駆られる。

 

 勝てるのだろうか──あの機体に。

 SEEDを発現し、シロガネを駆り。自身が最高の戦力を伴って対峙したと言うのに、それを制した向こうにはまだ余裕があったような気がしていた。

 実際去り際には余裕と取れる通信を飛ばしてきていたのだ。

 

 ラウ、アスラン、ミゲル。これまで強敵と呼べる者達と戦ってきたが、彼等と比べても、今日対峙した相手は一線を画す実力である気がした。

 

 

「兄……様?」

「あ、ううん、なんでもないよ。

 なんとかなるか、じゃなくてなんとかするのが僕の役目だし」

「そうやってまた1人で──」

「その通りですわ、お兄様」

 

 飛び込んでくる声に振り返る。

 カガリが視線を向けた先には、オーブの軍服を纏ったサヤ・アマノの姿。

 思わずカガリの表情に嫌な気配が漏れてしまうのは、残念ながら2人の確執が未だ消えていないと言う事なのだろう。

 

 タケルはウズミの想いを知ったし、ユウキの苛烈な教育の意味も知った。

 今のタケルは以前よりずっとアスハもアマノも大切だと捉えてるし、どちらの父も大切となったわけだが、かとい言ってこれまでが消えるわけではない。

 依然としてサヤはアスハの家に根深い反感を持っているし、カガリもまたアマノの家を毛嫌いしている。

 この2人の間をこれから取り持って、少しづつでもすれ違いを解きほぐしていきたいとタケルは思うものの、前途多難な様子に辟易してしまう。

 

「何しに来たんだ。サヤ」

「ご挨拶ですね。サヤはお兄様に呼ばれてきただけです。もしや、自分だけ呼ばれたとでもお思いですか、古妹」

「何っ!」

「はいはい、待った待った! ケンカさせるために呼んだ訳じゃないよ、サヤ」

「申し訳ありませんお兄様。それで、何用ですか?」

 

 言われっぱなしで終わるカガリが不完全燃焼な顔を見せる中、それを視界に入れないようにしつつ、タケルはアカツキの隣にあるM2アストレイへと視線を投げた。

 

「M2アストレイ。これがサヤを呼んだ理由でしょうか? しかし、装備が……」

 

 サヤが訝しむ。

 照明で照らされているM2アストレイは機体こそサヤの知るものであるが背部のバックパックは大きく異なっていた。

 巨大なスラスターとウイング。高出力を望めそうな大型の砲塔など、どれも高い機能を持っていることが窺える。

 

「うん、これはアカツキのために試作していたバックパックをM2用に改良した新ウェポンパック────M2アストレイ・オオトリ装備だ」

「オオトリ装備、ですか」

 

 タケルは目の前の端末に機体データを呼び出してサヤとカガリへと見せる。

 

「パワーエクステンダーで出力が確保できたからね。大気圏内での飛行能力を持たせる大型スラスターと、背部の高出力火砲に対艦刀。戦闘能力なら、M2の皮を被ったアカツキみたいなものだ──これを父上の指示でサヤに託したい」

「父上からの指示ですか」

「勿論、僕からも異論はないよ。サヤなら扱い切れるし、使いこなせる。

 何より、今日みたいに燻らせずに指揮系統から外すことができるからね」

 

 国防軍の一小隊に組み込まれ、自由が利かない状態で燻らせておくには惜しい。

 タケルが知るサヤ・アマノの実力は、隊に編成されずとも十分な戦果を叩き出せるものだ。

 エースパイロットとして自由に動けるだけの性能をもった機体が必要であった。

 

「サヤ──これで、カガリの直衛について欲しい」

「そのような任務……お兄様は人使いが荒いですわ」

「茶化すな、サヤ・アマノ。私達はそれぞれ、オーブを守る為に最大限の出来る事をしなきゃいけないんだ」

「それは理解しています、カガリ・ユラ・アスハ。

 ですが、お兄様直々に私が毛嫌いする貴方の守護にあたれなどと──せめてご褒美を戴けなくてはサヤの気持ちが起こりません」

「ご褒美って……サヤは何か欲しいものがあるの?」

「それはもちろん! 戦場に出た事で昂ってしまいましたので、お兄様の貞操を──」

「サヤがやりたくないなら父上にでも出てもらうしかなさそうだね。カガリ、父上を呼ん──」

「冗談です! 冗談ですのでお待ちください、お兄様!」

 

 そろそろサヤの扱いにも慣れたもの。

 タケルは無感情な声でカガリへと告げて、カガリもまたよし来たと言わんばかりに力強く頷くと、呼び出し用の携帯端末を取り出した。

 サヤは慌てて平伏す用に、タケルへと縋った。

 

「うぅ、酷いですお兄様。そのように古妹と組んでサヤを虐めるなどと……ハッ、まさかこれもお兄様の歪んだ愛情表現という事でしょうか?」

「──カガリ」

「任せろ」

「お兄様、後生ですから何卒、ご容赦くださいませ!」

 

 再び平謝りするサヤ。

 はぁ、とそれは大きいため息をついてから、タケルはカガリと顔を見合わせて小さく頷いた。

 呼び出しの端末をしまうカガリを見て、サヤも安心したように一つ息を吐いて立ち上がる。

 

「兄様は忙しいんだ。あまり無駄な時間を使わせるな、サヤ」

「くぅ、ここぞとばかりに勝ち誇った顔を……」

「というか、そんな褒美として求めなくても、下らない話じゃなければ、サヤの言うことくらいなんでも聞いてあげるよ」

「ほ、本当ですかお兄様!」

 

 復活とばかりに目を輝かせ、サヤはタケルへと詰め寄った。

 

「その年で国防の為に過酷な防衛戦に出てもらって、その上今もなお厳しい重荷を背負わせようとしているんだから。僕は出来ることはなんでもしてあげるつもりだよ──大切な妹なんだから」

「うぅ、お兄様──サヤは本当に嬉しく思います」

「ふふ、それじゃ少しだけシミュレーター行こうか。サヤなら使いこなせるとは思うけど、各兵装の使い方を熟知してもらいたいし」

「はい!」

「あら、それならちょうど良いから彼女も混ぜてくれないかしら、アマノ二尉」

 

 飛び込んできた声に3人が目を向けると、格納庫の暗がりの中から2人の女性が現れる。

 エリカ・シモンズとアイシャの2人であった。

 

「エリカさんに、アイシャさん。お疲れ様です」

「お疲れ様。シロガネ、大活躍だったそうね」

「えぇ、お陰様で」

「それで、こちらがもう1人の、貴方の妹さんね」

 

 タケル、カガリ、そしてサヤへと視線を移し、エリカは小さく微笑んだ。

 エリカの視線を受け、サヤは居住まいを正して答える。

 

「初めまして、エリカ・シモンズ主任。国防軍、サヤ・アマノ曹長であります」

「通信では何度か声を聞いていたけど、こうして顔を合わせるのは初めてね。よろしくお願いするわ」

「こちらこそ。お兄様共々、今後ともよろしくお願いいたします」

「それで、エリカさん。アイシャさんも混ぜるって言うのは一体……アカツキの複座はもうやりませんけど」

「そんな事わかってるわよ。

 彼女の要望と貴方が忙しかったのもあって伝えてなかったんだけど──“ルージュ“の準備が終わったところなの。彼女に合わせて調整してね」

「えっ、ルージュって……それじゃアイシャさんが?」

 

 驚きと共に、アイシャへと目を向けたタケル。視線を向けられたアイシャは小さく微笑んで返した。

 エリカが告げたルージュと言う言葉が指すもの。

 

 MBF-02ストライクルージュ。

 先日無人島で回収したストライクを修理した際に、用意したパーツを流用して製作されたいわゆるデッドコピーと呼ばれるストライクである。

 元々はアカツキが間に合わなかった時の為にカガリ用に調整し、PS装甲に回す電力を増やした設定とした為に装甲色が薄い赤を帯びた為、ストライクルージュと命名されている。

 ストライカーパックの特徴を全て踏襲した、統合兵装ストライカーパック、通称I.W.S.Pの運用を前提に作り上げていたものの、シミュレーションの段階で火器管制が複雑化しカガリには適さないとして試作状態のままオオトリ装備の開発に着手。

 アカツキが諸々未完成でありながら、機体本体は動かせるため、アカツキの使用をタケルとカガリが決めたことでそのままルージュはお蔵入りとなっていた。

 

「ルージュ……仕上げてたんですね」

「アマノ総括には連絡してあるわ。使える戦力があるなら使え、だそうよ」

「良いんですかそれ……そりゃ、アイシャさんに一緒に出撃してもらえるなら、確かに心強いですけど……」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。任せて坊や」

「妹の前で坊やは止めてください」

「むっ」

 

 ギラリとサヤは視線を鋭くさせて、突然現れた強敵の気配を察した。

 羞恥に僅か声を上擦らせる兄。そしてそんな様子の兄を小さく笑いながらからかう、件の女性。

 兄を愛する者として、これは捨ておけない存在だとサヤの心は警鐘を鳴らしていた。

 

「お兄様、こちらの女性は?」

「兄様が連れてきた開発協力者のアイシャだ。今は便宜上モルゲンレーテの所属になってる」

「協力者? 失礼ですが、お兄様とはどちらでお知り合いに?」

「サヤ、いきなりそんなこと本当に失礼だよ。心配しなくても、ちょっと怪しいだけで悪い人じゃないから」

「妖しい? そんなことを言われたらますます放っては置けません」

「ふぅ〜ん、坊やの妹さんね。あれ、でも子猫ちゃんとは?」

「子猫はやめろと言っているだろうアイシャ! サヤは私とは別の家系での兄様の妹だ」

「へぇ、複雑なのね」

「別に複雑なことはありません。そちらは昔の妹。私が今の妹と言うだけです」

「ふぅ〜ん…………」

「な、なんですか、そんなに顔を近づけないでください!」

 

 もはや隠す気のない警戒心を露わにしてサヤが身構える。

 対してアイシャはそんな警戒心を意に介さず、ズンズンとサヤへ顔を近づけた。

 ふむふむと、値踏みするように。舐め回すようにサヤを上から下まで眺めて物色。

 一通り眺めたところで、これまで以上に笑みを深めると。

 

「うん、とっても可愛らしい子なのね。子猫ちゃんとは大違い」

「ふぶっ!?」

 

 不意打ち気味に、胸の中へとサヤを抱え込んだ。

 

「頭の上から爪先まで、お人形さんみたいな子。私気に入っちゃったわ。坊や、この子私にくれないかしら?」

「ぷはっ、な、何を言ってるんです! は、放しなさい! サヤはお兄様以外の人のものにはなりません!」

「ふふ、その綺麗な顔で反抗する姿も可愛い」

「くっ、黙りなさい! いい加減放し──わぷっ!?」

 

 豊満な胸元に再び顔を押し付けられ、サヤは必死に抗うが、兄の知人であるが為に本気を出して抵抗もできず、徐々に抵抗の意思を失っていった。

 このタイプは人のいうことを利かない人間だ。頼みの綱である兄へと視線を向けて助けを求めるが。

 

「ルージュ、後で確認しますね。一応、問題がないかは調べておきたいです」

「お願いするわ。戦場を知る貴方の方が、細かなところに気がつくでしょうしね」

 

 サヤの事は既に蚊帳の外で、エリカと使えるようになったルージュの話を詰めている。

 サヤは思考を巡らせた。今この場で残っている頼れる人間は──カガリのみ。

 

「くっ、カガリ・ユラ・アスハ。貴方もこの方と知った仲なのでしょう。助けなさい!」

「そうだな、確かに止めないと話も進まないだろうが──断る!」

「なっ、貴方!?」

「頼み方と言うものがあるだろう。それに、普段の不遜な態度と違って随分と可愛い様じゃないか。いつもそうなら、兄様ももっと優しくしてくれるんじゃないか? せっかくだからもう少し遊んでもらえ──と言うわけでアイシャ、もっとやって良いぞ」

「はぁ!? 貴方、何を言って──」

「本当? 嬉しいわ」

「やっ、ちょっ、と、どこ触って、い、いやっ──た、助けてください、お兄様ぁ!」

 

 

 悲痛な少女の叫びが格納庫に響き渡り、ようやくエリカとタケルが止めに入った事で、事態は収束した。

 

 その後は予定通りにサヤと、アイシャも交えて、シミュレーターでのタケルによる機体性能の解説を済ませる。

 サヤが乗るM2アストレイ・オオトリパックと、アイシャが乗るストライクルージュI.W.S.Pをツーマンセル小隊として、タケル監修の鬼畜ミッションへと放り込んだ。

 

 しかし、タケルをして完璧超人と言わしめるサヤは数分でオオトリ装備に順応。

 また、アイシャの方もカガリとの複座シミュレーションで見せたその手腕を発揮して、複雑化しているはずのI.W.S.Pの兵装を軽々と使いこなす。

 シミュレーションはタケルとエリカの想定を上回る好成績を見せて、その日の訓練を終了とした。

 

 

 そうして明日への準備を終えるものの、シミュレーションの間も終わった後も、サヤ・アマノはタケルの背に隠れる様にして常にアイシャと距離を取っていたという。

 

 その日サヤ・アマノの脳裏には、『苦手なもの:アイシャ』が刻まれ、タケルとカガリとエリカの脳内には『サヤへの切り札:アイシャ』が刻まれる事となる。

 当の本人は、なんとかもう一度抱きしめようとするが威嚇する様に警戒されて困ったように笑みを浮かべていたという。

 

 

 

 

 

 




ディアッカ君はしっかり反省してもろて、その上で幸せになってどうぞ

アイシャ
好きなもの:アマノ兄妹
タケル&サヤ
苦手なもの:アイシャ
エリカ
アイシャと同盟を結びアマノ兄妹をイジる側へ
カガリ
ーーーーだが断る。を習得(ちょっと半端だけど)
別にネタ擦ろうと想ったわけじゃ無いけど、書いてたらそれっぽくなってました。

先取りでオオトリ装備解禁。ルージュも解禁。
未完成だけどアカツキも解禁です。
どうなるか楽しみですね。

感想よろしくお願いします。
ここすき機能とかも入れてもらえると、作者嬉しくなりますので、グッときたら是非お願いします。

投稿して気がついた、今回で100話目でした。
よく頑張ってると自分をちょい褒め。もちろんこのまま完結まで描く所存。
いつも感想をくれる読者様のおかげです。ありがとうございます。
このまま最後まで、お付き合いしていただき、楽しんでいただければ幸いです。

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