「カグヤに集結している?」
ダーレスの報告に、アズラエルは眉根を寄せた。
先の戦闘から2時間──負けてノコノコと戻ってきた、使えない実験体共へのお仕置きの時間として休憩中ではあったが、状況が動く気配を察していた。
「あちらも背水の陣、と言う事でしょう」
「チッ、アスハめ……この後に及んで悪あがきを。良いでしょう、存分に叩きのめして差し上げましょう────どうせ、オーブに勝ち目は無いのですからね」
アズラエルは、浮かべた嘲笑を消さぬまま、海の先に有るオーブに視線を向けた。
オーブの陥落。その時が、刻一刻と、迫っていた。
────オーブを離脱。
それが、集められた皆に、ウズミとユウキから伝えられた指示であった。
アークエンジェルからはマリューとムウ。キラとアスラン、ディアッカも集まっている。
エリカやキサカ、トダカと言ったオーブ軍の重要人物達も。
勿論──タケル・アマノも。
「オーブを脱出って……どう言う意味ですか、父さん?」
信じられないものを見つめる様な目で、タケルはウズミと、並び立つユウキにも目を向けた。
そんな事許すはずがない────タケルが知る2人の父は、オーブを守る為にその身命をとしてきた。
捨てるなど、あるはずがない。
「タケル、先に言っておくぞ──決して、お前達のせいではない」
「僕達の、せいではない?」
ユウキが戦域図を拡大させる。
そこには、沖合に布陣する大西洋連邦の艦隊と、国防軍の防衛線が映し出されている。
そしてその逆側──オーブ本国となるヤラファス島へ向かう、別の艦隊が表示されていた。
「これって……まさか、本島を狙って!?」
「その通りだ。奴らはオーブの戦力に危機感を抱き、オノゴロの制圧を諦めた。
本島にまで手を広げられれば、我らはもう手の打ち様がない。何より、本島にはまだ大勢の国民がいる。これ以上の抵抗はできまい。
奴らが本島へと辿り着く前に、オノゴロを放棄して、マスドライバーを破壊する。侵攻目標であるモルゲンレーテとマスドライバーが無くなれば、連中が侵攻する理由も無くなる。少なくとも、オーブの地は焼かれずに済む」
「そんな……それじゃオーブは」
タケルの悲痛な声に、ウズミは首を振って答えた。
「既にオノゴロの避難は完了している。支援の手も、ユウキが万全を期してくれた。
だからこそ、皆には全てを乗せて、
マリュー、ムウ、エリカ、トダカ、キサカ。
順に視線を投げて、ウズミは決意を促す様に頷いた。
「例えこの地が失われ、オーブが奪われようとも──失ってはならぬ意志が有る。
地球軍にはコーディネーターを認めないブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルの姿がある。そしてプラントも今や、コーディネーターを新たな種とするパトリック・ザラの手の内だ」
父の名に僅か、アスランが表情を歪める中、ウズミの独白は続いた。
「このまま進めば、世界はやがて、認める事を忘れた者たちの終わらない争いに包まれるだろう。そんな世界で良いか? 君たちの未来は。
ここに集う、真に望む未来を知る者達と共に、今ある小さな
居並ぶ皆に視線を投げて、ウズミは小さく頭を下げた。
応えるように頷く者。敬礼を返す者。瞠目する者。
それぞれが決意に染まる中──ただ1人、タケル・アマノだけは首を横に振った。
「嫌、だよ……父さん」
呟かれた声は、ひどく震えていた。
「──タケル」
「僕のせいで、こんな事に……それなのに父さん達が責めを負うなんて」
「タケル、お前のせいではないと言ったはずだ」
「でも、でもっ! これは──」
「黙らないか!!」
びくりとタケルが肩を震わせる。
ウズミの声に納得を見せないタケルへ、ユウキの罵声が響き渡った。
「いつからお前は国の行く末を決められる程偉くなった! たかが国防軍の二尉如きが、何の責任を感じている!」
「──ユウキ、やめよ」
「いいや、止めん。全ては大西洋連邦の侵攻を招いた政府の責任だ! そしてこの防衛の責任は国防軍総括の私の責任だ! 貴様の下らない感情に任せた越権行為も大概にしろ!」
「父……上……」
呆然とするタケル。厳しく皆の前で叱責され、思わずタケルはうつむいた。
そんなタケルへ、ユウキは初めて見せる優しい父の顔で抱きしめた。
「──父、上?」
「初めて──お前を褒めよう」
戸惑うタケルの耳を、聞いたことのない優しい声が震わせる。
「お前のせいではない。お前は良くやった。
此度の大西洋連邦の侵攻。国力も兵器も、人も物も、何もかもが足りず。どうあがいても覆せないはずの劣勢だった。それをお前は、お前がこれまで賭してきた全てで覆したのだ」
中立の島国。
小さな小国に過ぎないオーブが、大西洋連邦という国家の集合体を相手取り、その絶望的な戦力差を覆して見せた。
防衛戦という圧倒的不利をも跳ね返してである。
カガリを神格化させようとしたタケルが言った通り、正に神の御業とも言える結果を叩き出したのだ。
「モルゲンレーテで。ヘリオポリスで。アークエンジェルで。そして戦火の中で。お前が紡いできた全てが────この国を守って見せた。そんなお前を、一体誰が責められようか? 他ならぬお前自身にすら、そんな権利は無い。私がそれを断じて許さん」
ユウキの言葉に涙が溢れて、タケルの頬を伝った。
初めて聞いた優しい声であった。初めて聞いた優しい言葉であった。
初めて、タケルはユウキに認められた。
「誇りに思うぞ──お前は俺の想像を遥かに超える結果を見せた」
いつだって欲しかった。いつだって求めていた。
この男が手放しで褒めるだけの成果を……力を。
憎しみすら抱きながら求めた結果。それが今、ここにあった。
「なんで急に……そんな」
「父としての最後の役目だ。お前がこれから先、傷を背負って生きることのないように。
責めを負うのは我々だ。俺の半分も生きていない小僧が、負うものなど何もない──全てを俺達に預けて、お前は宇宙に上がれ」
「なんだよ……なんなんだよそれ!」
立ち上がる。
納得できないと、感情を荒げて、タケルはユウキとウズミへ視線を向けた。
「勝手に諦めるなよ! 勝手に責任だけ被るなよ! 勝手に僕から大切なものを奪うなよ!」
まだやれることがあるはずだ。
まだ負けたわけではないはずだ。
まだ、失わずに済む道があるはずだ。
必死にそれを探そうとするタケルを、今度はウズミが抱き止めた。
随分と久しぶりに抱かれた父の腕であった。
昔と違い、しゃがまずとも抱きしめられる様になった我が子に、ウズミの表情は緩んだ。
「良い、タケル。これ以上、オーブの地を焼くことはできん。その業をお前に背負わせる事もな」
「いやだよ……やめてよ、父さん」
「お前には本当に悪い事をしてしまった──ユウキから全て聞いたのだろう?」
自身の出生の事だと、タケルはすぐにわかった。
涙交じりに、声を出す事なくタケルは小さく頷いた。
「それでもお前は私を父と呼んでくれた。もう、十分だ──お前は十分頑張った。最後くらい、お前の頑張りに、父として応えさせてくれ」
「嫌だ……そんな……の」
「トダカ」
ウズミは、タケルの最後の呟きを聞かぬふりをトダカを呼んだ。
「この子をクサナギへ連れて行け。エリカ・シモンズ、シロガネを運び入れよ」
「はい」
「承りました」
「嫌だよ、やめてよ父さん、父上!」
本気で抗えば、タケルであればどうにでもなるだろう。
だが、親しい相手であるトダカにタケルが本気で手荒い抵抗をできるわけもなく、連れていかれてく。
幼子の様に抵抗するタケルを……その情の深さからくる心情を察して、マリュー達は悲痛な目で見送った。
「マリュー・ラミアス。過酷な道だとは思うが……きっとあの子は乗り越える。どうか、私達の息子を、よろしく頼む」
「信じております。タケル君は、ずっと、そうして乗り越えてきましたから」
「其方の艦に乗れた事。あの子にとっては大きな幸運だったな──では、其方等も急ぎ準備を」
「はっ!」
ウズミの声に従い、一同オーブ脱出へ向けて動き出した。
マスドライバーを使えないアークエンジェルは、急遽スラスター横に、オーブのイズモ級戦艦クサナギの予備ブースターを装着。
推力を大幅に上昇させる改良を施して、艦載砲のローエングリンを展開。
『クサナギの予備ブースターを流用したものだが、パワーは十分だ。ローエングリンを斉射と同時に全開にしてポジトロニック・インターフェアランスを引き起こしてさらに加速。大気圏を脱出する』
年配のオーブ政府高官の説明を受けながら、アークエンジェルは大気圏を突破の準備を進めていく。
既に国防本部の人員は、ウズミ等政府高官の者達が引き継いでおり、必要な人員以外は皆クサナギに搭乗するかオノゴロからの離脱をしていた。
そうして、オーブ軍も次々と必要なものをイズモ級宇宙艦クサナギへと乗せて脱出の準備が進められていく。
「ブースター取り付け作業を急げ!」
「ジャンクション統合、カタパルトへ接続完了しました!」
「投射する質量に変更がある。チェックを」
次々と作業が進んでいく中、M2アストレイとアカツキ、ストライクルージュも乗せられて、パイロット達も搭乗していった。
「宇宙へ上がる事になるなんて」
「訓練はしてきてるんだから、望むところよ」
「地球軍め、許さないんだから」
マユラ、ジュリ、アサギの3人もクサナギに搭乗を完了し、各々が先の戦いを見据えて意気を上げていた。
「──父上」
そんな中、サヤ・アマノはまだカガリと共に国防本部に居た。
「サヤ、お前も早く行け」
「お兄様の様に抱きしめてはくださらないのですか?」
「──良く言う。欠片も思ってはいまい」
「そんな事ありません。サヤとて人並みには──」
驚きの顔を見せながらも歩み寄ってきたユウキに抱き寄せられ、サヤは言葉を止めた。
元々、こういった素直な愛情表現はない父親であった。
幼い頃より苛烈な教育が全て。だがそこにはアマノの使命があり、決して愛情がないわけではなかった。
相応に大切にされてきた事をサヤは知っている。
怪我はさせなかった。無理はさせなかった。体調不良はどう隠しても看破されたし、食事や睡眠など、成長に必要な部分には徹底的に気を遣われていた。
オーブを守る柱で有る──その目的は間違いないが、サヤは父ユウキの確かな愛を一身に受けていた。
「あいつにしろ、お前にしろ。俺には過ぎた子であった」
「その様な、事は──」
「泣き虫だけは治らなかったあの子を、支えてやってくれ」
僅かに、後悔の念をユウキの声音からサヤは感じ取った。
最後の最後まで泣かせっぱなしで終わりを迎えた事悔いているのだろう。
サヤは、父の気持ちを静かに受け取った。
「当然です、大好きな兄なのですから」
「お前達の父となれた事、誇りに思うぞ」
「私も、父上の娘であった事、終生の自慢と致します──父上の娘として生まれて幸せでした」
「俺も幸せであった──では、行け」
「はい。お達者で」
一筋だけの涙を流して、サヤ・アマノは振り返る事なく国防本部を離れていく。
気丈に振る舞うその姿。父に最後の最後まで心配させまいとみせる、サヤ・アマノの矜持であった。
同時刻、オーブ侵攻軍の準備が整う。
「さぁ、今度こそケリをつけましょう! 私もそろそろ──陸で食事がしたいですからね」
『カラミティ、フォビドゥン、レイダー、ディザスター、発進』
オペレーターから届く、発進報告を聞きながら、アズラエルは勝利を確信して笑みを深めていた。
「アークエンジェルの準備はどうだ?」
「現在ブースターの調整終了です」
次々と整備班へと指示を飛ばしながら、アークエンジェルとクサナギの脱出準備を進めるウズミ。
先程の兄の姿を思い出して、カガリもまた父の背に声をかける。
「お父様、やはり脱出は皆で。遺してなどいけません!」
「カガリ、お前も早くいきなさい。時間はもうないぞ」
「お父様!」
「レーダーに機影、MSじゃ。姫様も早くいかれよ」
「むぅ、ラミアス殿。アークエンジェルは発進を」
『わかりました。キラ君!』
『了解です、発進を援護します。アークエンジェルは行ってください!』
アークエンジェルが発進すると同時に、キラが乗るフリーダムが飛び立つ。
同時に、アスランが乗るジャスティスも出撃。
捕捉された連合の新型達を抑えに向かう。
『空中戦になる。バスターはアークエンジェルに』
『チッ、わかった』
『ウズミ様、クサナギは?』
「すぐに出す。すまない」
モニタ越しに頷いてキラはアスランと共に迎撃に向かった。
「艦首上げ、ローエングリンスタンバイ」
発進したアークエンジェルはクサナギのブースターをも利用して一気に速力を上昇。
艦首を上げて、空へと艦の姿勢を向けると陽電子砲ローエングリンを撃ち放った。
鮮やかな閃光が宇宙へ向かって放たれ、同時に、空気と陽電子が反応して擬似的な真空フィールドを形成。
プラズマ臨海による高磁場と共に一気に大気圏を突破する加速を実現させ宇宙へと向かった。
「アークエンジェルは行ったか。クサナギは!」
「後2分で出られるそうじゃ」
「お父様!」
「お前はいつまでここでグズグズしている!」
「でも!」
兄は必死に頑張ってきた。
大切なものを失いたくなくて、必死に生き続けてきたのだ。
それを誰よりもわかってると言うのに、今ここで死することが務めなのか。
カガリは必死にウズミに詰め寄った。
そんなカガリの想いを理解しつつ、だがウズミは彼女の手を取ってその場を連れ出していく。
「我らには我らの。お前達にはお前達の役目が有る!」
「ですが、兄様は!」
「想いを継ぐものが居なければ、全て終わりぞ! 何故それが分からん!」
ウズミの声に気圧され、カガリは押し黙った。
クサナギのハッチまで連れて行かれたカガリは、そのまま待ち構えていたキサカに預けられる。
「ウズミ様!」
「急げキサカ! この子を頼んだぞ!」
「はっ!」
ウズミからの最後の命令を受け、キサカは万感を込めた敬礼で返した。
「お父様! 私も嫌です! どうか──」
涙交じりに訴えるカガリの頭に、ウズミの大きな手が乗せられる。
「その様な顔をしてどうする……あれ程に勇ましく吠えた、オーブの獅子の娘が」
「でも!」
「父は何も心配していない。お前達はもうオーブの未来を担える」
「お父様……私は」
「父と離れても、お前は1人では無い……優しき兄が居よう」
「……はい」
「それに────お前にはもう1人、兄弟が居る」
ほんの僅か、迷うそぶりを見せてから、ウズミは一枚の写真を取り出した。
そこに映るのは2人の赤子を抱く綺麗な女性。
そして写真の裏には、“キラ”と“カガリ”の名があった。
写真に惑う様子を見せるカガリに、ウズミは安心させる様に視線を合わせて頷いた。
「“お前達兄妹”の父で、私は幸せであった」
例え、本当の兄弟が居ようとも。ウズミの息子はタケル・イラ・アスハであり、娘はカガリ・ユラ・アスハである──そのことだけは変わらないと、ウズミの瞳が物語っていた。
その言葉を最後に、カガリはキサカに引き寄せられ、クサナギのハッチへと入り込み、そうして同時にハッチが閉められた。
「お父様! お父様ぁー!」
離れていく父の姿に、カガリは泣きながら、父を呼び続けた。
「キサカ! 頼んだぞ!」
最後の最後まで、カガリを任せたと念を押すウズミに、キサカは敬礼で見送った。
僅かに父の目に浮かぶ涙を見ながら、カガリは遠くなっていく父の姿を目に焼き付け続けた。
カガリの搭乗に伴い、クサナギが発進シークエンスを開始する。
『リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムグリーン。クサナギ、ファイナルローンチシークエンススタート────ハウメアの護りがあらんことを』
オペレーターの、最後の願いに背中を押されて、クサナギもまた宇宙へと向けて加速した。
しかし────その中に、タケル・アマノとシロガネは搭乗していなかった。
眼前にいる敵を見つめる。
シロガネのコクピットの中で、タケルはSEEDを発現しながら空虚に染まった瞳を向けていた。
頭にあるのは失う事への恐怖。
否、確定した失う事を目にする恐怖。
耐えられない。受け入れられない。許せない────だから、それを壊しにいく。
こんな事を引き起こす連中を──全て。
現行MSで最速を誇る機体が、その全てを発揮して海上を翔けていく。
『タケル、ダメだ!』
『バカな事はやめろ!』
聞こえる制止の声を振り切る。
フリーダムとジャスティスを追い抜き、眼前の敵へと視線を定めた。
「旗艦さえ撃てれば──守れるんだ」
フットペダルを踏み込んで、さらに加速。
だが、旗艦パウエルに向かうルートにはディザスターが待ち構えていた。
「お前達が…………来なければ」
涙を流しながら、タケルは抑えられない慟哭を吐き出した。
「お前達さえ……いなければぁああああ!!」
ビャクヤを抜き、ディザスターに切り掛かるもその動きは直情的に過ぎる。
躱された隙に、反撃のシュヴァイツァが火を吹きシロガネは大きく回避。その分、目的地からは引き離されてしまう。
「どけよ……そこをどけぇ!」
遮二無二、タケルはシロガネを駆った。
その眼前を遮る様に、光条が飛来しシロガネの行手を遮る。
「タケル!」
「今すぐ戻れ! すぐにクサナギが来る!」
「いやだ! 守るんだ、絶対に!」
「わかってよタケル!」
「皆の決意を無駄にする気か!」
「黙ってよ!!」
何も知らない人間が知った様な事を言うな。
どれだけの想いでこれまでオーブを守るために生きてきたのか。
どれだけの想いで、失わないために生きてきたのか──何も知らないくせに。
信じて生きてきた。
必死に先を見て、準備を進めて、人事を尽くしてきた──そうすれば守れると。失わなくて済むのだと信じてきた。
自分はまだ──何も護れていない。
タケルは必死に旗艦パウエルへと向かおうとする。
だが、シロガネの動きは全てディザスターに阻まれ、少しも先に進めないでいた。
そこへ、マスドライバーのレールに沿ってクサナギが駆けてくる。
「アスラン!」
「あぁ!」
フリーダムとジャスティスは即座にクサナギを追った。
その背後を追従し、ディザスター等4機がクサナギに追い縋る。
「あっ、うぅぁ…………あぁあああああ!」
ダメだ──とタケルは涙と叫びを流し続けながら、シロガネを最大戦速にしてディザスター達の後ろからクサナギを追った。
オーブを──父親達を捨てざるを得ない悲しみに慟哭しながら、それでもカガリが乗るクサナギを守るために、タケルは必死にクサナギへと追い縋った。
捨てたく無いものが背後にはある。同時に、捨てられないものが目の前にある。
瞬間的に選択を迫られ、タケルはぐしゃぐしゃとなった心のままに、目の前の“失えない”ものを選んだ────“失う”ものを捨てたのだ。
閃光の如く駆け抜けて、ディザスター達の前に躍り出ると振り返りキョクヤを海面に発射。
水柱を起こして、放たれる砲火を防ぐ。
既に、フリーダムとジャスティスはクサナギに取り付いていた。
しかし、シロガネは一歩出遅れた分とキョクヤでディザスター達を足止めした分だけ、届かない。
「タケル!」
「急げ!」
再び追い縋ってくるディザスター達からの砲火にシロガネが晒される。
それでも手を伸ばしてくれる友の声に引かれるように、少しずつシロガネはクサナギへと近づいていった。
「キラ!」
「うんっ!」
フリーダムとジャスティスが射撃兵装を一斉開放。
クサナギを狙うディザスター達の目の前に大きな水柱をたてて今度こそ完全におしとどめて見せる。
その隙にタケルはシロガネの機体パラメーターを調整。
一か八か、スラスターへのエネルギー供給を過剰にしてオーバーロード覚悟で限界を超えた。
「くっ、届けぇえ!」
「タケル、捕まって」
願いと共に、シロガネのアームがフリーダムのアームを掴んだ。
同時に、マスドライバーのレールを駆け登り、クサナギは宇宙へ向かって飛び出していく。
獅子の子達の、流れ続ける涙を抱えたまま…………
「種は飛んだ……これで良かったのだな、ウズミ」
クサナギをモニター越しに見送り、どこか満足そうにユウキはつぶやいた。
周りに居並ぶ同志達を見回して、ウズミは静かに頷く。
オーブのために長きを共にしてきた同胞達。その誰もが、ユウキと同じ様に満足した笑みを浮かべていた。
「同胞達よ。付き合わせてすまない」
「責を負うのは大人の役目だ」
「そうだなー─オーブも、世界も、奴等の良い様にはさせん!」
倣う様に、ウズミもまた小さな笑みを浮かべて、手元の端末にあるスイッチを押した。
次の瞬間、オノゴロを巨大な光が包み込む。
解放される炎と熱。モルゲンレーテの本社が爆発に包まれ、マスドライバーは崩壊していった。
キラも、アスランも、その光景に息を呑んだ。
「うっ、くぅ……ぁぁ」
「あ、あぁあ……ぅぁ」
それは避けられない痛み──喪失の定めを目にした2人の兄妹に向けられた、父達からの最後の言葉であった。
「お父様ぁああ!」
「父さぁああん!」
その日、地球圏より──オーブ首長国連邦の名が消えた。
父達からの最後の言葉は「託す」
自分の文章に感動したとかじゃなくて。
主人公とカガリに感情移入しすぎて、ずっと泣きながら書いてました。
書くために何度もアニメみて泣いてました。
悲しく切ない。だけど、本当にSEEDで一番のシーンだと思う。
HDリマスターは挿入歌の「暁の車」のタイミングが違くてそのままEDに繋げていくんだけど、その入り方が素晴らしい上にEDクレジットが綺麗すぎて泣かせてくるからきつい。
でもアニメ版のFind the wayの入りもやばいのでどっちも良い。
もうあかん。感情移入しすぎて続き書けなくなりそう
感想よろしくお願いします。
暁の車は聞こえましたか?
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聞こえた
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聞こえなかった