機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-85 結成、3隻同盟

 

 

 エターナルの装甲に掴まり牽引された状態でいるアカツキのコクピットの中。

 開かれた通信モニターに映る顔ぶれを見て。はぁ、とタケルは小さなため息をついた。

 タケルのそれが、微かに嬉しさを湛えてる事にサヤは気がつき、少しだけ不思議そうな顔を見せる。

 

「お兄様?」

「クライン派って聞いてたから、ラクス嬢は予想してたけどさ……」

『まぁ、タケル様。ラクスとお呼びくださいな』

「あー、うん? 僕達ってそこまでの仲だったっけ? と言うかそれを要求するなら僕への様付けもやめよう、ラクス」

『良いのですか! それではタケル、お久しぶりですわ』

「う、うん。久しぶりだね」

 

 ピクリと不穏な気配がすぐ傍から感じられるのを、努めて目を逸らしながら、タケルは曖昧に返す。

 そして、もう一方へとタケルは目を向ける。

 

 左眼を上書きする様な傷跡。だが、それ以外は記憶の姿と一致する。

 砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドの姿であった。

 

「──久しぶりですね、虎さん」

『忘れたか少年? 俺の名前はアンドリュー・バルトフェルドってんだ』

「そうだったんですか。忘れてました」

『おいおい、相変わらずそっけないな。おじさんいじめは健在か?』

 

 どこか懐かしいとすら思えるやりとり。互いにそのやりとりに小さく笑う。

 だが、少し後にはタケルの表情は僅か翳った。

 

「生きて……たんですね」

『──ギリギリでな。死にかけてはいたよ』

「どうしてその艦に?」

『あんな戦いはもうゴメンだからな。あとはまぁ、少年が教えてくれた夢を、おじさんも見てみたくなったって所さ』

「ずるい人だ。1人だけ勝手に逝ったと見せかけて、実は生きてたなんて。僕達が泣いたの、無駄だったじゃ無いですか」

『素直に喜んで良いんだぞー。おじさんは寛容だからな。少年の愚痴くらいは受け止めてやる』

「はは、絶対喜びませんよ。泣かされた分、後程痛い目見させてあげますから覚悟しておいて下さい」

『おぉ、怖い怖い。一体どんな目に遭うんだか』

 

 肩をすくめて、飄々とする目の前の男を見て、本当に生きていた嬉しさとは別に、タケルに復讐心が湧いてくる。

 

 敵でありながらこちらの心に入り込んできて、そのまま敵として戦い死んでいった。

 タケルとキラが、そんな彼を討った事で心に重荷を背負ったのは記憶に新しい。

 今こうして生きていた彼と再会できて。背負うものが一つ消えたと同時に、余計なものをよくも背負わせてくれたとタケルが思うのは必然であった。

 

『あっ、アスラン。大丈夫ですか?』

『ラクス!? あ、あぁ、なんとか無事だ』

 

 通信越しにラクスがアスランを呼ぶ声が聞こえて、タケルは再び通信モニターへと視線を向けた。

 見ればエターナルの艦橋へアスランと、先ほどのクライン派の1人、マーチン・ダコスタが入ってくるのが見えた。

 

『ようこそ歌姫の船へ。アンドリュー・バルトフェルドだ』

『どうも──アスラン・ザラです』

「アスラン、無事に脱出できて何よりだ──ケリは付けてきたの?」

 

 通信モニター越しに問いかけてくるタケルに、アスランは驚きと惑いに染まっていた表情を変える。

 誠心誠意、自分の無茶な行動に協力してくれたタケルとサヤには感謝してもし足りない。

 居住まいを正して、アスランはモニタ越しではあるが2人に頭を下げた。

 

『自分の想いに決着は付けてきた。俺はもう、戦う理由に迷いはしない。全力で、君達と共に戦う──ありがとう、2人とも』

「ようやく、だね」

「ここまでお兄様の手を患わせたのです。期待させていただきます、アスラン・ザラ」

『あぁ、任せてくれ』

 

 何があったか──それは、ラクスやバルトフェルドにはわからない。事情を知っているタケルとサヤも、アスランが胸の内に宿した想いは知り得ない。

 ただ、そこに強い光を宿した瞳と、揺るぎない意志を感じ取って、どこか安心した様な心地でアスランを見つめた。

 

 そんな皆の視線に、アスランは怯む事なく視線を返す。

 

 父との決別──それはもはや避けられない事であった。

 パトリックは妻でありアスランの母、レノア・ザラを失った事でナチュラルへの憎しみに取り憑かれた。もはや今のパトリックにナチュラルと共に生きる未来を選択できる余地はない。

 ナチュラルを滅ぼす。そのために生きている。

 プラントを守る為──その大義が。戦争に勝ち、ナチュラルを滅ぼす事へと変容していた。

 そしてプラントは、そんな父の思想に染まりナチュラル憎し一色となりつつある。

 こんなのは、止めなくてはいけないのだ。

 ナチュラルはコーディネーターを。コーディネーターはナチュラルを。

 互いを全く知ろうとしない。

 知れば誰もが気がつくだろう──そこに違いは無いのだと。

 目の前のモニターに映る兄妹の様に、誰もが手を取り合えるはずなのだ。同じ人間である──いや、同じ人間でしか無いのだから。

 

『っと、マズイな。ヤキンの防衛網だ』

 

 そんな空気を崩す様に発せられた声に、全員が息を呑む。

 エターナルの発進に伴いスクランブル警報が発令。

 彼等を逃すまいと、ヤキン・ドゥーエ防衛部隊、総数50を超えるMS部隊のお出ましだった。

 

「この数……随分とまぁ大歓迎ですね」

『そりゃそうだろうさ。議長も相当ご立腹だろうしな』

「ハッチ開けてもらって良いですか? サヤ、迎撃に出るから艦の方に」

「はい。ですがお兄様、今のアカツキには……」

「できることはあるよ。大丈夫」

 

 サヤが心配する声を他所にエターナルの艦内へと潜り込むと、タケルはコクピットを開いてサヤを降ろし、再び艦の外へと出ていった。

 アカツキは未だ攻撃兵装を持っていない状態である。

 宇宙へと上がってからも、急遽ミラージュコロイドの準備に追われた為に何も装備が出来上がっていない。

 それでも、アカツキにはできる事がある。

 

「ちょうど良い資金石だ。アメノイワトとミカガミの性能。試させてもらうよ」

 

 アカツキを翻し、エターナルの前へと躍り出る。

 オーブを守る護国の盾──その真価を発揮する時であった。

 

 

 

「全チャンネルで通信回線を開いてください」

 

 凛とした声が艦橋に響いた。

 

「ラクス?」

「了解ー」

 

 突然の彼女の申し出にアスランが惑う中、バルトフェルドはオペレーター達に指示を下していく。

 通信回線が開かれたことを確認すると、ラクスは強い眼差しを湛えて口を開いた。

 

「私はラクス・クラインです。

 願う未来の違いから、私達はザラ議長と敵対する者となってしまいましたが、私はあなた方との戦闘を望みません。

 貴方方も私達と同じく平和な世界を望むのであれば。どうか、私達の船を行かせて下さい。そして皆さんももう一度、私達が本当に戦わなければならぬのは何なのか、考えてみて下さい」

 

 強い声。

 まるで引き込まれそうな彼女の言葉にアスランは驚く。

 前回、廃墟となった劇場で再会した時もそうだったが彼女の言葉は水の様に心に染み入ってくる。

 考えさせられる。想いを突きつけられる──そんな感触を持たされるのだ。

 恐らく、防衛部隊には混乱が広がっているだろう。

 

 誰も平和な世界を夢見ていないはずがない。

 ましてや彼女は平和の象徴として長い間プラントに癒しの声をもたらしてきた。

 彼女が平和を望んでいると聞けば、信じることは容易いのだ。

 

 だが──そうは言っても目の前に立ち塞がるのは軍人。

 惑いはする。躊躇もする。しかし、絶対的な基準として命令には従うしかないのである。

 

 止まる気配の無い防衛部隊に、バルトフェルドは嘆息した。

 

「まぁ、いきなり言われてもって話だよな。仕方無いか──少年、当てにして良いのかな?」

 

 エターナルの前に躍り出たアカツキへとバルトフェルドはどこか挑戦的に声をかけた。

 

『大事な妹が乗ってますから。やらせはしませんよ』

「そいつは上々──迎撃開始!」

 

 余談だがこの通信を聞いて、サヤがその端正な顔をだらしなく歪めたのは内緒だ。

 

 敵部隊から放たれるミサイルの嵐に、エターナルも迎撃の一斉射。

 次々とミサイルを撃ち落としていく中、タケルが駆るアカツキも動き出す。

 

 恐らくだがアカツキは見向きもされない。優先目標はエターナルだろう。

 その上今のアカツキに攻撃力はほぼ皆無。できるのは最大限の守りのみ。

 

「まずは第一波のミサイルね!」

 

 頭部に備えられた唯一の内臓兵装、頭部の12.5mm近接防御火器でエターナルが撃ち漏らしたミサイルを迎撃。

 その直後、ジンが構えたビーム砲の射撃をアカツキの鏡面装甲ミカガミで霧散させる。

 

「まだまだ!」

 

 続いて後方へと回り込んできたD兵装のジン6機が放つミサイル群を、アメノイワトの数秒展開で防御。

 爆炎に包まれながらも、タケルはセンサー類を俯瞰。

 両舷に迫るミサイルを確認した。

 

「ちっ、虎さん、左舷は受け持ちます!」

「おうさ、右舷ミサイルに迎撃集中!」

 

 アメノイワトと、それでも抜けたミサイルを近接防御火器で防ぎ切る。

 そこで正面に展開するは、ビーム砲を構えるジン4機。

 

「ったく、忙しくさせてくれる!」

 

 アメノイワトの展開が間に合わない。

 アカツキを艦橋目の前まで走らせてミカガミで受けきった。

 しかし、その衝撃でアカツキの機体が流される。

 

「ちっ、これだから素受けはキツい! 虎さん、ミサイル抜けます!」

「衝撃体勢!」

 

 1発2発とミサイルがエターナルに命中し、艦が揺れた。

 だがそれは始まりに過ぎない。

 アカツキの防御が崩れて、エターナルの迎撃が追いつかなくなったところで一挙に防衛部隊の攻撃が雪崩れ込んだ。

 

「させるか!!」

 

 タケルは艦橋の目の前に再びアカツキを走らせて、アメノイワトを最大展開。

 背後で守る人達への直撃だけは避けようと盾になる。

 だが、それで防げるのは前面だけだ。

 50機と言う規模で襲いかかってきたヤキン防衛部隊はアカツキの側面後方にも回り込んでいく。

 

 万事休すか──タケルがそう思った時。

 

 幾つもの光条が降り注ぎ、エターナルに接近していたジンが撃破されていく。

 

 メインカメラと武装のみの破壊。鮮やかと言わざるを得ないその攻撃にタケルは思わず口元を緩めた。

 

「遅いよ──キラ」

 

 直後、駆けつけた蒼天の翼がエターナルとアカツキの前に躍り出る。

 即座にマルチロックオンで眼前の部隊を次々と撃破。

 迫り来るミサイルをも撃ち落とし、一気にエターナルの窮地を救う。

 

「こちらフリーダム。キラ・ヤマトです」

「キラ!」

「えっ、ラクス!?」

「はい、私ですわ!」

「よぉ、もう1人の少年。助かったぞー」

「ぁ、バ、バルトフェルド……さん」

 

 思わぬ再会に、キラもまたタケル同様に驚きに染まるのだった。

 

 

 こうしてエターナルは窮地を脱して、アークエンジェルとクサナギがまつL4宙域へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 L4へと着いたエターナル。

 艦橋にはマリューやムウ、キサカも来訪して、合流した新たな仲間を出迎える。

 

「初めまして、と言うのは変かな? アンドリュー・バルトフェルドだ」

 

 対面する、嘗ては敵として撃ち合った関係の指揮官同士達。

 しかし、なんの巡り合わせか今は轡を共にする者達。

 差し出された右手を、マリューは迷わず手に取った。

 

「マリュー・ラミアスです、どうぞよろしくお願いします。それにしても驚きましたわ」

「お互い様さ、なぁ……少年達」

 

 共にいるキラとタケルへと目を向ける。

 撃ち合ったと言うのであれば、直接渡り合ったキラ。

 そして拠点で舌戦を繰り広げたタケルも当てはまる。

 そんな2人であったが、ニヒルに笑みを向けるバルトフェルドに対して、2人もまた不適な笑みを返した。

 

「それはもう──」

「本当に……お互い様だよね、キラ」

「んあ? なんだ少年たち、その怪しい笑いは──」

 

「久しぶりね、アンディ」

 

 飛び込んでくる、聞き覚えのある声。

 そして並び立つキラとタケルがその場を退けば、艦橋へと入ってくる妖艶な美女が目に映る。

 彼女を確認してバルトフェルドは苦笑い。ついでに頬へ1つ冷や汗を流した。

 

「──この、悪戯坊主どもが」

 

 エターナルでL4へと辿り着く少し前。

 クサナギへといの1番に通信を送ったタケルは、アイシャに事の顛末を伝えて呼びつけていた。

 そしてアイシャの提案で、今に至ると言うわけだ。

 

「良い年して悪戯成功、みたいな顔する虎さんが悪いんですよ。ね、アイシャさん」

「ふふ、そうね。坊やならまだしも私を1人にしておいてそんな顔してるアンディには──仕置きが必要ね」

 

 見るものを虜にする妖しげな笑みにムウが引き攣る。

 タケルとキラは変わらず楽しそうに笑い、ラクスは疑問符を浮かべながらもなんとなくめでたい雰囲気だと察知して嬉しそうに笑う。

 

「ど、どうやら、俺の言葉の通りに少年達と随分仲良くなったようだな、アイシャ」

「もしかしたらアンディより仲良しさんになっちゃったかも」

「なんとっ!?」

「だからアンディ──」

 

 滑るように、アイシャはバルトフェルドへと近づいていくと──バチンと音がなるほど両頬を張って逃さんとばかりにその首を固定する。

 惑うバルトフェルドを尻目に、そのまま皆の前で深い口付けを交わした。

 

 周囲が見惚れるほど真っ直ぐな口付けであった。

 アイシャからすれば、死したはずの最愛の想い人。生きてまた会えた、これ以上の喜びはない。

 

「──今から、私を取り戻してもらうわ」

「ぜ、善処します……」

「ん、それじゃ行くわよ、アンディ」

 

 服の首元を掴まれて、有無を言わさずその場を連れ出されるバルトフェルド。

 キサカはまだ挨拶も済ませていなかったが、口を挟むのは憚られた。

 

 その場の全員が2人を見送る中で、タケルとキラだけは、嬉しそうの互いに目を合わせて笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなエターナルの艦内には、戻ったアスランを迎えにカガリもまた来訪していた。

 

 艦橋とは別の艦内通路。その一角で、どこかすっきりとした表情を見せるアスランに、カガリは彼の迷いが吹っ切れたことを察した。

 

「ちゃんと、無事に帰ってきたな。アスラン」

「タケルとキラの目が怖くてさ。死んでカガリを泣かせたら、地獄まで追いかけられて殺されそうな気がした」

「別に……私がさせてるわけじゃないからな」

 

 確かに、アスランが死んだら泣いちゃうだろうけど……

 

 と、小さくこぼした声が聞こえて、アスランはハッとしてカガリへと目を向ける。

 同時に、自分は何言ってるんだと正気に戻ったカガリも顔を赤らめてハッとした様に顔を見上げた。

 

 翡翠と橙赤の瞳が交錯する。

 気恥ずかしくなって、2人はまた慌てて視線を逸らした。

 

「あ、いやその。何も聞こえてないぞ」

「わ、私も、何も言ってないぞ!」

 

 おかしな空気だった。

 普段であれば──キラやタケルと一緒であれば、こんな風に変に意識せず居られるというのに。

 2人きりだとどうにも、調子が狂った。

 

「──その、良かったな。ちゃんとお父さんと話せたんだろ?」

 

 話題を探すように、カガリは切り出した。

 アスランの表情を見るに、当初の目的は果たせたであろうと、そんな気がしていた。

 

「あぁ、ちゃんと話せたよ。聞きたいことは聞けた──望んだ答えでは、無かったけど」

「それは、仕方ないさ。私だって、お父様とはよくぶつかってたし」

「残念で仕方ない……父があそこまで愚かだったなんて」

「そういう言い方は良くないんじゃないか。お前のお父様だろ。間違ってるなら止めるのも、それを認めてわかりあうのも。息子であるお前だけは、諦めちゃダメじゃないか」

 

 無理だろう。アスランはそう思った。

 カガリがいうことはわかる。家族として、息子として、父が間違ってると思うのなら止める。

 それは正しい感性だ。

 だが、すでに父はその域に居ない──もう、全てを賭けてしまっている。

 これまでの人生を。立場を、生き方を、息子のアスランさえも。

 傾き過ぎてしまっているのだ。

 これがまだ、政敵でありながらも旧友であった、シーゲルと並び立っていた時なら違った。

 止められる人が他にもいた。まだ、父を止められる世界であった。

 

 だがもう遅い。

 戦火は広がり、憎しみは深くなり、ナチュラルとコーディネーターの溝は深くなり過ぎた。

 

「アスラン?」

「ううん、ごめん。なんでもない」

「諦めてるのか、もう?」

 

 聡い……いや、自分がわかりやすいのだろうとアスランは思った。

 あっさりと看破される自身の胸の内が、もどかしい。

 これからも一切、自身に腹芸は無理なのだろうと思い知らされる。

 

「もう、無理なんだ。父上は」

「アスラン……」

「もう戻れないところまで来てしまってる。誰かが無理矢理にでも止めないと、止まらない。でも、そんな止められる人が今の父上の側には誰もいない」

 

 悲しい顔を浮かべるアスランに、カガリは居た堪れなくなった。

 もうアスランは、切り捨ててしまったのだ。

 愚かな言動を見せた父を。止めるには遅過ぎた父を──その諦めが、顔に出ていた。

 

「何言ってるんだ、お前!」

「か、カガリ!?」

 

 叱咤するように、カガリはアスランへと詰め寄る。

 

「どの道私達はプラントも連合も止めるんだぞ! だったら、まだお前のお父様だって止められるじゃないか!」

「俺達が止めるのは戦争だろう。父上個人じゃない」

「プラントの動きを握ってるのがお前のお父様なら同じ事だろ! そんな簡単に諦めるなよ────お前のお父様、まだ生きてるじゃないか!」

 

 睨みつけるように見上げてくるカガリの言葉が、アスランの胸に刺さっていく。

 大切な父を失ったばかりである彼女だからこそ、その言葉が言える。それを知ってるからこそ、アスランは彼女の言葉に揺り動かされる。

 

「全部止めて、全部打ち破って、そうして最後にはお父様にざまぁみろくらい言ってやれって、アスラン!」

「ん、おいおい。それは言い過ぎだろ。まさかカガリはそんな事ウズミ様に言ってたのか?」

「────それ見た事か、くらいは言ったことがあるぞ」

「それは、羨ましい限りだな」

「なっ、おかしい事か!?」

 

 自分だったら何があってもそんなことは言えない。決別した今なら別だが、少なくとも言いなりであった以前には絶対言えない。

 ここら辺も、ちゃんと親子として生きてきたアスハ一家と、まるで親子でなかったザラ一家の違いという事だろうか──アスランは、苦笑した。

 

「いや、本当に羨ましいと思う。そんな親子で在れたカガリとウズミ様が」

 

 自分達はどこで、それができなくなってしまったのか。

 母がもし生きてれば、こうはならなかったのか。

 そんなIFが頭に浮かぶ。

 

 でも、それと同時に──カガリが言ったように父へ悪態の一つでもついてやろうと思ったら、途端に先ほどまでの切り捨てた心より、ずっと前向きになれる自分がいた。

 

「ありがとう、カガリ。やっぱり君の言葉は、俺を立たせてくれる」

「な、なんだよ急に……と言うか、アスランっていつも言葉足らずと言うか言いたいことが分かりにくいんだよな」

「そうか? そんなつもりは無いんだが……」

「自覚ないとかホント質がわるいぞ。今の流れでどこにお前が奮い立つ様なところがあるんだよ」

「はは、カガリ。それは君も人のことが言えないな。そうやって俺の心を弄んで、カガリは全くそんな自覚ないんだから」

「はっ、はぁ!? 弄ぶって、人聞きの悪い事──」

 

 瞬間、カガリの言葉は止まる。

 たくましいその腕に抱き抱えられ、カガリはアスランの胸の中にいた。

 

「へっ、てあばばまおまえっ!? 何して──」

「──すまない。少しこうさせてくれないか? ちょっとだけ……カガリの強さを分けて欲しい」

「ちょっとだけって……い、いつまで」

「だから、その……ちょっとだけ……」

 

 少なからず意識している相手に抱きしめられ、あまりの気恥ずかしさに顔を真っ赤にするカガリ。

 冷静な思考が戻らず、されるがままにオロオロしていたカガリのおかげで、アスランの抱擁はしばらく続いた。

 

 その間、なぜか通路には誰も来ず、そして物音一つどこからも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 アイシャとバルトフェルドの離脱によって、顔合わせを中途半端で終えてしまった一同。

 

 久しぶりの再会という事で、ラクスとキラもまた、2人きりの時間をとっていた。

 だが、少しだけキラは戸惑う。

 

 久しぶり──また会えて良かった。そんな当たり障りのない再会の挨拶から、ラクスにこれまでに無い雰囲気を感じ取っていた。

 

「ラクス──何か、あった?」

 

 ピクリと、ラクスの肩が揺れる、

 

 ダメだ、泣いては──自分にその姿は許されない。

 それは自分を慕う人達に余計な心の揺れを起こしてしまう。

 自分は平和を願う者達の象徴なのだ。

 

 誰かは一緒に悲しむだろう。誰かは怒りに塗れるだろう。誰かは不安にかられるだろう。

 それは、今これから挑む戦いには不要なのだ。だから、必死に心を抑える。

 

「ダメだよ、ラクス──我慢しちゃ」

 

 優しい声が、その決心を鈍らせる。

 

「見たらわかるよ。ずっと我慢してる────きっと、色んな事を」

「キ……ラ……」

「そんなの、僕を助けてくれたラクスじゃ無いよ。ラクスは、歌が好きで、花が好きで、あとは午後のお茶の時間を欠かさない。そんな普通の女の子だ」

 

 堰き止めていた感情が溢れてくる。

 

 シーゲル・クラインの娘として。穏健派の象徴として担ぎ上げられ、命の危機に脅かされながらも。

 毎日、毎日、平和のために言葉を紡いだ。それが、自身の役目だと決めたから。

 父の死すら、抑えつけた。

 だがそれでも、彼女はまだ齢16の少女。

 ダコスタが感じた様に、異常と言える様な精神性は有していない。

 ただ少しだけ、人より感情を抑えるのが得意であっただけだ。

 何も、感じていないわけでは無い。

 

 溢れてくる。これまで押さえつけていた感情が。

 自分をシーゲル・クラインの娘ではなく、穏健派の象徴でもなく。

 ただの少女、ラクス・クラインだと言ってくれる彼の前には、その仮面をつけていることができなかった。

 

「父が……死にました……」

 

 ハッとキラが息を呑んだ瞬間。気づけば、ラクスはキラの胸に縋って泣いていた。

 

 大粒の涙が無重力の中に浮かび上がる。

 

 声を枯らすほどに、ラクスは泣きじゃくった。

 溜め込んでた分だけ、悲しみは深く、重かった。

 大好きな父を。屋敷にいた家族と呼べる人たちを多く失った。

 ずっと毎日が不安で仕方なかった。

 

 いつ居場所がバレるのか。いつまでこんな状況が続くのか。

 あとどれだけ、自分のために仲間の命を犠牲にするのか。

 様々な重荷を──背負っていた悲しみを降ろすように、キラの胸でラクスは泣いた。

 

「ごめんね……大変な時に、側にいてあげられなくて」

 

 キラはそんなラクスを優しく抱き止めて、あやすように背中を撫で付けてあげた。

 きっと今この時を過ぎれば、ラクスはまたラクス・クラインへと戻ってしまう。

 だから少しでも彼女の背中を軽くさせてあげたかった。

 

 かつて自分がそうして、助けてもらったのだから。

 

 

 嗚咽を漏らす歌姫が静かになるまで、キラはただ静かに、彼女の涙を受け止めるのだった。

 




色々と詰め込まれた回。
原作では不足していた、彼ら、彼女等がそれぞれ惹かれあって行く部分を、本作では独自に書き上げてます。
お楽しみいただければ幸いです。

そしてようやくみんな揃ったのでーーちょっと次回は休憩。
幕間で息抜きさせていただきます。


それでは。
感想よろしくお願いします。
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