機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-8 悪意の払拭

 

 

 

 アークエンジェルに続き、サイレントランを敢行中のムウ。

 デブリが漂い、戦闘の様相がアークエンジェルの方に広がる中、必死に自制心を聞かせて敵戦艦が射程圏内に拾えるタイミングを待った。

 

 嫌な気分であった。

 作戦の要とは言え、まだ年端も行かない少年2人に大事な戦艦の防衛の為に無茶をさせている。

 全ては地球軍の……自分達の都合だというのに。

 キラ達が艦を降りられないのも、彼等が必死に艦を守ろうとしているのも、全ては地球軍の為だ。

 そう、自分達が仕向けているのだ。

 

 ならば、この作戦は。

 この攻撃は──外せない。

 

 センサーが彼我の距離を告げる音を鳴らした。

 予定位置。最適距離。ムウが乗るメビウス・ゼロのメインスラスターに全力の火が灯る。

 

「強襲だ! 機関最大、艦首下げヒッチ角60!」

 

 ギリギリでムウが動き出す直前に察知したラウが声を上げるが、コーディネーターといえど突然の出来事に対応が遅れるのは変わらない。

 

「遅いんだよ!!」

 

 メビウス・ゼロが機体に取りつけたガンバレルを展開。

 有線式の機動兵装によるオールレンジ攻撃でヴェサリウスへ集中砲火を浴びせる。

 威力の高いビーム兵装ではないものの、その数雨の如く。本体のリニアカノンと合わせれば、戦艦一隻くらい十分に損傷を与えられる威力を有している。

 

「機関損傷大。隔壁作動!」

「CIWS起動! 撃ち落とせ!!」

「ダメです、姿勢制御が利きません!」

 

 報告される被害報告にラウは苦虫を噛み潰したような表情となった。

 

「えぇい、転進だ。離脱する! ガモフにも打電しろ!」

 

 ヴェサリウスへとアンカーを撃ち込み、突撃の勢いをそのままにムウのメビウスが方向を変えて去っていくのを、ラウは苦渋と共に見つめた。

 

「本当に貴様は、やってくれる……」

 

 いつもすました姿勢を崩さないラウの怒気が、ヴェサリウスの艦橋を包み込んでいた。

 

 

「いよっしゃああ!!」

 

 対照的に、帰還の途についたメビウスの中でムウは雄たけびを上げる。

 目論見は完全に成功。ナスカ級は沈黙しアークエンジェルの進路は開けた。

 後はストライクとアストレイを収容して振り切るだけ。

 

「目標達成。帰還するっと……」

 

 この距離では有視界通信はできない。電文のみの報告を早々に送り、ムウはアークエンジェルへと急いだ。

 

 戦闘はまだ続いているのだ。

 

 

 

 

 取りつこうとするブリッツと熾烈な攻防を繰り広げるアークエンジェル。

 MS一機とは言え、戦艦の主要な兵器は実弾が多い。

 PS装甲を備える新型には苦戦をさせられるものであった。

 

「ブリッツ、艦底部へと移動!」

「底部イーゲルシュテルン起動! ヘルダートを自動操作に」

「ゴットフリートを使用する。左ロール30、取り舵20!」

「了解、ロール30、取り舵20」

 

 マリューの指示を復唱しながら、操舵のノイマンが艦をコントロール。

 アークエンジェルが大きく揺れた。

 

「きゃあ!?」

「っと、大丈夫か?」

「あ、ありがとう」

「ちゃんと捕まっておけ。戦闘となれば揺れるのは当たり前だ」

「わかってるけど……」

 

 艦内では戦闘における急な艦の動きに翻弄されたフレイを、カガリが支えていた。

 艦橋に上がった友人達が気がかりで仕方ないのもあるだろうし、単純に戦闘によって艦が落ちる事も危惧しているのだろう。

 忙しなく異常が無いかと視線が動き、身体は落ち着きなく震えている。

 

「怖いのか?」

「当たり前じゃない」

「大丈夫だ。さっきから揺れてはいるが、被弾の振動は無い。上手く迎撃できている証拠だよ」

「なんで、そんなことわかるのよ」

 

 しまった、またやってしまった。とカガリは心中て呻く。

 安心させるためとは言えまたも余計なことを口走った己の軽い口を思わず呪う。

 必死に巡らない頭を巡らせて言い訳を捻りだした。

 

「それは……えっと……私はMS開発に携わってるからな。戦艦との戦闘もシミュレーションで触れたことがあるんだ」

 

 とっさに兄が作ってくれた設定に感謝した瞬間である。

 ギリギリおかしい事ではないはずだ。シミュレーションでそんな振動云々の話がわかるわけないだろうなんてツッコミは、フレイが相手なら問題ない。

 

「ふぅん。女の子なのにMSの開発なんて変なの」

「なっ!? 何が変なんだ!」

「別に。女の子らしくないって思っただけよ」

「う、うるさい!! 私はその女の子らしいって言葉が一番嫌いだ!」

「な、なによもう。そんなに怒らなくても……」

 

 急に声を荒げたカガリに、フレイは眉根を寄せた。

 カガリもまた、一番嫌いな物言いに眉根を寄せた。

 別に互いをそれ程見知った仲ではない為、食ってかかるには関係が浅い。

 2人が考えた末に出した結論は奇しくも同じとなった。

 

「「ふんっ」」

 

 外は大変だが、中は平和である。

 

 

 

 

「なかなか取りつかせてくれませんね」

 

 流石に新造の戦艦であった。まるで死角がない。

 ブリッツに乗るニコルは、思う様に攻めきれない事に歯噛みする。

 接近してエンジン部に直接攻撃を叩き込めれば、航行不能には追いやれるだろうが、そこまでが遠い。

 特にブリッツは特殊兵装の多い機体だ。

 バスターやイージスの様に大火力の兵装は備えていない。

 

 向けられたゴットフリートを回避して、追撃のミサイルを防御。

 このままでは危険だと判断し、仕方なく距離を取るしかなかった。

 

『ニコル、敵の新型を鹵獲した。イザークとディアッカがいない以上、ここでお前だけ残るわけにもいかない。撤退するぞ』

「アスラン、やったんですね!」

『やむなく、だがな』

「了解しました。撤退します!」

 

 通信を終え、ニコルは射線を躱しながらブリッツを後退させる。

 アークエンジェルはその動きを見て状況を理解した。

 

「ストライク、敵機に鹵獲!」

「なんですって!?」

「フラガ大尉より入電。我目標を完遂、帰投する」

「フラガ大尉に打電。ストライクの救出を!」

「了解!」

「ミリアリア・ハウ! アマノ二尉に通信を! ストライクの救出へ向かわせろ!」

「は、はい!!」

 

 ムウの戦果の一報がかき消される事態に、艦橋内が慌ただしくなる。

 既にイージスもブリッツも撤退。アークエンジェルにできる事は少なかった。

 

「艦長、ストライク救出を信じて今は前を!」

「わかっています。ローエングリン展開。前方のナスカ級を堕とし血路を拓きます」

「了解。艦首解放、ローエングリン展開」

「フラガ大尉のゼロは?」

「射線外です」

「よし、ローエングリン。てぇえ!」

 

 陽電子砲ローエングリン。アークエンジェル艦載砲の中でも最大の火力を持つ二門の砲塔が火を噴いた。

 暗黒の宇宙を迸る極大の閃光。

 狙いは、前方でメビウスによって動きが鈍くなっているナスカ級ヴェサリウスである。

 

「敵艦より高熱源反応!」

「左舷機関最大! 躱せ!!」

 

 ラウが声を荒げて出す指示に、オペレーターも追従。

 何とか躱すことには成功するものの既に艦の体勢は、アークエンジェルへと向いておらず、反撃に出る余裕などなかった。

 

「離脱だアデス!」

 

 危うく堕とされるところであった。

 再び胸中に不愉快な感触が競り上がってくる。

 作戦前まで優勢だったはずだ。

 それをこうまで劣勢にされたのは完全に己の読み違いのせいであった。

 

「(この借りは高くつくぞ、ムウ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イザーク! おい、イザーク! 返事をしろ!」

 

 バスターのコクピットから通信で必死にイザークを呼び出すディアッカ。

 

 さっきまで2人はタケルが乗るアストレイと戦闘中だったが、ミリアリアの通信を受けタケルは有無を言わさずストライクの元へアストレイを走らせた。

 結果、戦闘中でありながら静寂となったこの場には沈黙してしまったイザークと彼を呼び続けるディアッカだけが残ることになっていた。

 

「う、くっ……ディアッ……カ?」

「気が付いたかイザーク」

「俺は……そうだ、あのオレンジに!」

「今は落ち着け。アイツはもうここに居ない。

 機体は動かせるな? このままガモフへ帰投しろ」

「何? お前はどうする気だ?」

「あのオレンジがアスランとニコルの方へ向かっちまった。バスターはまだ戦えるからな。援護に行ってくる」

「だったら俺も──」

「メインカメラ吹っ飛ばされて何言ってんだよ。そんな状態でのこのこ行ったら今度は確実に堕とされるぜ。ほら、はやくガモフに戻れよ」

「──わかった。帰投する」

 

 声から察するに不完全燃焼感は拭えない気がするが、ディアッカが言うようにメインカメラを飛ばされたデュエルに戦闘継続はもう不可能だろう。

 渋々と帰投するデュエルを見送り、バスターは再び戦場を見据えた。

 

「あーあ、行きたくねえなホント」

 

 1人になった瞬間、思わず本音が零れる。

 アストレイとの戦闘はディアッカの脳裏に強烈な恐怖を刻み込んでいた。

 

 引き離せない機動力。距離を詰めているというのに躱される射撃。

 まるで小さな虫でも狙っているかのような気分にさせられていた。

 

「でもま、装備以外は健在の状態で逃げ帰るわけにもって話だ」

 

 自らを鼓舞する様に軽口を叩いて、ディアッカはバスターを走らせる。

 

 向かうは同期が戦っているであろう戦場。

 

 

 

 

 

 

「うぅ……あれ、僕は」

 

 コクピット内で目を覚ましたキラ。

 ふわふわとした意識の中、視界にコクピットが映り瞬時に覚醒する。

 戦闘中だったはずだ、一体どうなったのか……

 

 メインカメラが拾う周囲の状況に驚愕する。

 

「これは!?」

 

 イージスがストライクに組み付いて宙域を航行中であった。

 センサーが拾う位置情報からはアークエンジェルより随分後ろまで運ばれている。

 

「くっ、どういうつもりだ。放せ、アスラン!」

「このままガモフまで連行する。わかってくれキラ……俺は、お前を撃ちたくなどないんだ!」

「だからって、アークエンジェルには大切な友達が」

「いい加減にしろ、キラ!」

 

 投げられる怒声に、思わずキラは言葉を無くす。

 彼らしくない切羽詰まった表情と、彼らしくない酷く狼狽えた声である。

 

「お前はコーディネーターだ。ナチュラルではなく、地球軍でもなく。コーディネーターなんだ」

「そんな……そんな風にしか考えられないから、戦争が無くならないんじゃないのか!」

「血のバレンタインで母は死んだ! ナチュラルの非道な核ミサイルのせいで……そのセリフは何も失った事がない奴のセリフだ!」

 

 カガリは言った。地球軍が戦っているのはプラントであってコーディネーターではない、と。

 そんな事は詭弁である。

 この戦争の根幹はナチュラルとコーディネーター。

 二つの人類が在る事から起きているのだ。

 

 血のバレンタインはナチュラルの誰かが起こしたわけではなく“ナチュラル”が起こしたもの。

 その日に母を亡くしたアスランには、ナチュラルへの復讐の権利があると言える。

 キラの言葉は、何も失わず世界で起きていた戦争にも目を向けていなかった、世間知らずの言い分だ。

 

「くっ、だからって」

「俺にお前を撃たせないでくれ。大切な人を……もう戦争で失いたくは無いんだ!」

 

 アスランの言葉に、キラの動揺が急速に冷えて収まっていく。

 何て身勝手な言い分だろうか。自ら戦争に身を置いておきながら失いたくない、撃ちたくないなどと。

 

 ならば何故、ヘリオポリスを襲った? 

 ならば何故、ヘリオポリスを破壊した? 

 中立のオーブが保有するコロニーを戦火に巻き込んでおいて……あの時死んでしまった人達だっているはずだ。

 その人達は、アスランの母と同じ犠牲者ではないのか? 

 何も知らず、ただ普通に生きていた人達ではないのか? 

 

 燻る黒い感情が、冷たさを纏ってキラの中に固形化してくる。

 

「放してよ、アスラン」

「何!」

「良く分かったよ、君がとても自分勝手に戦ってるって事が」

「くっ、キラ!?」

「僕がヘリオポリスに居た意味を分かってる? 

 あそこには当然僕の父さんと母さんもいたんだよ」

「っ!? それは」

「同じじゃないか、君達がやってることは。

 関係ない人を巻き込んで、無関係な僕の友達を傷つけて。そのせいで、サイ達はあの艦に乗る事になって……」

「キラ、それは!?」

「アスラン、敵反応です!」

 

 ニコルの声に、アスランはセンサーを確認する。

 見れば急速に迫ってくる機体の反応があった。

 

「ストライク、イージスに!? くそっ!」

 

 アストレイが最大戦速で迫る。

 見るからにわかるその気迫。ストライクを絶対に取り戻す意思が視覚化されて見えるようであった。

 

「オレンジの!? まさかイザークとディアッカがっ!」

「タケル! お願いだ、僕を!」

「すぐに助けてみせる!」

「アスラン、行ってください! ここは僕が」

「ダメだニコル。危険すぎる。せめてガモフの射程圏内まで」

「それでは追いつかれます!」

 

 アスランの制止を振り切り、ニコルはブリッツをアストレイへと向ける。

 右腕部に備えられたビームライフルを放って牽制するが、タケルのアストレイは簡単に回避して接近を続けてきた。

 

「くっ、早いわけでもないのに何て機動だ」

「そこを退いてもらうよ!」

 

 アストレイはライフルを回避しながらブリッツへと肉薄。

 短いビームサーベルでブリッツを狙うも、ニコルは冷静に後退。

 バスターと比べればブリッツはまだ軽い。アストレイの機動性に追従するだけの性能はある。

 振り抜いて姿勢が崩れたところをグレイプニールと呼ばれるアンカーで捉えようとするが、アストレイはこれをタイミングよくシールドで弾いた。

 

「この距離でその反応!?」

「さっきの2人より冷静だ。良く見ている!」

 

 タケルは接近戦だけでは仕留めきれないと判断。

 シールドを捨て、サーベルとライフルをアストレイにそれぞれ持たせ、再び機動戦に入った。

 

「ニコル、だめだ!」

「くっ、アスランは行ってください!」

「やめろ! 、僕はアークエンジェルへ戻る!」

 

 ガシガシと残りわずかな電力で抵抗を見せるストライクがイージスの懐で身じろぎするがその程度で抜け出せるほどイージスのアームは軟ではない。

 だが、その場に新たな機体が乱入する。

 

 イージスのセンサーが再び敵機の反応を捉えた。

 それは先のアストレイよりも高速で迫ってくる。

 

「うぉおおお!!」

 

 怒涛の勢いで突撃してきたのはムウのメビウス・ゼロ。

 到着と同時にガンバレルを展開。ストライクを捕らえて身動きできないイージスへ吶喊した。

 

「ちぃ、このままでは……ぐっ!?」

 

 PS装甲であろうと衝撃は殺せない。

 雨のような射撃に、遂には拘束が緩んでストライクが解放される。

 

「無事か、坊主!!」

「フラガ大尉。助かりました!」

「そんな事はいい! アークエンジェルに向かえ! ランチャーストライクが射出されるぞ!」

「は、はい!」

「まて、キラ!!」

 

 アスランの言葉もむなしく、ストライクはその場を離脱していく。

 アスランの脳裏には、先のキラの言葉がこびりついていた。

 

 “同じじゃないか、君達も”

 

 そうだ。そんな事はわかっている。

 無関係な人達を巻き込んでいるのも、全てはこの戦争に勝つため。

 ヘリオポリスで開発されていた新型を見逃せば、巡り巡って、ザフトの……プラントの同胞達を殺すことになる。

 だから迷わず作戦を実行したのだ。

 そこに大儀があったから。

 

「くそっ!!」

 

 キラの言葉がアスランの心を揺さぶり続けた。

 

 ストライクを捕らえようと再び機体を翻すアスランだが、目の前にはアストレイとメビウス・ゼロが迎え撃つ姿勢を見せている。

 合図もなく、再び4機は戦闘状態へと入った。

 

「タケル、機体状況は?」

「問題ないですよ。少し推進剤が心許ないですが」

「そいつは良かった、さすがに俺も新型2機相手に単独はきついからなぁ」

「何言ってるんですか? 3機ですよ」

「なんだって? っておわ!?」

 

 突如その場に放り込まれたビーム射撃。

 遠めから撃ち込まれたのはバスターの攻撃である。

 間一髪、センサーが感知して避けられたムウだが、冷や汗が頬を伝った。

 

「タケル、気が付いてたんなら言えって!」

「気が付いてるかと思って」

「嘘つけ!」

 

 とてつもないやり取りである。

 ストライクがアークエンジェルへと向かった事でタケルも一先ず平常運転に。ムウはそもそも普段からこういった感じではあるがとても新型を相手にしてする会話ではない。

 

「アスラン、ニコル!」

「ディアッカ、イザークはどうしたんだ?」

「あのオレンジにやられた。幸い生きてはいるがガモフに先に帰投している」

「なんだって……」

 

 アスランは戦慄した。

 いくら相手が強いと言ったところで、イザークとディアッカは決して弱いわけではない。

 機体とて最新鋭の機体である。それで負ける等考えられなかった。

 

「状況はかなり苦しくなったが、このまま何も無しに帰るわけにはいかない」

「つってもよ、どうすんの?」

「あのオレンジを狙う。鹵獲できれば望ましいが、危険性を考えて撃ち落とすことを視野に」

「へぇ、いいね。丁度、さっきの借りも返したいしよ!!」

 

 ビーム砲とミサイルの斉射。

 バスターがその名の通りに火力を見せつける様に射撃を放つ。

 

「了解です。恐らくさっきの新型も戻ってくるでしょう。時間はかけられません」

 

 ニコルのブリッツも右腕部のビームサーベルを展開し、バスターの攻撃を回避したアストレイへと白兵戦を挑む。

 

「ちぃ、ちょろちょろと、鬱陶しいんだよ!」

 

 メビウス・ゼロのガンバレルに翻弄されたバスターが、ミサイルの斉射でメビウスを狙う。

 MAは速度こそ早いものの機動性が低く、ミサイルのような追尾性の兵器は躱すのが難しい。

 回避の為にムウがアストレイから大きく引き離された。

 

「行くぞニコル!」

「了解」

 

 イージスとブリッツが連携してアストレイへと向かう。

 イージスがライフルを放ちながら接近。

 アストレイはそれをひらひらと躱すが、そこをブリッツが追撃。

 

「ちっ、隙が少ない!」

 

 横薙ぎのサーベルをのけぞって躱すと、そのままタケルは残った右足でブリッツの腕を蹴り上げる。

 だがブリッツのサーベルは右腕部に仕込まれた特殊兵装から発振しているものだ。

 サーベルを手放すような事態にはならない。

 蹴り上げた勢いそのままに、ブリッツを踏みつけてその場を離脱。

 直後にはイージスがその場にサーベルを振り下ろしていた。

 

「ニコル!?」

「大丈夫、です!」

 

 距離を取ったアストレイをバスターからの援護射撃が襲う。

 ここでアストレイが遂に被弾。左脚部に続いて右脚部までも持っていかれる。

 

 まずい……タケルは瞬間的に悪寒を感じた。

 両脚部を失えば重量バランスは大きく崩れる。

 重心もずれ、今までのような機体の運動性を発揮するのは難しい。

 

 そして目の前には好機を見逃さぬように突撃してくるブリッツの姿。

 限られた選択肢の中で、タケルはアストレイの2本のビームサーベルを展開。

 一撃目を受け止め、そのままスラスターで押し返す。

 だが、そのブリッツのすぐ背後に準備していたのだろう。

 今度はイージスによってアストレイが蹴りつけられ、大きく体勢を崩した。

 

「しまっ──」

「終わりだぁ!!」

 

 サーベルを出力して突撃するイージス。

 突き出された腕と、ビームサーベルがやたらとゆっくり迫ってくるのをタケルは感じていた。

 

 

 眩い閃光が走る。

 

 

 巨大なビームがアストレイとイージスの間を迸り、突き出されていたイージスの腕を消し飛ばしていた。

 

「タケル!!」

 

 遠目からの砲撃。

 ランチャーストライクへと換装したキラがアグニで射抜いたのだった。

 

「くそっ! 間に合わなかったか」

「アスラン、撤退です!」

「今度はこっちがヤバい!」

「わかっている。撤退するぞ!」

 

 次々と撤退していくイージス達に、キラは無我夢中でアグニを撃ち続けた。

 まるで二度と来るなと追い立てる様に。

 

「キラ……もう、大丈夫だから」

「タケル、良かった。無事、なんだよね?」

「機体を少しやられただけ。後は、ちょっと疲れたかもね……」

「ストライクにつかまって、その機体じゃもう動きにくいでしょ?」

「うん、ありがとう。あとごめん……」

「もう、なんでタケルが謝るんだよ」

 

 迷惑をかけたのは自分なのに。

 アスランにやられて捕まったのは自分なのに。

 タケルはなぜか謝罪を向けてくる。

 どこか普段のタケルとはおかしいと感じた。

 戦闘前にあった違和感とは違う。

 なんというか、今にも壊れそうだった。

 

「うん……ごめん」

 

 戦闘とは別の不安を抱きながら、キラはタケルを伴って帰投するのであった。

 

 

 




いかがでしたか。

頑張ってます。作者も主人公も

前回も言いましたけど、主人公が強すぎるのではなく、アスラン達が使いこなせてないだけです

感想よろしくお願いします

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