でもこんな流れもいいと思う
「な、なぁ……もう良いんじゃねえか? タケル」
精魂尽き果てた様にげっそりとした表情で、シミュレーターより這い出てくる一人の男性。
ムウ・ラ・フラガは、近くでエリカと共にアカツキ完成に向けた作業に追われているタケルへと、縋るように声を投げた。
「ん……ミッション、クリアできたんですか?」
「──無理」
「じゃあダメです」
話はこれで終わりと言わんばかり。
むしろ一度もムウへ視線を投げない辺り、完全に聞く気は無かっただろう。
タケルはエリカとの作業を続けた。
「お前なぁ! キラのストライクに勝てって無茶だろうがよ! こっちは一応まだルーキーなんだぞ!」
「パーフェクトストライクにしてあげてるんですからマシンスペックは上ですよ。それに、フラガ少佐の方が戦場歴は長いんですから。搦手でも使えばどうにでもなるでしょう?」
「搦手使ってもキラのストライクの反応が早すぎるんだって! なぁ、頼むってタケルぅ」
かれこれ訓練開始から3時間。
ムウがもっとストライクを乗りこなしておきたいと言い始めたことに端を発した、タケル印のシミュレーター訓練。
ムウはキラが乗ったストライクと1対1で学ぶストライクの限界性能把握訓練。
ディアッカはタケルが作成したアークエンジェル防衛ミッションを、順次クリアするまで眠れませんという内容になっている。
今後はアークエンジェルの防衛に付くことが多くなるバスターだ。劣勢での防衛戦をこなすミッションは訓練にはうってつけである。
嘗ての自分達の所業が丸々自分に返ってくると言う、皮肉が利いてるのが良い塩梅のスパイスだ。
「タケル……俺も一先ず休憩は挟むべきだと思う。少佐、ずっとやってるじゃないか?」
「アサギ達にはもっと長い時間やらせてきてるからダメ。まぁ彼女たちの場合はそれだけの時間が必要な程、才能には恵まれてなかったという事かもしれないけど。
フラガ少佐は才能に恵まれてるんですから、それに胡坐をかくようではダメでしょ」
とは言うものの、アサギ達に課していたミッションとムウのミッションでは難度──つまりは時間当たりの負荷がよっぽど違うものをやらせていたりするので素直な比較にはならない。
「少佐、同じスペックの機体に乗ってるんですから、同じ動きまではできるんです。よくキラのストライクの動きを観察してください。そしたら次は出来ない動きを思い描いてください。パーフェクトストライクで選択肢は豊富なんですから、それができれば追いつめられるんです」
「余裕がねえよ、そんな動きを見てる余裕がな!」
「じゃあ機体の制御に意識を取られ過ぎです。慣熟が足りません。どの道継続ですね」
「のぉおおお!!」
非情な宣言にやけっぱちになって、ムウは再びシミュレーターに潜り込んだ。
その頬に男泣きの涙が流れていたのを、知る者はいない。
「ねぇ、タケル。頼まれていたサポートAI。とりあえず雛形ができたんだけど……」
「あ、本当! さすがだよキラ、助かる。どんな感じ?」
「うん、一先ずはこんな感じ。AIに乗せる思考としては──」
タケルとキラがアカツキのサポートAIについて話し始めたところで、アスランはやれやれと言った様子で肩をすくめて、ムウと同じく地獄の淵にいる同期の元へと向かった。
「……ちっ、この!」
「ディアッカ、調子は──」
「だぁあああ、ふざけんなよアスランてめえ!!」
突然の罵声に思わず身体をビクっと震わせる。
声を掛けようとした矢先に発せられた罵声に、アスランは数秒身を固めてからおずおずとディアッカの様子を伺った。
「す、すまないディアッカ……邪魔してしまったか?」
「ん? あぁ、アスランか──どうしたんだ?」
「いやどうしたってお前……それはこっちのセリフだ。いきなり怒るから良いところで邪魔をしてしまったのかと」
「ん? あぁ、違う違う。こっちのミッションで、お前が乗ってるイージスが綺麗に隙をついてアークエンジェル落としやがってよ。良いとこまでいったんだがミッション失敗──味方だから知らなかったが、お前って本当に厄介な奴だったんだな」
「そ、それは……喜んでいいのか俺は?」
反応に困る評価に、アスランは思わず唸った。
いや、今現在も味方として轡を並べる以上、悪い事では無いはずだ。
「それで、ディアッカの調子はどうなんだ? フラガ少佐は全然終わりそうな気配が見えないが」
「ちょいちょい地道に進んできてるな。一応俺がアストレイの枠に入る形のミッションでお前達を相手にしていて。
まぁ、多分以前のデータ使ってるから相手になる俺達もそこまで練度高くねえし」
「収穫はあったか?」
「ありありだ。今までどんだけ楽な戦いをしてたのかって感じだ。防衛対象があるとまじでキツイ。その分、アストレイとストライクだけでアークエンジェルを守り続けてきたタケルとキラには驚かされてばかりだけどな」
少しずつクリアできている──とは言っても、それは何度もトライしてのクリア。
全てその時のぶっつけ本番の……攻略も何も考えられない千変万化する状況でずっとそのぶっつけ本番を潜り抜けてきたアークエンジェルと、2人のパイロットには畏怖すら覚えた。
「ディアッカ、調子はどうかな……どこまで行った?」
「ん、タケルか。今ようやく衛星軌道上でのミッションをクリアしたところで。今から地球──へぶっ!?」
不意に、タケルから拳が放たれ殴られたディアッカが、軽くたたらを踏む。
「ってぇな、何だよいきなり!」
「タケル!? どういうつもりだ!」
「えっと────ちょっと八つ当たりしたくなった?」
「はぁっ!? ふざけてんの──」
「待て、ディアッカ。タケル……君がそんな不当な理由で人を殴る様な奴じゃない事は俺達だってわかってる。
教えろよ、何が理由だ?」
「聞きたい? 僕としてはあまり話したくないんだけど……」
「聞かなきゃ、俺達は納得しないぞ。なぁ、ディアッカ?」
「あぁ、これから一緒に戦うんだぜ。つーか、殴られる理由があったんだろ?」
「あると言えばあるけど、君達には無いと言える権利がある、かな……だから、僕としては本当にただの八つ当たり」
「回りくどい言い方をするな、タケル!」
仲間への突然の暴行。
アスランに怒りの相が増してきて、タケル少しだけ申し訳なさそうに目を伏せた。
「うん、分かったよ……ちょっと、場所変えようか────キラっ! フラガ少佐見ててくれる? 無理そうなら休憩させといて!」
「あ、うん、わかった!」
キラへと一声かけてから、タケルは2人を伴って、クサナギのレクリエーションルームへと向かった。
アサギ達はエターナルへと向かっていないし、他の乗員の殆どは現在就寝の時間であった。
案の定、着いた部屋には誰もおらず、タケルは一安心する。
「ディアッカ、疲れてるでしょ? ハイ、飲み物」
「ん、おう。サンキュ」
「アスランは、いる?」
「いや、俺は別に大丈夫だ。少し整備班の作業の手伝いに入ってただけだしな」
「ん、了解。それじゃ、話そうか。八つ当たりした理由……とは言っても先に言っておくけど、本当にただの八つ当たり。僕にはそれをする理由があったけど、君達には文句を言える権利がある。良いね?」
「だから回りくどいんだっての。早く教えろよ」
「はいはい────ディアッカはさ、バスター乗ってるよね?」
「あぁ? そうだけど……」
「アークエンジェルに乗ってた時、衛星軌道上で君達が攻めてきた時の事だ」
「さっき俺がクリアしたミッションの?」
「そう、それ。あの時に、ヘリオポリスで回収された民間人を乗せたシャトルが、戦場で巻き込まれて撃墜されてる────撃ったのは、君のバスターだ」
突然の話に、アスランもディアッカも言葉を失った。
覚えのある戦い。その最中で、民間人を乗せたシャトルが撃墜されていた。
それは軍人として背負うには重すぎる罪科である。
「はっ……えっ……嘘、だろ? 冗談だよな?」
「待って、ディアッカ。僕の言い方が悪かったよ、落ち着いて──撃ったのは確かに君のバスターだ。でも、撃たせたのは僕だ」
「何言ってんだよお前は!」
「どういうことだタケル。撃ったのがバスターであることはまだわかるが、撃たせたのが君だと言うのは意味が分からない」
未だ事実を受け止めきれないでいるディアッカに代わり、アスランが疑問を呈した。
「大気圏へと突入していく直前、バスターが最後にアストレイを狙って放った射撃。僕はそれにアークエンジェルを巻き込まない様にするために機体を動かして、君の射線を引き付けた。振動でまともに狙いが付くはずもない。十全に僕は君の射撃を回避────その後ろで、シャトルが爆発していたんだ」
「なんだと」
「ディアッカが知らなかったのも無理は無いよ。タイミングは本当に大気圏へと突入していくところだったし。最後の最後で撃った射撃だった。撃つと同時に、機体を翻して今度は突入に合わせて機体を対応させなきゃいけないだろうし」
「──つまり、俺のせいじゃねえかよ」
小さく呟かれたディアッカの声。しかし、それにタケルは頭を振った。
「さっきも言ったでしょ。撃ったのはディアッカ、だけど撃たせたのは僕だ。敵である君が僕を討つのは必然……背後を気にせず動いた僕が悪い。僕が巻き込んだだけ。
ただ、それでも御し切れない想いがあったから、八つ当たりしちゃったんだ────ごめん」
「ごめんって……俺が撃ったんだろ。お前のせいじゃねえだろうが」
「そう言うと思ったから、本当はずっと隠しておくつもりだったんだ。でも……ディアッカが頑張ってるの見て、ちょっと悪い事を考えちゃってさ」
「悪い事? それはまた、どういうことだタケル?」
言い辛そうな苦笑いを浮かべるタケル。
対してアスランもディアッカも、続きを促す様に真剣な表情をタケルへと向けた。
「受け止めきれるなら、一緒に背負ってもらおうかなって……ディアッカには軍人として、自分の責任ではないと言える権利がある。作戦上の行動だし、敵機を狙った上での撃墜だからね。
でも、今こうしてここに居て……僕達と一緒に戦う決心をしてくれたディアッカなら、僕一人で背負ってたこれを、一緒に背負ってくれるんじゃないかなって。そう思ったら……背負わせるならまずはよくも撃ってくれたなって八つ当たりからしようって思って」
「それで、あんな行動を……」
概ね、突然のタケルの奇行を理解できて、アスランは小さく嘆息した。
ディアッカは未だ、拳を握りしめてどうにか事実を呑み下そうとしているが、アスランとて今のを聞いて思う事が無いわけではない。
民間人を巻き込んだ。
それもヘリオポリスに端を発する所だ。
確かにタケルが撃たせた。ディアッカが撃った──その事実は間違いない。
だが元をたどれば、ザフトのヘリオポリス襲撃が原因。
そして、軌道上の戦いもザフトが攻め込み戦端を開いている。
決して他人事ではなかった。
「──あのさ。追い打ちかけても良い?」
恐る恐る、タケルが静かに零した言葉に、アスランとディアッカは小さく戦慄する。
この話からの追い打ちと言う単語。決して良い予感はしない。
しかし、それを避けることは、今の2人にはできなかった。
聞かなければいけない。その責任があると思った。
「聞かせてくれ」
「全部言ってくれ、タケル」
「はは、ありがと──ホントに」
タケルが見せる心底感謝する声音と表情に、アスランとディアッカは息を呑んだ。
「あのシャトルに乗ってたのはさ、ヘリオポリス崩壊後にキラが故障した避難用の救命艇を拾ってきて、それで艦に同乗することになった民間人だったんだ。
ずっと、苦しい状況にあるアークエンジェルで、戦闘や撃沈の恐怖とか、物資の不足とかに晒されて……それでようやく第8艦隊と合流してオーブに。平和な生活に戻れるって安心してシャトルに乗っていった人達だったんだ」
アークエンジェルに民間人が乗っていた……それはザフトには知られてない事。
アスランとディアッカには何ら責は無い。しかし、事の発端がザフトの襲撃にありヘリオポリスの崩壊にあり、となればそう簡単に切り捨てる事もできない。
2人は、沈痛な面持ちとなって話を聞いていた。
「僕も、オーブの人間ではあったから、本当はそのシャトルに乗って離れるはずだった。まぁ、結果的にはそのまま艦に残ることになっちゃったんだけどね。
それで、シャトルの乗る列にキラと並んでたらさ、小さな女の子が歩いてきたんだ。5歳くらいの子……エルちゃんって名前で幼いながらも僕とキラが艦を守って戦ってたのを知ってたみたいでさ。僕達に……折り紙で折った小さな花をくれて……ありがとうって……」
思い出して──涙こそ流れないものの、タケルの声は上擦っていた。
当事者であるディアッカとアスランが知らぬ中、きっと目の前の少年は散々に自責の念に悩まされたのだろうと、2人は思った。
オーブでも見てきている。タケルが背負い込みがちな性格なのは目の当たりにしている。
そんな彼が、間接的にでもその悲劇を引き起こし、それを見届けていて、自責の念に駆られないわけがない。
その気持ちはどれ程重かっただろうか。
それは、今のタケルの声と表情でわかった。
そしてアスランとディアッカは、タケルが語る事の意味を理解した。
奪ったのだ──ザフトと連合の戦いが。
まだ何も知らない、無垢な少女も含めて多くの民間人を犠牲にした。
中立を反故にしたオーブのせいか? ヘリオポリスを襲ったザフトのせいか? 守り切れなかったタケルや連合のせいか?
タケルが言いたいのは、そう言う事ではなかった。
「僕はさ、これ以上あんな子を増やしたくないんだ」
「当然だ。そんな話を聞かされて、そう思わない奴はいない」
「俺だって……そう思うさ」
タケルへと強い眼差しを向ける2人。
戦争を止めたいと思う気持ちは十分であったが、今その想いはより強固なものとなっていた。
背負った事実の分だけ、決意が増していた。
「一緒に背負ってくれる? そして、一緒に戦って欲しい。この世界の戦争を止めるために」
「見縊るなよタケル……俺達は最初からそのつもりだ」
「そうだぜ、タケル。今のを聞いたら、尚更引けねえだろうが!」
「ありがとう。2人とも本当に──」
「ちょっと待てタケルっ!!」
飛び込んでくる声。
そこにはキラに肩を貸してもらいながらこの場に顔を出してきた、ゾンビの様に疲弊したムウ・ラ・フラガの姿があった。
「少佐。キラも……」
「お前、ザフトの坊主共にそんな話をして、俺に話さないのはどういう了見だおい!」
えらく御立腹な雰囲気だが、ゾンビ並みに青い顔をしてるせいか異常に怖い。
えらい剣幕で詰め寄って来るムウに、タケルは俄かに後ずさる。
「い、いえ、別に少佐を意図して除け者にしたわけじゃ──わぷっ!?」
「お前はいつもそうやって俺に何も言わねえ! そんな奴はこうだ!」
「い、いだだだ!」
「ちょっ、ムウさん! 拗ねないでくださいよ」
ガシッとヘッドロックを掛けられて、頭を拳でぐりぐりとされるタケル。
アスランとディアッカは呆気にとられ、キラが何とか間に入りムウを窘めた。
「いつになったらお前は俺を信頼してくれるんだっての!」
「いえ、信頼してない何て事は……」
「だったらちっとは俺にも話せってんだよ、悩める青少年────俺もキラもアスランにディアッカも、一緒に戦う仲間だろうが」
「…………そう、ですね」
ひとまず納得、と言う様子を見せたタケル。
ムウはヘッドロックから解放して、タケルを肩を組み直した。
「俺だって、シャトルの事は聞いてた……巻き込んだのは俺たち地球軍とザフトだ。本当なら、お前がどうこう感じる必要はなかったんだ」
「そうは言っても、ですよ。納得できるわけでも無いですから……僕自身が」
「だよなぁ──だからよ、一緒に背負うのはそっちの2人だけじゃ無いだろ」
ムウが言いたい事を理解して、タケルは苦笑気味に笑みを見せる。
確かにそうだけど。
あの日あの時、同じ戦場にいた。背負うのなら共に、と言うのは何ら間違っていない。
そして共に背負うのなら、共に平和な世界を夢見るのだ。
「フラガ少佐、キラも……僕と一緒に背負って、一緒に戦って欲しい。あんな犠牲を、もう二度と出さない為に」
「当然だろ」
「もちろん」
キラとムウ。そしてアスランとディアッカへと目を向けて。
タケルから自然と突き出された拳に、4人が合わせる。
小さく拳がぶつかる音が鳴る。同時に僅かな笑みが浮かんだ。
以前は撃ち合った関係。
命のやり取りをして、敵対した関係。
仲間を討たれた。友人を討たれた。大切なものを討たれた。
そうして今ここに至る。
向きあい、先を見据え、同じ未来を求む。
わだかまりの一つもなく、彼らは真に仲間になれた。
戦友として、平和な未来を勝ち取る事を胸に誓った。
「平和な世界、叶えよう」
応じる声は、揃いて一つであった。
テーマは友情
連合、オーブ、ザフトとバラバラで戦ってきた戦士たちが同じ未来を夢見て戦う。
一緒に戦ってる以上交流はもう良い。欲しかったのは前を向くための共通の意志。
そんな感じで女の子たちとは少し違う方向性になってます。
お楽しみいただければ幸いです。
次回からはもうクライマックスに向かっていく感じ
感想よろしくお願いします。