機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-89 悪意の住まう地

 

 地球連合宇宙戦闘艦、ドミニオンとの戦闘中。

 

 ストライクダガーを屠りながら、ムウ・ラ・フラガは小さな違和感を感じた。

 脳裏に走る痛みの様な感覚。

 

 

「この感じ──ラウ・ル・クルーゼか!?」

 

 

 何故なのかはわからない。だがその感覚がある時、必ずと言って良い程近くに彼がいる。

 きっと今回もまた…………ムウは導かれる様にその感覚に従い、ストライクをメンデルへと走らせた。

 

「なっ、おいオッサン!?」

「オッサンはやめろっつっただろ! ザフトが居る!」

「はぁ? 何でそんな──っえぇい!!」

 

 ムウの後を追う様に、ディアッカもバスターをメンデルへと走らせた。

 

 港から内部へと入り、エターナルの脇を駆け抜けていく。

 それを見て、バルトフェルドは何事かと目を見開いた。

 

「おい、一体何事だ。どうした!?」

『フラガのオッサンがザフトが居るって言うんだ! ともかく確認してくる。マジだったらヤバい!』

 

 メンデル内部へと向かっていった2機を見送り、バルトフェルドは思案した。

 

「ザフトが……反対側の港口か。ちっ、嫌な時に嫌な方向から……」

「こちらはひとまず発進を急ぎましょう。騒いだところで動けなければ何もできません。今は、お任せするしかありませんわ」

 

 まるで動じていないラクスの言葉に、バルトフェルドは苦笑いを見せた。

 いわば背後を突かれたこの状況。決して良い方向には転ばないだろう。

 だと言うのに、ラクスの気配には欠片も焦りや不安が見られない。本当にこの少女は心が強すぎた。

 

「はぁ、ったくクラインのお嬢さんは肝っ玉が据わりすぎてるぜ……聞いたかダコスタ! 発進準備、急げよー!」

「りょ、了解! って、急いでますよずっと!」

「おう、そいつはすまんな。見えないところにいるもんで」

 

 暢気な上官に不満を漏らす副官の声を聞き流しながら、バルトフェルドは眼前で繰り広げられる戦闘を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 アサギのアストレイのビームサーベルが、巨大なワイヤーをようやく焼き切った。

 

「──すいません、手間取ってしまって!」

「いや、こちらこそすまない」

「推力最大! ドミニオンを撃つ! 操艦操舵には細心の注意を払え!」

 

 コロニー建造用のメタポリマーストリングに絡め取られたクサナギであったが、マユラとジュリで防衛している間に、アサギがビームサーベルでストリングを焼き切りようやく自由となれた。

 カガリの号令によって、クサナギも戦線へと参入していく。

 

 

 

 

 

 

「あぁー、うざい!!」

「その程度の攻めで!!」

 

 フォビドゥンから振り下ろされるニーズヘッグを、サヤのオオトリは僅かに距離をとって回避。即座に対艦刀を突き出して突撃していく。

 そこからフォビドゥンに回避されることは織り込み済みで、アイシャがレールガンで狙った。

 フォビドゥンにはレールガンが直撃し、TP装甲がバッテリーの消費を加速させる。

 

「このっ、お前ら!」

「頭に血が昇る様じゃ、私達には勝てないわ」

 

 更に追撃。ルージュのガトリングガンが火を噴き、フォビドゥンは回避のために距離を取った。

 ブーステッドマンとは言え、強化されてきたのはそのパイロット能力のみ。

 連携を。そして自身の感情を制御する術を知らないシャニ・アンドラスにとって、高い練度の連携で翻弄してくるサヤとアイシャの2人を相手取るのは至難の業であった。

 

「アイシャ、決めます」

「はぁい、任せて」

 

 ルージュがビームブーメランを投射。時間差でガトリングの斉射による波状攻撃を行う。

 サヤのオオトリは背部のレールガンとビームランチャーで回避先を追撃。

 

「ぐっ、こんなヤツらに!」

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーとTP装甲で何とかやり過ごすも、その先には対艦刀を構えたルージュが接近。後詰のオオトリも同様に対艦刀を構えてその背後から迫ってきていた。

 

「くそっ、クソクソ!!」

 

 状況の不利を悟って、シャニは逃げる様にフォビドゥンを後退させる。

 ドミニオンへと撤退していくフォビドゥンを見送って、サヤとアイシャは大きく疲労を乗せた息を吐くのだった。

 

「逃しちゃったわね」

「危険な相手です。何をしてくるか読めませんでした……アイシャがいなければとても」

「私もよ。サヤがいなければ簡単にやられてたと思うわ」

 

 そう言って2人はまた、落ち着きを取り戻すように大きく息をつく

 強敵であった──感情の機微が分かれば、敵の動きはある程度見えてくるものだが、シャニ・アンドラスは強化段階での副作用として感情の起伏が激しく、相手をよく見て戦う彼女たちは、感情に振り回される様なフォビドゥンの緩急ある動きを全くつかめなかった。

 互いに攻めの手を緩めず、追い込んで追い詰めて、可能な限り自由を奪うことでようやく制することができたのだ。

 見た目ほど、簡単ではなかった。

 

「アイシャ、機体状況はいかがですか?」

「弾切れ寸前ね。一度戻らないと。エネルギーも限界」

「私もです。クサナギに補給へ戻りましょう」

 

 戦闘自体はまだ続いてるものの、この状態では継続して戦うことも不可能であった。

 2人は機体を翻し、クサナギへと帰投する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーダム、ジャスティス、シロガネへと向けられる一斉掃射。

 

 ゴットフリートをシールドで受け止めながら、僅かに後退を余儀なくされるジャスティスと、実弾兵装が致命傷になりうるミサイルとバリアントの射撃を回避するシロガネ。

 

 そして孤立したフリーダムには、カラミティの全兵装が放たれた。

 

「くっ──させない!」

 

 種が開く。

 目の前に迫る光条に、キラはSEEDを発現しフリーダムを僅かに後方へ傾ける。

 ウイングもたたみ、射線を受ける面積を極力減らして幾つもの光条の隙間をすり抜ける様に躱す離れ業を見せた。

 微かに焼けたフリーダムの装甲が、そのギリギリ過ぎる回避の異次元さを物語る。

 

「あはっ! そんな避け方できるんだ、凄いね────それじゃ、これはどうかな!」

「くっ!」

 

 躱した直後を、ディザスターがシュバイツァで狙うも、今度はシールドを挟み込み防御。

 しかしユリスもそこまでは想定内。最速で接近して、まだ体勢を整えていないフリーダムに両腕のビームサーベルを翻す。

 

「それでも!!」

「なっ!?」

 

 ユリスが驚きの声を漏らした。

 捉えたと思った光の刃。しかし、フリーダムはシールドを捨て、腰のサーベルを2本とも展開して受け止めていた。

 

「やるわねホント……流石は最高のコーディネーター」

 

 驚嘆──そしてどこか嬉しそうにユリスは笑った。

 

 側から見ても、フリーダムやジャスティスは自分達が乗るXシリーズを優に超える高性能機だ。

 故に、いまいち本気を見せてくれない自身の分身足るタケルよりずっと戦い甲斐がある。

 

 SEEDを発現したキラが乗るフリーダム。それを最高の獲物と捉え、ユリスはディザスターを駆った。

 

 

 

「オーブイズモ級、接近してきます」

 

 オペレーターの声に、ナタルはわずか目を伏せた。

 その報告はいわば戦闘続行の最後のラインを割るものであった。

 

「あらら、自由になっちゃったか」

 

 飄々とするアズラエルに、ナタルの苛立ちが募った。

 既に戦況は不利──レイダーとフォビドゥンが撤退してきてイズモ級の参戦によってアークエンジェルを行動不能に追いやったアドバンテージも失われている。

 敵機の鹵獲どころか、このままではこちらが危ういのである。

 

「一時撤退する。信号弾!」

「えぇ、ここまで追い詰めたのに?」

「状況は既にこちらに不利です。このまま続ければ、今度はこちらが追いやられる側になります」

「そう言うからには、今退けば次は勝てるんでしょうねぇ?」

「新型の4機があちらのMSより活躍してくれていたのなら、今回で勝てましたが?」

 

 挑発的に見返してくるアズラエルに、ナタルも負けじと言葉を返した。

 自身は戦術を駆使してアークエンジェルを行動不能にまで追いやっている。

 自信満々で持ってきたオモチャの戦果が思わしくないのはそちらだろうと、暗に言っているのだ。

 

「おやおや、手厳しい。つまりはアイツらの監督役である僕の責任だと?」

「そこまでは言っておりません。ここで勝つにはそれが必要だったと言うだけです」

「あぁ、はいはいわかりました。それでは撤退しましょう」

「ご理解いただけて感謝します」

 

 ドミニオンより、信号弾が放たれる。

 アズラエルがわずかに苦々しい表情を浮かべながらその光を見つめるのを、ナタルは見逃さなかった。

 

「面舵10。現宙域を離脱する! バリアントでカラミティとディザスターの撤退を援護しろ!」

 

 

 

 フリーダムとジャスティス、シロガネを相手に激戦を繰り広げていたディザスターとカラミティ出会ったが、ドミニオンより放たれる信号弾に表情を歪めた。

 

「時間切れね……オルガ、撤退。先に帰投しておいて」

「あぁ? 何言ってんだユリス」

「私には、特務があるから」

 

 突然、ディザスターは撤退信号を無視して大きく迂回するようにコロニーメンデルへと向かった。

 オルガが通信で制止の声をかけるが通信をシャットアウト。そのまま宙域を離脱していく。

 向かう先は、3隻同盟が鎮座する港とは反対側。ザフトが侵入してきたであろう港である。

 

「ディザスター、撤退信号を無視してコロニーメンデルへと向かっていきます」

「何? どう言うことだ!」

「構いません、撤退を優先してください。どうせ死にやしない」

「アズラエル理事、しかしっ!」

「さっき艦長さんが言ったんですよ。今度はこっちが追いやられる番だと────躊躇ってる暇あるんですか?」

 

 アズラエルの言葉に、ナタルは唇を噛んだ。

 撤退信号によってアークエンジェルもクサナギも深追いはしない姿勢を見せている。

 かといってそのまま宙域に止まれば攻撃の意思ありと見て、攻撃されることは必定。

 味方機を戦場に置いていくなど艦長としては簡単に承服できることではなかったが、アズラエルが言うように余裕がないのは事実であった。

 

「宙域の離脱を優先する──カラミティは?」

「間もなく、収容されます」

「収容と同時に機関最大。座標ベータ1まで撤退する!」

 

 ストライクとスカイグラスパーを置き去りに離脱した、嘗ての苦い記憶を呼び起こしながら。

 ナタルはクルーに指示を下しドミニオンを撤退させていく。

 

 アークエンジェルの艦長席から、マリューはそれを鋭い視線で見送った。

 

「さすが……引き際は見事ね、ナタル」

 

 頼もしきかつての副長。幾度もその指揮能力の高さに、マリューは助けられてきた。

 判断能力もさることながら、機を逸しないその判断の速さはやはりマリューに強敵の予感を感じさせるものであった。

 

「貴女と、こんなところで再会することになるなんて……」

 

 運命はかくも厳しく辛い現実を突きつけてくる。

 嘗ての仲間が敵として現れたこと……クルー達にも動揺はあった。だが何より、彼と彼女の想いを知るものとして、マリューはやるせない気持ちを抑えきれなかった。

 

「彼に銃口を向けているなんて、貴女は夢にも思っていないのでしょうね」

 

 知れば少しはためらいを見せただろうか────否、それはマリューが知る彼女らしくないだろう。

 だが少なくとも、胸の内に重いものを抱えることになったはずだ。

 知れば良いと言うわけでもないが、知らなくて良いわけでもない。

 

「やるせないわね、本当に」

 

 静かに呟かれたマリューの独白は、誰に届くこともなく艦橋に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クサナギ! 連合の新型が1機、撤退せずに大きく迂回してメンデルへと向かった。動きは追える?」

 

 タケルからもたらされる報告に、クサナギの艦橋では俄かに驚きの声が上がる。

 ようやく終わった戦闘に一安心と言うところで、またも警戒を必要とする話であった。

 

「どう言うことだ兄様」

「おい、反応は追えるか?」

 

 キサカの指示にオペレータが戦況情報を確認していく。

 

「確かに、メンデル方面へ……恐らく我々がいる場所とは反対側の港へ向かったのかと」

「そうか、やっぱり……キラ、アスラン、アークエンジェルをお願い。僕はあれを追うよ」

「タケル、1人でなんて危険だよ。だったら僕も」

「メンデルに行ったとも限らないだろう。今は一先ずこちらの態勢を整えた方が」

「反対側の港から入られて背後から奇襲、なんてことになったら面倒だし────それに、呼ばれてる気がするから」

「呼ばれている?」

 

 怪訝な表情を浮かべるアスランとキラに、タケルは曖昧に笑って返した。

 頭にツンと引っ掛かるような違和感。それがメンデルに向かった彼女から放たれるものだとタケルは感じていた。

 それがまるで、呼び込み、導いてくるようなものだとも。

 

「とにかく行ってくる。カガリ、次の侵攻がないとも限らないから、準備はしっかりしておいて」

「お、おい兄様!」

 

 通信を一方的にシャットアウトし、シロガネを翻して、タケルはディザスターを追った。

 

 

「なんなんだよ、兄様のやつ……」

「気になるけど、とにかく僕たちも一度メンデルに戻ろう」

「そうだな。アークエンジェルの損傷も結構なものだし」

 

 ドミニオンからアークエンジェルが受けた損傷は大きい。

 急ぎ修復をしなくては次の戦闘に支障が出る。

 タケルの動きにあれこれ詮索している場合でもなかった。

 

 アークエンジェルとクサナギがメンデルの港へと戻る作業を手伝い、一行は落ち着かぬ状況のままメンデルの港へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 メンデル内部へと突入したムウとディアッカは、廃墟となったコロニーの空を駆け抜ける。

 何処へ行くのか、まるで見当がつかずストライクを追ってきたディアッカだったが、前でストライクを駆るムウにはまるで迷いが見られない。

 それは惹かれ合うように、導かれるように、……望む者達を対峙させた。

 

「「来るぞ!!」」

 

 随伴していたディアッカとイザークに、投げられる緊張の声。

 

 次の瞬間、ラウが乗るシグーと、イザークが駆るデュエル。

 そしてムウのストライクと、ディアッカのバスターの4機がメンデル内で対峙した。

 

「ラウ・ル・クルーゼ!!」

「ほぅ、今度は貴様がそれのパイロットか。ムウ・ラ・フラガ!」

 

 アグニの斉射。それをシグーはヒラリと躱して接近。

 重斬刀で切り掛かるもストライクはそれを後退して回避。バルカンポッドで反撃に転じる。

 

 

「ちっ、ストライクか。もう一機は……バスター!?」

「デュエル……まさかイザークか」

 

 互いに対峙した機体を見て友の顔が思い浮かんだ。

 だが、戦場でそれに思考を奪われるのは一瞬。

 イザーク・ジュールは即座に、敵機を迎え打つ態勢を見せた。

 

「貴様、よくもディアッカの機体で!!」

 

 シールドとビームサーベルを構えて突撃してくるデュエルに、ディアッカは僅かに動揺を示す。

 砲狙撃戦を得意とするバスター相手の特攻。それは、懐かしさすら覚えるよく見たら光景だった。

 

「嘗めるなよイザーク!」

 

 接近を許すまじとガンランチャーとミサイルで弾幕を張る。

 だがそれを、躱し、防ぎ、そして迎撃する。

 全ての危険を排して、一直線に突き進んでくる姿は、良く知る、正に既視感に溢れた姿であった。

 

「タケルの野郎、イザークにまでかよ!!」

 

 こうして轡を並べた事で色々と教わった自分ならまだしも、何処で彼ら2人にそんな接点があったのか。

 似通った動きをかつての戦友が再現して見せてくれて、思わず悪態が漏れた。

 

 動揺と併せてデュエルに接近を許してしまうバスター。だが彼とてこのシチュエーションは何度も潜り抜けてきている。

 収束火線ライフルをあえてデュエルのシールド目掛けて連続発射。その勢いで距離を離してみせた。

 

「そっちがその気ならやってやるぜ、かかってこいイザーク。俺が今までどれだけアイツの突撃を潜り抜けてきたか教えてやる!」

「ちっ、このナチュラルがぁ!」

 

 

 宿敵と嘗ての友同士。

 4機はメンデル内で激闘を繰り広げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メンデルの港へと戻ったアークエンジェルとクサナギ。

 損傷を大きく受けたアークエンジェルが急ぎ修復に入る中、メンデルへと向かったまま一切の連絡が無いムウ達の状況がバルトフェルドは気がかりであった。

 

「おい、フラガとエルスマンから連絡は?」

「え? バルトフェルド艦長。2人がどうしたのですか?」

「ザフトがいると言ってメンデルに向かったまま音沙汰なしだ。そっちに連絡は?」

「ハウ二等兵!」

「通信記録はありません。

 ディアッカ、少佐……聞こえていますか! 応答してください! だめです、コロニー内部にまで通信が……」

 

 ドミニオンの撤退で安心していたところで、まだ状況が終わっていないことを感じさせる報告にマリューは表情を険しくさせた。

 

「マリューさん、僕が行きます。フリーダムは大して損傷もありませんから。皆さんは、補給と整備を急いでください」

「ジャスティスも問題ない。俺も行こう」

「ううん、ドミニオンも完全に引き上げたわけじゃないだろうし、タケルも離れてる今、アスランはこっちに残って」

「しかし……」

「大丈夫だよ。僕はタケルやアスランと違って、無茶はしないから」

「アイツと同じ扱いなのは納得いかないのだが……だがまぁ、わかった。俺はこっちで待機する」

「うん、お願い」

 

 フリーダムがエターナルの横を通り過ぎてメンデル内部へと向かっていく。

 それを見送りながら、ラクスは全員に通信を飛ばした。

 

「各艦は補給と整備を急いでください。反対側の港にザフトがいるとなれば、状況は再び切迫します──私たちは、今ここで討たれるわけにはいかないのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対側の港へと辿り着いたシロガネ。

 タケルは警戒をそこそこに、侵入していく。

 

『ねえ、兄さん』

 

 飛び込んでくる通信。しかし、発信源の場所の特定まではできず、タケルは仕方なく通信回線を開いた。

 

「呼ばれた感覚に間違いはなかったようだね」

『えぇ、呼んだの。ここまできてもらったけど、目的地はもう少し先よ』

「なんのために?」

『彼が兄さんに会いたいって』

「彼? 一体誰のことを──」

 

 瞬間、巨大な熱量を感知。シロガネを翻したところで、大きな閃光がその場を裂いた。

 ディザスターが備える肩の大型ビーム砲シュバイツァである。

 

「ご挨拶だね」

『ちょっとまだ忙しそうだから。少し足止めしておこうと思っただけ。どうせ兄さんには当たらないし』

 

 破壊された瓦礫と粉塵に視界を奪われ、一瞬だけ捕捉できたディザスターの姿がまた消える。

 タケルは、再び警戒を強めて港を進んでいった。

 

「聞きたいことがある」

『何?』

「ドミニオンの艦長さんは元気だったかな?」

『──ふぅん、やっぱり知り合いだったのね』

「知らぬ仲ではないつもりだ」

 

ドミニオンに初めて乗り込んだ時に見せた表情。そして自身に瓜二つな人間を知っていると言う事から、ユリスも想定はしていた。

 

『多分元気じゃない? あの変態キザ野郎にも負けてなかったし』

「変態キザ野郎って名前が出てくる時点で心穏やかになれないんだけど……」

『あはっ、兄さんってばもしかして妬いてる? 大丈夫よ、あの変態キザ野郎はコーディネーターを屈服させることにしか興味ないから』

「それはキザ野郎かどうかはともかく真性の変態だね。ブルーコスモスらしいや」

『でしょ? だから変な心配いらないよ。なんなら戻ってから兄さんのことを伝えてあげる?』

「なんて伝える気でいるかによる」

『兄さんが、変態キザ野郎に艦長さんを奪われないかと心配してたって』

「あ、うん。絶対言わなくていいからねそれ」

『脚色が足りない? それじゃ心配しながら興奮してたって事に──』

「殺すよ、本気で」

 

 ゾワリと総毛立つ声音に、ユリスは文字通り震えた────恐怖ではなく歓喜の感触にだ。

 良い傾向であった。足りないと思っていたタケルに必要な気配。

 殺し合うに相応しい、抑えきれない憎しみの気配である。

 

『らしくなってきたのね、兄さんも。それじゃ、そろそろ行きましょう』

「何?」

『始まりの地。そして、約束の地。人の業が集積された────忌まわしき場所へ』

 

 聞こえてくる声に、導かれるように進んで出た、コロニーの内部には、廃墟となった大きな研究施設があった。

タケルはわずかに息を呑んだ。

彼女が呼びつけるように導いてきたこの地。この場所。

否が応でも理解させられる。自分達の出自に関する場所であると。

 

 

『いきましょう、兄さん────私達が生まれた場所へ』

 

 

 通信モニタに映り込んだ、自身と同じ顔はこれでもかと言うほど、晴れやかな笑顔に彩られていた。

 

 




変態キザ野郎、すまない。
別に作者は嫌いなわけでもないですけど、作品内では嫌われちゃいました。
最後にはナタルさんにゴミを見るような目で見てほしいとか思ってーーませんけど。

アイシャが苦手な設定のサヤちゃんですが、実は戦闘面ではしっかり信頼している。
ここは最初の邂逅の日に一緒のシミュレーションしてるからですね。実力は把握できてるし信頼していると。
でも今回退けたせいでシャニ君に執着されるんだきっと。

アンケート見るに、皆ディザスターと合わせてプロヴィデンスとの死闘も望んでおられるようで。
でも結構難しい。プロヴィとシロガネが相性良すぎて、、、戦闘シーンはこれから練っていくので頑張りましょう



感想お待ちしております。

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