機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-91 望む先の未来

 

 

 

 

「メンデルの向こうにナスカ級が3隻……ねぇ」

 

 艦長席で染み染みと呟くバルトフェルドの声からは、わかりやすい疲れが滲み出ていた。

 

「攻めてくるとなれば、クサナギに任せる事になるかと……キサカ一佐」

「戦力としては十分だ。こちらはアサギ達とサヤ、それにアイシャもいる」

「俺としては驚きだがね。アイシャはまだMSに乗る気でいるのか?」

「ふっ、可愛い子猫を放っては置けないそうだ」

「虎は可愛くないって事か……ちょっとショックだぞ俺は」

「何をいうか。あんな美人を捕まえておいて」

「お二人とも。真面目にしてもらっていいですか?」

「今は重要且つ真剣なお話をしている最中かと思われますが?」

 

 余計な談義に花を咲かせそうな男2人に、マリューとラクスからクレームが入る。

 決して逆らえぬ雰囲気に気圧されたまま、2人は表情を軍人のそれに戻した。

 

 キラ達が戻らぬまま、整備と補給を急がせている間に、偵察で出たアサギ達からの報告で確定した事であった。

 未だ進行の気配ありなドミニオンと、背後に構えるナスカ級3隻。

 正しく前門の虎後門の狼と言ったところだ。ドミニオンはともかく、ナスカ級3隻となれば艦載機も潤沢だろう。

 幸いなのは動いてくる気配がない事だが、それもいつまでかはわからない。

 彼らとしてはドミニオンとザフトで牽制しあって少しでも長い時間、動かずにいて欲しかった。

 

「ドミニオンの相手となればアークエンジェルに任せたい所だが、あいつらが帰ってきてないとなるとな……少し荷が勝ちすぎないか?」

「厳しいでしょうね──アスラン君は?」

「メンデルに向かおうとした所を止めて待機させております。これ以上無為に戦力は割けませんから」

「こちらもカガリがアカツキに乗って迎えに行くと聞かなくてな。同じように厳命中だ」

「若いねぇ……ん? ってことはオーブの嬢ちゃんはMSで出られるのか?」

「十分扱えますよバルトフェルド艦長。アマノ二尉が徹底的に……機体も本人も徹頭徹尾仕上げてますから」

「ひぇえ……フラガから聞いたが、あの少年相当スパルタらしいじゃないか。良くあんな真っ直ぐに育ったな。それじゃまぁ、当てにさせてもらおうか」

「本人も既にやる気だからな。指揮官であることを忘れないで欲しいとは思うが」

「それもカガリさんの強みかと。オーブでタケルと共に戦う姿は凄かったのでしょう?」

「おーそれだそれだ。凄い武勇伝らしいじゃないか。是非詳しく聞きたいものだね」

「そういうのは平和になってからゆっくり本人達から聞いてください。今は今後の作戦です」

「そうでしたわね。失礼しましたラミアス艦長。それでは、ザフトが先んじて動いてきた場合から──」

 

 3隻同盟を取りまとめるもの達は長らく議論を続けた。

 整備と補給が終わり、次なる進行が始まるその時まで。

 未だ戻らぬ仲間達の安否に揺れる心を押し殺しながら。

 

 例え彼らが戻らなくとも、戦う事をやめるわけにはいかないのだから……

 

 

 

 

 

 

『僕は、僕の秘密を今明かそう。僕は人の自然そのままに、ナチュラルに生まれた者ではない』

 

 

 クルーゼが告げるそれは、誰もが聞いた事のある一節だった。

 

 ファーストコーディネーター“ジョージ・グレン”。

 彼が世界に告げた、劇薬の言葉である。

 

 

「君達も知っているだろう。人類最初のコーディネーター……奴がもたらした、世界を破滅に向ける最初のきっかけとなった言葉だ」

 

 何故それを今ここで語り出すのか。

 キラ、タケル、ムウの3人は、ラウの雰囲気に呑まれながらそれを聞き入っていた。

 

「彼が世界にもたらしたもの。生み落とした闇は如何程だったかわかるかね? それから人はどれ程愚かになったのか……この戦争を生きてきた君達は、それを身をもって知っているはずだ」

 

 ラウの言葉に押し黙る3人。

 

 知っている────確かに、彼がいう通り。

 

 この戦争の根幹、ナチュラルとコーディネーターと言う2つの人種が生まれた日。

 それから永劫に続いてきた、2つの人種の争い。

 深まる溝、対立する心……2つの人種は、争いを繰り返した。

 

 親のエゴに歪められて生まれてくる子供。

 世界の歪みに犠牲になっていく子供。

 そして、愚かな人の業を背負い……作られた子供。

 

「願いは夢に、夢は欲に、欲は業へと姿を変え、人は先へと進み続けた」

「だから、それがどうしたってんだ──っつ!?」

 

 瞬間的に弾ける撃鉄。頬を掠める弾丸に、ムウは言葉を失った。

 躊躇なく引き金を引いたのは、ユリス・ラングベルト。

 その視線に本気の殺意を乗せた、一切無駄のない動きでムウを黙らせていた。

 

「黙って聞いてもらえるかしら、ムウ・ラ・フラガ? ここにいる全員……貴方も含めて無関係ではない大事な話をしているの。次邪魔をしたら私が殺すわ」

「ユリス、そんな事僕がさせるとでも?」

「へぇ、良い殺気だね兄さん……別に良いよ私は。ここでやり合う?」

「待ちたまえ、ユリス。乗せられるな……まだ我々にはやるべき事がある。それに、彼にも選んでもらうのだからね」

「ちっ……了解」

 

 殺意に染まるユリスを嗜めて、ラウは一つ息を吐いてから話を続けた。

 

「ムウ、私が何故こんな話をしているかわかるか? ここにいる者はお前を除いて皆、人類が愚かで救いようの無い種だという事を示す産物なのだよ」

「な……に?」

 

 驚くムウを他所に、ラウはキラへと視線を向けた。

 

「より高く、より上へと夢見て命を弄んだ愚か者。ユーレン・ヒビキの作り出した最高のコーディネーター、キラ・ヤマト」

 

「そのキラ・ヤマトを生み出すために数多の犠牲となった被験体の成れの果て、タケル・アマノとユリス・ラングベルト」

 

「そして私は、人の限りある命を超越しようと思いあがった愚か者。己の命をも金で買おうとした

 貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損ないのクローンなのだからな!」

 

 キラ、タケル、ユリスと視線を巡らせ。最後にムウを見据えながらラウは憎悪の籠る声音で吼えた。

 ムウだけでなく、そのもたらされた事実はタケルとキラの表情も固まらせる。

 

「親父の……クローンだと」

「愚かだろう? 貴様を忌み嫌い、自身の分身を生み出しては見たものの、使いものにならぬと切り捨て、また貴様に擦り寄る──絵に描いたような愚者だった。

 そうして奴からクローンの製作を依頼されたヒビキ博士は、資金難であった人工子宮の研究のためにそれを受諾…………クローンも人工子宮も、そうして生まれてしまった訳だ」

「お前、それじゃ──」

「奴が居なければ、奴等が愚かでなければ……そしてお前が、奴の望みを満たしてさえいれば!」

 

 大きく何かを悔いるように顔を伏せると、ラウは小さく呟いた。

 

「私は……いや、我々は今……ここに存在していなかっただろうな……」

 

 それは重すぎる苦難と絶望を湛えた呟きであった。

 

 どれか1つでも欠けていたら、きっと彼等は生まれてこなかっただろう。

 ファーストコーディネーター、ジョージ・グレン。

 最高のコーディネーターを夢見た、ユーレン・ヒビキ。

 そして命すらも金で買おうとした愚か者、アル・ダ・フラガ。

 誰か1人──否。どこかで誰かが、彼等を止めていれば、ラウも、タケルも、ユリスもキラも。こうして生まれてくる事が無かったはずだ。

 

「誰が産んでくれと頼んだ……誰が産めと願った……年老いた身で愚かな幻想を抱き、思い上がった愚かな男が抱いた欲望の果てが、この私だ!」

 

 クローニングの元となるアル・ダ・フラガは既に晩年を迎えていた。

 人が一生に行える細胞分裂の回数は決まっている。それがいわば寿命に掛かる部分であり、そんな彼の細胞を用いて生み出されたラウには、同じだけの寿命しか残っていなかった。

 クローンによって2度目の人生を願った男の愚かな欲望は、無残に崩れ去ったのだ。

 

「知りたがり、欲して。そうして何を知ったとて、何を手にしたとて変わらん! 

 自身に無いものを妬み、憎んで、愚かな歩みを続ける事しかできず今日まで至った……その結果が今の世界だろう!」

「何を……何を言いたいんだ貴様は!」

「ならば望み通り殺し合わせてやると言う事だ。それが……人の望みなら!」

「なんだと!?」

「おかしくはあるまい。有史以来、人は争いをやめた試しなどない。終末の時はもう目の前だ……後は、我々が最後の扉を開けば全てが終わる──この果てなき欲望の世界はな!」

 

 気圧される。

 まるで、全てを憎む様な声と言葉。

 望まれず、求められず、そして愚かな男の業を背負い生まれ、自身の未来すら残り僅か。

 世界の全てを憎んだ男の独白であった。

 

「──だが」

 

 そっと、ラウは言葉を続けた。

 

「タケル・アマノ。君には是非こちらにきてもらいたい」

 

 先程までと違う。いっそ優しいとすら思える声音。

 仮面の奥からでもわかる、その迎え入れようとする気配に、タケルは驚きで目を見開く。

 意味がわからない──今こうして対峙する自分に、そんな事を言い出したラウの意図が全く読めなかった。

 

「何を馬鹿な……そんな事……承諾するわけが」

「わかったはずだ、タケル・アマノ。この世界に価値はない。守ろうとする価値も、信じる価値も。

 私とユリス……そして君だけは、全ての人類を裁く権利がある」

 

 

 距離を置いて、差し出される右手。

 タケルは釘付けとなってその手を見つめた。

 

 馬鹿げた話だ。人が人を裁くなどと、それこそ思い上がりも良いところだろう。

 だが同時に、ラウとユリス、そしてタケルには、彼が言うように誰にも望まれず、求められず生まれてきた共通点がある。

 自身の生まれの事実を聞いて、タケルは泣いた。知った時は恨んだ。

 

 ヒビキ博士を……キラの事も……そして世界も……

 

 こうして今こそ持ち直してはいるが、アスハの家に引き取られていなければ、今自分が立っている場所は向こうであったのかもしれない。

 そんな可能性が、タケルの脳裏にちらついた。

 

 

「貴方の言う事。思う所がないわけではありません」

「ほう?」

 

 

 だが、それでも。

 

「──いくら、同類だと言われようとも、僕はそちらには行けません」

 

 タケルは静かに……ラウの問いかけに否を唱えた。

 

「やっぱり。ね、言った通りになったでしょう?」

「ふっ、残念だよ、タケル・アマノ君。君なら理解してもらえると思ったが」

「理解はできます。僕は貴方達より少し幸運だっただけで、本当ならそっちにいたかもしれませんから────でも」

 

 決意をのせる。瞳に意志を宿して、タケルは彼等を見据えた。

 

「人類がそこまで愚かだとは、僕はまだ思いたくないです。

 妬み合うだけじゃない。憎み合うだけじゃない。愚かな欲望だけでなく、僕はその先にある、分かり合える世界を知っている」

 

 カガリとタケルがそうであったように。キラとアスランがそうであったように。

 今このメンデルに集った、皆がそうである様に

 国も、人種も、嘗ての憎しみも乗り越えて、共に並び立てる事を知っている。

 

 

「だから、クルーゼさん。貴方の想いには賛同できません」

「そうか、残念だ────ならば止めて見せるが良い。君が思う愚かではない者達と共に。この宇宙を覆う、憎しみの渦を」

 

 

 話は終わった。

 名残惜しさを欠片も見せる事無く、そう言わんばかりにラウとユリスは背を向けた。

 逃すものかと動き出そうとするムウであったが、それは即座に振り返ったユリスが放つ銃弾に止められる。

 

「くっ!?」

「次はないわ。何かしようとすれば殺す」

「ちっ、おいタケル──」

「やめておきましょう、フラガ少佐。僕と少佐だけならまだしも、ここにはキラがいるんです。相手が素直に撤退してくれると言うならこっちの方が助かるんですから────それに肩の傷、思ったより深いでしょ?」

 

 止血テープの上からでも滲み、そうしてムウのパイロットスーツを赤黒く染めていく出血。

 長い話の間に流れ出た血液で、肩から腕にかけてしっかりと染められていた。

 

「っと、どおりで頭がボーッとする訳だな……」

 

 少し罰が悪そうな顔で、ムウは小さく息を吐きながら立ち上がり、去り行く2人の背中を見送った。

 

 

 

「ふぅ、きつかったぁ……」

 

 キラも同様、ユリスが目を光らせていたものだからずっと口を挟めず、緊張していた肩の力を抜いて立ち上がる。

 MS戦闘はともかく、対面での殺気は慣れないキラには苦しかったのだろう。パイロットスーツの内側はじっとりと汗が滲んでいた。

 

「それにしてもよ……キラもタケルも、随分と重たいもんを背負ってたんだな」

 

 ふと、どこか申し訳なさそうにムウは呟いた。

 行ってしまえば先の話──彼等が生まれてしまった一端にはムウの父が関係している。

 もっと言うなら、父の期待を満たせなかったムウ自身にも。

 

 勿論、アル・ダ・フラガが自身のクローンを作り出すことを決めたのは彼がまだ生まれて間もないころの話だ。

 ムウがどうこうできる話ではない。

 だがそれでも、息子として、自身が切っ掛けとして行われた罪の所業から、目を逸らすことはできなかった。

 

「なんていうか……上手く言えないけどよ。すまないな、2人共」

「タケルに比べたら僕は別に……」

「そんな事は比べるものでもないよ、キラ。それに重たいって言うなら僕はずっと前から大切な妹と国を背負ってましたから。今更ですし」

「だから奴の手を取らなかったと?」

「そりゃそうですよ。捨てられない大切なものばかりが、僕の世界にはあるんですから」

 

 捨てられない大切なもの──その言葉に、ムウとキラは呆気に取られてからすぐに頷いた。

 そう、確かにその通りである。

 いくら彼等が世界に満ちた悪意を語ろうとも、今自分たちの胸にある大切なものは変わらない。

 いつの間にか呑まれていた、ラウの言葉に真正面から対峙する様なタケルの言葉は、胸に渦巻いた嫌な感触を取り除いていった。

 

「はぁ──つくづく、お前が隣にいてくれて良かったと思うぜ。なぁ、キラ?」

「はい、ホント……タケルはそれについては絶対折れないもんね」

「褒められてる気がしないけど、どうも────さ、急いで戻りましょう。かなり時間使っちゃいましたから」

 

 応と頷く2人と共に、タケルは研究所を後にしていく。

 

 取れなかった右手を少しだけ寂しそうに見つめながら。

 

 それでも、決別した今、もはや迷うことなく彼等を討たねばならないと、心に誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス・クラインにバルトフェルド隊長……それにアスランまで……」

 

 機体から降りて対面したイザークとディアッカ。

 ディアッカから彼等ザフトの裏切り者とされる面々の名前を聞いて、イザークはわなわなと震えていた。

 

「何故だ……皆、どうしてプラントを裏切る!」

「落ち着けよイザーク。納得できねえかも知れねえけどよ……俺達は別にプラントを裏切ったわけじゃねえんだ」

「ふざけるな! ならば何故、敵であったストライクや足つきと共にいる!」

「はぁ……じゃあ聞くが、敵って誰だよ?」

「何ぃ?」

 

 少しだけ嘆息して、ディアッカは静かに語りだした。

 

「プラントにとって誰が敵だ? 地球軍か? ナチュラルか? それとも今お前が言ったように足つきやストライクが敵だって言うのか?」

「何を言ってるディアッカ」

「お前は何のために戦っている? 大好きな母親を守る為か? プラントを守る為か? それともお前も……ナチュラルなんか滅ぼしてやるとでもいうつもりか?」

 

 ディアッカから齎される疑問に、イザークは押し黙った。

 

 薄々は感じていた疑問である。

 アラスカを見て、パナマを見て、愚かな同胞達の虐殺行為を見て──自分が信じる正義に疑問を抱いていた。

 

「俺達はプラントを裏切りたいわけじゃない──守りたいからザフトを離れたんだ。今のザフトを見てみろよ。ナチュラルなんて滅ぼしてやるって皆息巻いてるじゃねえか。

 それをみた相手はどう思う?」

 

 相手が戦力を整えて滅ぼそうと息巻いてるのなら、それ相応に準備をするだろう。それ相応に敵意を剥き出しにするだろう。

 それ相応に、先手を打つ事もあるだろう。

 

 それは得てして、自ら危険を呼び込むことと同義だ。

 プラントを守る為にと嘯きながら、自らプラントを危険に晒す。

 そんな国防を担う軍隊のどこに理があると言うのか。

 

 本当の本当に、相手を滅ぼすまで、プラントの脅威が消え去る事はない。

 

 それは地球軍にも同様。

 

 相手を滅ぼしきるまで、互いに脅威が消え去る事はない。

 

 だが同じ人間。滅ぼすこと等できようか? 

 そもそもコーディネーターとナチュラルの違いなど曖昧なもの。

 タケルやキラの様に隔絶されたコーディネートをされた者もいれば、健康の為に免疫力を高めた程度の些細なコーディネートを施された者もいる。

 ナチュラルにだって、能力の高い低いは千差万別。

 サヤ・アマノの様に、コーディネートせずとも高い能力を誇るナチュラルなど腐るほどいる。

 

 一体どこを、どう区切れば、ナチュラルとコーディネーターは完全に切り離せるのか。

 

 

「今のザフトは本当にプラントを守る事を考えているのか? 悪ぃけどよ、俺にはそんな風には思えない。馬鹿の一つ覚えでナチュラルを敵視している連中に、俺はもう賛同して戦う事ができねえ」

「何だと」

「アラスカやパナマ、オーブを見て。んでもって、ナチュラルの事を知った今、俺が戦うのはアイツらと同じでナチュラルとわかりあえる未来の為だ──俺達は絶対に、ナチュラルもコーディネーターも滅ぼさせたりはしない」

 

 

 強い眼差しを向けるディアッカに、イザークは再び押し黙った。

 少し前まではナチュラルなんかと見下していた友の、大きな言葉に、イザークの心は揺れる。

 

『イザーク、必要な情報は得られた。撤退するぞ』

 

 そこへ飛び込んでくるラウの声にイザークは惑う。

 

 “何と戦わねばならぬのか。見誤るなよ”

 

 そう上官からは教えられた。

 プラントの為に戦う。その為に地球軍を討つ。

 それが自身の務めだと信じていた。

 だが目の前の友は、自分より余程プラントを守る事を考えて戦う事を決意している。

 自身が言うように裏切り者だと評されても、変わらない、確固たる意志の元。

 

 

「ディアッカ、俺は──」

「行けよ。イザーク」

「何?」

「別にこっちに来いなんて言うつもりはねえ。ただ俺達は別にプラントを裏切るつもりはねえって事を伝えたかっただけだ。隊長を待たせるなよ」

「ディアッカ……」

「俺も戻るぜ────できれば、お前とだけは戦いたくないけどな!」

 

 そうして、あっさりとバスターに戻ったディアッカは機体を起動させて飛翔していく。

 

 メンデルの大地に取り残されたイザークはそれを見送ると、惑いを抱えたまま、通信回線を開いた。

 

「隊長、これより帰投します」

『あぁ、急げよ。事態は思いのほか早く進みそうだからな』

「了解です!」

 

 灰色になったデュエルに乗り込み、イザークもまたメンデルの空へと飛び立った。

 

「わかりあえる未来……だと……」

 

 

 胸に残り続ける友の声を、何度も反芻しながら…………

 

 

 

 




自ら突き進んだ道とはいえ、やはりクルーゼのセリフを変えるのは抵抗がある。

原作リスペクトでいたいけど、諸々事情とか変わってるからどうしても同じセリフは違和感出てきちゃう。
彼らしく、そして本作らしい。これを描くのが難しかったです。

お楽しみいただければ幸いです。

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