──ドミニオン動く。
未だ戻らぬ仲間達の安否に気を揉む中、再び動き出したドミニオンに対して、迎撃に出るアークエンジェル。調整が終わったエターナルと、準備は万端なクサナギも同様、メンデルを出港し戦闘体勢をとった。
しかし、それだけで済むほど、状況は彼等に優しくはなかった。
「──これは!? ザフト軍、進行を開始! ナスカ級3隻がこちらに向かってきています」
サイが挙げた報告が通信を通して全艦に通達される。
マリュー、キサカ、バルトフェルドは同時に息を呑んだ。
「くっ、狙いすましたかの様に……」
「プランをCに変更しましょう。クサナギ、エターナルでザフトを。アークエンジェルはドミニオンへ」
「了解したわラクスさん────対艦、対MS戦闘用意!
イーゲルシュテルン、バリアント起動。艦尾ミサイル発射管、全門ウォンバット装填!」
「クサナギは転身。ザフトと対する。アストレイ隊発進しろ!」
『アサギ・コードウェル、行きます!』
『マユラ・ラバッツ、出撃します!』
『ジュリ・ウー・ニェン、発進します!』
M2アストレイを駆り、アサギ達は一気にザフトの部隊へと向かった。
『サヤ・アマノ。アストレイ、出撃します!』
『それじゃ私も──ストライクルージュ、行くわ』
サヤ、そしてアイシャも共に飛び出して、ザフトとの戦闘へ向かっていく。
最後にクサナギに残った機体。
金色に輝くMS──アカツキに乗っていたカガリもまた、出撃するべく機体をカタパルトに乗せる。
『カガリ、本当に大丈夫なのか? いくら何でも連合の新型を相手にするのは……』
「くどいぞ、アスラン! できると言った。前に出ず、お前の援護をするだけだ。そのために必要なものは、全部兄様が用意してくれている。私への訓練も含めてな────余り私を甘く見るな」
『…………わかった。だが本当に無理だけはしないでくれ。君に何かあれば、俺はタケルに合わせる顔がない』
「わかってる。さぁ──行くぞ!」
『あぁ──アスラン・ザラ。ジャスティス、出る!!』
真紅のMSがエターナルより発進。同時にカタパルトへの接続が終わったアカツキも発進のタイミングをカガリに譲渡された。
そこでカガリは1つ大きく息を吸う。
今回はオーブの時の様に、決められた戦いを魅せるわけではない。
今から向かうは本当の戦地。
嘗て、アークエンジェルにいた時、2度戦闘機で出撃した時は不本意な結果に終わったが、あれ以降もカガリは訓練を欠かしてはいない。
アカツキの話が出てからずっと……カガリはこの機体で戦う事を想定してきた。
機体も、武装も、更には補助用のAIまでタケルによって用意されたこのアカツキは、シロガネ同様に完全なるカガリ専用機。
彼女が乗って初めて、最高の機体となる様設計されている。
「やって見せるさ────カガリ・ユラ・アスハ。アカツキ、発進する!!」
眩く輝く金色の機体が、戦火に染まる宇宙へ飛び出した。
メンデルから脱出したところで、ラウは直ぐにヴェサリウスを呼び出し、全艦に進攻命令を下していた。
ユリスも鍵を手にしてドミニオンへと帰還の途についた。
となればドミニオンも動き始める。ここから先は、敵味方入り乱れる乱戦模様となるだろう。
出遅れるわけにはいかなかった。
両脚部を切り落とされ航行不能状態であったシグーを、イザークのデュエルが牽引して、ラウはヴェサリウスへと帰投すると、そのまま艦橋へと上がり、即座に指示を下していく。
「アデス、MS隊全機発進だ! ここで、エターナル共々、奴らを叩くぞ。ボイジンガーとヘルダーリンにも打電しろ!」
「はっ! しかし……」
「これ以上高みの見物をしているわけにもいかんだろう。ここで討てねば、奴らは後に大きな障害となって我らの前に立ち塞がるはずだ」
彼等であれば間違いなく、自分と彼女の目的の最大の障害となる。
──やれるのなら、やって見せるが良い。
挑戦的な笑みがラウから零れる。
侮ってるわけでは無い。見下しているわけでもない──ただ純粋にどうなるかが楽しみであった。
いくら集ったとは言っても所詮は3隻の連合。
優秀なパイロットも多く戦力は充実しているが、それでも地球とプラント、2つの勢力に比肩しうるはずがない。
彼等が世界の悪意にどこまで抗えるのか。
ラウとユリスの願いをどれほど阻んでくれるのか。
世界がどう転ぶのかが、ラウは楽しみで仕方なかった。
故に、今はこの舞台の一員として役割をこなし、流れに身を任せる。
ザフトのラウ・ル・クルーゼとして。
「シグーを用意させろ。私も出る」
「隊長もですか!?」
「言っただろう。この局面……逃せば後に大きな障害になるとな」
仮面の奥で光る瞳は、狂気と狂喜に満ちて揺れていた。
「ゴットフリート1番、2番──てぇ!」
開戦の合図はドミニオンからの放たれる主砲の1射だった。
アークエンジェルを狙う光の束は、しかしノイマンの操舵で難なく躱される。
「おやぁ、今回はあっちの金色ですか。オーブでは驚かされましたが……」
「赤いMS……ジャスティス、でしたか。あれの随伴機の様です」
「防御能力はトップクラスでしょうね。いやはや、これは厄介そうだ。アイツ等には頑張ってもらわないと────さぁ、踏ん張りどころですよ艦長さん」
相変わらずの軽い口調に、ナタルは湧きあがる苛立ちを努めて抑えた。
増援もないままの再度の攻撃。まず成功となる可能性は低いだろう。ドミニオンとしてもかなりリスキーな戦いであった。
アズラエルが言うように、本当に彼等に頑張ってもらわねば、ここでの戦いに勝機はない。
「敵艦、2隻が転進。この方向は──ザフトの艦船へと向かった模様!」
オペレーターの報告に僅かにナタルの意気が上がる。
アークエンジェル等が2面作戦となるのであれば、ドミニオンはアークエンジェルと向かってくる2機に集中できる。
何の因果か、ザフトと動き出すタイミングが重なり、千載一遇の勝機となった。
「艦尾ミサイル発射管、スレッジハマー装填。目標、敵MS──てぇ!!」
号令と共に、ジャスティスとアカツキにはミサイルが放たれた。
「来るぞ!」
「わかってる!」
散開。そして迎撃。
ジャスティスはビームライフルとファトゥムに備えられたフォルティスビーム砲を。
アカツキはビームライフルと頭部の近接防御火器で迎撃。
初撃を防いだところへ、カラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機が2人を強襲。
「おらおらぁ!」
カラミティの兵装一斉射が火蓋を切った。
分断されたジャスティスとアカツキへ、レイダーとフォビドゥンが接近。
「撃滅!!」
ジャスティスに向けてレイダーから放たれるミョルニルをシールドで弾いて、その隙にビームサーベルを連結して接近。
「うぉおお!!」
レイダーがシールドで受けるものの、その隙にカラミティ―がスキュラで側面からジャスティスを狙い撃つ。
「させない!!」
フォビドゥンのニーズヘッグをシールドで受けながら、アカツキの両肩に備えられたアメノイワトの発生装置が切り離される。
アカツキに搭載されたAIトモシビによって制御されたそれは、カガリの意思を汲み取ってジャスティスの側面に移動し光波シールドを形成。ジャスティスに放たれたスキュラを防いで見せた。
「これは……」
「なにっ!?」
降って湧いてきたような光性の防御帯にアスランとオルガは驚きの声を挙げる。
これが、完成したアカツキの真骨頂。
シロガネのジンライ同様にドラグーンを用いた思考制御で機動する、小型の光波シールド発生装置。
端末単体での防御能力もさることながら、両肩、両脚、胸部に備えられた5基の端末で形成するフィールドは、自機のみならず、僚機も併せて自機周辺をフィールドで囲う事が可能。
敵を討つシロガネと対照的に、味方を守る事を追求してタケルが設計したアカツキの、そのコンセプトを体現する防御兵装システム“オオヒメ”である。
「トモシビの補助制御もばっちり……さすが兄様とキラの合作だ」
胸を震わす様な嬉しさを覚えながら、アカツキの完成度にカガリは舌を巻いた。
これはいわば、兄の想いの集大成だ。
オーブの敵を討つのが軍人であるタケルの役目であるなら、オーブの民を守るのがいずれ父の跡を継ぐ事になるカガリの役目だと。
カガリでは能力が及ばない兵装であるとわかってからも、カガリが乗るアカツキだからこそ必要な機能として、タケルが試行錯誤の末に完成させた兵装。
AI作成の為アイシャに協力を願い出て、キラにも作成の協力をしてもらい。カガリのこれまでを見てきたタケルだから仕上げられたサポートAIトモシビ。
トモシビに覚え込ませたカガリの思考と脳波パターンから、カガリの意思を汲み取り、センサー類の探知情報から半自立制御でアメノイワトを展開し防御行動をとることができる。
「アスラン、攻撃は任せたからな──その代わり、防御は任せろ!」
「全く、タケルの奴は何てものを……俺にカガリに守られろって言うのか」
フォビドゥンの攻撃を受け流しながら、アカツキはオオヒメによってカラミティの攻撃を封殺していく。
そんな姿にアスランは嬉しくもあり、僅かな怒りも覚えた。
MSとしては素晴らしい機能だろう。
パイロットであるカガリ自身の安全も考えながら、その意思を体現させる────過保護なタケルだからこそ生み出せた兵装だ。
だが、それで守られて良しとしていられるほど、アスラン・ザラは安いプライドを持ち合わせてはいない。
アカツキの完成度を見れば、タケルがカガリを想う気持ちはよくわかる……が、彼女を好きになってしまった男としては、タケルの想いに負けているわけにはいかなかった。
「君は俺が守る、なんて陳腐なセリフはキラに任せよう。だから俺は──君を狙う敵を討つ!」
種が開く。
久方ぶりに陥る、驚異的な思考速度と知覚領域。
その感覚に踊らされず、アスランはジャスティス駆った。
両肩のビームブーメランを時間差で投射。レイダーへの牽制を掛けると同時に、アカツキに迫り続けるフォビドゥンへと肉薄。
連結したビームサーベルで切りかかり、アカツキから引き剥がすと、そのままファトゥムを切り離して追撃。フォビドゥンを一気に追いやる。
「流石だな、アスラン」
「カガリは少し下がって援護を頼む──君に敵を近づけさせやしない」
「ちぇっ、アスランまで過保護かよ……だったら私は、ミサイル一発だってお前に当てさせないからな」
「ふっ、頼もしい限りだ──行くぞ!!」
「あぁ!!」
前衛をアスランへと任せて、カガリは後方より牽制と防御に徹する。
オオヒメによる精密且つ、即応性の高い防御と、敵機の隙を作り出すビームライフルでの牽制。
隙を見出せば、背部バックパックに備えられたシロガネのキョクヤと同系統の、プラズマ収束ビーム砲2門で狙い撃つ。
共に戦うのがSEEDを発現したアスランだからこそ、その高い知覚領域の中で、アカツキのオオヒメによる防御行動を察知し、それに合わせて攻撃に移れる。
ファトゥム、ビームブーメラン、連結ビームサーベルを駆使して、苛烈に責め立て数の不利を押し返していった。
「艦長! フリーダム、ストライク、バスターが帰還してきます!」
機体の場所が遠かったタケルとは一先ず別れて、先に帰投したキラ達。
ストライクは損傷もそこそこでフリーダムに牽引されてきていた。
『マリューさん!ムウさんが負傷しています!』
「なっ! ムウ、怪我の具合は──」
『慌てなさんな。そんなに大した傷じゃねえよ。むしろストライクの損傷の方がきっついぜ……あれだけタケルに苛められたのに、こんな調子じゃな』
「ボヤくのは後にして頂戴。キラ君、ムウをハッチに放り込んだらドミニオンの応戦に。今アスラン君とカガリさんが戦っています!」
『了解しました。それならディアッカ、ムウさんをお願い』
「あいよ!」
状況を聞いたキラは直ぐにストライクをバスターに預け、フリーダムを戦場へと走らせた。
「アスラン、カガリ!」
「キラ!」
「戻ったのか!」
ジャスティスと並び立って戦っているアカツキを見て、キラは操縦桿を握る手に知らず力が籠る。
自然と込み上げてくる嬉しさがあった。
ナチュラルのカガリと、コーディネーターのアスランが、機体越しでも分かるくらい、息もぴったりに戦っている。
悪意と絶望に満たされた世界に、呑まれそうであった自身を否定してくれる光景であった。
死なせてなるものか。失ってなるものか。
目の前で親友と双子の片割れがこうもわかりあって一緒に戦っているのだ。
世界は彼等が言う様に、悲観する事ばかりではない。
だから──
「僕も、望む未来の為に戦うんだ」
種が開く。
自然と陥ったSEEDの全能感に振り回されず、キラはフリーダムを駆って戦線へと飛び込んだ。
バラエーナプラズマ収束ビーム砲で、フォビドゥンを牽制。
そのまま接近していきビームサーベルを振り下ろす。
「てめぇええ! 撃殺!」
「やらせん!」
後隙を狙うレイダーの突撃を、ジャスティスがファトゥムで牽制し、足を止めて所へ本体で蹴りつけ吹き飛ばす。
別方向よりフリーダムを狙ってカラミティが放つビームはアカツキのオオヒメが受け止めた。
「よし! 一気に攻め切るぞ、2人共!」
「うん!」
「あぁ!」
数の利を失い、今度は一気に攻め立てられる側へと追い込まれていくオルガ等連合軍の3機。
フリーダムの潤沢な射撃兵装で分断され、ジャスティスが肉薄し仕留めに入る。
反撃や援護をしようにも、カガリが目を光らせており、オオヒメの防御とビームライフルの牽制で、動こうとすれば抑えられる。
徐々に、戦線は後退していき、ドミニオンのいる方向へと押し込まれていった。
同じ時、メンデルから脱出したタケルとシロガネも、急いで戦闘宙域へと向かっていた。
とは言っても、参戦するには少し機体のエネルギーが心許ない。
元々シロガネの継戦能力は高いが、今回はアークエンジェルを守る為にドラグーン兵装のジンライを使用した後だ。
Nジャマーに影響されない端末への量子通信は、かなり電力消費が激しいのである。
アカツキのオオヒメは発生装置となる端末自体に、小型の高性能バッテリーを積んでいるお陰でアメノイワトとの両立ができているが、シロガネはジンライが元々サブスラスターであり攻撃用の兵装だ。
機動性を殺さない為には、重量が増すバッテリー内蔵式は採用できなかった。
とは言え、半分程度はまだ残っている。
十分戦闘は可能だろう。
『ねぇ、兄さん』
当然の様に呼び出してくる通信。
少しだけ気配を鋭くさせながら、タケルは通信に応えた。
「──ユリス。まだ言いたいことでも?」
『ううん、さっきので私達は完全に決別。私達は違う未来を望む者として敵になった──だからね、本気でやり合うきっかけをあげようと思って』
「本気でやり合う、きっかけ?」
センサーが拾う位置情報。
少し先に、ディザスターの反応を発見してタケルは機体を向かわせた。
「きっかけって何のこと?」
『兄さんは私とラウが望む終わりを止めたいのよね。だから、教えてあげる──今ここに、私の手元に。この戦争を終わらせる鍵があるわ』
「戦争を終わらせる……鍵だって……」
『私をここで殺せれば終わり。扉は開かれず、兄さん達の勝ちよ。でも私を逃してしまえばその逆……扉は開き、世界は終わりへと加速する────どう、やる気でた?』
タケルは聞かされた言葉に目を見開いた。
つまりは止めたければ今ここで殺して見せろ。そう言っているのだ。
「やっぱり君は、僕を恨んでるんだね」
教えるべきではない情報だろう。
何も言わず。それこそ通信など寄越さずそのままドミニオンへと帰投していれば、ラウとユリスの願いはかなった。
その可能性を捨ててまで、タケルを挑発し殺し合おうとする。
ユリスの行動の裏にある願望を、タケルは改めて理解した。
全てを賭した全力──タケルのそれを上回る事。
『本当、兄さんはニブいんだから。恨むに決まってるでしょ? 同じ存在でありながら、何で兄さんは大切な人達に囲まれ必死に生きてて、私は何も得られずにゴミの様な生を過ごしているのか……羨ましくて、妬ましくて。不公平なこの世界と兄さんが、私は心底憎い』
「だから、全てを賭して戦って、僕を上回りたいと」
『この際どっちが上かなんて良いの。ただ私は、終わりへと向かう世界の中で、兄さんに絶望を見せてあげたいだけ──抗えず、守れず、何もできない絶望に打ちひしがれて死んで欲しい』
悪意と憎しみに満ち満ちた声と言葉。
向けられた純粋な憎しみに心揺らされるも、冷静にそれを受け取ったタケルは、シロガネの操縦桿を握りしめる。
「──確認するよ、本当にここでユリスを殺せば止められるんだね?」
『うん。だから──私を殺して、兄さん』
どこか可愛らしさすら含んだユリスの声に、タケルは静かに目を伏せた。
自身と瓜二つの少女。その生まれに同情はした。
酷い人生を歩んできたこと等、声音だけでわかる。それ程に濁り淀んだ鬱屈した憎しみの声であった。
「──わかったよ、ユリス」
だから応えよう。それが彼女の望みなら。
SEEDへと陥る。
目の前の少女を野放しにすれば、タケルにとって大切な人達が、皆不幸になる──それを、タケル・アマノは許容しない。
明確に抱く、純粋な殺意。
ヘリオポリスからこれまで、戦火に身を置いたタケルの中で無意識にかけられていた最後の忌避感が取り払われる。
即ち、相手に対する殺意。
敵機を討つ。それは根本的には敵戦力の排除が目的だ。
結果としてパイロットの生死が発生したとしても、一番最初にある目的は敵戦力の排除である。
だが、その認識が変わる。
これまでタケルの戦いの根幹にあった守る為ではない。
ユリス・ラングベルトを殺すために、戦う事を決めたのだ。
「ジンライ、展開」
殺気が満ちていく。
それが目に見えるかのように切り離されたドラグーンブレードが6基展開された。
ビャクヤを2本抜き放ち、シロガネのメインスラスターに光が灯っていく。
『あはっ、最高! 兄さん、そんな気配も出せるんだ!』
「────行くよ、ユリス・ラングベルト」
ドンと弾けるようにメインスラスターが火を噴き、シロガネが飛び出す。同時、ディザスターを囲う様にジンライが縦横無尽に飛び交った。
「ふふ、はっやい!」
狂喜を交えて、接近してくるシロガネのビャクヤをビームサーベルで受け止めつつ、飛び込んでくるジンライをシールドで弾いていく。
瞬時に距離を取ったシロガネがビャクヤで光条を放つもそれを、機体を翻して回避。
更に追撃で飛び込んでくるジンライを両腕部から出力したビームサーベルで防ぎ躱す。
「流石ね、兄さん! 全然対応が追い付かない!」
嬉しそうなユリスの声が飛び込んでくるがタケルは意に介さずに再びシロガネを急速接近させる。
ギリギリでジンライを察知して躱していくディザスターに、再び肉薄し遂に光刃がディザスターの腕部を捉えた。
切り落とされた腕部を蹴りつけ反動を僅かに得ながら、ディザスターは本当に少しシロガネとの距離を離した。
「くっ……凄いね兄さん……でも」
距離を取ろうとしたディザスターに、シロガネが追いすがる。
余計な問答は許さない──そう言わんばかりに、シロガネは次々とジンライを飛ばしビャクヤで撃ち、切りかかる。
SEEDの発現と共に、研ぎ澄まされたタケルの戦いは、確実に一手一手ユリスの命を奪うべく繰り出される。
1秒1秒確実に追い詰められていく最中、それでもユリスは嗤っていた。
「──終わりだ!」
ジンライで逃げ場を奪い接近。コクピットを目掛けてビャクヤの光刃が遂にディザスターを捉えようとしていた。
瞬間、ディザスターは肩の大型ビーム砲シュバイツァをパージ。
エネルギーの充填がされていたのか、シロガネの眼前で切り裂かれた砲塔が大きく爆発を起こした。
「ぐっ、賢しい真似を!」
TP装甲持ちのディザスターは爆発の余波を受けても大きなダメージを受けないが、シロガネは別だ。
装甲も薄く、特殊装甲でもないシロガネでは至近で受けた爆発の余波は損傷を受けるには十分である。
機体状況を確認……ビャクヤを一本失い、ジンライのフル稼働でエネルギーは残り2割を切っていた。
「次で──」
「ふふっ、あははは!!」
瞬間、狂気じみた嗤い声がタケルの耳を震わせる。
「私の勝ちだね、兄さん!!」
爆炎の奥、ディザスターは踵を返してドミニオンへと向かっていた。
「なっ!? しまった!」
即座にジンライを戻して最大戦速でディザスターを追う。
だが、出遅れたシロガネが追い付くにはかなりの距離が必要だ──タケルは、焦燥の表情を浮かべてシロガネの計器類を見た。
サブスラスターのジンライと併せれば速度は出る。追いつくことは可能だ。
だが、ユリスのディザスターを仕留める為にはジンライによる全方位攻撃が無ければ難しい。
追いついただけでは、ユリスは止められないのである。
そして、残りエネルギーを見るに……ジンライ6基のフルパフォーマンスはもう望めない。
エネルギーをここまで消費して仕留めきれなかった時点で、シロガネ単騎ではもう詰みなのであった。
「最初から、これが──」
元より、シロガネに速度で劣るディザスターが問題なく逃げられる保証はない。
逃げ回りながら戦っていては、いずれフリーダムやジャスティスの増援も来るかもしれない。
ユリスは、早急にドミニオンへと戻る必要があった。
その為に短期決戦を誘い、シロガネのエネルギー消費を狙った。
『ドミニオン、聞こえますか? こちらラングベルト。重要データを入手したため帰投中……援護を』
アークエンジェルとの戦闘中であったドミニオンに、ユリスから通信が入る。
見れば、ドミニオンに向かって高速で帰投してくるディザスターと、それを追うシロガネの情報が観測された。
「ラングベルト少尉? 重要データとは──」
「カラミティ、フォビドゥン、レイダー。ディザスターの撤退を援護しなさい。最優先です」
「なっ、アズラエル理事! 何を勝手に──」
「艦長さんも早くミサイルでもなんでも撃っちゃってくださいよ。何としても彼女を帰還させてください」
これまでの軽い空気ではない。
視線鋭くモニターを見るアズラエルの目は、真剣そのものであった。
ナタルは直ぐに状況を分析して指示を下す。
「コリントス装填。照準、ディザスターを追跡中の敵MS。発射と同時にゴットフリートとバリアントで敵の行く手を塞ぐ──てぇ!」
ミサイルの発射。そしてミサイルの弾着前に、ゴットフリートとバリアントでシロガネの行く手を塞ぐ牽制の攻撃。
「くっ!? こんな時に!!」
大きく回避することを余儀なくされ、シロガネとディザスターの距離がまた開いた。
更には側面から、アズラエルの指示で迫りくる3機のXシリーズの姿。
タケルは急ぎ戦況を確認して通信を飛ばす。
「キラ、アスラン、カガリ!! 何としてもドミニオンに逃げる機体を墜とすんだ!」
「タケル! うん、わかった!」
「了解した!!」
「アカツキでは追いつけない……援護するから2人は行ってくれ!」
キラ達も事態を直ぐに察して、ディザスターの追撃に入る。
「行かせねえよ、てめえらは!!」
フリーダムとジャスティスの接近を察知して、カラミティが対応に入った。
全兵装一斉掃射──面制圧の様な閃光の束が2人を襲うが、アカツキのオオヒメがそれを防ぎ、フリーダムとジャスティスはカラミティを置き去りにして駆け抜けた。
「ちっ、シャニ!!」
「あぁうざい!!」
反転して迎え撃つ姿勢となるレイダーとフォビドゥン。
アスランは即座にファトゥムを切り離してレイダーへと向かわせ、本体でフォビドゥンを抑えた。
「キラ、いけ!!」
足止めのXシリーズを全て躱し、ディザスターへとフリーダムが迫る。
最大戦速のままにバラエーナプラズマ収束ビーム砲で牽制を掛けるも、SEEDを発現したユリスにはその程度の射撃が命中するはずもない。
だがそれでも、何度も何度も狙うたびに回避軌道を余儀なくされ、ディザスターとシロガネの距離が詰まっていく。
「もう少し……一か八か!」
スラスターの限界値を更新。過剰出力としたシロガネが最後の追い上げを図った。
ディザスターはもう目の前だ。ビャクヤを抜き放ち、ディザスターのスラスター目掛けて切りかかる──
「なっ!?」
振り下ろされた光の刃は、ディザスターを切り裂くことなく虚空に消えた。
限界ギリギリで更にスラスターに回したエネルギーの消費で遂にシロガネはエンプティ。
光の刃を維持することができなかった。
失速し、置き去りにされるシロガネ。
悠々と去っていくディザスターの中で、ユリスが悪辣に嗤う姿を、タケルは幻視していた。
間違いではなかった。嘘ではなかった。
抗えず、守れず、そうして絶望させる──と。
彼女は本当に、タケルを絶望させるために一芝居打って見せた。
終末を止めるための道をタケルの眼前に提示しながら、それを防ごうとするタケルを嘲笑ったのだ。
「くっ……こんな……うぁああああ!!」
己の不甲斐なさに打ち震え、タケルはコクピットに拳を叩きつけるのだった。
アカツキ、カガリの活躍編。
ちなみにオオヒメは「大日女」で天照大神の別名からきてます。大姫じゃないです。
アメノイワトにちなんだ名称で採用しました。
そしてやらかす系主人公。
いや、やらかすというよりしてやられたと言うべきか。
ユリスには悪辣を突き進んでもらう予定。
あぁ、もう扉開かれて終末編突入。そろそろ終わりが近いです。作品的にも。
どうぞ最後までお楽しみいただきたく思います。