機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-97 終わりへの始まり

 

 ジェネシスを破壊する。

 

 不退転の決意と覚悟を以て、地球連合軍は進行を再開した。

 

 ドミニオンを指揮するナタルは、ジェネシスへの道を切り開くため前線へと艦を進ませる。

 整備と補給を済ませた後期Xシリーズの4機に出撃を命じ、同時にドミニオンの高い戦闘能力を十全に発揮させ、艦隊戦を開始した。

 

 

 

 

 

「地球軍、進軍を再開しました!」

 

 

 状況を観測したミリアリアの報告と同時に、全艦に緊急アラートが流れる。

 

『全艦発進準備。繰り返す、全艦発進準備』

 

 

 

 既に地球軍もザフトも全ての手の内を曝しただろう。

 今度こそそれらを止めて、この互いを滅ぼし合う戦争を止める。

 できなければ、この世界は戦火に吞まれ滅びを迎える事に成るのだ。

 

 

 知らずの内に、各自が最後の戦いとなる事を予期していた。

 

 

 

 

 

「──キラ」

 

 フリーダムへと向かうキラ・ヤマトを、ラクス・クラインは呼び止める。

 

「ん……ラクス」

「キラ、少しだけお時間を」

 

 格納庫へと向かう通路上で、向かってくるラクスをキラが受け止めると、2人は互いに顔を見合わせた。

 

「──これを」

 

 ラクスから差し出されるのは装飾された銀の指輪。

 受け取ったキラが僅かに驚きの表情を見せるも、その意図を察して、キラは小さく笑みを浮かべる。

 

「ありがとう……ラクス」

「帰ってきてくださいね。私の元へ」

「心配しないで。ラクスの方こそ、気を付けて」

 

 いつかしてもらったお返しと言うように、キラは不安そうなラクスへと寄り添うと、その頬へと唇を落とした。

 言葉にはしていないが、互いに想い合っている事を告げる、優しい微かな感触に、ラクスの不安が少しだけど取り除かれていく。

 

「行ってくるね」

 

 

 守りたいものが、この世界にはたくさんある。

 それを改めて強く認識したキラ・ヤマトは、戦う決意と生き残る覚悟を持って彼女へ背を向けた。

 

 

 離れていく華奢な少年の背中。

 祈りの手を作りながら、ラクスは消えゆくまで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄様……大丈夫かな?」

 

 エターナルからクサナギへと向かう道中、伴だっていたアスランにカガリは不安そうに告げた。

 

 先の艦橋での兄の姿。今までに見た事が無い程追い込まれていた様に見えた。

 やはりそんな兄の姿には、どうしても不安が掻き立てられる。

 砂漠で拒絶された時の記憶を想起し、兄が自身では救い切れないところまで沈んでしまうのではないかと。

 あの時を思い出して、カガリの心は恐怖に囚われた。

 

「彼女が向かったんだ。悪い様にはならないだろう」

「だが兄様は、私やサヤには弱い所を見せたがらない。アークエンジェルにいた時だって、私が見透かして問いたださなければ、ほとんど抱えている事を教えてはくれなかった」

「問い質せば晒してくれたんだろう? カガリと同じ様に、あの子もタケルへの対処は心得てると思うが……」

「それは……そうだが……」

 

 不安は尽きないのだろう。その様子に、アスランは彼女の気持ちが痛いほど理解できた。

 大体、タケルがカガリやサヤを溺愛しているのは重々理解している。そして対する2人も、そんなタケルを慕っている事は重々承知だ。

 

 自身と2人で居る時ですら、カガリにはそんな思いが溢れてきてしまうのだから────なるほど、自分の一番の敵は親しき友となった彼なのだろうと、アスランは思った。

 

「心配なのはこっちも同じなんだぞ、カガリ」

「え? うわっ!?」

 

 並び立って通路を進んでいるカガリの腕を取って引き寄せると、アスランは驚きに声を漏らしたカガリに構うことなく、その腕に抱き寄せた。

 

「ちょっ、お前、なんだよいきなり!」

「ん? 抱きしめてる」

「いや、だからっ、何をこんな時に!」

「アカツキで出るんだろ……カガリだって、死ぬかもしれないんだ……不安にもなるさ」

「──アスラン」

 

 小さく漏らした想い人の声に、カガリは嘆息。

 そして優しくその背に腕を回した。

 

「大丈夫だ。兄様が作ったアカツキは、絶対に私を墜とさせない様に仕上げられてる。皆を守るのが、私の役目だ。その私が墜とされるわけにはいかないだろう? 

 大体、私からすれば、お前やキラ、勿論兄様も含めて、そっちの方がずっと危なっかしいぞ」

「──カガリ」

「うん?」

「その……こんな事もしているんだし、余り俺の前で兄様兄様ってタケルの事を言うのは、やめてもらえないか?」

 

 へっ? と、呆けて数秒。言われた事を理解して、カガリは気恥ずかしさと申し訳なさを同時に感じ、慌てた表情を見せた。

 

「あっ!? ご、ゴメン!! 別に、お前を悲しませたかったわけじゃ」

「わかってる……タケルがカガリにとって大切で、信頼できる兄なのだという事は。だけど、せめて……今この時だけは、俺の事を見て欲しい」

 

 出撃前の一時。

 不安な心を押し殺すために、胸に抱いた想い人。

 そんな想い人が他の異性の事ばかり口にしては、面白くないのも無理はない。それが親しき兄妹の事だとしてもだ。

 

「そ、そんな捨てられた様な顔するなよ……いくら兄様の事を大切に思っていようが、兄様は兄様で、お前はお前だ。私が好きなのは、その……お、お前だけだからな!」

 

 羞恥に塗れた表情で力強く想いを告げてくれる彼女のなんと愛おしい事か。

 照れ臭そうにどもる仕草も、その後にはにかんで見せる笑顔も、アスランを惹きつけてやまない。

 

「あぁ、もう。本当に──君を好きになってよかった」

 

 再び胸に搔き抱くと、胸の内にいる少女の顔を見つめて、アスランはその口元に己の唇を合わせた。

 始めは驚きに目を見開いたカガリも、想いを受け入れ、アスランとの触れ合いに意識を寄せていく。

 

 暫くの交わりを得て、離れた2人は再び見つめ合った。

 合わせた唇の余韻を感じながら、翡翠と琥珀の瞳が交錯する。

 

「──死なせないからな。お前」

「死なないさ。カガリの為にも」

「兄様も、弟だったキラも、皆……絶対死なせない」

 

 決意を秘めたカガリの強い表情。

 再び別の異性の事が出てきてしまうのは、らしいと言えばらしい。

 大切な家族──だから、絶対に守るのだと。そんな温かい彼女だから、アスランはカガリに惹かれているのだ。

 

「キラが弟なのは確定か? キラも兄さんじゃ?」

「あり得ん! アイツは弟だ」

「最近はいっそ、タケルが一番弟みたいだがな」

「兄様は、戦いに向かないだけだ……本当なら、一番机にかじりついてるのが似合ってるはずなのに。守りたいものが多すぎるから」

「──そうだな。だからこそ、こんな戦いはもう終わらせないといけない」

「あぁ、行こう!」

 

 動き出すのは早かった。

 格納庫へと向かうアスラン。クサナギへと向かうカガリ。

 綺麗に二手に別れて、2人は各々が向かうべき場所へと向かう。

 

 守れなければ彼も。そして大切な想い人をも曇らせてしまうだろう。

 

 アスランの心にも、再び決意と覚悟が宿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルにて、ストライクの発進準備を進めるムウ・ラ・フラガ。

 ストライクのコクピット内で諸々の調整をしているところで、ふとストライクのセンサーが接近してくる人物を捕捉する。

 

「マリュー?」

 

 戦いを目前にして、艦長が格納庫に何の用だと。

 ムウはパイロットスーツのヘルメットを外してコクピットの外へと躍り出た。

 

 

「よかった、間に合わないかと思ったわ」

「全く、何をだよバカ。こんな所に来て」

 

 飛んでくる彼女を受け止めて見つめ合う。

 良い大人である2人だが、だからこそ素直に思い合っている。愛し合っている。

 言葉にせずとも、マリューが何しに来たのかがムウにはすぐわかったし、マリューもそれを理解していた。

 

「不安、なのか?」

「それは……そうよ」

「──MA乗り、だったんだよな?」

 

 マリューの瞳に少しだけ辛さが映り込む。

 嘗てマリューが愛した人。地球軍のMA乗りで、戦火の中に散っていった。

 今でもマリューの胸には、形見と言えるロケットが掛けられている。

 

「心配しなさんなって。俺はちゃんと帰ってくるよ」

「──ムウ」

「勝利と共にな」

 

 言って、ムウはマリューを引き寄せた。

 アークエンジェルの格納庫で、抱き合いながらその想いを確かめ合う。

 

 いくら言葉にしようと、これから向かうのはこれまでにないほど過酷な戦場となるだろう。

 必然、死の可能性は高い。

 互いの想いを確かめ合う様に、2人は唇を重ねた。

 

 伝え遺す事が無いように……すべての想いを込めるように

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー全く、やれやれだぜ。アスランにキラ……んで隣ではおっさんもかよ。どいつもこいつも出撃前にイチャイチャと……」

『何よディアッカ。羨ましいの?』

「どわぁ!?」

 

 バスターのコクピットで、若干の苛立ちと共に悪態をついていたディアッカの独り言に、消す声が届いて、ディアッカはコクピットの中でひっくり返った。

 丁度ミリアリアが通信を艦橋から開いた所だったのだろう。

 

「う、うらやましい? この俺が? まさか?」

 

 思わず罰が悪そうに、ディアッカは肩をすくめる。

 

「あ、そうなんだ。それじゃ、私からの激励なんか良いわよね?」

「えっ? あ、おい、待てって!!」

 

 プツンと通信が切られ、ディアッカは今しがた聞いた言葉と通信を切られた事に慌てふためく。

 

 だが数秒後には、小さく笑うミリアリアの姿が映し出された。

 

「ふふ、冗談よ」

「──んだよ、期待しちまったじゃねえか」

「あら、激励はホントよ……その、気を付けてね」

「ん? あ、あぁ……サンキュ」

 

 初めての出会いを考えれば、今こんな関係性になるとは信じられなかった。

 だが、互いに過ちを認め、相手を尊重し、少しだけぎこちないが想い合えるようになっていた。

 どこかくすぐったいような照れくささが、2人の間に流れる。

 

「生きて帰ってきたら、私の手料理振舞ってあげるから……だから、死なないでよ」

「んあ? おいおい、せめてそこはおかえりのキスくらいは」

「はぁ? 調子に乗らないで。手料理じゃ不満?」

「いえ、滅相もございません。十分です!」

 

 バカみたいなやり取りに、緊張を和ませて小さく笑い合う。

 願わくば、このやり取りがこの戦いが終わった後も続けられるように。

 

 そんな淡い期待を胸の内に秘めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バルトフェルドもまた、エターナルの艦橋でストライクルージュに乗ったアイシャへと通信を繋いでいた。

 

「やっぱり君も出るのかね、アイシャ?」

『当然でしょ。ルージュはもう私の機体だもの。それに、いまこっち側にいる以上、坊や達を守ってあげないと』

「全く、僕が居ない間に随分とお転婆になったものだ。自分の年齢を考えたまえ」

『──アンディ』

 

 底冷えする声音が聞こえ、艦橋内の温度が下がった気がした。

 失言に気が付いたバルトフェルドの頬を冷や汗が伝う。

 

「すまん。冗談だ」

『冗談で済むことと済まない事があるって、この間教えなかったかしら?』

 

 エターナルでアークエンジェル等と合流し、再会した日の事だ。

 死んでいた──そう思われていた想い人の生存に、アイシャは嬉しさ半分。隠していたわけでは無いのだろうが直ぐに知らせてくれなかった薄情な彼に怒りも半分であった。

 その結果、どうなったかはバルトフェルドのみが知る。

 

「埋め合わせは生きて戻ってきてくれたら必ずしよう──だから」

『アンディと違って嘘はつかないわ。ちゃんとアンディの所に帰ってくるわよ』

「──必ずだ」

『えぇ、必ず』

 

 ウインク1つ残して、通信を切っていくアイシャ。

 変わらぬ茶目っ気にバルトフェルドが不覚にも鼓動を跳ねさせたのは内緒だ。

 

 いつまで経っても、彼女には頭が上がらなそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クサナギの格納庫で、タケルは自身の機体を見上げた。

 

 サヤに縋り、涙を流し、どうにか立ち直って、ここに居る。

 全てを伝える事は無かった。背負ってきたものをサヤに教える事は無かった。

 

 それは全て、自分が負うべきものだから。

 

 それでも、たっぷり流した涙の分だけ、張り裂けそうであった胸の内は軽くなってくれた。

 深く、タケルはサヤに感謝した。

 

「アマノ二尉」

「あっ、エリカさん」

 

 声を掛けられて振り返れば、これまで長きを共にしてきた技術者仲間であるエリカの姿。

 少しだけ目元が腫れた気配がするタケルに、エリカは色々と察するが、それを捨て置いて話を切り出す。

 

「希望通りに、ビャクライのスラスターは増設しておきました。少し重量は増えましたが、それをカバーして余りある推力は期待できそうです」

「ありがとうございます。すいません、最後の最後で色々と任せきりになっちゃって」

「良いのよこれくらい。今の貴方はパイロットなんですから。これくらいは力に成らせてください」

「本当に、ありがとうございます」

 

 弱気になって泣いて、余計な時間を取られ過ぎた。

 また1つ自戒して、タケルはシロガネに乗り込もうとした。

 

「アマノ二尉ー!」

「待って下さい!」

「少しだけ、お時間を頂けますか!」

 

 タケルを目にして、M2アストレイよりそれぞれ飛び出してくる3人。

 アサギも、マユラも、ジュリも。戦闘に出る準備は万端の様であった。

 

「ん、どうしたの3人共?」

「どうしたのじゃありませんよぉ!」

「姫様から具合が悪かったって聞いて」

「大丈夫なんですか?」

 

 心配そうに、詰め寄ってくる3人に、タケルは面食らう。

 あぁそうか。確かに気分が優れないと言って出てくればそう言う認識にもなるだろう。

 これから最も厳しい戦場へと向かう身だ。

 体調が優れないとなれば心配されるのも当たり前だった。

 

「大丈夫だよ。カガリがオーバーなだけだから。全然、問題ないよ」

「むぅ……」

「またそうやって」

「嘘ばっかり」

「うぇ!?」

 

 どこか怒りすら覚える表情で、彼女達は詰め寄った。

 

「目は腫れてますし!」

「声は元気ないですし!」

「顔色だって悪いじゃないですか!」

 

 手強い──タケルは苦笑した。

 カガリ、サヤ、ナタルに続いて、いよいよ彼女達にも隠せなくなってきていた。

 それ程までに、自身の変化はわかり易いのだろうと思った。

 

「ちゃんとわかるんですから」

「辛いときは頼って下さい」

「私達、もう教官と教え子じゃないんですよ」

 

 今は、共に戦う同志。

 同じ世界を、同じ未来を求めて、必死に戦う仲間。

 彼女達の言葉が嬉しくて、それと同時に少しだけ寂しくて、タケルは思わず反抗するように口を開いた。

 

「何言ってるのさ。まだまだ教える事はたくさんあるんだから。勝手に卒業した気になって貰っちゃ困るよ」

 

 教官の顔を見せたタケルに、アサギ達は少しだけ嬉しそうに笑みを深めた。

 

「────だから、勝手に死んじゃダメだよ。僕はまだ、君達に全部教えていないんだから」

 

 呪いの様にタケルは願った。

 まだ生きていて欲しいから。まだ死んで欲しくないから。

 きっと失ったら、もう自分は立ち直れないから。

 

 望む先の未来で、もっともっとやりたいことがあると。

 タケルは言葉の鎖で、彼女達に願いと言うの名の楔をかける。

 

「じゃあ、戦争が終わっても」

「アマノ二尉が教官のままなんですね」

「そう言う事で良いんですよね?」

 

 表情を輝かせる3人に、タケルの顔を綻んだ。

 それを望んでくれる彼女達に、気持ちが少しだけ軽くなる。サヤ同様に、彼女達には深く感謝の念を抱いた。

 

「はいはい、嬉しいのはわかったから! そろそろ指示も出るわよ。機体に乗る乗る」

 

 エリカの一声に、はーい、とどこか気が抜ける様な返事を残して、アサギ達はアストレイへと乗り込んでいった。

 

「さぁ、貴方も……辛い戦いはこれで最後よ」

「あはは……やっぱり気が付いちゃってるんですね」

「当たり前でしょ。長い間頑張り続けてきた貴方を見てきたんだから────だから、最後まで頑張りなさいと見送ってあげる」

「ありがとうございます、エリカさん──行ってきます」

 

 母の様な温かさを持った声に背中を押され、タケルはシロガネへと乗り込んだ。

 

 

 終わりにする──この戦争を。

 決着をつける──世界をここまで追い詰めた責任と共に。

 

 

「行くぞ、シロガネ────これが最後の出撃だ」

 

 

 愛機へと語り掛け、機体を立ち上げていく。

 

 同時に、艦内には艦載機発進の報が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球軍の進攻に併せて、発進した3隻。

 

 両軍の戦闘が開始された只中へと接近していく。

 

『オレンジ25,マーク12αにドミニオンです!』

 

 地球軍の動きを握るであろうムルタ・アズラエルを載せるドミニオン。

 その発見に、戦いへの幕が上がった事を悟った。

 

『MS隊、全機発進だ!』

 

 バルトフェルドの号令が全艦に届き、各々の決心の下艦載機が発進シークエンスに入っていく。

 

「ムウ・ラ・フラガ──ストライク、出るぞ!」

「ディアッカ・エルスマン──バスター、発進する!」

 

 アークエンジェルより飛び立つパーフェクトストライクとバスター。

 飛びだすと同時に、そのまま銃火が飛び交う戦場へと一気に機体を進めていく。

 

「アサギ・コードウェル、行きます!」

「マユラ・ラバッツ、出撃します!」

「ジュリ・ウー・ニェン、発進します!」

 

 M2アストレイ隊も順次クサナギより発進。

 艦の防衛へと回った。

 

 

 

 

 そんな中、クサナギで自身の発進を待っていたサヤ・アマノは、同じく発進準備中であろうフリーダムへと通信を繋ぐ。

 

「キラ・ヤマト」

『ん、サヤ? どうしたの?』

 

 通信越し、神妙な面持ちでいるサヤに、キラは怪訝な表情を浮かべて返した。

 

「貴方にお願いがあります────どうかお兄様をお守りください」

『どういう事? 前にも言ったけどタケルの事を想うならサヤとカガリが生き残る事の方が──』

「私とカガリ・ユラ・アスハには必要ないからです」

『──なにが、あったの?』

 

 疑問の尽きないキラは、サヤへと問いかける。

 

「もう、お兄様は限界なのです……これ以上お兄様に、戦争の負担はかけられません」

『だから、タケルを守ってと?』

「お兄様を、助けてください──お願いします」

 

 真剣なサヤの願いを、キラは無下に断る事は出来なかった。

 元よりタケルと、そしてサヤには大きな負い目がある。

 

『──わかったよ。できるだけ、タケルには負担をかけない様に僕達で頑張ろう』

「ありがとうございます。サヤも、全力で戦います故」

 

 通信を切ったキラは、一抹の不安を覚えながら、フリーダムの発進を待つのだった。

 

 

 

「アイシャよ。ストライクルージュ、行くわ」

「サヤ・アマノ──アストレイ、出撃します!」

 

 クサナギより、ストライクルージュとオオトリ装備のM2アストレイが出撃していく。

 

 迷いを見せない動きで、混迷窮める戦場へと、2人もまた向かって行った。

 

 クサナギのカタパルトに、金色のMSが乗せられていく。

 アカツキもまた、シロガネ同様にL4の時より背部バックパックが大型化しており、武装が増えた状態であった。

 

 アカツキ・シラヌイ装備。

 

 ドラグーンとアメノイワトによる防御兵装オオヒメを、より効率的に運用するために用意された追加武装パックだ。

 

 元々機体に備えられた5基のフィールド発生装置に加え、シラヌイパックに装備された追加の5基。計10基の発生装置を使用することが可能となり、それに合わせて追加バッテリーを搭載。より多く、より長く仲間を守る為に戦える機体となった。

 シロガネのビャクライと対になる、正にアカツキのコンセプト通りの追加武装である。

 

「兄様──大丈夫なのか?」

『生意気言わない。カガリが戦場で僕の心配なんて10年早いよ』

「兄様が戦場以外じゃてんで頼りないから言ってる!」

『大丈夫だよ。今から行くのはその戦場なんだ。僕に心配なんていらない……だから、カガリはカガリの役目を果たして』

「──わかった」

 

 心配を押し殺して、カガリはタケルとの通信を切った。

 結局、タケルの全く信じられない大丈夫しか聞けなかった。

 だが長い問答もしてられない。

 

 カタパルトの電圧が上昇し、アカツキの射出タイミングを受け渡される。

 

「カガリ・ユラ・アスハ──アカツキ、発進する!」

 

 オーブの獅子の娘が、託された遺志と共に戦場へと飛び出していく。

 

 

 

 エターナルの格納庫でもフリーダムの発進が進められる。

 先程のサヤとの通信に小さな不安を抱いたキラも、迷いを振り払い、戦場を見つめた。

 

 

 ヘリオポリスから始まった自身の戦い。

 

 ザフトとも地球軍とも戦い、そうしてここまで来た。

 望むのは、今こうして轡を共にしていた皆との温かい未来。

 その為なら、生まれながらに与えられた力を全力で振るうと胸に誓う。

 

「キラ・ヤマト──フリーダム、行きます!」

 

 蒼天の翼を広げて、自由の名を冠する機体が、最後の戦場に赴いた。

 

 

 続いてカタパルトへと乗せられるジャスティス。

 悪意が渦巻く戦場を見つめた。

 

 父を止める──ナチュラルへの憎しみを抑えきれず、ここまで来てしまったパトリック・ザラの息子として、確かな決意を胸に宿した。

 

 

「アスラン・ザラ──ジャスティス、出る!」

 

 真紅の機体を翻し、正義の名を冠する機体もまた、眼前の戦場を正しに飛び立った。

 

 

 

 

 クサナギで、最後に発進準備を終えたタケル・アマノ。

 

 喪えないものばかりの戦場が、酷く恐ろしく見えた。

 それでも、逃げるわけにはいかなかった。

 

 大切な父から託された想いがある。

 大切な仲間がその想いを繋ごうとしているのだ。

 1人だけ、怯えてはいられなかった。

 

 大きく深呼吸を繰り返す。

 

 入っていく──深く、深く、意識を沈めていく。

 

 守りたい。喪いたくない。その一心で戦ってきた。

 辛い事が沢山あった。悲しい事が沢山あった。

 それでも、全てを背負って前を向いてきた。

 

 気持ちの糸を繋ぎ止める。それはか細く、今にも切れそうであったが、心と身体を強く結んで確かに一つとしてくれた。

 

 怯える心を、胸の奥底にしまい込んだ。

 

 

 

「タケル・アマノ──シロガネ、出撃する!」

 

 

 眩い白銀を煌かせ、クサナギより閃光の如きMSが飛び出した。

 

 

 

「ミーティア、リフトオフ!」

「ビャクライユニット、射出!」

 

 

 同時、フリーダムとジャスティスにはミーティアが。

 シロガネにはビャクライユニットがドッキング。

 

 

「行くよ! キラ、アスラン!」

 

「止めよう! この戦いを!」

 

「あぁ、ここで終わらせるんだ!」

 

 

 莫大な推進力を発揮して、3機が戦場へと向かう。

 

 

 

 最後の戦い──そうなる事を信じて。

 

 まだ世界を止められると、かすかな希望を信じて。

 

 

 

 

 ヤキン・ドゥーエ攻防戦。

 長きに渡る戦争の、最後の幕が今上がった。

 

 

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