争いは徐々に終着へと向かっていた。
同時に、世界は終わりへと向かっていた。
アークエンジェルとドミニオンの戦闘は、タケルとユリスの一騎打ちへと変遷し、実質的に地球連合の戦いは幕引きとなる。
既に核ミサイルも無く、ジェネシスを破壊する戦力もない────地球連合は、敗退したのだ。
残るは、ジェネシスを守るザフトと、それを止めようとする者達の戦い。
未だ散る事が止まない戦火の光を見つめながら、ラクス・クラインは瞠目した。
人類は……恐らく、戦わなくとも良かったはずの存在。
だが、戦ってしまった者達。
それは何のためか?
守るため? だとしたら、何をだろうか。
自らを? それとも、未来をだろうか。
そんな、誰かを討たねば守れぬ未来。
自分の未来……それは何か?
討たねば守れぬ……何故か?
そして、討たれた者にはない未来。
では……討った者達がその手に掴む。
この果ての未来が幸福なのか?
────本当に?
種が開いた。
蒼白の瞳に映された世界。その行く末を、ラクス・クラインは垣間見る。
そして、願った────垣間見えた未来、それを覆す事を。
「ザフトは直ちにジェネシスを停止しなさい」
全周波で飛ばされる、毅然とした声。
平和を願い歌い続けた彼女の声が、力となり、ザフトの兵士たちへと届く。
「核を撃たれ、その痛みと悲しみを知る私達は、それでも同じことをしようというのですか? 討てば癒されるのですか?」
それはまるで、目の前で告げられるような、真に迫った言葉として、戦域に響き渡った。
「同じように罪無き人々や子供を討つ……これが正義と? 互いに放つ砲火は何を生んでいくのか、まだ解らないのですか! まだ犠牲が欲しいのですか!」
彼女の声と言葉は、力を持って、争いを止める一助となっていった。
「でぇい!!」
M2アストレイが躍動する。
アサギ、マユラ、ジュリの3人はその実力を遺憾無く発揮して、クサナギとエターナルへ近づいてくる敵機を悉く撃ち抜いていた。
「アサギ、前方ザフト機4!」
「1機は先に撃ち落とすから2人は行って!」
「OK、任せて!」
前方から迫ってくるゲイツ4機。それを確認して即座に応じて行く。
ジュリがビームスナイパーで先んじて1機を撃ち抜くと、アサギが機動性を活かして吶喊。
ゲイツの隙間を縫うように抜けて背後に回ると同時にビームライフルで1機。
気を取られたゲイツの懐へと飛び込んで、マユラがビームサーベルと脚部ビームブレイドで残りの2機を解体する。
「まだまだ来るよ、2人とも!」
ジュリの声に応じて散開。再び連携を取り直して、後続で迫り来るザフト部隊を相手にして行く。
そんな彼女達の頑張りに応えるように、クサナギとエターナルも艦隊戦を制して行く。
「右翼を突破する、クサナギ!」
「任せろ、ローエングリン照準──てぇ!」
エターナルの主砲と、キサカの号令で放たれるローエングリンの光が、陣取っていたナスカ級を撃ち抜いた。
そこへ、道を切り開くべく突撃して行くはアイシャが乗るストライクルージュと、サヤが乗るアストレイ・オオトリだ。
「アイシャ、飛び込みます。援護を!」
「任せなさい!」
ガトリングガンで牽制と露払いの両方をこなして見せるアイシャに感謝しながら、オオトリの高い機動力を活かして接近。
対艦刀で次々とゲイツの部隊を両断して行く。
「サヤ、後方からの援護が来るわ」
「存じております!」
機体を翻す。射撃を躱した瞬間には背部のビームランチャーとレールガンが火を噴き、更に撃墜を重ねた。
「ふふふ……サヤ、今の動きは坊やみたいだったわよ」
「当然でしょう! MS戦闘はお兄様直伝です!」
アイシャの言葉に、どこか……と言うか思い切り誇らしそうなサヤの様子に、アイシャも小さく笑った。
しかし、兄の事を思い返してサヤの胸中には不安が押し寄せる。
エターナルで抱き止めたタケル────兄は既に限界のはずであった。
タケル・アマノは、これまでの戦火の中で溜め込んだ心の傷に、崩れかけていた。
発進直前にキラへと願い出てはいたが、この苛烈な戦場でそんな願いを気にしている余裕があるわけがない。
ましてや兄もキラも、その高い戦力から担う役割は大きい。
身体はともかく、心が満身創痍である最愛の兄が、サヤは気掛かりでならなかった。
「サヤ?」
「────アイシャ、申し訳ありません。艦と皆さんをお願い致します。サヤは、いかなければなりません」
「坊やの所へ?」
普段から何を考えてるかわからないが、本当に彼女は聡いとサヤは感じ入った。
よく見ている。よく気にかけてくれていると言う事なのだろう。
サヤにしろタケルにしろ。アイシャはまるで考えてることがわかるような素振りを見せる。
今この時も、サヤの声音に全てを察したのだろう。
「サヤは、大切なお兄様のためにいかなければなりません」
「私は、坊やがそれを望むとは思えないわ」
「わかっています……サヤではお兄様のお力にはなれない事くらい。それでも──」
「違うわ。坊やは貴方を危険な目には遭わせたくないのよ」
アイシャの言葉に、サヤは僅か押し黙った。
それは十分に理解している。
キラが言うように、兄に自身が大切に扱われている自覚がある。
だがそれでも──大切だと思うのは、愛しているのは、サヤとて同じ。
否、愛していると言うのであれば兄よりも強い想いをサヤは抱いている。
「サヤはこれ以上、お兄様に苦しんで欲しくありません」
「────そう。わかったわ」
「ごめんなさい、アイシャ」
アイシャの嘆息する気配を察して、サヤは小さく謝罪の言葉を口にした。
「ちゃんと帰ってこなきゃダメよ。まだ抱き締め足りないもの」
「無事に帰ることなど百も承知ですが、それだけは絶対させないのでどうぞお気になさらず」
声音に強い拒否の意思を乗せて、サヤはオオトリを翻した。
エターナルとクサナギから離れて行くオオトリを見送り、アイシャは小さくため息を吐く。
「坊やを、悲しませちゃダメよ────サヤ」
見つめる瞳は、酷く不安に揺れていた。
白と灰が交わる。
交戦を続けるフリーダムとプロヴィデンス。
その死闘は正にこの世界における最高峰の実力者同士の戦い。
「本当に君は、厄介な奴だよ!」
「貴方は!」
ドラグーンが飛び交う。光が降り注ぐ。
それを高い推力による機動性と、キラの超人的な反射能力で躱していく。
接近──上段から振り下ろされるミーティアのMA-X200ビームソード。戦艦すら真っ二つに両断する光の刃を、プロヴィデンスは、僅かに機体を横にそらして回避。
反撃に放たれた大型ビームライフルが、ミーティアのアームを撃ち抜いた。
「在ってはならない存在だと言うのに!」
「くっ、何を!!」
再び降り注ぐ驟雨の光。
フリーダムは両腰のビームサーベルを抜き放ち、降り注ぐ光を切り払いながら回避して行く。
「知れば誰もが望むだろう、君のようになりたいと!」
波状攻撃──ドラグーンに合わせて放たれるビームライフル。
躱し、切り払うも、ミーティア両側面の火線砲がドラグーンに射抜かれた。
「君のようで在りたいと!」
「そんなことぉ!」
バラエーナプラズマ収束砲で、一瞬の隙をつく。
しかし、それも難なく躱されフリーダムには変わらずの光の雨が降り注いだ。
「故に許されない、君と言う存在も!!」
「それでも……それでも僕は!」
友がいる。仲間がいる。
今の自身を取り巻くのは、決してキラが最高のコーディネーターであるからだけではない。
ラウの言葉を振り払うように、キラはミーティアの全兵装をオープン。
「力だけが、僕の全てじゃない!」
夥しい量のミサイルと光の矢がプロヴィデンス目掛けて放たれる。
それらを躱し、ドラグーンの面制圧で迎撃していくプロヴィデンス。
ミサイルが起こした爆炎の中から再び現れ、攻撃直後のフリーダムの隙を突いた。
「それが誰にわかる!」
ビームライフルがもう一方のミーティアアームを破壊する。
継ぐように、ドラグーンが追撃。
一つ、また一つと、ミーティアの各部が削られていった。
「くっ!?」
「何がわかる!」
被弾に気を取られてるうちに、プロヴィデンスは接近。
「わからぬさ、誰にも!」
複合兵装防盾から出力したビームサーベルがミーティアの高推力エンジンへと叩きつけられる。
「くっそぉ!!」
やむなくキラはフリーダムからミーティアをパージ。
兵装こそ少なくはなるが、巨大な外部モジュールのミーティアは小回りが効かず機動性を落とす。
ドラグーン相手には、相性が厳しいのは自明の理であった。
身軽さを増したキラとラウの戦いは、さらに熾烈を極めて行く。
そして、もう一方。
白銀と災厄が撃ち合っていた。
互いに同じ存在────人の夢が生み出した悲しき結果。
しかし、歩んだ道を異にして来た。
世界を信じ未来を望む者と、世界を憎み未来を否定する者。
ユウキ・アマノが作り上げたタケル。
人間兵器として完成されたユリス。
「はぁあ!」
「やぁあ!」
光の刃を幾度なくぶつける。
距離を取れば、ビャクヤとビームライフルが、寸分違わずコクピットを狙い合う。
殺意を向け合う2人の戦いもまた、苛烈さを究めるものであった。
「これ以上、悲劇を撒き散らすな!」
「悲劇? これは喜劇よ兄さん。人類が積み重ねて来た必然の結果にそんな上等な価値は無い!」
キョクヤを展開、狙い撃つ。
対するディザスターも、シュバイツァを展開。
交錯する閃光は、全くの同時に放たれ、全くの同時に2人は回避軌道へと移行する。
「価値を決めるのはお前じゃない!」
「そうよ! 価値を決めたのはこの世界。私はただそれを知っているだけ!」
再びの接近戦。
光の刃がぶつかり合い、互いの機体を照らす。
「人類にそれだけの価値が無いと証明して来たのは、他ならぬ人類自身でしょ!」
「くっ!」
憎しみを湛えた声と共に、シロガネが弾かれる。
機体重量の差と出力の差で僅かに押し負けたシロガネに、ビームライフルが放たれるが、それをミカガミで受け流し距離を取ると、ジンライを2基展開。
本体との波状攻撃でディザスターを狙う。
「兄さんだって、それを知ってるはずだ!」
「それだけで人を知った気になるな!」
切り掛かる。
ビャクヤによる牽制の射撃、ジンライの追従。狙い、穿ち、そして懐へと潜り込む。
だが間一髪でシールドを挟んだディザスターが。カウンタに翻したサーベルが、シロガネの肩を掠めていく。
「くっ!?」
「どれだけ愚かなのかを見て来たはずよ! 核もジェネシスも! ナチュラルとコーディネーターも! 全て人の業が生み出した産物だ!」
ディザスターがシールドバッシュでシロガネを再び押し切ろうとする。が、今度はそれに応じてタケルがシロガネを後退。機体を一度翻して受け流し、側面に回り込んだ。
至近距離で放たれるビャクヤの射撃を、ディザスターのビームサーベルが切り払う。
「自らの闇に翻弄されておいて、悲劇などと嘯くな!」
捌き切ると同時に、激昂を伴ってディザスターが切り掛かる。
それをビャクヤで受け止め、2人の間には光の火花が散った。
「それを無理矢理引き起こしておいて!!」
「私は背中を押してあげただけよ。これまでの人類と同様に」
「なにが──」
「踏みとどまれる機会はあった。止められる道もあったはずよ!」
核も、ジェネシスも。
最高のコーディネーターも、クローンも。
ナチュラルと、コーディネーターも。
──タケルとユリスも。
止まれる機会はあった。生み出されないで済むはずの世界があったはずだ。
「止まれなかった──それが人類の証明!!」
ディザスターが距離を取る。
「愚かな夢と欲望から逃れられない、その証よ!」
シュバイツァが放たれ、狙い違わずシロガネを襲った閃光にジンライの一つが巻き込まれた。
「ちぃ────はっ!?」
瞬間、2機の間をいくつもの光が駆け抜ける。
センサーが拾う戦闘の気配。放たれた光の出元を辿った。
「あれは──キラ」
「まさか──ラウ」
激戦の果てに、戦場を移し、4人は交錯する。
ジェネシス破壊に向かうアスランとカガリ。
ジャスティスが敵を薙ぎ払い、アカツキがオオヒメによる防御で随伴し、ヤキン・ドゥーエ近傍へと辿り着いていた。
「くっ、このままでは!」
カガリが小さく呻く。
未だエターナルとクサナギはジェネシスへと取り付けていない。
地球軍の核攻撃は防げたが、このままではジェネシスによって地球が死の星に変わってしまう。
終末が目の前に迫って来ていた。
「エターナル! 状況は!」
アスランは状況確認の通信を飛ばす。
『アスラン!』
『少しずつ押し進んでは来ているが、まだ辿り着けん!』
バルトフェルドの答えに、表情を険しくさせた。
厳しい──決して時間が残っているとは言えない状況。今からジェネシスに辿り着けたとして、あれをすぐに破壊できるとも思えない。
アスランは逡巡、すぐに対応策を考える。
「ヤキンに突入してコントロールを潰す」
「アスラン!?」
『できるのか?』
「時間がない──カガリ、行くぞ!
「あぁ、わかった!」
ジャスティスがミーティアから離脱すると、そのままヤキン・ドゥーエへと向かって行く。
カガリのアカツキもそれに続いた。
『アスラン、カガリさん!』
「大丈夫だ、任せろ!」
心配そうな顔を見せるラクスに、努めてカガリは安心させるような声で返した。
「ちっ、アイシャ、2人の援護へ!」
『了解アンディ、任せて。子猫ちゃん達、守りをお願いね』
「「「はい!」」」
バルトフェルドの指示に、アイシャの乗るルージュもヤキン・ドゥーエへと向かった。
地球へ向けて放たれるジェネシス────その恐怖と焦燥に駆られながら、皆が必死に戦っていた。
「タケル!?」
「ユリスか?」
互いに死闘を演じながら邂逅を果たした4人。
すぐさま合流を果たして、そして────4機の戦いは更に苛烈さを増して行く。
ドラグーンとジンライが飛び交う。
太い閃光がいくつも放たれ、機体を掠めて行く。
光の刃が迫り来る閃光を切り払い、そして火花を散らした。
「こうして君と、そして君達と戦うことになるとはな」
「ラウ、感傷になんか浸らないでくれるかしら?」
「ふっ、真面目だな」
「そんな気分にはなれないって言ってるの」
言いながら、フリーダムへと切り掛かって行くディザスター。
それをシロガネが防ごうとするが、ドラグーンの援護がシロガネを阻む。
既にシロガネは先のプロヴィデンスとの戦い。更にはローエングリンの直撃を防いだ事で内部フレームに大きな負担をかけている。
ドラグーンの光条一つ一つがシロガネに嫌な衝撃を与えた。
「タケル、無理しちゃダメだ!」
「無理なんかしていない!」
ここに来て初めて、タケルとキラの足並みがズレていた。
アークエンジェルで共に戦って来てからずっと。2人は力を合わせることを当たり前としていた。
だが、ここに至って──タケルはユリスとの戦いのせいで、以前のように自身が危険を受け持とうとし、キラはサヤから聞いた話もあってタケルのその姿勢に強い危機感を覚えた。
どちらもが、互いに危険を任せられないと。信ずるべきはずの友を信じられないでいた。
「ふっ、これではどちらが悪役かわからんな」
「正義とか悪とか瑣末なこと言わないで。所詮は己の中にしかない勝手な基準よ」
そんな2人を嘲笑うように。プロヴィデンスとディザスターは長きを共にして来た同志として、巧みな連携でフリーダムとシロガネを追い詰めて行く。
ドラグーンによる圧倒的制圧力。
その援護を欠片も疑わず接近戦に飛び込んでくるディザスター。
「くっ、キラ!」
「わかってる!」
足並みが揃わない、と言ってもそこはタケルとキラの2人。
敵機への動きにはその能力を以て確実に応じて行く。
ドラグーンをハイマットフルバーストで追い払い、フリーダムがシロガネに応じる余裕を与えると、ディザスターをシロガネガ迎え打つ。
光の刃をぶつけ合えば、シロガネは5基のジンライを展開。プロヴィデンスへと飛翔させた。
「くっ!?」
だがその瞬間、ディザスターがシロガネを掻い潜りフリーダムへと向かう。
そうしてフリーダムへと気を回せば、シロガネにはドラグーンからの光条が降り注いだ。
互いが互いを助け合う────それは本来であれば正しく強い形なのだろう。
しかし、今ここで。この4人の戦いにおいては違う。
ラウとユリスは互いを意識はしていない。互いに見定めるのは敵であるキラとタケルのみ。
敵へと意識が集約する2人に対して、友を気にかけるキラとタケルの戦いは余りにも拙かった。
「くっ、タケル、このままじゃ!」
「わかってるよ!」
振り払う──2人共に、友への心配を。
見据えるべきは敵機と理解している。
だが、それを抜きにしても。
この中で唯一、機体にもパイロットにも“損傷”を溜め込んでいるシロガネの動きが鈍かった。
それを察知しているかのように、一段とシロガネへの攻撃が苛烈さを増す。
ドラグーンの光の雨。ディザスターの激しい接近戦。
フリーダムが必死にそれらを牽制するが、徐々に2人の距離は離され、そしてシロガネが追い込まれて行く。
「ふっ、終わらせよう」
「──呆気ない。残念だわ兄さん」
ドラグーンの光を受けて、シロガネの機体が流れる。
そこへディザスターが肉薄。完璧なタイミングで接近を果たしたディザスターがビームサーベルを振り下ろした。
「やらせません!!」
寸前──サヤが駆るアストレイが割って入り、ディザスターのサーベルを対艦刀で受け止めた。
「お兄様! ご無事ですか!」
「サ、ヤ……何してるんだ、早く離れ──」
「このタイミングでふざけた横槍を!」
光の刃が閃く。
オオトリの対艦刀を握る腕部を切り飛ばし、メインカメラを殴りつけ、腰部から両断される。
僅かな時の間に、解体されるアストレイに、タケルとキラは目を見開いた。
「サヤ!!」
「ダメだ!!」
フリーダムがバラエーナでディザスターを牽制。シロガネとアストレイから引き離す。
胴体とひしゃげたメインカメラだけとなったアストレイには紫電が迸っていた。
『お兄……様……』
届いた声は、微かであった。
「サヤ! 早く脱出を!」
『ここで、脱出してしまえば……私を守ろうと……して戦いの、邪魔になってしまいます』
「そんな、そんな事!!」
『──キラ・ヤマト』
嘆くタケルをよそに、サヤはキラへと通信を回す。
「サヤ、早く──」
『お兄様を……お願いします……どうか……』
「脱出してよ、サヤ!!」
割り込むタケルの悲痛な声が、キラの胸を締め付けた。
守ると決めた──この脆い友人のために、最高のコーディネーターである自分が、彼女を守ると決めた。
だと言うのに、今目の前でその命が散ろうとしていた。
『嬉しかったです……キラ・ヤマト……お兄様を想ってくれた貴方の言葉』
「サヤ!!」
『あぁ……お兄様……また泣いて……申し訳ありません……サヤのせいで……』
違う、違うと。タケルは被りを振った。
悪いのは自分だけだ。いつまでも弱いままでいるのは自分だけだった。
目の前の少女に、悪い事など一つもない。
『心の底から、愛しておりました……お兄様』
瞬間、光が散った。
ドラグーンから放たれる閃光がバックパックに直撃。
タケルとキラの目の前で、アストレイは────サヤ・アマノは宇宙に散った。
爆発に流されるシロガネとフリーダム。
そんな2機を流し見て、プロヴィデンスとのディザスターは興味を無くしたように、その場を離れ二手に分かれていった。
プロヴィデンスはジェネシスを防衛するためエターナルへ。
そしてディザスターは、タケルへの更なる絶望を与えるため、為損じたドミニオンへと。
タケルとキラ。
目の前で守るべき者を失った2人の少年は、苦痛に喘いでいた。
弱かった自分。守れなかった自分。足りなかった自分。
討たれるのは己だった。守るのは己だったはず。
ドクンドクンと激しくなる動悸がやかましかった。
キラ・ヤマトはSEEDへと至る。
それは嘗て、アスランと戦い、トールを討たれたと時と同じように。
喪失の悲しみがキラをそこへと至らせる。
蒼天の翼を広げて、フリーダムは今再び、この悲しみを生み出した元凶へと飛翔した。
────堕ちていく。
それは宇宙を落ちるシロガネのことであり、パイロットであるタケル・アマノの心でもあった。
タケル・アマノは情の深い……否、深すぎる人間である。
一般的に総称するなら優しいと言う言葉が相応しい人間だ。
だが、それ故に。
情が深すぎる程……優しすぎる程。
失った時の反動は大きいものだ。
父祖の地を奪われ、父を失った時は、まだ対象が大西洋連邦であった。
ましてやウズミ達は最終的に自ら命を絶った。憎しみは抱いても、向ける先は無い。
しかし今は違う。
奪われた最愛の妹。
情けなく弱い自分を、その生涯をかけて愛してくれた少女。
それを、奪った者がいた。
嘗て一度だけ、タケルはその片鱗を見せた。
ヘリオポリスを出てすぐ、ザフトの襲撃を迎え撃った時。
カガリが乗るアークエンジェルを脅かそうとする敵。その一切を排除せんと。
向かってくるアスラン達に黒い感情を向けていた。
その結果はストライクの鹵獲寸前という最悪に至り、タケルは胸の内で深くそれを戒めた。
憎悪が鎌首をもたげる。
もはや大切な人を脅かすなどと生易しい者では無い。
奪われた。喪ったのだ。
SEEDに至り、そして堕ちていく。
深く、深く、底の方へと。
ユリス・ラングベルトを────そして何より、弱かった己へと。
黒い憎悪が満たされた。
白銀が機体を翻す。
ドミニオンへと向かった己の分身へ、引き寄せられるように。
タケルはシロガネを走らせた。
「ジェネシス、射程距離に入ります!」
オペレーターからの報告に、バルトフェルドは目の色を変えた。
ようやく辿り着いた射程圏内。だがその先で待つのは、巨大な建造物とそれを守る強固な装甲。
しかし、躊躇ってる余裕などない。
「フェイズシフトとて無限じゃないんだ!」
「エターナル、主砲照準」
「ローエングリン照準!
「「てぇー!」」
戦艦より放たれる主砲。
本来であれば容易に敵を撃ち砕くだけの威力を保有するその閃光が、しかしジェネシスの前では虚しく弾かれていく。
核動力から齎される潤沢すぎるエネルギー配分。
それによって質量兵器どころか、エネルギー兵器の威力すらも相転移によって無力化するフェイズシフト装甲に、バルトフェルドは唇を噛んだ。
「ちぃ! 厄介なもんを!」
「ジェネシス外装、相転移変動率94%で機能」
ヤキン・ドゥーエ管制室では、そんなジェネシスの装甲状況の変動にパトリックが視線を険しくさせる。
「あんな小娘やナチュラル共の艦、サッサと叩き落さんか!」
パトリックの言葉に管制室には俄かに不穏な空気が漂う。
先にも通信で聞こえたラクスの声。
それがこの戦いへの確かな疑念となって、管制官であるザフトの者達に根付き始めていた。
「急げ! ジェネシス照準入力、目標────北米大陸東岸地区!」
「議長!!」
それは地球。
連合の本部となっている、ワシントンを狙う指示であった。
ヤキン・ドゥーエを守る守備軍を前に、ジャスティスとアカツキ、ストライクルージュが突撃していく。
「止めろ! もう止めてくれ、こんな戦い!」
「あんなものを、地球に撃ってはいけない! どうか、道を開けてくれ!」
アスランとカガリも全周波で呼びかける。
しかし、返って来る答えは憎しみに塗れたものばかりであった。
核を撃たれた。
ユニウスセブン、ボアズ、プラント。
喪った命の分だけ、憎しみは重くなる──引き返せなくなる。
「くそっ!」
やむなく、ジャスティスとアカツキは前方の守備軍を撃墜し、ヤキン・ドゥーエへと突入した。
「ジェネシス、変動なし!」
「あきらめるな、撃ち続けろ!」
破壊の兆しが見えないジェネシスに怯まず、バルトフェルドもキサカも指示を出し続ける。
「モビルスーツ接近! ブルー52、チャーリー!」
「何!?」
そこへ接近してくるMS反応。
それはジェネシスへの脅威を排そうとする、ラウのプロヴィデンスであった。
「──君の歌は好きだったがね!」
「あれは……」
SEEDに至ったラクスには見えた。
悪意の塊のような気配。一目でわかる────それが、争いを引き起こす存在であると。
「だが世界は歌の様に優しくはない!!」
放たれるドラグーン。
エターナルとクサナギへと、悪意の矛先が向かった。
「回避、取り舵!」
驟雨の光がエターナルとクサナギを襲う。
次々と降り注ぐ光が艦体を破壊していく。
「はぁああああ!!」
瞬間、ラウは接近する気配を感じ取る。
飛来するプラズマ収束砲。
キラが駆るフリーダムが、プロヴィデンスへと突撃していく。
「あなたは、あなた達だけは!!」
「はっ! いくら叫ぼうが今更!」
ドラグーンを呼び戻し、フリーダムへと向ける。
しかし、SEEDを深めたキラの反射能力が、ドラグーンの包囲能力を上回る。
全てを見えるかの様に射線を知覚し、一つまた一つと、光が放たれる寸前を狙ってドラグーンをビームライフルで落としていく。
「これが定めさ! 知りながらも突き進んだ道だろう!」
「なにを!」
抜き放つビームサーベル。
プロヴィデンスも迎え撃ち、2機の間で光が散らされる。
「正義と信じ、わからぬと逃げ! 知らず! 聞かず!」
「くっ!」
機体を翻して追撃。
2本目のサーベルを出力して切りかかった。
「その果ての終局だ! もはや止める術などない!」
それをプロヴィデンスは後退して躱すと、ドラグーンを展開。
「そして滅ぶ、人は! 滅ぶべくしてな!!」
「そんなこと!」
放たれる光の雨を躱し、切り払いながらフリーダムは再び接近戦を挑んだ。
同じ時。
既に戦いを止めていたアークエンジェルとドミニオンの元へと、ディザスターが飛来していた。
「さぁ、もっともっとこの舞台を楽しんでもらうわ、兄さん!」
それを捕捉したアークエンジェルの艦橋に緊張が走った。
「モビルスーツ接近! ドミニオンに向かっています!
「あれは……さっきの! バスター、応戦を!」
「ちっ! こんな時にー!」
対装甲散弾砲を向けるバスター。
ドミニオンへと向かうディザスターへと、撃ち放つ。
更に共に居たイザークのデュエルも動いた。
ディザスターへと接近し、ビームサーベルを展開。
「これ以上、好き勝手にさせるかぁ!」
「あいつ等やれたくらいで……調子に乗らないで!」
対装甲散弾砲を難なく躱して、ディザスターはデュエルを迎え撃つ。
閃く光の刃を防ぎ、切り返し、そしてデュエルの四肢を瞬く間に解体。
「なんだと!?」
「──遅いのよ!」
距離を空け、コクピットへと放たれるビームライフル。
デュエルへと迫る死の光を、しかし飛来してきた白銀の刃が打ち払った。
「あはっ! 来た来た!!」
即座にユリスはその飛来してきたジンライの元へと目を向けた。
「あぁあああ!!」
悲しみと憎悪に塗れた声を挙げ、シロガネが駆け抜ける。
ビャクヤを抜き放ち、ディザスターへと叩きつけ。そうしてタケルは涙を流さず泣き声を上げた。
「何故、何故だ!!」
「ふんっ、今ようやく一人失ったくらいで、何を!!」
流れるはずの涙の分だけ、戦う事に意識が向けられていく。
望むのは憎い敵を殺す──そこに集約されたタケルの身体は、それに全てを捧げる様に悲しみを戦う為の憎悪へと変換していった。
「あの子が、なぜ死ななければならない!」
「それは誰しもに言える事よ! 今まで何を見てきた!」
ビャクヤとビームサーベルで切り結ぶ。
ドミニオンの周辺で幾つもの光の花が咲き乱れた。
「定められた事よ! だから私はこの世界を憎んできた!」
「ふざけるな!!」
距離を取り、即座にビームライフルとビャクヤの光が飛び交う。
互いに僅かに機体を掠らせていくその正確な射撃に、徐々にシロガネの内部フレームとディザスターの装甲が損傷していった。
「人類の終着点よ! 私を憎むのは筋違いだ!!」
「討ったのは君だ!」
「その戦いを生み出したのがこの世界でしょ!」
キョクヤが放たれる。同時、シュバイツァが火を噴き、その兵装を互いに射抜かれて失った。
「そんな、お前の理屈!」
「それがこの世界よ、兄さん!」
「そんな、あなたの理屈!」
「それが人だよ、キラ君!」
「「違う!!」」
シロガネがジンライを展開。ディザスターの左腕部のサーベル発振器を破壊する。
フリーダムがフルバーストで、ドラグーンの1基を破壊した。
「世界は、そんな事ばかりじゃない!」
「人は、人はそんなものじゃない!」
ディザスターがシロガネへ吶喊。不意を突かれたシロガネは前面に構えられたシールドを叩きつけられた。
「他に何があるって言うの!」
「はっ! 何が違う、何故違う!」
「私とラウ、兄さんを生み出したような世界で……一体貴方は何を信じられるって言うのよ!」
「この憎しみの目と心と、引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で! 何を信じる、何故信じる!!」
プロヴィデンスがビームライフルを幾度となく放ち、フリーダムの右脚部を射抜いた。
「お前の物差しで、世界をはかるな!」
「それしか知らないあなたが!」
ビャクヤから放たれる光がディザスターを後退させる。
フリーダムがシールドを捨て、ビームサーベルで切りかかった。
「その通りよ! 人が世界をはかる基準なんて自分にしかありはしない!」
「知らぬさ! 所詮人は己の知る事しか知らぬ!」
フリーダムのビームサーベルを防盾で受け止め返しながら、ドラグーンがフリーダムを追撃していく。
「いつまで目を逸らし続けるの! これだけの犠牲を出しながら戦いを止められない人間に、儚い願いをいつまで抱き続けるつもり!」
「まだ苦しみたいか! いつかは! やがていつかはと! そんな甘い毒に踊らされ一体どれほどの時を戦い続けてきた!?」
「何をしている! 急げ! これで全てが終わるのだぞ!」
管制室にパトリックの怒号が響く。
未だ照準を確定させないオペレーターを睥睨する。
「議長! この戦闘、既に我等の勝利です。撃てば、地球上の生物の半数が死滅します。もうこれ以上の犠牲は……」
管制室に乾いた音が響く。
パトリックに進言したザフト特務隊隊長、レイ・ユウキに向けられた銃口。
彼の身体は力なく無重力を漂い始め、パトリックに撃たれたのだとわかる。
「──奴等が敵はまだそこにいるのに、何故それを討つなと言う? 討たねばならんのだ! 討たれる前に! 敵は滅ぼさねばならん。何故それが解らん!!」
もはや妄執に取りつかれた様であった。
どこか虚ろな様子すら見せるパトリックは、オペレーターが操作する端末へフラフラと近づいていく。
そして、ジェネシス第3射の目標地点を確定させた。
「議長! 射線上にはまだ、我が軍の部隊が──」
「勝つために戦っているのだ皆! 覚悟はあろう!!」
この戦争の犠牲は全てその為。
妻レノア・ザラを無情にも奪ったナチュラルを滅ぼし、コーディネーターだけの世界を創り上げる為の。
その為ならば、どんな犠牲も厭わない覚悟であった。
「うっ、うぅ……」
管制室に、再び乾いた音が鳴り響いた。
ヤキン・ドゥーエへと突入したアスランとカガリ。そしてアイシャは管制室へのドアを開いて中の様子を伺い目を見開いた。
漂う2人の人間。
その片割れに、アスランは呆然とする。
「ちち、うえ……」
カガリと共に、その身体を捉え、床の方へと降ろしていく……
血を流し続ける複数個所の銃創。
それを見て、管制室のオペレーターは1人、また1人と逃げ出していく。
舵を取るものが居なくなった今、誰も自ら進んでジェネシスを撃つことを望む者はいなかった。
パトリックを見たからこそ、皆それが起こしてはならない事だと悟ってしまった。
いくら声高に叫んでいたとしても、ナチュラルを本当に滅ぼそうとするものはいなかったのである。
「父上!」
アスランは必死に父を呼んだ。
父を止めるつもりで来た──だが、こんな結末を望んだわけではなかった。
本当に止めたかったのだ。母を失いおかしくなってしまった父を止め、もう一度、親子として母の墓の参りに行けることを願っていた。
アスランの声に、かすかにパトリックの瞳が開かれていく。
「あ、すらん……撃て、ジェネシ……我等の……世界を奪っ……報い……」
塊の血を吐いて、パトリックはこと切れた。
アスランは僅かに身を震わせ一筋の涙を流した。
カガリはそんなアスランの傍に寄り添い、必死に悲しみを和らげるようその身を抱く。
アイシャは、そんな2人を静かに見つめていた。
『総員、速やかに施設内より退去してください』
聞こえてくるシステム音声に3人は目を見開く。
即座に端末で確認していくアスランは、驚きに表情を歪めていく。
「アスラン?」
「どうしたの?」
「──ヤキンの自爆シークエンスに、ジェネシスの発射が連動している」
茫然としながら、必死にアスランはキーを叩き続けるが、どの制御も受け付けない。
幾度か試したところで、アスランは端末へ拳を叩きつけた。
「ええい! こんなことをしても、戻るものなど何もないと言うのに!」
逡巡──アスランは対応を考えると、カガリとアイシャを引き連れて急いで管制室を後にした。
プロヴィデンスのドラグーンによって、航行不能状態へと陥ったエターナルとクサナギ。
そこへ、アークエンジェルとドミニオンも合流した。
「アークエンジェル!」
「キラ君たちは!?」
「分からん」
「ヤキン・ドゥーエは放棄されたのですか……? ジェネシスは!」
未だ止まらぬジェネシスの発射準備。
ラクスの言葉に一同、何もできない焦燥感だけが募った。
ジェネシスの近傍でフリーダムとプロヴィデンスの死闘は続く。
その最中、ラウは歓喜の声を挙げた。
「ふ……ふっふっふ、はっはっはっは!」
「何が──」
「どの道私の勝ちだ! ヤキンが自爆すれば、ジェネシスは発射される!」
「なっ!?」
次々と放棄されたヤキン・ドゥーエからは脱出艇やノーマルスーツを着た人間がMSに牽引されて出てくる。
が、ジェネシスにとまった気配は無かった。
「もはや止める術はない! 地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる!」
「さぁ、終幕よ兄さん! ジェネシスが地球を焼く前に、私と兄さんの決着を付けましょう!」
ディザスターもまた、ジェネシス発射の予感を感じ取って、シロガネへと熾烈な攻勢に出た。
シールドとビームサーベルを駆使して、既に内部フレームにガタが来ているシロガネへと肉薄する。
「くっ、お前達は!!」
「最後くらい、ちゃんと私を見てよ!!」
叩きつけられる光の刃。
それをビャクヤで受け止め、受け流し、ジンライを射出。
しかし、軌道を読まれたジンライは瞬時に2つ撃ち落された。
ヤキンより脱出したアスランは、アイシャにヤキンから脱出した人命の救助を願いジェネシスへと向かう。
「アスラン、どうするつもりだ!」
「──内部でジャスティスを核爆発させる」
「なっ!?」
キラとラウが撃ち合う、直ぐ傍を通り抜け、ジャスティスとアカツキがジェネシスへと突入していく。
「お前の願いなど、知った事か!!」
シロガネの残りエネルギーは僅か。残り1分足らずで尽きるエネルギーを3基のジンライの使用に懸けて展開。
同時にビャクヤの片方が撃ち抜かれ爆散し、代わりにジンライがディザスターのビームライフルを射抜いた。
「そうよ! もっと撃ち合おう! それこそがこの世界にも──私達にも相応しい!」
損傷する機体を狂喜のままに受け入れ、ユリスもまたシールドとビームサーベルによる接近戦だけに選択肢を絞った。
ハッチをフォルティスビーム砲で破壊して、アスランとカガリはジェネシスへと突入した。
「アスラン! ジャスティスを核爆発なんて、そんなことしたらお前は!」
「それしか方法はない! カガリは戻れ!」
「でも!!」
「ダメだ!!」
ファトゥムを切り離し、追従してくるアカツキを押し留める。
「アスラン!!」
離れていく深紅の機体に、カガリは必死に手を伸ばして叫んだ。
嫌だ。ダメだ。
カガリには分かった。アスランが父の所業を背負って死を選ぼうとしている事を。
だから、手を伸ばす────全てを守ろうとした兄に倣って。
アカツキのビームサーベルを展開。
ファトゥムを切り砕き、ジャスティスを追った。
辿り着く、ジェネシスの深部。
そこで自爆システムを起動しているアスランへと再び叫ぶ。
「アスラーン!!」
置いてきたはずの少女の声にアスランは目を見開いた。
「駄目だ、お前!!」
「カガリ……」
死ぬことを受け入れた父の様に。それを受け入れた自身の様に。
そんなことは繰り返してはいけないのだ。
「逃げるな! 生きる方が、戦いだ!」
「人が数多持つ予言の日だ!」
ドラグーンとビームライフル。放たれた光に、フリーダムの右肩と左ウイングの一部が破壊される。
「そんな事ぉ!!」
撃ち返されるフリーダムのライフルに、プロヴィデンスの左腕が破壊されていく。
「それだけの業! 重ねてきたのは誰だ!!」
左腕を破壊されながらも、ドラグーンが再び飛来、フリーダムのクスィフィアスを射抜いた。
「君とてその一つだろうが!!」
更にプロヴィデンスのビームライフルが、フリーダムの右腕部を射抜く。
「くっ、それでも!!」
決意と共に、キラはフリーダムのビームサーベルを連結。
残された左腕に持たせて、プロヴィデンスへと吶喊していく。
次々とプロヴィデンスに残されたドラグーンが光の雨を降らす、その中を突き抜けていく。
「守りたい世界があるんだ!!」
脚部、胸部、頭部、ウイング。
次々と破壊されていく中でもフリーダムは止まらない。
「あぁあああ!!」
そのままフリーダムはプロヴィデンスへと突撃し、胸部へとビームサーベルを突き立てた。
向かい合うシロガネとディザスター。
迫りくるディザスターへと、ジンライが翻される。
「さぁ、愚かな人類を焼く終末の光と一緒に!!」
1基、2基、驚異的な反射能力で、ユリスは飛来してくるジンライを切り捨てた。
そのまま突撃してくるディザスターを、シロガネはビャクヤを構えて迎え撃つ。
「私と世界の終わりを見よう、兄さん!!」
翻されるビームサーベル。
内部フレームのガタが来ている左腕部で受けて、僅かな隙間の時間を作りディザスターの側面へ。
「がぁ!?」
衝撃が響く。シールドを叩きつけられシロガネの体勢が崩れた。
「それでも!!」
再び翻されるディザスターのビームサーベル。
それがシロガネの肩口に吸い込まれる刹那。
ジンライの最後の1基が、ディザスターの腕部を穿つ。
「この世界を、信じたいんだ!!」
翻されるビャクヤのサーベルと、穿たれたもののそのまま降ろされたディザスターのビームサーベルが交錯した。
次の瞬間。
ヤキン・ドゥーエが音を立てて自爆。
深部で核爆発を起こしたジェネシスも、ミラーブロックまで照射された瞬間に内部から巨大な爆発によって破壊された。
静寂が、世界を包んだ。
戦闘の音は無く。
皆がジェネシスの爆発で眩く染まる世界を見つめた。
静かに、皆が大切な人へと思いを馳せていた。
『宙域のザフト全軍、ならびに地球軍に告げます。
現在プラントは地球軍、およびプラント理事国家との停戦協議に向け、準備を始めています。それに伴い、プラント臨時最高評議会は現宙域に於ける全ての戦闘行為の停止を地球軍に申し入れます』
プラントの穏健派の議員。
アイリーン・カナーバからの停戦通信が、どこか虚しく響き渡った。
そんな中、アカツキに乗り込んでいたカガリとアスランは、コクピットから抜け出て、静かになった宇宙に涙を流していた。
「うぅ……うっ……」
「くっ……うぅ……」
互いに生きている事。戦いが止まっている事。そして、あまりにも多くの人が命を失った事。
沢山の想いに揺り動かされて、2人は涙を湛えた。
「──キラはっ?」
「──兄様もっ!」
2人は必死にセンサー類を手繰った。
フリーダムのコクピットより投げ出されたキラ・ヤマトは、パイロットスーツのまま宇宙を漂っていた。
「僕達は……どうして……こんなところへ、来てしまったんだろう……」
たくさん死んだ。たくさん討った。
守れないものがたくさんあった。
それでも自身は生きている。
それがどこか不思議な気持ちであった。
視界の端に何かが光った。
それは、金色に輝くMSで、大切な友と、大切な双子の片割れが居た。
「アスラン……カガリ……」
遠目からでも見える、嬉しそうな2人の表情。
自分が生きている事に、喜んでくれる人が居る。
それだけで、戦った意味が──守れた意味があると思えた。
殆ど面影の無いシロガネのコクピット内で、タケルは戦いに疲れ眠っていた。
胸部に斜めに走ったディザスターのビームサーベルによって、コクピットハッチが切り裂かれており、タケルの身体を、差し込む宇宙の光が照らしていた。
『────ぃ』
『────二尉!』
『アマノ二尉!』
聞こえた声に、重たい意識を取り戻す。
「うっ、あっ……アサギ……マユラ……ジュリ?」
『そうです!』
『ご無事ですか!』
『今行きますから!』
朧げな視界の中見えてくる──3機のM2アストレイ。
そのどれもが、あちこち損傷しボロボロの状態であった。
必死にザフトを相手に戦っていたのだろう。
彼女達の戦いが目に浮かぶようであった。
「はは……皆、酷い状態じゃないか……全く」
アマノ二尉に言われたくないですよ!
コクピットしか残ってないくせに!
心配ばっかりかけて!!
口々に返って来る姦しい反論に小さく笑みがこぼれる。
「……ありがとね、三人共」
「生きててくれて────」
「生き残ってくれて、ありがとう」
オリキャラ。読者のお気に入りは誰か教えてください!
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どこかへなちょこタケル
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お兄様大好きサヤ
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滅ぼす系妹ユリス
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連合のイケおじミュラー准将
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