機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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なんなら、本作のエピローグパート2と言っても良いかも
どうぞお楽しみください。


託された国

 

 

 

 コズミック・イラ72年4月。

 

 晴れやかな日和の中、屋外に設置された少し豪勢なテントの中で、少女は呻いていた。

 

 

「んぁ~! 何でこんなに居るんだよ!」

 

 少女の名はカガリ・ユラ・アスハ。

 先の大戦の折、自らMSを駆り自国を守るため最前線に立った、オーブにおける英雄である。

 そして今彼女が目にしているのは、オーブ本島であるここオロファトにある式典会場へと向かってくる大観衆であった。

 

「当然でしょ? あの日の戦いでカガリの名前は一躍広まったわけだし。あの声を聞かされた国防軍は完全にカガリに心酔しちゃってるんだから」

 

 やれやれ、何を当たり前の事を……と、呆れた様子なのはタケル・アマノ。

 こちらもまた、カガリ程とはいかないが、オーブ国内においては高いネームバリューを持つ国防軍のエースだ。

 

「じゃあ何で一般人までこんなに来てるんだ!」

「それは多分、あの日の話に尾ひれがついて広まってるからじゃない? 僕もラクスと街に出かけた時に、カガリのポスターを沢山見かけたよ」

「な、なんだとぉ!?」

 

 キラの言葉にカガリは絶句した。

 自身のポスター? そんな話は聞いていない。と言うか肖像権はどうしたのか。本人に了承を得られていないのはおかしいのではないか。

 訝しむカガリだが、答えは直ぐ近くにあった。

 

「あぁ、写真提供したの僕だからね」

「兄様ー!!」

 

 怒りを全身に搭載して詰め寄ろうとするカガリを、どうどうとアスランが必死に抑えた。

 

「さすがに、本人の了承なしにそれはどうかと思うぞタケル」

 

 カガリを背に抑えながら、アスランは悪びれる様子の無いタケルに、顔を顰めながら苦言を呈した。

 

「だって嫌がるに決まってるし」

「あたり前だ!!」

「ほらね。

 でもこれだけ皆に望まれているカガリが代表首長になるのは自明の理。先にその受け入れ態勢を作っておくのは兄である僕の仕事だよ」

「国防軍の兄様がなんの仕事をしている!」

「だから、“兄”としての仕事だって」

 

 またも当たり前だろう、と言う顔で返すタケルに、カガリは大きくため息を吐いて黙り込んだ。

 きっと何を言っても変わらないのだろう。全く悪びれていないのは、兄が真に必要な事だと考えて取り組んだ事だと言うのは分かった。

 

 

 

 そう、本日は彼等にとって非常に大切な日。

 

 主権を取り戻したオーブの代表首長に、ウズミの子カガリ・ユラ・アスハが就任し、オーブ首長国連邦が真の意味で復興する日であった。

 

 

 先の大戦において。大西洋連邦によって侵攻され、政権を担う人材の殆どを喪ったオーブには連合から暫定政権が置かれ、事実上中立国のオーブは失われた。

 

 唯一、閣僚として生き残ったカガリの叔父ホムラと共に、戦後の処理と復興を進めてきたが、3月に地球連合とプラントの間で締結されたユニウス条約に基づき、中立国としてのオーブの主権も回復。

 オノゴロにも少しずつ嘗ての面影が戻ってきていたのを機に、暫定的に政務を取り仕切っていたホムラが退き、新首長としてカガリが就任することが決まったのだ。

 

 そうして本日は、首都オロファトの式典会場で、オノゴロの復興を祝う記念式典が行われ、新首長であるカガリの就任挨拶をするのだ。

 

 タケルも軍服で正装して参列するし、カガリも勿論閣僚が着るスーツ姿であった。

 

 そして屋外に設営されたカガリの控室であるテントには気心知れた友人達が招かれていた。

 

 

「というか、カガリは何が不満なのよ。それだけ人気ってことじゃないの?」

 

 赤い艶やかな髪を揺らして、綺麗なドレスを身に纏う少女、フレイ・アルスターは呆れたように肩をすくめた。

 

「大体、あの日大西洋連邦にあれだけ威勢よく啖呵切ったカガリが、ちょっと多い程度の一般人に何を恐れる事があるのよ?」

 

 こちらもまたドレスを着こなして参列に来た友人。ミリアリア・ハウである。

 やはり、やれやれといった感じが否めなかった。

 

「フレイ。ミリアリアも……そういう問題じゃないだろぉ」

 

 ぐぬぬと言った様子で頭を抱えるカガリに、一同苦笑した。

 

 式典会場に押し寄せる観衆の数はつまり、それだけの数の人々がカガリの就任を祝い、挨拶を聞き及びに来ていると言う事だ。

 フレイが言うように人気があるとも、タケルが先に述べたように望まれているとも言える。

 

 だがしかし、若干17歳にして国家を背負う事。それを望まれることなど完全に想定外なカガリからすれば、既に様々な重圧に押しつぶされそうな事実に頭を抱えている、というわけだ。

 

「うーん、流石は我が妹って感じだね」

「タケル……それは人気がある事に関して? それとも今あぁして頭を抱えてることに対して?」

「それは勿論、愛しの妹が国民にとても愛されてる事に決まってるでしょ」

「あぁうん、まぁ、聞くまでもないよね……」

 

 実に晴れ晴れとした表情で返してくるタケルに、キラは苦笑した。

 

「さて、それじゃ兄として助け舟を出してあげるとしようかな」

 

 未だ悶々としているカガリを流し見ながら、いよいよ式典の開会も間近となった所で、タケルは小さく嘆息すると、おもむろにカガリへと歩みを進めた。

 

「あー、よりによってこんな時に原稿も何も無しってなんでだよ! 急いで考えないと──痛っ!? 

 

 びしっと音がしそうな手刀がカガリに落とされ、思わぬ痛みにカガリは頭を押さえてタケルへと振り返る。

 

「な、何をするんだ、兄様!」

「ん? 余計な雑念を追い払ってあげようと思って」

「雑念だと! この状況で何をバカな事を言っているんだ一体!」

 

 騒がしく怒り訴えてくるカガリに、タケルは再び手刀を落として黙らせた。

 

「おバカなのはカガリの方。これから国民の皆を前にして挨拶するのに、取り繕ってどうするのさ。カガリの良いところはそんなところじゃないでしょ? 

 始めてアカツキに乗ったあの日と一緒──カガリは皆を前にして感じる事、思う事を言葉にすればいい。それはきっと皆の前に出ないと、カガリの胸には浮かんでこないよ。

 だから、今ここで挨拶を考えても意味は無いでしょ。今はどんと、構えてたら良いんじゃない?」

 

 まっすぐに見つめられて、なんてことないと言う風に伝えてくるタケルに納得を覚えつつも、カガリはぶすっと頬を膨らませた。

 

「兄様はそうやって……いっつも無茶苦茶ばっかり言ってくる。それができたら苦労はしない!」

「はは、それができたから言ってるんだよ。ほら、お茶でも飲んでリラックスして」

「むぅ……」

 

 そっぽを向きつつもタケルの言葉に覚悟を決めたのか、差し出されたペットボトルを空けて豪快に喉へと流し込んでいく。

 丁度そこで、式典の始まりを告げる合図があり、皆参列するためにテントを出て行った。

 

 

 そうして、記念式典は始まった。

 

 

 

 オーブの全土に中継される中、ホムラの挨拶や復興したオノゴロの光景をスクリーンや特設モニタに写されたり。

 観衆は、オーブの復興を目にし、喜びを露わにしていた。

 

 

 そして、新代表首長の挨拶となる。

 

 呼ばれ、前へと出て、設置された演説台にカガリは登壇していくと、少しだけ高い位置でカガリは前方を見据えた。

 

 眼前には、身なりも立派そうな招待客の多くが居並ぶ。

 ちなみにここには、オーブ復興に尽力してくれたプラントのアイリーン・カナーバや、フレイの伝手で地球連合からボルト・ミュラーも参列していた。

 

 更にカガリは、遠くにまで広がる、オーブの国民達を見つめる。

 タケルに言われた様に、この瞬間まで何も考えていなかったカガリは、期待や不安、喜びに怒りと、様々な感情が国民の顔には見られた気がした。

 

 不思議と、心は落ち着いていった。

 

 登壇してから十数秒。向けられる様々な思いをその身に受けながら、カガリは一度深呼吸をして、そうして静かに口を開いた。

 

 

 

「────今日というこの日を。こうして迎えられたことを。私は、本当に嬉しく思う」

 

 

 マイクで拡声されたカガリの声が、会場に響き、電波に乗ってオーブの国中に届いていく。

 静かで、だが万感の思いが込められた……どこか強さを感じる声音であった。

 

 

「オノゴロも国も、まだ完全な復興には至っていないが。それでもこうして……1つの区切りとして。元の形を取り戻しつつあるオーブの新たな代表となり、皆の前に立たせてもらえた事。私は深く、皆に感謝する────本当にありがとう」

 

 

 視線をそらさず────来場した者達だけでなく、各所で見ているだろう国民一人一人に向けた言葉であった。

 まっすぐに見つめるカガリの瞳は、見渡す全てを見つめているようであった。

 

「──父であり、前代表のウズミは言った。

 我が国オーブは、この世界において中立である。そして、中立を貫くと。

 ナチュラルもコーディネーターも等しく同じ。この国に住む皆が、オーブの国民であると。そう決めて、中立であることを宣言した。

 その結果先の大戦では、陣営を定めんと迫った大西洋連邦の侵攻を受け、皆も知っての通り……国は焼かれ、政権は失われ。事実上、中立国であるオーブは消えた。

 国防の為に出撃し戦火に散った者。避難が間に合わず犠牲となった者────全て、私達オーブ政府が招いた事だ。改めてここに、失われた命へ、哀悼の意を表したい」

 

 

 静かに瞠目し、カガリは握った拳を胸に当てた。

 静寂がオーブを包む中、カガリに倣う様に、カガリの後ろに控えている新たに政治を担う閣僚たちもまた、黙祷を捧げた。

 

 

「国民の皆の中には、憤りを覚えている者も、悲しみを抱えている者もいるだろう。中立を貫いたオーブ政府の……ウズミの選択に、納得できない者も、きっと多いはずだ」

 

 

 一言一言、はっきりとカガリは告げていく。

 オーブが採った決断。その先で生まれた悲しみの一つ一つを見つめる様に。

 

 

「皆の新たな代表として、また亡きウズミの子として。私は皆の想いを受け止めるつもりだ。それが皆の代表となった私が、一番に果たす責務だと思っている。

 だから1つだけ……1つだけで良い。私の願いを、皆に聞き届けてもらえないだろうか」

 

 

 再び、カガリは瞠目。

 胸の内に渦巻いている想いと言葉を、拾い集める様に選びながら、ゆっくりとカガリは声を紡いでいく。

 

 

「今は亡き者達に。死して安らかに眠る父祖の魂達に……悲しみを、怒りを、嘆きを、どうか向けないで欲しい。

 オーブの選択が、犠牲を出してしまった事は理解している。だが父ウズミは……あの日オノゴロで散った者達は。最後の最後まで、国民の皆を想って戦い、死んでいった。

 陣営を定め、オーブに住むナチュラルかコーディネーター。そのどちらかを国が選んで切り捨てる様な事は出来なかった──犠牲を生まぬ様、父ウズミは最後まで、平和的解決を模索していた」

 

 

 タケルもカガリも、早々に戦うしかないと諦めていた。

 必死に準備をして、戦い守る事を胸に決めていた。

 だがウズミを筆頭に、オーブ政府は最後まで会談の要請を続け、話し合いによる解決を捨てなかった。

 それは偏に、国を焼かない、為政者として正しい姿であった。

 

 

「結果として犠牲は出てしまった。その責は甘んじて、皆の代表となった私が……ウズミの子として、今を生きるカガリ・ユラ・アスハと、ここに居る新たなオーブ政府が受け止めよう。

 だからどうか。死して安らかに眠る父達に……オーブに生きる皆を想って戦い、散っていった彼等に。

 卸し切れない皆の想いを、向けないでもらえないだろうか」

 

 

 静かに、壇上でカガリは頭を下げた。

 まっすぐな声と言葉を以て、誠心誠意の願いを込めた。

 滲み出そうな想いの結晶を必死に流さないように堪えて、カガリは言葉を続けていく。

 

 

「その為なら私も──私もまた父と同じく、最後まで国に生きる皆の為に、この身を尽くす所存だ」

 

 

 カガリは一度、空を見上げた。

 必死に言葉を紡ぐあまり、溢れてきそうな涙を引っ込めようとした。

 だが、その場にいる誰もが。彼女を見る誰もが、その姿を目に焼き付けていた。

 視線を戻し、再びカガリは口を開いた。

 

 

「────父ウズミは、厳格な人だった。自他共に厳しく、だが愛情深い。ナチュラルだけど、とても強い人であった」

 

 

 俄かに、傾聴する者達に疑問符が浮かぶ。前触れもなく転換した話に、皆が訝しんだが、カガリは気にせず言葉を続けていった。

 

 

「私にはとても頼りになる兄がいる。コーディネーターで、何でも簡単にこなして、非常に優秀だけど……でも、とても脆くて、倒れそうで、心の弱い兄だ。

 オーブに生きる皆に問いたい────ナチュラルは弱いだろうか? ナチュラルは劣っているだろうか? 

 コーディネーターは強いだろうか? ナチュラルより優れているだろうか?」

 

 

 問いかけの言葉と共に、カガリは頭を振った。

 

 

「そんな事は無いはずだ。そこに違いは無いはずだ。

 何故ならナチュラルもコーディネーターも等しく同じ“人”であるからだ。

 今一度、皆の胸に問いたい────今皆の隣にいる者は、皆の周りにいる者は。皆と同じ“人”ではないだろうか? ナチュラルか、コーディネーターか。それは本当に、人であることより重要な事だろうか? 

 私にとって皆は……この国に生きる大切な国民であり、私が守るべき人達だ」

 

 

 カガリの声が強さを湛えていく。

 声が、表情が、伝える力を持ち、傾聴する者達の心を動かしていく。

 

 

「父の想いを継いで、私は再びここに宣言しよう。オーブは永世中立の国である。

 そしてオーブ首長国連邦の中立とは、陣営を定める事では無い。

 オーブの国民である限り、ナチュラルもコーディネーターも関係なく。等しく同じ国民として、この国で庇護されるべき存在であると言う事だ。

 だから、どうか忘れないで欲しい! 皆はナチュラルやコーディネーターである前に、同じ人であることを……同じオーブの国民であると言う事を! 決して、別の種などではないと言う事を! 

 ────以上で、簡単ではあるが皆への願いと共に、私の就任あいさつとさせてもらいたい」

 

 

 静寂の中、全てを伝え終えたカガリが降壇していく。

 

 瞬間、万雷の拍手がオーブを包んだ。

 

 鳴りやまぬことのない喝采の拍手が、カガリの背中を打った。

 

 

 

 この日、数多の国民の歓声を受けて、オーブに新たな代表首長が誕生した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~つかれた~」

 

 

 その結果がこれである。

 所はタケルとナタルが住む家。時は夜の帳が下りてしばらくの時刻。

 リビングのソファーに身体を投げ出し、傍に座るタケルの足を枕にして、とても先の演説をしたとは思えない程にだらけたカガリの姿があった。

 

 式典を終えて、その後の記念パーティーも終えて、ようやく堅苦しい時間から解放されたカガリを伴って、タケルはナタルが待つ自宅へと帰宅。

 たっぷりと疲れた様子のカガリを労っていると言うわけだ。

 

 

「ふふ、はいはい……お疲れ様」

 

 

 己の太ももに頭を乗せて疲労に呻くカガリを、タケルはまるで猫でも愛でるかのようにその頭をやんわりと撫でてやった。

 撫でられる度に、どこかくすぐったそうに……だが嬉しそうに身じろぎするカガリが本当に猫の様で、タケルは思わず苦笑した。

 

「タケル、お茶を淹れたぞ」

「あっ、うんありがとう、ナタル」

 

 タケルもまた、カガリの兄としてパーティにも参加したし、あちこち挨拶も回った。

 カガリ程ではないが、疲れているタケルを労うようにナタルが気を利かせてくれていた。

 

「っと、すまない義姉さん。こんな時間に2人の家に転がり込んでしまって」

 

 申し訳なさそうに言うが、タケルの手が心地よいのかカガリが身体を起こすことはない。

 ナタルもまた、この家で中継を見ていたが、あの演説をした少女と目の前の少女がやはり同一人物には思えなくて、苦笑を零した。

 

「なに、構わないさ。今日の事が、君達にとってどれ程大切なのかは、私にもよくわかる」

「ありがとう義姉さん……その、今日のこの疲れだけは、兄様と分かち合いたくてな」

 

 亡き父達に託された国。

 それを受け継いで、踏み出した確かな一歩。

 これからは国家元首として、国政の一切を取り仕切る事になる。

 泣き言は許されないし、後戻りもできない。

 今日と言う日を迎えて、ある種、子供の時間を終えたと言うべきだろうか。

 こうして優しい兄に甘えるのも。最後になる気がした。

 

「そういえば、カガリ」

「ん? なんだ、兄様」

 

 猫の様に撫で付けられるカガリに、違和感を覚えなくなっていく中、ナタルは嬉しそうに笑うタケルの表情を見た。

 

「ありがとね」

「なんだよ急に」

「──父さん達の事。全部受け止めるって、言ってくれて」

 

 タケルの言葉に、カガリは数秒呆気に取られて、すぐに寝返りをうつと照れ臭そうにタケルに背を向けた。

 

「当たり前の事だ。皆の想いを受け止めるのが、託された私の仕事なんだから」

「私達──でしょ? カガリ1人に背負わせないよ」

「これ以上兄様に重たいものを背負わせられるか」

「それなら、私にも背負わせてはくれないか?」

 

 飛び込んでくるナタルの声と言葉に、カガリは驚きの表情を浮かべた。

 

「義姉さんは全然関係無いじゃないか」

「そんな事はない。私は大西洋連邦の所属だったしな。それに何より、君にとって私は義理とは言え姉になるのだろう? そんな重責を背負う妹に、手を貸さないわけにはいかないさ」

 

 優しい瞳で見つめてくるナタルに、カガリはむず痒くなって、再び寝返りをして正面にいたナタルから目を逸らした。

 そうすると、今度は似たような顔でカガリを撫で付けるタケルと目が合うわけで、カガリはまたもどこか居づらさを感じて、苦肉の策で目を閉じる。

 

「ちぇっ、そうやって結局子供扱いなんだよなぁ。ラミアス艦長も心配心配って顔ばっかしてさ。シモンズだってそうだ。キサカもトダカも、叔父上まで…………」

「良いんじゃない? 手を差し伸べてくれる人が多いのは、とても良い事だよ」

「ふんっ」

 

 カガリの態度に、タケルとナタルは目を合わせて声には漏らさずに苦笑した。

 カガリ自身、恵まれてることも、助けられるであろう事も理解しているのだろう。

 

 ただ、代表となっても結局これまでと変わらなそうなのが、自身の覚悟と意気込みを挫かれたみたいで面白くないのだ。

 

「ふわぁ……まずい、眠くなってきた」

 

 撫でられるのが思いの外気持ちよかったのか、眠気の誘われるカガリが、大きな欠伸をこぼした。

 

「ん〜、このまま寝ても良いよ? アスランを迎えに呼んでおくから」

「あぁ、ダメだダメだ。こんな姿見せたらまた拗ねる」

「あはは、そんな器量の狭い奴にカガリは任せられないよ?」

「そうなんだよなぁ、さらっと流すくらいの度量が欲しいよな、やっぱり」

「うん、そうだね」

「兄妹揃ってアスラン・ザラには随分手厳しいな」

 

 可哀想に、とちょっとナタルが思ったのは内緒である。

 

「と言うか、今更だが義姉さんは全然気にしないんだな。私がこうして兄様に甘えていても」

「カガリ。それはナタルに失礼ってものだよ。ね、ナタル」

「アークエンジェルにいた時から見てきたし、今更驚くわけでもない。それに、私はタケルの気持ちを欠片も疑っていないからな」

「強いなぁ。惚れ惚れするほどに……」

 

 そしてまたカガリは、ふわぁと大きく欠伸を噛み殺した。

 その姿にタケルはナタルへと目配せする。

 

「タオルケットでも持ってきてやろう。タケルも必要か?」

「うん、お願い。今日はきっと、このままだろうから」

「そうか……それじゃ持って来るよ」

「うん、ありがとね」

 

 寝室へと向かうナタルを見送ると、小さな寝息をタケルは聞き取った。

 

 眠りにつくカガリを見てどこか懐かしく、そして既視感のある光景だとタケルは思った。

 

「あぁ、そっか。アークエンジェルにいた時は、むしろ僕がされてたんだっけ」

 

 何か事を抱える度、背負う度。それを看破されては、カガリに有無を言わさず撫で付けられていた気がする。

 そうして安心を覚えて、寝入っていたのだ。

 長い時を経て、立場が逆転してる事に、タケルはまた嬉しさを覚えてひとしきりカガリを撫で付けた。

 

 

「頑張ろうね、カガリ。父さん達に誇れるように」

「私も一緒に、な」

 

 背後からかけられる声とタオルケット。

 頬に落とされる柔らかな感触に、タケルはつい頬を緩めた。

 

「そうだね、ナタル」

 

 既に家族となり、カガリも家族と認めてくれている彼女と共に。

 父に託された国を盛り立てようと誓う。

 

 

「見ててください、父さん。僕達は一緒に、頑張っていきますから」

 

 

 

 静かな呟いたタケルの声に反応して、カガリはまた小さく呻くのであった。

 




色々と原作より変わった結果の就任演説って感じ。

感想よろしくお願いします。

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