機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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前後編でまさかの二部編成。



幕間 タケル・アマノの忙しない1日 前編

 

 

 ナタル・バジル―ル。

 

 先の大戦を経てから久しく。タケル・アマノと仲睦まじく共に暮らすようになってから1年余り。

 籍こそタケルの諸々の都合で入れていないが、生活は既に夫婦のそれである2人だ。

 

 そんな幸せいっぱいの暮らしをしている彼女の朝は早い。

 

 起床時間は早朝の5:30。

 流石は元軍人と言う所か。彼女らしく規則正しい生活である。

 起き抜けに隣の夫へとキス……何てことはない。

 勿論、彼女が寝るベッドは“2人並んで”寝ても余りあるくらい大きい。が、色々と仕事が忙しく、夜遅くまで……なんてことが当たり前なタケルは、ナタルに迷惑を掛けないようにと、私室にも寝られる環境を用意しているのだ。

 

 残念ながら、昨夜は遅かったらしい……ワーカーホリックも大概にして欲しいものである。

 

 一瞬だけ残念な顔を見せるも、それは正に一瞬。

 すぐさまナタルは動き出し、身支度を整えた。

 そうして階下のリビングへと向かい、TVを点けてニュース番組を映し出す。

 聞こえてくるニュースの音声を流し聞きしながら、朝食の準備に入った。

 

 朝はパン派で更には甘党なタケルの為に、フレンチトーストを準備。

 隣には夕食の残りであるポテトサラダに彩り野菜のコンソメスープ。

 デザートにはヨーグルトだ。

 何とも優しい朝食である。

 

 そうして食事の準備を終える頃になって、ナタルは階段の方へと目を向けるが、しかし待ち人は降りてこなかった。

 

「──やれやれ、昨夜は仕事が止まらなかった様だな」

 

 ふぅ、と一息────コンロの火を止めてから階段を上がり、タケルの仕事部屋へと向かう。

 案の定、部屋主に起きている気配は無く、小さくため息を吐いてからナタルは部屋へと入っていった。

 当然、そこには1人用の小さなベッドでスヤスヤと眠っている彼の姿がある。

 

 むっ、とナタルは顔を顰めた。

 

 枕の横には小さな文庫本。

 栞が挟んであり読んでいる途中だとわかる。

 寝る前に本を読む暇があるなら隣で寝てくれ、とナタルは僅かに思ってしまうも、恐らくこれは仕事の合間の休憩がてらで読んでいたものだろう。

 仕事の終わりが見えず区切りが悪い時なんかに、息抜きで読んでいたはずだ。

 

 ちなみにジャンルは恋愛小説である。

 何故かと問うならタケルもナタルも、これまでの人生をほぼ軍人として生きてきた為か、極一般的な恋愛観というものを知らないからだ

 普通の学生であったキラや、まだ多少なりともそう言った事に興味を抱き、アサギ達と知己の仲であるカガリ等と比べると、タケルもナタルもある意味で経験不足は否めない。

 無論、2人は共に仲睦まじいと確信はしているが、少し前の喧嘩の件を経て、男女の付き合い方を学んでいる最中なのである。

 

「それにしても……タケルはこれを狙って選んでいるのか?」

 

 思わず目に入った文庫本のタイトルを見て、ナタルは微妙な表情を見せた。

 タイトルにはナタルも覚えがあった。と言うか書店で知ってどこかむず痒くて読むのをやめた。

 内容は確か、若い女性教師と男子学生との禁断の愛を描いたものであったはず。

 

 24歳のまだまだ若輩な女教師。そして17歳の男子学生の恋物語。

 

 互いに惹かれ合う姿や、2人の関係性にはどこか既視感を覚えるものがあったのだ。

 

「はぁ……何を考えているんだ私は」

 

 意図しているわけでは無い。偶然だろう。

 奇妙に湧いてきた疑念を飲み下し、ナタルはタケルの身体をゆすった。

 

「タケル、朝食がもうできた。さぁ、起きてくれ」

「────んぅ、ナタル? あ、ごめ……今起きるよ」

 

 多少の寝ぼけ眼を見せつつも、身体を起こすタケル。

 ふわぁ、と大きく欠伸をかく彼を見ると、ナタルはどこか心が和んだ。

 

「着替え、用意しておくよ。着替えたら降りてきてくれ」

「うん……ありがと」

 

 まだ寝覚め切っていないタケルを見やってから────今日はモルゲンレーテに出社する予定なので着替えを用意してやり、ナタルはそのまま部屋を退室してい。

 部屋を出る頃にはベッドから降りた足音が聞こえたので、ナタルもそのままリビングへと降りると、冷蔵庫で冷えてる麦茶を1杯用意しておく。

 目起きの水分補給と眠気覚ましだ。

 

「ん~、おはようナタル。ありがとね」

 

 リビングへと降りて来たタケルが食卓に着くと、冷たい麦茶を一息に流し込んでいた。

 

「昨日は遅かったのか? 少し目元が暗くなっているぞ」

「あ、あはは……ちょっとこの間考え始めた戦艦の件でね。エリカさんと色々話してたら随分遅くなっちゃって。その後もシミュレーターのデータをちょっと眺めてたりしたらあっという間にさ……」

「仕事好きも良いがもう少し節度を持たないと……また強引に休ませる事になるぞ」

「い、いや……大丈夫だからホントに。そんな心配する程僕もエリカさんも無理はしてないよ」

 

 思わず冷や汗を流すタケルに、ナタルは朝食を卓へと並べながらジロリと言った様にタケルを見やる。

 

 タケルのワーカーホリックが酷すぎて、ナタルは一度だけ真剣に叱った事がある。

 まぁ、アークエンジェルでの出来事を考えれば、彼女が真剣に叱った回数は一度と言わず何度もあるが。

 ともかく、余りにも休みを取らないその姿勢に、一緒になってワーカーホリック気味な職場の同僚であるエリカも含めて、盛大に叱ったのは記憶に新しい話だ。

 

 余談ではあるが、この話の発端は教え子である彼女達がきつい訓練に耐えかねた末に行った、報復的な密告に因るものだったりする。

 

 そうしてタケルはナタルに叱られ、エリカはいつも寂しい想いをさせてしまっている息子を召喚され責められた。

 2人共に、罪悪感に苛まれたのは言うまでもあるまい。最愛の存在からの叱責程、心穿つものはないのである。

 タケルとしては、そんな事態になる事だけは何としても避けねばならなかった。

 

「そうだ。ナタルは今日どんな予定?」

「ん? 予定と言われても……タケルは今日モルゲンレーテなのだろう? 国防本部勤務の日は補佐官として私も行くが、今日は夕方に買い物に行くくらいだな」

 

 タケルの問いに、少しだけ困ったようにナタルは返した。

 今の彼女は、特に肩書も無く。あえて言うならタケル・アマノ国防三佐専属の補佐官と言う所。

 正式に国防軍に籍を持っているわけでもない。

 家で家事をこなす傍ら、佐官となったタケルの諸雑務を手伝うくらいであった。

 

「それなら今日はモルゲンレーテに来てもらって良いかな?」

「モルゲンレーテに? それは勿論構わないがまたどうして?」

「昨日エリカさんとも話してたんだけど、新設計の戦艦にはアークエンジェルを参考にしてる部分が多くてさ。マリューさんとナタルにも見てもらって少し意見をもらいたいなって」

「そう言う事か……だが、良いのか? 思いっきり機密に触れるだろうに」

「マリューさんは整備部の一員だし、ナタルは僕の関係者だし、有識者に聞くのは間違いじゃないでしょ? 仮に問題が出るなら結果で黙らせるだけだよ」

 

 ふんっと、どこか挑戦的にタケルは答えた。

 

「そうか……では家事を済ませたら、私も向かうとするよ」

「午後からだから急がなくて大丈夫だよ。それで終わったら、今日は帰りにどっか寄ってご馳走でも食べない? 協力してもらうお礼って事で。どこか行きたいところとかある?」

「そこまで気を遣わなくても別に良いのだが……ならば折角だからマリューとシモンズも連れてまたあの料亭に行きたい所だな」

「料亭? あぁ、あそこね」

 

 2人が言う料亭とは、以前にミゲル達ザラ隊の面々がオーブに旅行に来た時にナタル達と出くわした店である。

 ウズミやユウキ・アマノも良く通っていた有名どころで、料理もサービスも満足できる店だ。

 

「前回は料理を味わうより前に気がかりな事があって楽しめなかったからな……」

「それは、その……ゴメン」

「あぁ、すまない。別に責めているわけじゃ。ただ、ちゃんと堪能したいと思ってな」

「それじゃ予約を取っておくね──あっと、もうこんな時間だ。急がないと」

「こらこら、そんな慌てて食べなくても……大体、タケルに出勤時間などあってない様なものなのだろう?」

 

 タケル・アマノ────オーブ国防軍三佐にして、モルゲンレーテ技術設計局統括。

 佐官であるタケルは本来モルゲンレーテ勤務では無く言わば嘱託というべきか。出来ることが多すぎるためにモルゲンレーテに入り浸りとなっておるが、本来時間指定で出勤の義務は無い。

 が、しかし──そうは言ってもこの男。半分は趣味の様な感覚で開発に携わる人間である。

 設計局の皆と語らう時間は彼にとって楽しい時間なのだ。

 

「そう言うわけにはいかないよ。遅れたらエリカさんに何を言われる事やら。アサギ達だって最近口煩いし」

「立場的には君の方がずっと上なのに、相変わらずなんだな」

「それは言わないでって……それじゃ行ってくるね」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 慌ただしく食事を終えたタケルは、急いで準備をして家を出て行った。

 落ち着きなく、まるで学校へと向かう学生の様で。やはり子供っぽいとは思うものの、本人に言ったら下手すると泣くので胸の内に秘めておくことにした。

 

「ふぅ、何だかとても──」

 

 幸せだな。

 続く言葉をナタルは口にはせずに、しみじみと感じ入った。

 

 一度は死を覚悟した身である。

 ヤキンの戦闘において。ドミニオンが討ったムウの仇を討つべく、怒りを湛えた死をもたらす光が彼女の眼前に広がり、あの日死するはずであった。

 

 否────もっと遡るのであれば、彼とヘリオポリスで出会う事が無ければ、もっと早くにアークエンジェルと共に自分は宇宙の藻屑となっていた事だろう。

 今を生きている事。彼と出会えた事──彼と共に過ごせる事。

 今自身を囲む全てが、幸せの証であった。

 

 そう思うとただただ嬉しくなり、ナタルは微笑んだ。

 

 バジル―ルの家は軍門の名家である。

 残念ながら今の彼女には、実家から様々な声が飛んできていた。

 連合軍人を正式に退役し、そして今は彼と共に静かに暮らしている。

 決まった職務は無く、ただ彼の傍で彼と共に生き、支え続ける人生を望んでいる。

 それは、名家であるバジル―ルの人間としては決して許されないのだろう。一族の恥とも揶揄される。

 

 再三にわたって、見合いの話が飛ばされてきたし、家元へ帰ってくるようにとも幾度となく連絡が来ている。

 だがその全てを、ナタルは毅然と突き返していた。

 

「彼以上を、見繕う事が出来る筈もない。そもそも、彼以上が存在するわけもない」

 

 軍人としても、そして愛する男性としても。

 ナタルにとって、タケル・アマノ以上はあり得ない。

 自国を守る軍人としての評価は言わずもがなであろう。

 そして、見守ってやらなければ簡単に潰れてしまいそうな程脆く。だが、大切なものの為なら正に命懸けが相応しい強さを見せる彼。

 

 ナタルにとって、これ以上は無いのだ。

 いちいち説明する事すら馬鹿らしい。

 彼女は女としても軍人としても最良の相手を見つけたのだ。家元からどうこう言われる筋合いなど無い。

 

 故に全てを満たされた彼女は今幸せなのである。

 

 

「浸っている場合では無いな……準備しなくては」

 

 

 午後からの会議に間に合う様に、家事を済ませておかなくてはならない。

 ナタルは幸せ気分を残したまま、静かに動き出すのであった。

 

 

 

 

 そうして迎える、新造戦艦設計会議。

 

 モルゲンレーテ会議室に集まるは、設計局長であるタケルを筆頭に、エリカ・シモンズ技術主任や担当設計部署員。

 国防軍からキサカやトダカといった顔馴染も参席。

 そして、嘗てアークエンジェルを率いた艦長と副長として、マリュー・ラミアスとナタル・バジル―ルが顔を並べる大所帯となった。

 

 ついでに、ではあるが艦載MS部隊のパイロット視点として、アサギ達も外れの方で参席し傍聴している。

 

「さて、それでは新造戦艦“タケミカヅチ”と“アマテラス”について、設計の協議をしていきたいと思います。まずは、設計担当者から設計思想の説明をお願いします」

 

 タケルの音頭から始まる会議。

 担当者2名が会議室のモニターにデータを表示させた。

 

「はい、ではまずタケミカヅチの設計担当である私から説明いたします。

 本艦タケミカヅチの基本的な設計は我が国のイージス艦を基本としてトリマラン型の空母となっており、艦載戦力の運用を主軸に捉え──」

 

 迅速に始まる説明。

 設計担当者である男ユタカ・シノノメは、微に入り細を穿つ説明でタケミカヅチの詳細を進め、そのまま質疑応答に移る。

 それらが終わると、今度はもう一方の艦船アマテラスに議題が変わっていった。

 

「ではこちらの担当である私から説明していきます。

 まず第一に、設計構想としてはアマノ局長から提案された“不沈艦”がテーマとなります」

「浮沈艦? つまりは防衛能力重視という事だろうか?」

 

 キサカより投げられた質問に、設計担当者の女性カエデ・ヒラユリは静かに首を振った。

 

「いえ、防衛能力ではなく防御能力を重視とした艦船ですね。

 ご存知の通り、今後のオーブ防衛戦略の要は、徹底した単騎戦力であります。戦力として大部分を担うのは艦載MSであり、艦船はその運用艦という位置付けが適当です。そこで、艦載MSが最も気にしなければならない事を考えました」

 

 数秒、会議室内を沈黙が過る。

 設計者が述べた艦載MSが最も気にしなければならない事……そこに誰もが考えを巡らせる。

 

「最も気にしなければならない事────母艦の安全という事ね」

「なるほど、それ故に防衛能力ではなく、防御能力という事ですか」

「その通りです。クサナギやアークエンジェルの設計を基本としながら、艦載砲の大部分を排除。代わりに光防御帯発生装置を搭載した難攻不落の不沈艦として設計しています」

 

 マリュー、次いでナタルが漏らした解答に、担当者のカエデは大きく頷いて答えた。

 攻撃能力を極力排し、その分を防御能力に振り切る。

 敵を迎撃する防衛能力ではなく、艦を守る防御能力こそがアマテラスの主軸というわけだ。

 

「面白い発想です……確かに、背後の母艦を気にする必要がなくなるのであれば、前線に出るMS部隊の負担は大きく減るでしょう」

「経験者は語るという訳ね────そうでしょう、タケル君?」

 

 マリューからどこか冷めた目が向けられて、タケルはビクリと身体を震わせた。

 タケルが投げたテーマがスタート地点であるアマテラスの設計思想は、つまりはタケル自身が嘗てアークエンジェルを守る為に戦っていた経験が根本にあるのだと、マリューとナタルは察しがついた。

 

 要するに、大変だったのだ。

 バスターの脅威を潰すために全力で吶喊し続け、アークエンジェルに寄らせまいと、数の不利を押し返して牽制をし続ける。

 薄氷の上を渡るような心地で常にタケルとキラ、ムウは戦っていた。

 今後の国防軍において、あのような状況を作らせたくはないと考えての設計が、このアマテラスの根っこである。

 

 とは言っても、そんな考えが見え隠れするアマテラスの設計思想を聞けば、当時の艦長と副長を担っていたマリューとナタルからすれば、少し面白くないのも道理。

 いわばこれはアークエンジェルを守る為に苦労をさせられた。マリューとナタルのせいで苦労したと言っているようにも聞こえるわけだ。

 

「ひどいわタケル君。私達だって必死に戦っていたというのに、そんな言い方」

「い、いやぁ……別に僕はそんなつもりじゃ」

「あら、はっきり言って良いのよアマノ三佐。あの頃は大変だったのだと、貴方も散々アサギ達に言っていたでしょ?」

「え、エリカさん!? そう言うつもりじゃないですって!」

 

 エリカからの思わぬ口撃に、タケルは一気に慌てふためいた。

 違う。そんな恨み辛みを抱いて提言しているわけでは無い────そのはずなのに、会議室内の空気は既にタケルを悪者へと仕立て上げようとしていた。

 

「あぁもう! ゴメン、ちょっと説明変わってもらって良い?」

「えっ、あ、はい」

 

 思わず、タケルはカエデから場所を奪い、己の考えをきっちりと説明する機会を設ける事にした。

 

「非常に不穏な気配を感じたので、アマテラスについては僕からきっちり説明させてもらいます。

 今回の不沈艦をコンセプトにしたのは先程上がったように前線に出るMS部隊の負担を減らす目的がまず第一に在ります。

 MSの優位性……それは紛れもなく、その高い戦闘力です。一度前線に出れば、敵MSにとっても敵戦艦にとっても脅威と成れるだけの力がある。それを母艦の護衛に回すのは、MSの優位性を大きく損なう運用です」

 

 そう。

 先の大戦を経て、戦争における戦力の主軸は艦船やMAからMSへと完全に移行した。

 嘗てヘリオポリスでXシリーズを開発していた頃は、ザフトのMSに対抗する為に高い戦闘力を持たせた戦艦アークエンジェルが建造されたが、現行における戦場での主役は既にMS一強と言える。

 戦艦による目覚ましい戦果は期待するべきではない。

 となれば、求められるのはMSの運用能力が高い戦艦である。

 

「そしてもう一つ、アマテラスに防御能力を求める事には大きな目的があります」

 

 一呼吸おいてから、タケルは真剣な表情を以て口を開いた。

 

「それは、艦載MSの盾となる事です」

 

 告げられた言葉に、一同は小さく目を見開いた。

 母艦を守る為に、MSが盾になる……と言う話はよく聞く。が、それとは逆に、母艦が盾となる。

 確かに、装甲面で厚い戦艦であれば、弱い攻撃の的となりMSの盾となる事はできるだろう。

 だが、今前提条件として上がっているのは戦場におけるMSの脅威を鑑みた艦船の話。そんな意味のない想定であるわけがない事は、ここに集う彼等は百も承知だ。

 

 続きを促す様な視線が、タケルに向けられた。

 

「光波防御帯による絶対的な防御能力。展開すれば、並大抵の攻撃は通らない。それは即ち、MS部隊の緊急時の避難先になります。

 被弾して性能の落ちた機体が、帰投途中にやられるなんてことは良くあります。ましてや敵を引き連れて母艦への帰投なんてこともできない。

 アマテラスはそんな状況で落とされるパイロットを守る戦艦なんです。

 MSの替えは利きますが、パイロットの替えは居ません。

 単騎戦力構想に伴い、これからのオーブ国防軍は戦場で落とされる兵士を限りなくゼロにするための設計が必要なんです」

 

 そう、どこまでいってもオーブは小国。中立の小さな島国だ。

 経済的な部分はともかく人工や資源──国力の点ではどう足掻いても他国に劣る。

 一度は侵攻を受けた大西洋連邦。技術力ではオーブと並ぶであろうプラント。

 それらと比べて、確保できる人数や兵器の規模は間違いなく下がる。

 

 故に導き出されたのは単騎戦力構想であり、故に戦う兵士の損耗を減らさなければならない。

 同じ数だけ失ったとしても、物も人も相対的にオーブの方が被害が大きくなってしまうから。

 

「MSの性能はこれからどんどん向上していく。それに伴い、戦場において艦船が担う役割は変わってきます」

 

 嘗てのように────アークエンジェルが見せたような、戦艦による大きな戦果はもう望めない。

 どれだけ技術が進もうが、艦船に脅威的な機動性は望めないし、艦載砲の威力も大きな向上は望めない。動きの鈍い艦船では射撃精度はどうしても落ちる。艦船の能力と言うのは、もはや頭打ちなのである。

 

 対するMSは未だ発展途上。

 エネルギー効率が上がれば、搭載火器の威力はまだまだ向上するだろう。

 機体の設計を突き詰めれば、シロガネやフリーダムを優に超える機動性を持たせる事だって可能だ。

 

「艦船に求められるのは今後、より高度にMSを運用できる能力なんです」

 

 強く結論づけるタケルの声に、会議室内で否の声はあがらなかった。

 

 

 




序盤イチャりながら、結局真面目な話を加えていくと言うね。
書きたかったのは後編で……また少しお待たせしてしまいます。

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