機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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DESTINY編
プロローグ 新たなる戦い


 

 

 コズミック・イラ71年6月15日

 

 オーブ首長国連邦オノゴロ島

 

 

 

 島の外れにある小さな港口へと向かって、少年はひた走る。

 

 途絶える事の無い轟音が戦火の到来を告げ、空を走る閃光がオノゴロの地を焼いていた。

 

「はぁはぁはぁ……っはぁ!」

 

 息も絶え絶えであるが、それは前を走る両親と手を引かれる妹も一緒である。

 むしろ、身体能力で言えば育ち盛りの少年の方が、もう両親よりも上だろう。

 置いて行かない様に。家族が離れない様にと家族の後ろについたのは、長男としての責任感であったのかもしれない。

 

「はっ、はぁ、はぁ………………どうしてこんな」

 

 何故、平和であったはずの自分の国がこんな事に。何がどうして中立の国が戦争に巻き込まれていると言うのか。

 吐き出したくなる疑念と怒りを抑えて、少年は先を見据える。

 視界には小さく港と停泊している軍の船が見えて来ていた。

 

「父さん、あれ!」

「わかっている、急ぐぞ!」

「マユ、もう少しだけ頑張って!」

 

 足を早めようとする親子をしかし、熱を孕んだ暴風が襲う────次いで響き渡る轟音。

 近くに流れ弾が飛んできたのだろう。猶予はもう欠片もなかった。

 

「あなた──」

「大丈夫だ! 目標は軍の施設のはず……急ぐぞ!」

 

 父の声は、そうであって欲しいと訴える様な声音であった。

 それを察して母も、妹も足を動かし始める。

 

 カラカラと異質な音を、少年の耳が拾った。

 

「ぁ、あぁ! マユの携帯!」

「そんなの良いから!!」

「いやー!」

 

 妹が手を伸ばそうとした先へ斜面を転がっていくピンクの携帯端末。

 足を止めてしまった妹を母が必死に引き寄せようとするも、余程大切なものなのか、妹は携帯を取りに行こうと必死に母の手を振り払おうとしていた。

 

「くっ、マユ! 俺が取ってくるから! 先に船に向かってろ!」

 

 少年はすぐさま飛び出した。

 こんな所で止まってる時間が惜しい。決して猶予のない状況に、携帯なんてとも思うが、それで止まってしまうよりは、急いで確保して避難する方がずっと良い。

 

 身軽さを見せて、滑る様に斜面を降りていった少年は、ピンクの携帯の元まで辿り着き、それを確保。

 これで良いだろう、急いで避難しよう。そう少年が家族へと振り返ろうとした瞬間の事である。

 

 

 少年の直上を、光の束が迸った。

 

 

 それは少年が振り返ろうとした、家族がいる場所へと着弾。

 瞬間的に発生した熱と爆風に、身軽な少年の体は木の葉の様に飛ばされて斜面を転がり落ちていった。

 

 

 

 

 時間にして数秒。意識を失い、少年は目指していた港の近くまで体を飛ばされ、硬い路面に転がって居た。

 

「おい、大丈夫か!!」

 

 近くで起きてきた爆発と、それによって飛ばされた少年を確認して、避難誘導に当たっていた軍人の1人が駆けつけてくる。

 

「うっ、ぅう……」

 

 その声に意識を呼び戻され、少年は被りを振りながら、身体を起こした。

 

「君、大丈夫か! 早くこっちへ!」

「ぅ……父さん……母さん……マユは!?」

 

 明瞭になっていく意識の中、家族の事を思い出して、少年はすぐさま顔を上げた。

 

 顔を上げ──振り返った先。

 

 

 そこに在ったのは、無惨にくり抜かれた何も無い場所であった。

 木々があったはず。山の一部であったはず。だがそこに、あったはずのものがなく。

 そして──

 

 

 居たはずの人が、居なかった。

 

 

「父、さん……母さん………… マユ!!」

 

 

 呼びかける少年の声に答えは返ってこなかった。

 呆然自失となり、家族の安否を確かめようと────少年は、縋る様にその足を踏み出してしまった。

 

 そこに、広がる現実がどんなものかを知る由もなく。

 

 

「ぁ……」

 

 

 声ではない。それはただ小さく漏れ出た何の意味もない音であった。

 

 薙ぎ倒された太い木の裏に赤黒い地面が広がり、その上には少年の家族であったものが転がって居た。

 父が──別の場所には、母と思われる身体が。人としての原型を保たずに、ひしゃげていた。

 

 小さく露出していた岩の影から、小さな手が垣間見えた。

 

「っ、マユ!!」

 

 もはや一縷の望みであった。

 必死に目の前の現実を否定しようと手を伸ばす。

 父も、母も。どう足掻いても覆らない死の惨状を目の当たりにし、どうか妹だけでも────そんな切なる願いであった。

 

 そうして少年は、更なる地獄を突きつけられる。

 

 

 目の前に出てきたのは、少女らしさのわかる小さな手──それだけ。

 千切れ飛んだその手のすぐそばに、妹だったものは転がって居た。

 無惨と言う言葉が足りるのであろうか。それは正に筆舌に尽くし難い姿であった。

 

「ぅ……ぁ……マユ……」

 

 目を見開く。

 目の前の受け入れ難い現実に、少年を途轍もない嘔吐感が襲った。

 

 千切れて目の前にある、妹の小さな手に己の手を伸ばそうとするも。

 もう少年にその現実へ触れる勇気は起きなかった。

 

「おい、君!!」

 

 少年を心配した軍人に肩を掴まれる。その勢いは決して力強いものではなかった、その勢いに引かれるように、少年は背後を振り返った。

 

 そこに存在して居た、機械の巨人達を怒れる瞳が見つめて居た。

 

 

「ぅぅ……う゛わあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」

 

 

 慟哭と共に放たれた少年の叫びは、オーブの空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コズミック・イラ73年。

 

 一年半に渡った地球、プラント間の戦いは、ヤキン・ドゥーエ宙域戦を以てようやくの集結をみた。

 やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めていた。

 

 

 

 オーブ首長国連邦

 

 夜も更けてきた時間帯に。

 行政府にある代表首長執務室にて、2人の人物が相対して居た。

 

「本当にわざわざ行くの?」

 

 山吹色の髪持つ青年──と言うには少々少年の面影が残るタケル・アマノの問いに、太陽を思わせる金色の女性、カガリ・ユラ・アスハは睨むようにして返した。

 

「明日に控えてると言うのに、今更何を言っているんだ兄様」

「だって、わざわざ代表首長であるカガリが行く必要ないでしょ? 外務官に任せれば良い話だし」

「それで何も進んでいないから行くと言っているんだ」

「それでノコノコとカガリがプラントに赴けば、大西洋連邦からはよく見られないんだよ? この微妙な情勢下で、僕達オーブの動きが世界を刺激するわけにもいかないでしょ」

「この微妙な情勢下だからこそだ。

 オーブの技術によってプラントが軍事力を強化している────それを許していては、それこそ大西洋連邦に余計な口実を作る事になる」

 

 一歩も引かない。そう思わせる琥珀の瞳が、タケルを射抜いた。

 

 

 先の大戦によってオーブから避難したオーブ国民。

 その避難先としては、赤道連合やユーラシアの国々といった所があるが、もう一つに。

 オーブに住んでいたコーディネーターには、プラントへの移住という選択肢があった。

 特に高い技術力を保有していた人材にはコーディネーターが多い。

 それにより、プラントへと移住する事になったオーブ国民によって、オーブの技術が流出。

 プラントの軍事力を強化する一助となっている実情がある。

 

 カガリは、オーブの代表となってすぐ、地球と宇宙の両方に大々的に発信をして、流出してしまったオーブ国民の、再度の受け入れを推進してきた。

 それは偏に、就任演説でカガリが語った事──奪われ、失ってしまった国民達の想いを受け止めるためである。

 受け入れ後の支援も、そして遺族達との面会も。カガリは最優先で進めてきた。

 

 

 それでも、戻らない人間はいる。

 既に新たな生活を送っている者。オーブを恨む者。そもそも、カガリの想いと呼び掛けを全く知らない者。

 

 理由は様々ではあろうが、それによってプラントの軍事力が強化される状況だけは、見過ごすわけにはいかなかった。

 

 オーブは外交筋から再三再四に渡って、流出した技術と人的資源の軍事利用の停止を要請。

 及び、オーブからの避難者への面会を希望していた。

 

 だが、プラントからの解答は一向に明確な答えとして返ってくるものではなく、状況が変わらないまま無為に時だけが過ぎていく。

 こうしている間にも、プラントの軍事力は増し、大西洋連邦へ付け入る隙を広げているのだ。

 

 状況の打開のために、カガリは護衛を伴いプラントへと向かう事を決意。

 そうして出発を明日に控えているのである。

 

「まぁ、カガリが言うこともわかるけどさ……」

「まさかと思うが兄様────義姉さんと離れるのが嫌でゴネてるわけじゃないだろうな?」

 

 プラントへ明日出発となれば、カガリの護衛としてタケルとアスランが随伴する予定だ。

 アスランはプラントでは有名人らしいと言う事で、偽名で在るアレックス・ディノと名乗らせる予定となっている。

 

 ナタルが居るオーブを離れたく無くてタケルがゴネているのでは……そんなカガリの言葉に、タケルはわずか不服そうに顔を顰めた。

 

「流石にそんな事は考えてないよ。大体、僕とナタルが離れていたって何も問題ないのは、1年前に証明済みでしょ?」

 

 3隻同盟にいたタケルと、最後まで地球軍にいたナタル。

 敵として向かい合っても尚、互いの想いは変わらなかったからこそ、今が在るのだ。

 不躾な疑いを向けてくるカガリに、タケルは肩をすくめて返した。

 

「────すまないな、兄様」

 

 変わらぬ信頼と、そして変わらぬ2人の仲がわかるタケルの言葉に、カガリは静かに俯いて小さく呟いた。

 

「ん? 何が?」

「本当なら、近いうちに義姉さんと式も挙げる予定だったのに、情勢の悪化に伴って忙しくさせてしまって……」

「何を今更そんな事──僕もナタルも、そんな時ではない事は理解してるよ。僕達の事より、オーブと世界の事の方がずっと大事でしょ?」

「やめろよそんな言い方。国も世界も大事だが、兄様の事だって、私にとっては凄く大切な事だ」

「気持ちは嬉しいけどね…………それを言うことが許される立場じゃないでしょ。僕達2人ともさ」

「わかっているさ」

 

 

 そうして、タケルとカガリは静かに執務室の窓から見えるオロファトの景色を見た。

 賑わう街並み────平和を謳歌するオーブを見つめる。

 

 偉大な父達に託された国であった。

 未だ力及ばず、抱えてる問題は様々在る。先のプラントの話や流出した国民達のこともそうだ。

 必死に色々と手を打っているものの、全てがうまくいっているわけではない。

 

「でも、頑張っていくしかないからね」

「あぁ。お父様に恥じぬようにな」

 

 互いに気を引き締め、だが小さく笑みを浮かべて、タケルとカガリは顔を見合わせた。

 苦難の道で在ることなど覚悟の上である。それでも2人でならやれる。

 

 大切な人達が手を差し伸べてくれるから、頑張れるのだ。

 

「それじゃ、僕はもう休むよ。カガリも、しっかり休んでおいてよ。シャトルの中で間抜けな顔をお晒したら一大事だからね」

「誰がそんな顔を晒すものか──バカ兄様」

 

 

 小さな怒りの声を受けながら退室していくタケルを見送り、静かになった執務室でカガリは椅子へと座り込む。

 代表首長用で多少は立派な作りだが、決して豪勢な椅子ではない。

 それでも柔らかなクッションが体を受け止めてくれて、少しだけ伸びをするには都合が良かった。

 

「ふっ…………っくぅー……だはぁ……疲れてるなぁやっぱり」

 

 カガリは務めて軽い声で言葉にしながら呻いた。

 国防軍であるタケルは預かり知らぬ事ではあるが、カガリが抱えているのは先の話の事だけではなかった。

 

 オーブの行政府は現在、二つの派閥に分かれていた。

 就任演説でカガリが宣言した様にオーブが中立であることを支持する中立派と、先の大戦で失われた閣僚達に代わり新たに五大氏族となった、セイラン家が中心となる大西洋連邦寄りの派閥だ。

 

 中立であることが。父の遺志を継ぎ中立を貫こうとしているがために。

 今のカガリが、政治家として板挟みの状態であった。

 

 連邦派閥の閣僚達とも手を取り合わなければ、オーブは回らない。カガリ1人で全てをどうこうできるわけはないのだ。

 これ以上、大西洋連邦を刺激する様な事はできない────今回のプラント訪問は、確実な結果を出さなければならなかった。

 でなければ、議会が反プラントに傾き始める。

 

「全くもって……私にはまだまだ荷が重い。皆が居なければ、きっと潰れていただろうな」

 

 兄であるタケルが。弟であるキラが。

 何より、カガリの就任を祝ってくれた、国民の皆からの支持の声が、カガリの大きな支えであった。

 

 国民の声がある限り、カガリは身命を賭してオーブに尽くすと皆の前で宣言したのだ。

 そうして先の大戦で被害に遭った者達へ寄り添うカガリの施策は、しっかりと国民達に届いているのである。

 ウズミの娘である事を抜きにしても、国民のカガリを支持する声は篤い。

 

 だから、へこたれている暇などない。

 

 

「さって、私も休むとするか……」

 

 

 またひとしきり伸びをしてから立ち上がると、カガリもまた執務室を出て行った。

 

 

 

 

 

 世界は再び動き出す。

 

 定められた運命に手を引かれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きること。それは定められた道でのみ許されるのか。

 僅かな時の平和を瓦解させ、再び巻き起こされる戦火を目にした時

 全てを失った少年の叫びが、世界を震わす咆哮となる。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 

 『怒れる瞳』

 

 再びの戦火に、飛べ、インパルス! 

 




予め言っておきます。

第一話であの入りからシンをあんな扱いで終わらせたのマジで許してねえからな、○田!

ふと思ったけど、この宣言をしちゃうとアンチ・ヘイトつけるべきなんでしょうか?

まぁここまで本作を読んでくれてる読者様であれば、作者がキャラクターにヘイトを向けてるわけでは無いときっと理解してくれてるかと信じております。


運命編に入る前に、SEED編までの本作を読んで感じ入るものがありましたら
応援の意を含めて評価を頂ければと思います。
どうぞよろしくお願いします。
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