未だ戦闘の気配は衰えず。依然として戦火の轟音と振動に揺れるアーモリワン。
カガリとアスランを伴い、デュランダルはこの事態に対応するミネルバへと到着。
艦橋へと案内されたデュランダルは、入室するや否や声を挙げた。
「状況は、どうなっている!」
「議長!? どうしてこちらへ?」
「この緊急事態に際して、自分だけ避難と言うわけにはいくまい。タリア、状況を報告してくれ」
「し、しかし……そちらの2名は?」
遠慮がちに、タリア・グラディスはデュランダルと共に入室してきたカガリとアスランを見やった。
民間人とは思えないが、かといってプラントの人間とも思えない──つまりはこの状況において部外者ではないか。
そんな疑念がタリアの胸中を埋める。
「こちらは会談中であったオーブの代表、カガリ・ユラ・アスハ氏とその随員だ。盟友たるオーブの代表として、この件において尽力くださるとの事だ。既に代表のもう1人の随員が、例の3機を止めるため工廠にあった機体を借りて応戦中らしいのだが──」
「そ、それってもしかして……シンと一緒に応戦してたあのザクですか!」
副長のアーサー・トラインが、少し驚いた様に声を上げた。
シンとインパルスの戦闘をモニタリングしていたミネルバの艦橋にいた彼らはそれを知っていた。
インパルスと共に戦うザク──それも、最新鋭機であるカオス等を相手に大立ち回りしていた、とんでもない動きをするザクだ。
それが、ザフトの人間ではなく他国の者であると分かれば、驚きは大きいものだろう。
「それで……そのザクは今どうなってるか教えてもらえないか?」
カガリの問いにタリアは逡巡。確かめる様にデュランダルを見やり、それに応じる様に彼が頷くのを確認すると、静かに切り出した。
「先程、戦場より離脱する姿を確認しています。どうやら、武装を全て使い切りメインカメラを破損した様です」
「──そう、か。届かなかったか」
タリアの報告にカガリは呻くように呟きながら視線を落とした。
タケルであれば……あの兄であれば、機体の性能差を覆して止められるやもしれん。カガリは縋る想いでそれを期待していたが、事はそう上手くはいかないらしい。
実際ユリスが乱入するまでは、ガイアとカオスを仕留める寸前までいっていたのだ。本来であれば大いに労ってやるべき所だが、結果として初期対応での阻止は叶わず──タケルは成す術がなくなり、撤退となってしまった。
「それでタリア、今はどうなっているのかね?」
「現在、敵にはシンのインパルスと、応援に駆けつけたレイとルナマリアが追撃。プラント外部の戦闘状況から察するに、奴らは母艦へと撤退をするつもりでしょう。今は──」
『ミネルバ、フォースシルエットを!!』
タリアの報告を遮る様に飛び込んでくる通信音声。
タリアも──またデュランダルやカガリ達も状況の変遷を察する。
戦闘は撤退を見据えた3機がプラント構造体に穴を開け脱出するべく、低重力下での空中戦へ。
既にエクスカリバーの1本とビームライフルを失い、また機動性でも劣るソードシルエットから、追撃の為にフォースシルエットへと換装を願い出るシンの声であった。
「許可します! メイリン、射出して! もう、機密も何もないわ──良いですわね?」
「……あぁ、勿論だタリア」
確認の意を向けるタリアの声に、デュランダルは迷わず了承。
オーブの人間が2人いるこの場で、しかし機密よりも事態の終息を優先した。
「フォースシルエット、射出スタンバイ!」
指示を出されたメイリン・ホークのアナウンスで、再びミネルバの中央カタパルトが騒がしくなった。
「フォースシルエット射出シークエンスを開始します。オールシステムズゴー。シルエットフライヤーをプラットホームにセットします。中央カタパルトオンライン。非常要員は待機して下さい」
4枚の大型空力翼を備えたバックパックがミネルバより射出された。
漆黒の宇宙に光の花が散る。
散りばめられた星々の大海の中に、負けぬ様に咲き誇るのは、戦火の花であった。
「ナスカ級撃沈」
「左舷後方よりゲイツ、新たに3!」
「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。1番から4番スレッジハマー装填、モビルスーツ呼び戻せ!」
着々と戦果を重ねていくガーティー・ルーではあるが、本来の目的はザフトの撃破ではない。
指揮官のネオ・ロアノークは作戦開始前と同じように時間を気にする素振りを見せていた。
「──彼等はまだか?」
「はい、まだ」
「ふむ、そうか」
オペレーターからの返答に、ネオは考えこむ素振りを見せた。
「失敗ですかね? 港を潰したといってもあれは軍事工廠です。長引けばこっちが保ちませんよ」
「解ってるよ。だが失敗するような連中なら、俺だってこんな作戦最初っからやらせはせんしな」
伴だっている戦力だけでこの宙域に留まるには限度がある。
リーが言う様にアーモリーワンは軍事工廠だ。ましてや進宙式を目の前に多くの戦力が集められていた。
不意打ちや奇襲の類で有利を取ろうとも、動かせる戦力は比べるべくもないのだ。
落ち着きを取り戻し、まともに相対されては成す術がなくなる。
「仕方ない──出て時間を稼ぐ。艦を頼むぞ」
「はっ! 格納庫、エグザス出るぞ! いいか!」
「このぉ! よくも舐めた真似を!!」
ザクウォーリアのビーム突撃銃で閃光をばら撒きながら、ルナマリアは悪態を吐き出した。
同様にレイのザクファントムもアビスを相手に撃ち合う。
アーモリーワンの空で戦う6機。
インパルスと2機のザク────対する、3機のガンダム。
とは言っても、ブロックワードによってその身を震わせるステラのガイアは既に戦いではなく脱出に傾注している為、実質的には3対2だろう。
「スティング、きりがない! こいつだってパワーが……」
『アウルが余計な事言ったせいでしょ? 責任取ってステラの分まで戦いなさい』
「はぁ? っていうか見てるなら手伝えよユリス!」
『私の機体は今姿を見せるわけにはいかないの。さっきのはスティングが墜とされそうだったから仕方なくよ──自分で何とかしなさい』
「ちっ、スティング! どうする?」
「とにかくやるしかねえだろ」
カオスは背部の機動兵装ポッドに備えられたファイヤーフライ誘導ミサイルを斉射。接近してくるインパルスを牽制。
頭部のCIWSで迎撃するインパルスと同時に、横合いからルナマリアのザクが急襲。
「その機体、返しなさいよ!」
振り下ろされるビームアックスをシールドで防御した。
「ちっ、鬱陶しい!」
弾き返してビームライフルで反撃。それを数度躱したところで、ザクはバックパックから突如煙を上げる。
「ええっ!? 何よ急に!」
不幸な事に、乗り込む前の騒ぎでザクは不調をきたしていたのだろう。
数合の攻防でスラスターが音を上げルナマリアのザクは地上へとゆったり落ちていく。
「ルナマリア! ミネルバへ帰投しろ! その機体では何もできん!」
「そんなぁ……もぅ、このポンコツぅ!」
ザフトレッドとして、ようやく戦線に出て敵機を抑えるべく力を奮うこの時に、何もできずに撤退を余儀なくされる。
その虚しい現実に、ルナマリアは情けない声を挙げて愛機のコクピットへ拳を叩きつけるのであった。
ガイアを追走するインパルスを、執拗に狙うアビスとカオス。そんな2機をどうにか牽制し続けるレイのザクファントム。
インパルスがビームブーメランでガイアを狙うもアビスが横から兵装一斉掃射で迎撃し、いよいよをもってインパルスの武装が尽きてきた。
残るはエクスカリバー1本のみ。
「────来たか、フォースシルエット!」
「援護する! 換装しろ!」
そこへミネルバから射出されたフォースシルエットが到着。
インパルスはエクスカリバーを接近してくるアビスへと投げつけて牽制しながら、シルエットの換装へと向かい、レイはその援護にビーム突撃銃で弾幕を張る。
相対速度を同調──ソードシルエットを切り離し、インパルスは巨大なバーニアを備えるフォースシルエットへと換装を果たした。
ビームライフルとバックパックのビームサーベル。そして、取り回しの為にソードでは小さかった機動防盾が開き十分な範囲を持つ盾となる。
シンプルな装備と大型バーニアによる高い機動性。それがフォースインパルスの特色だ。
「はぁああ!!」
その高い機動性を生かしてアビスへと接近。
引き抜いたビームサーベルを叩きつけた。
「こいつ! 装備を換装した!」
「でぇええい!」
ビームアックスで防御したアビスを、スラスターの出力で押し切りシールドバッシュ。
アビスを弾き飛ばして、インパルスはガイアへと向かった。
「っ、この、行かせるか!」
シールドを開き、腹部のスキュラと合わせたアビスの全7門で背後より追撃を掛けるが、インパルスはその機動性に任せて回避。
「ひっ、やめて! あっち行って!」
接近してくるインパルスに、ステラは恐怖を浮かべ、ガイアのビームライフルを乱射した。
しかしそれは狙いもまともに付けていない稚拙な射撃。インパルスは意に介さない様に接近していく。
『スティング! 抑えなさい!』
「わかってるよ!」
MA形態となったカオスがインパルスの背後へと周り、機動兵装ポッドとカリドゥス複相ビーム砲による一斉掃射で狙う。
「ちっ!」
回避を余儀なくされるインパルス。
カオスから放たれた砲火がプラント構造体の壁面に命中し、巨大な風穴を開けた。
「なっ、しまった!」
「行くぞアウル、ステラ! 脱出だ!」
出口の確保が成ったスティング達は一目散と言うように、開かれた構造体の穴より漆黒の宇宙へと飛び出していく。
吹き抜けていく気流にもまれ、脱出していく3機に射撃兵装が当たるわけもなく、シンとレイはそれを見送る事しかできなかった。
「こんな……くっそー!」
だめだ、逃がすわけにはいかない──シンは轡を噛んだ。
これは争いの火種だ……逃せばまた、あの悲しく惨めな思いをする人を生み出すことになる。
そんなことは許せないのだ。
使命感と責任感を携えて、シンは逡巡するとカオス等を追うように宇宙へと飛び出した。
「シンっ! くそ!」
そんなシンを一人で行かせるわけにもいかないと、レイも追従する。
こうしてインパルスとザクは、敵味方入り乱れる戦場へと飛び出していく。
「あいつ等! 何を勝手に……外の敵艦はまだ!」
アーサーの声にある憤慨を、タリアも同様に声にはせずとも同じ思いを抱いた。
外での戦闘は未だ続いている。そんな中に、いくら任務のためとはいえMS2機だけで出て行って何ができると言うのか。
考え無しの行動だが、しかし起こってしまった以上、今度はこちらも動かねばならない状況となる。
「インパルス、パワー危険領域です! 最大であと300!」
「えぇ!? まずいですよ艦長!」
「──インパルスまで失うわけには行きません。ミネルバ、発進させます!」
タリアの言葉に、艦橋が驚きと緊張に包まれた。
進宙式を前にして──クルーも新人が多く配備された、まさに新人艦であるミネルバで、このままの作戦行動。
緊張するのも無理は無い。
だが、このまま動かずにはおくこともできない。
「──頼むよ、タリア」
「議長と代表は早く下船を」
「む? おいおい、そんなことをしている暇はないだろう。私達がノコノコと下船している間にインパルスまで奪われるようなことがあっては取り返しがつかん」
「しかし、アスハ代表まで──」
「私の事も、気にしないでいただいて構わない。議長の言う事は尤もだ……発進を急いでほしい、艦長殿」
カガリからも窘められ、タリアは表には出さず内心でため息を吐いた。
急ぐ急がないの問題ではない。1国の代表である者を……それも2人も抱えて、戦場に出る事が許されて良いわけが無い。
万が一それで、ミネルバが撃沈でもされようものなら──一体どれだけの問題になるのか。
想像するだけで身震いする心地であった。
「本当に、良いのですね?」
「頼む」
「構わない」
梃子でも動かない。そんな表情の代表2人に、タリアは再び内心でため息を吐いて艦長としての苦悩を押し殺した。
ついでに軍医に胃薬を処方してもらう事も決意した。
「では────ミネルバ、発進します!」
ここまでのやり取りの間に艦橋クルー達の気持ちも整っていたのだろう。タリアの声に応ずる動きは速かった。
「ミネルバ、発進シークエンススタート」
「SCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定。
本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい」
オペレーターであるメイリンの艦内放送が流れていく。
「ミネルバが発進──どういう事なのでしょうか?」
格納庫で自身の機体を前にして待ち構えていたヤヨイ・キサラギは、流れてくるメイリンの声に訝しんだ。
なぜ彼女がこんなところで1人、待ちぼうけを喰らっているかと言えば、彼女の乗機となる機体の調整がまだ終わっていないからである。
ガイア、カオス、アビス──そしてインパルス。
これらセカンドステージに類されるMS群の最後の1機。
ZGMF-X23S、機体名セイバー。
空戦能力を追求した機動性の高い設計と、シンプルで扱いやすい兵装。
そして背部バックパックに大型ビーム砲塔も備える事で対MSから対要塞や対戦艦といった戦いまでこなせる、非常に汎用性の高い機体である。
その分、扱うには相応の技量や高い判断力が問われる、いわばエースパイロット向けの機体と言えよう。
それを乗機として任されてると言うことが、彼女の実力の証明とも言えるだろうか。
「整備長、まだ出られませんか!」
「ヤヨイ! 悪いがまだセイバーは仕上がらない。こっちとしても半端な機体での出撃は許せないんだ!」
「わかっています! 無理は言いません。が、作業は急ぐようにお願いします!」
「了解だ!」
格納庫に響き渡るやり取りをしながら、ヤヨイは端正な表情を焦燥に歪めた。
戦わなければならない時に、戦果が出せないどころか戦場に出ることすら叶わない。そんな状況に、焦燥が募っていく。
こうしている間にも仲間が戦い、そして危機に陥ってるかもしれないのだ。
ミネルバが発進する状況ということは、アーモリーワン内部だけではなく外でも大きな戦いとなっている事だろう────それはつまり、更なる戦いを予期できる。
ヤヨイ・キサラギは本来我慢強い人間ではあるが、それでも己が何もできないこの状況には、強く在る事ができなかった。
そこへ大きな物音が聞こえて、ヤヨイは視線をそちらへと向ける。
見れば搭乗者である彼女の髪色に合わせた様な、セイバーとは少し違う色合いのレッドカラーが目に入ってくる。
バックパックから煙を上げている、ルナマリアのザクウォーリアであった。
「ルナマリア! 被弾したというの!」
思わず、先から抱いていた懸念が現実のものになった様で、ヤヨイは戻ってきてハンガーに収まったザクへと駆けつける。
「ルナマリア! 大丈夫ですか!」
ラダーを使って降りてくる彼女の様子に外傷は無さそうであるが、それでも確かめる様に問いかける。
「ちょっ、ちょっと何よヤヨイ? そんな心配そうな顔して。私が簡単にやられて来るように見えるの?」
「──残念ながら少し」
「あ、あんたねぇ……心配したいのか貶したいのか、どっちかにしなさいよ」
はっきりと、まるで少しも悪びれる事なく伝えられたヤヨイの本音に、ルナマリアは僅かに怒りを覚えて拳を握る。
これが妹のメイリンであればゲンコツの1つでも落とす所だが、相手は曲がりなりにも仲間であり同僚であり、親しき友であった。拳を握り力を込めるまでで済ませるあたり、彼女は優しい部類の人間の様である。
「では心配を──怪我はないのですね、ルナマリア?」
「被弾したわけじゃないわ。機体の不調があってやむなくって感じ」
「そうですか。良かったです」
「ヤヨイが出られれば良かったんだけどねぇ。セイバーはまだなの?」
「残念ながら……元々、進宙式を迎えてからの予定でしたから」
「そんな顔するんじゃないわよ。あんたのせいじゃないでしょ? 今は──」
ガシャガシャと再び、格納庫に大きな物音が響き渡る。
いくら作業中とはいえ、MSが飛び込んでくれば誰もがそちらに目を向けるだろう。
ヤヨイとルナマリアも例に漏れず、音の出所へと視線を向けた。
そこには、頭部と右腕を失ったザクが鎮座しており、ラダーから1人の青年が降りて来るのであった。
発進準備が進む中、ミネルバの格納庫へと何とか間に合ったタケルのザクが飛び込んでくる。
のそのそと脚部による歩行でハッチから格納庫奥へ向かう中、そのコクピットの中でタケルは一先ず戦場からの離脱に息をついた。
「はぁ、動き出す気配があったから焦ったよ……それにしても、本当に情けない」
カガリの縋る様な願いに応えるべく戦場に出たと言うのに。タケル自身も、この状況はオーブにとってマイナスにしかならないと奮起したと言うのに。
蓋を開けてみれば何も成せなかった己を僅かに自嘲する。
「このまま逃せばどうなるか、もうわからない──捕えておきたかったな」
弱々しく、タケルはザクのコンソールへと拳を叩きつけた。
脳裏に過るのは強奪された3機の事だけではない。
今まで忘れ去っていた、宿敵の存在──もはや、その生存を疑う事は出来なかった。
ユリス・ラングベルト。彼女が敵方に居るのなら、オーブとしてもタケル個人としても、この事態はもう無関係ではいられない。
再び彼女が世界に争乱を巻き起こそうとしているのなら、タケルにはそれを止める義務がある。
あの時、彼女を殺しきれなかった責任があるのだ。
「シロガネ……持ってくれば良かった」
小さく呟くが、それが無意味な事だというのは理解している。
今回のプラント訪問は、オーブとしても大切な外交だ。
どこの世界に兵器を伴って相手国へ訪問する奴が居るというのか。そんなバカげた事、カガリも絶対に許さなかっただろう。
必然、タケルができる事は何も変わらなかっただろう。仮にこの事態を予見していたとしてもだ。
「はぁ、とにかく降りよう。カガリに報告しなきゃいけないし……」
コクピットハッチを開けて、タケルはザクから降りていく。
ミネルバの格納庫へと降り立ったところで、しかし彼には無機質な銃口が突きつけられていた。
「動くな!」
目の前で銃を突きつけて来る、赤毛の少女。
タケルは一瞬呆気に取られるも、すぐに納得する。自軍の機体から、恐らくは民間人に見えるであろう服装の男が出てくれば、こうなる事は自明の理である。
タケルは素直に両手を上げて、抵抗の意思が無いことを示した。
ついでに、剥いでいた軍人の仮面を心に被せる。
「何だお前は。軍の者ではないな! 何故その機体に乗っている!」
「銃は下ろさなくても良いが、間違っても撃たないでもらいたい。詳しく経緯を説明させてもらって良いか?」
「聞かせてもらおう!」
できるだけ刺激しないように声を落ち着けながら、タケルは静かに切り出した。
「私はオーブ国防軍三佐、タケル・アマノだ。
本日はオーブの代表首長とデュランダル議長の会談に随員として伴っていたが、先の騒ぎにおいて近場での戦闘となった事から、代表を守るためにあの機体を借してもらった。MS戦闘には自信があったのでな……まぁ、結果はあれを見ればお察しだが」
そう言って、タケルは小さく自嘲を見せた。
「オーブの? アマノって……」
「戦えなくなってしまったところで、こちらの艦に代表と議長が乗り込むところを確認して慌てて同乗させてもらった次第だ。流石に、このまま代表から離れてしまったのでは護衛失格だからな。
代表と議長はどちらに? 取り次いで頂きたいのだが」
「ルナマリア、状況はどうなりましたか? 今、保安員にも連絡を──」
集まっていた整備班達をかき分けて保安員を呼んできたヤヨイが顔を出した瞬間、タケルと対面するルナマリアは奇妙な音を聞いた。
小さくか細い、息を引き攣らせたような音であった。
その出所は、先まで彼女の眼前で堂々と応対していた男性。
タケル・アマノが目を見開き、瞳を揺らし、唇を震わせてルナマリアの方を見ていた。
「アマノ、さん? 何か──」
訝しむルナマリアの声など聞こえないように。彼の視線は一所に定まりこの場にいるただ1人────ヤヨイ・キサラギだけに注がれている。
「────サ、ヤ?」
静かに呟かれた音が形作るのは、嘗て失われた最愛の妹の名であった。
願い────それは現実の前に儚く消える。
届かなかったその手を再び伸ばすも、その手はもはや掴む力を持たず。
指をすり抜けていく目の前の現実は、失った事をまたも胸に刻み込んだ。
次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY
『予兆の砲火』
機関最大、発進せよ、ミネルバ!
お許しください(土下座)
作者は悲しい物語が書けない駄作者です。
運命編の大筋も、SEED本編描き始める前から練っていたので、この展開は後から組み込んだものではありません。
彼女が生きている伏線も、一応張ってありました。(SEED編PHASE-57参照)アストレイが撃ち抜かれていたのはバックパックでしたので……
ムウさんよりは多分、納得してもらえるかなぁっと思ってはいますが。
開幕からどんでん返し2連で始まっていますが、お楽しみいただければ幸いです。
感想よろしくお願いします