ボギーワン──即ち、ファントムペイン母艦であるガーティー・ルーを捕捉したミネルバ。
互いが互いを捕捉。
それは戦いを告げる報せとなった。
「やはり来ましたか」
「まっ、ザフトもそう寝ぼけてはいないと言う事だ。ここで一気に叩くぞ! 総員戦闘配備、パイロットはブリーフィングルームへ」
ガーティー・ルーではネオとリーが険しい顔を見せながら、部隊の戦闘準備を進めていく。
「ユリス、あの新型艦だって?」
「そのようね。まぁ、簡単には逃がしてくれないって事よ」
「はっ、丁度いいさ。あの合体野郎を今度こそ仕留めてやるぜ」
「何が来ても、また楽しい事になりそうだな、ステラ」
アウルが楽しみだと言わんばかりの表情でステラに声をかけるが、当の彼女は完全に寝ぼけ眼のぼんやりとした気配であった。
「ほら、しゃんとしなさい、ステラ。これから戦闘なのよ」
「ん……ユリスは?」
「出撃の準備はしておくけど、こっちで待機。でも……ちゃんと見ててあげるから」
「うん」
よし、と返事を返すステラの頭を撫でつけ、ユリスは安心させるように笑みを見せた。
「前から思ってたけどよ。ユリスってステラに甘すぎだよなぁ」
「あんた達は可愛げがないからね」
「なんだよそれぇ」
「別に良いじゃねえかアウル。こんなじゃじゃ馬に可愛がられても鬱陶しいだけだぞ」
「良い事言ってくれるわねスティング。それが命を救ってもらった者へ向ける言葉かしら?」
「ほれ見ろ。こういう女だ。母性本能の欠片もねえ」
「へへ、だってよユリス──いてっ!」
「調子に乗るなバカアウル」
これから戦闘に赴くと言うのにまるで恐れのないやり取り。
彼等エクステンデッドは戦う事こそが生きる事だ。そこに特別な気構えなど無い。
普通に生きる事を知らない、戦場に生きることが当たり前の彼等を。
ユリスは胸の内に沸いた虚しさと共に見つめるのだった。
「小惑星群とデブリが集う場所、か。よもや戦艦ごと入り込む様な事はしないでしょうけど……」
ミネルバでもまた、戦艦にとって嫌な場所である戦場に険しい顔をしつつ、艦の戦闘準備を進めていく。
格納庫でヤヨイを見たカガリとアスランは、未だ多少の混乱を抱きながらも共に艦橋に入っており、ザクを用意されているタケルはパイロットスーツを用意されブリーフィングルームで待機していた。
「──ルナマリア」
パイロットスーツへと着替えて、準備万端に発進の時をまつザクのコクピット内に飛んでくる静かな声。
通信を飛ばしてきた同期の少女の声に、ルナマリアは通信回線を開いた。
「ん、ヤヨイ? どうしたの?」
「手間をかけますが、シンの気持ちのケアをお願いします。先程は少々、やり過ぎたかと思いますので……」
少しだけ言い辛そうにするヤヨイの表情が、わかりやすく彼女の気持ちを表していた。
「あぁ~まあ、ね。確かにちょっとやり過ぎたかもしれないけど、でも必要な事だったと思うわよ。ヤヨイが気にする事ないし、それこそケアって言うならヤヨイから言った方が良いと思うけど?」
アカデミーでも基本的に自身で問題は解決するタイプだったヤヨイがこうして人に頼るときは、自身ではどうにもならないとわかっている時だけだ。
だが、先の話を言うのであれば当人同士で話す方が良いはず……ルナマリアは疑問符を浮かべた。
「今の私の声は、きっと届かないと思いますので……と言うか通信に出てくれません」
投げられた言葉に一度目を丸くして、そして呆れたようにルナマリアは頭を振った。
そう言う事か……あり得るし、納得した。
確かに通信にすら応えてくれないとなれば、ヤヨイにどうこうできる余地はない。
そして、そんなバカな応対をしている問題児に俄かに怒りが沸いて来る。
「あのバカ……放っときなさいよ。今は気にするだけ無駄よ」
「そうはいきません。これから戦闘に出るのですから、雑念は捨てなくては」
「──あんたねぇ、お人好しが過ぎるわよ。さっきのはシンの自業自得でしょ。ヤヨイ程じゃないけど、私だって似たような叱責はしてたわ」
「あれが原因で死んでほしくは無いのです。私は、そんな事になるのは嫌なのです────お願いです、ルナマリア」
死なれるのは嫌──物事の良し悪しではなく、彼女自身の感情に因った言葉。
そしてそれを同性でも見惚れる程の綺麗な顔で、懇願する様に言ってくるのだからこの少女はズルい。
「──はぁ、あんたのその顔は反則。そんな顔されちゃ聞かないわけにいかないじゃない」
ため息交じりに応じる事を告げると、ヤヨイは憂いから一転して小さく笑みを浮かべた。
「ふふ、文句を言いつつ、そうやって聞き届けてくれるルナマリアが、私は好きですよ」
「や、やめなさい! ヤヨイのその顔で言われるとちょっとトキメいちゃうから!」
「私にその気はありませんが?」
「私にもないわよ!」
それでは、お願いします。
そう締めくくってヤヨイからの通信が切られ、ルナマリアは少しだけ早まった鼓動を落ち着けた。
彼女に他意はない──それはよく知っている。強く、仲間想いなだけである。
それが、彼女の記憶が失われてる事に起因しているのかは定かではないが……ただ、時折寂しそうな顔をしながら物思いに耽る彼女を、ルナマリアは何度か見た事があった。
『どうしたのか』と、問えば。
『また忘れてしまいそうな気がして』と、返された。
記憶が失われているからこそ、今ある繋がりを大切に生きているのだと、ルナマリアは悟った。
だから彼女は、どんな時でも最善を思い浮かべて、仲間の事を考えてくれるてるのだと知った。
それが例え、馬鹿で意地っ張りな、どうしようもない奴でもだ。
30秒程静かなコクピットで待ってから、ルナマリアもまた目的の人物へと通信を繋いだ。
「シン」
「──なんだよ」
開口一番。不機嫌そうな声と、モニタに映る不機嫌そうな面に、さっきまで僅かにトキメイていたルナマリアの心は急速に沈んでいく。
「不貞腐れてんじゃないわよ」
「別にしてない!」
「じゃあ何でヤヨイからの通信に出ないのよ。戦闘に関する話だったらどうするわけ?」
「別に、艦長から聞けばいいだけの話だろ!」
何を馬鹿な……発進して艦長からの指示が飛ばない様な場所でも同じことを言うつもりなのだろうか。
ほとほと呆れてルナマリアはこれ見よがしに大きなため息を吐いて見せた。
「いい加減にしなさいよあんた……自分がヤヨイに救われた事にまだ気づいてないの?」
「救われた? 思いっきり床に叩きつけられて殺されかけたのにか?」
「そうしなきゃ軍法会議で銃殺だったかもしれない──それくらいあんたは重い事をやってたのよ。自覚しなさいよ、このバカ」
「バカとはなんだ、バカとは!」
売り言葉に買い言葉。
一気にボルテージを上昇させるシンに、これではダメだとルナマリアは頭を振った。
ヤヨイから頼まれたのは、この大馬鹿者のケアである。
ルナマリアが怒らせていては意味がない。
努めて冷静になり、ルナマリアは言葉を選んで口を開いていく。
「はぁ──あのね、シンの気持ちは私達も良く理解してるわ。でも、だからってオーブの代表にあんな風に噛みついて良いはず無いでしょ。逆の立場だったらあんたはどう思う?
あの場でもし、アスハ代表の護衛がデュランダル議長の事を侮辱したら?」
「それは……許せないけど」
「シンがやったのはそれ以上の事なのよ。アスハ代表だけじゃない。前代表だったあの人のお父さんも……それに、アスハ代表が守ってきたオーブという国も、あんたは侮辱した。それですんなり許されると思う?
だからヤヨイはあれだけのパフォーマンスをしてみせたのよ。身内である私達からシンを罰しないと、プラントとザフトの体裁が保てないから」
「パフォーマンスって……なんだよそれ」
「自覚しなさい。あんたのバカな発言が、ヤヨイに憎まれ役を演じさせた事を」
「憎まれ役って……本当にそうなのかわからないだろ。俺の事が気に食わなかっただけかもしれないし」
折角落ち着けた気持ちを、わざわざまた荒れさせる言葉に、ルナマリアは僅かに顔を顰めた。
彼女が個人的な感所に任せてあのような所業を行ったと──そう言いたいのかこの大馬鹿者は。
そんな奴がわざわざこうして彼のケアを願い出てくるわけが無いだろう。
何とか湧き上がってくる怒りを御しきり、どうにか静かな声音を絞り出す。
「言っておくけど、ヤヨイは私がザクの不調で帰投した時、これでもかってくらい心配そうな顔して私に駆け寄ってきたからね。誰かさんとは違って、本当に仲間の事を大切に思ってくれる子よ。
ついでに言うなら、ちょっと泣きそうな顔で戦闘前にシンの気持ちのケアを頼むって私に言ってきたのもあの子──それに比べて、あんたは少しでもヤヨイの気持ちを気にしたかしら?」
少しだけ皮肉気に返された言葉に、とうとうシンはバツが悪そうに視線を逸らした。
もう、これで十分だろうとルナマリアは思った。
この超絶意地っ張りがこうして己の非を認めるような表情を見せたのだ。
伝えるべきことは伝わったはずだ。
これでもし伝わってなかったら、今度は自身が床に叩きつけてやろうと心に誓った。
「──後でちゃんと、お礼言っておきなさい。ついでに謝る事。良いわね?」
決定事項だと言わんばかりの声音であったが、シンに否の声は上がらなかった。
「──わかった」
「ん、良し。それじゃ行くわよ」
「あぁ」
通信を切る────すると、いつの間にやら進んでいた状況と発進シークエンスに、小さな驚きを見せつつルナマリアは発進シークエンスに対応していく。
『ルナマリア・ホーク、ザクウォーリア発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します』
妹のメイリンの声を聞き流しつつ、ザクの状態をチェック。
機体、装備、そして、自分自身。全て問題なし。
カタパルトへと乗せられ、発進の準備は整った。
『ガナーザクウォーリア、カタパルトエンゲージ』
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
鮮やかな赤色を携えて、ルナマリアのザクウォーリアが、ミネルバより飛び立つ。
『インパルス発進スタンバイ。モジュールはブラストをセット。シルエットハンガー3号を開放します。プラットホームのセットを完了。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認──続いてインパルス、どうぞ!』
続く様に、シンが乗るコアスプレンダーもミネルバの中央カタパルトにて発進の準備を終えた。
コクピットの中で、シンは先のルナマリアとのやりとりを思い出していた。
“ あんたは少しでもヤヨイの気持ちを気にしたかしら? ”
そんな事全然気にしていない。と言うより、気にする余裕がなかったと言うべきか。
オーブの、アスハへの怒り。そしてその後は、苛烈な叱責を向けてきたヤヨイへの怒り。
こんな風に自分から怒りを抱かれても尚、彼女は自分の事を気遣ってルナマリアに願いでていたと言うのか。
シンは酷く自分が惨めに思えた。
矮小な意地を張り、通信を開かないと言うバカな応対をした自分を恥じた。
自問する。
仲間を想うーー彼女が拘り括る仲間に、こんな自分が相応しいのだろうかと。
否だろう。こんなつまらない意地を張って困らせる様な男が、相応しいわけもない。
「戻ったら、まずは謝ろう。それにお礼も……」
小さく呟かれたそれは、意地っ張りな少年の小さくも大きな一歩であった。
「シン・アスカ、コアスプレイダー、行きます!」
小さな成長を胸に秘め、フライヤーと合体を果たしたインパルスも、戦闘中域へと向かう。
『ヤヨイ・キサラギ、セイバー発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します』
最後の発進となった真紅の機体、セイバーがカタパルトへと運ばれていく。
そのセイバーのコクピットの中で、ヤヨイ・キサラギは、戦闘へと集中を増していった。
シンの事は気になるが、戦闘に出る以上は余計な事は考えない。
彼女は、人一倍仲間思いの優しい少女ではあるが、その分人一倍戦闘に対して真っ直ぐであった。
そうして集中し切る事が、結果的に戦果につながり仲間を守ると知っているからだ。
余計な事を気にして、まともに戦えず、守りたいものを守れない様では意味がない。
『セイバー、カタパルトエンゲージ────ヤヨイ、セイバーは初陣ですから十分に注意を』
「ありがとうメイリン。でも注意と言うなら先に出ていったそそっかしい2人に言ってあげるべきです」
『それもそっか、ヤヨイなら大丈夫だもんね。では──セイバー発進、どうぞ!』
「ヤヨイ・キサラギ──セイバー、出撃します!」
戦士の顔となったヤヨイの乗るセイバーがカタパルトより飛び出し、初めての戦場を駆け抜ける。
互いの戦闘体勢を取ってからしばらく。
ガーティー・ルーの速度も早くミネルバの射程圏内にはまだ至らず。
交戦状態に入れない焦れる状況が続く。
「バート、敵艦に動きはあるか?」
「ありません。針路、速度そのまま」
アーサー・トラインの確認にオペレーターのバート・ハイムが答えるが、その報告が不信感を募らせた。
「──おかしい」
「なにがだ、アレックス?」
「こちらを捕捉しているはずだ。動きが無いわけがない」
静かに、アスランは声を挙げた。
追う側と追われる側。互いに捕捉している以上、追われる側の敵艦に何らかのアクションがあって然るべきだ。無い方がおかしいのである。
「確かに、おあつらえ向きの小惑星とデブリ帯。普通なら活用するだろうが──」
「デコイ、と?」
「その可能性が高いです、グラディス艦長。周囲への警戒を──」
「ボギーワン、ロスト!」
瞬間、艦橋に緊張が走る。
発進していたMS部隊が、マークしているボギーワンとの接敵を果たす寸前に、反応がロスト。
それは即ち、敵艦の奇襲を予見させる。
「ちっ、一歩遅いぞアレックス!」
「いや、まだ間に合います!」
アスランの声に押される様に、タリアは迅速に対応した。
「機関最大! 敵反応は!」
「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋! ボギーワンです! 距離500!」
「イエロー62ベータに熱紋3! これは……カオス、ガイア、アビスです!」
唸りを上げて動き出すミネルバの背後を突くガーティー・ルーと、そしてMS部隊を奇襲する強奪された3機。
懸念の通り……ミネルバにはファントムペインの牙が突き立てられようとしていた。
「よーし、行くぜ!」
「オーケー!」
「──ん」
ボギーワンへと向かっていたミネルバのMS部隊を、待ち伏せていたカオス、アビス、ガイアが強襲。
開幕に放たれたカオスの機動兵装ポッドに、MS隊の1人ショーンが乗るゲイツR撃ち抜かれ、アビスのスキュラにゲイルの機体も破壊されていく。
「ショーン! ゲイル!」
ルナマリアの悲痛な声が開戦の狼煙となった。
「ちっ、散開して各個に応戦!」
「私が前に出ます! シンとルナマリアは後方より援護射撃を!」
セイバーを変形させて、3機に突撃していくヤヨイ。
初めての戦場を意に介さないその動きに、シンとルナマリアが呆気に取られるが、当のヤヨイは瞳に怒りの炎を燃やしていた。
「貴方達は、私の仲間を討った──だから」
接近しながら再び変形。MS形態へと切り替わり、肩に備えられたビームサーベルを展開。
「何だあれ、また新型!?」
「ちっ、早い!」
「貴方達は、私の敵だ!」
失われた仲間の仇を討たんと、カオスへ光の刃を叩きつける。
「こいつ!?」
「いきなりなんだテメエ!」
防御に回ったカオスを援護するべく、シールド内の3連想ビーム砲を展開してアビスが迎撃に回る。
が、それを即座に後退して躱したセイバーは再び変形。
その高い速力を活かして大きく距離を取り迂回すると、遠距離からアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を放った。
「ちっ!」
「散開だ! 避けろ2人とも!」
「ん!」
3機の中心を射抜く様な高出力のビーム砲に、離れる事を余儀なくされる。
そうしてそれは、次なる戦いへの布石となった。
「っ!?」
怖気を感じたステラは、ガイアのセンサーが拾う反応を目で追った。
そこにはルナマリアが乗るガナーウィザード装備のザクが、高出力砲のオルトロスを構えていた。
「あん、あれは合体野郎か?」
ブラストシルエットを装備したインパルスが、アビスに背部の高出力砲ケルベロスを向ける。
「こいつ、また俺に……」
そしてMS形態となったセイバーが、カオスの眼前でプラズマ収束砲を構える。
「この泥棒が!」
「ここで仕留めてやる!」
「堕ちなさい!」
巨大な閃光が放たれる。
同時に回避軌道を取った3機は、迫り来る光の束を回避。
それぞれの敵を見据えてドックファイトへと入った。
戦いは数の利を無くし、激しい1対1の攻防へと移り変わっていく。
お姉ちゃんしてくれるルナマリアが好き。
原作じゃ最後までお姉ちゃんしてくれなかった気がする。メイリンに諭される側だったし。
シンはこれから少しずつ……小さいけど大きな一歩を踏み出してくれました。
まだまだ全然足りないだろうけどね。
前回の投稿に対して感想たくさん飛んできててびっくりしました。
なんだかんだ言ってみんなシンの事好きなんだなって。作者は嬉しかったです。
本作では愛される主人公になってもらいたいです。
後運命編入ってからウチのカガリの人気着実に上向いてる気がしてる(アンケート見て
流石オーブの獅子の娘だな
感想よろしくお願いします。