機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-12 始まりの墓標

プラント周辺宙域。

 

ヴェサリウスにて帰還したラウとアスランは、帰還早々に評議会があるプラント本国へ向かうシャトルに乗っていた。

 

同乗するは、ここに居るはずのない男。

アスラン・ザラの実父にしてプラント国防軍の最高責任者、パトリック・ザラである。

 

「ご同行させていただきます。ザラ国防委員長閣下」

「礼など不要だクルーゼ。私はここにはいないことになっている。良いな、アスラン?」

「はっ!」

 

冷たい声。そして久方ぶりにあった息子へかけるにはあまりにも相応しくない言葉。

だが、それを当然の如くアスランも受け取った。

アスランとパトリックの親子関係など冷めたものであった。

血のバレンタインで母を亡くしてからというもの、パトリックからは温かさと言うものを感じる事は無かった。

戦争への勝利――これこそが彼の何物にも勝る生きる目的となってしまっていた。

 

「レポートは見させてもらった。新型機については良いとしてパイロットについての部分はこちらで削除させてもらったぞ」

「やはり不要でしたか。閣下ならばそうおっしゃるかと思っていました」

「連合の最後の新型に乗ってるのがコーディネーター等と、穏健派に無駄な反論の口実を与えるだけだ」

 

ヘリオポリスでの状況をレポートにしたのはアスランである。

内容はクルーゼ隊の行動にヘリオポリス破壊の意思が無かったこと。

ヘリオポリスの崩壊にはザフト、連合の両軍による戦闘行為が原因である事。

そしてそれを成しえた、新型機の驚異的な性能をまとめた。

そこには勿論、まともなOSが積まれておらずとても運用状況には至っていなかったことと、ナチュラルではまともに動かせない事も明記していた。

 

「アスラン、君も友人を裏切り者として報告するのは辛いだろう」

「え、いや、あの」

「ナチュラルでも十分に運用できるMSを連中が開発した。そういう事だ、良いなアスラン?」

「は、はい」

 

国防を担うパトリックにとっては、より強く、より多く、戦争を行う上での必要な力を手にする必要がある。

その為には、小さな脅威を大きな脅威と仕立て上げより強い力を創り出すことを認めさせなければならない。

ストライクのパイロットがナチュラルであれば、Xシリーズの脅威度は飛躍的に上昇するのだ。

 

ラウが言うような、アスランへの配慮などでは断じて無い。

 

「我々はもっと戦争に本気にならなければならないのだ……血のバレンタインの悲劇。繰り返さない為にも」

 

万感を込めた声が、パトリックから絞り出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アルテミスを脱出したアークエンジェル。

 

入港した場所から反対側へと脱出し、更には戦闘と要塞の崩壊による影響でガモフは完全にアークエンジェルを見失っていた。

脱出してから日を跨いでも尚、追撃の気配は無く一同心底安堵していた。

 

だが、喜んでばかりもいられない。

艦橋ではタケルも交えて士官達が今後の動きを模索中である。

 

「はぁ、何とか追っ手を撒きはしたものの……」

「状況は変わらないんだよな、コレが」

「大尉、この状況でおどけるのは控えてください」

「そうは言うけどねぇ、ずっと宙域図とにらめっこして重苦しくしてても仕方ないだろ」

 

アークエンジェルの目的地は月基地の本部である。

ヘリオポリスを離れ、アルテミスを脱出したアークエンジェルは、急いで月基地へと向かいたい所だが、経路としては地球の近くを通る事になり大きく迂回する必要があった。

何故なら、地球の周囲にはこれまでに人類が宇宙へ進出するために排出してきた人工衛星等のゴミが漂っているからだ。

そのため地球周囲一帯をデブリ帯と呼び、艦船などが航行するには危険な、航行不可区域となっている。

だが、そうしてデブリ帯を迂回すると別の問題が発生してくるのだ。

いや、既に問題は発生している。

“物資不足”である。

生活必需品たる水を筆頭に食料やらなにやら、必要物資がギリギリなのだ。

既に水の使用については制限を掛けつつあった。

 

「ヘリオポリスでの物資の積み込みが完全でなかったとは言え、状況的にはかなり苦しいところまで来てますよね。整備班も水が使えないから苦労してると……」

「そう言えばアマノ二尉のアストレイの状況は?」

「あぁ、それなら突貫ではありますがストライクの予備パーツを分けてもらって何とか。流石に参考にしてるだけあって、ある程度流用が利きやすかったです」

「そいつは良かった。次に戦闘があった時、俺と坊主だけじゃ流石にな」

「それより今後の方針ですね。補給しようにも周辺宙域で出来そうなところはないし、このまま月基地に行くには相当な強行軍となりそうです」

「俺達は軍人だから、そうと決まればそうするが……いや、待てよ。デブリ帯か」

「フラガ大尉、何か?」

「いやなタケル。やっぱり俺って不可能を可能にするかもって話だ」

 

不敵に笑うムウを見て、タケル達は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

「えーどうしても言わなきゃダメなの?」

「そんな風に言われると勧めづらいんだけど、やっぱり言っておいた方が良いと思うよ」

 

アークエンジェルの食堂内では、キラを除くヘリオポリス学生メンバーが一緒に食事をとっていた。

その中でフレイは、サイからキラへの謝罪を打診されていた。

 

「お前の余計な一言のせいでキラが危険な目に遭ったのは事実だろ?

俺達は慣れちゃってるけど、連合の戦艦であるこの艦で、しかもストライクのパイロットがコーディネーターであるキラって言うのは、やっぱり微妙な問題なんだよ」

「狭い艦内で、ちょっと会った時とかに気まずいでしょ? 謝っておいた方が良いって」

「サイがそこまで言うならそうするけど……」

 

不服そうではありながらも、サイの言う事には耳を傾けるようでフレイは渋々と承諾した。

 

話しが付いた丁度そこへキラがストライクの整備を終えて入ってくる。

 

「お、キラ。ストライクの整備は完了?」

「うん、なんとかね。パーツ洗浄機も使えないから手間ばかりかかっちゃって、本当大変だよ」

「水の制限あるものね。私達も昨夜はシャワー制限だったし。ね、フレイ」

「ちょっとミリアリア、余計な事言わないでよ!」

「フレイ、それよりもさっきの話」

「あ、そうだった」

 

サイに促され、キラへと向き直るフレイ。

少しだけ正された居住まいに何かを感じて、キラもフレイへと向き直った。

 

「あのね、キラ」

「う、うん。何?」

「この間は、その……ごめんなさい! 私、何も考えずにアルテミスで貴方の事をバラしちゃって……そのせいで大変な目に」

 

だんだんと尻すぼみになっていく言葉を聞いて、キラは彼女の言葉を受け取った。

反省しているとかはどうでもよかった。

ただ、コーディネーターである自分にきちんと謝ってくれただけでも十分に嬉しく感じられた。

 

「そのことなら気にしなくていいよ。ってか、事実だしね」

「あぁ……ありがとう、キラ」

 

キラの答えに花を咲かせたように笑顔になるフレイ。

そんな彼女の笑顔を見るだけでキラは十分だとも思えた。

自分の事なんかで、思い悩んでほしくはなかった。

 

「暢気だなお前。あいつの一言のせいで下手すりゃ殺されてたかもしれないんだぞ」

 

そこへキラの背後から声がかかる。

そこに居たのはどこか呆れた様子を見せるカガリ・アマノだった。

 

「君は確かカガリ……だったよね」

「あぁ、兄様がいつも世話になっている」

「そんな、僕の方こそタケルには助けられてばっかりで……」

「それで、良いのか? そんな謝罪一つで」

「良いのかって……別に怒ってないし、事実だし」

「ちょっと何よ、何が言いたいわけ?」

「別に、キラの場合文句があっても言わなそうだったから聞いてみただけだ」

「な、何よ! キラから文句が出てくるって、そう言いたいの?」

「私からすれば文句が出ない方がおかしいと思うけどな。一歩間違えてればあの場でキラは殺されてた。

お前はあの時、敵陣のど真ん中でキラがスパイですと叫んだようなものだぞ」

 

後先考えない、状況を読まずに発言する事がいかに危険な事か。

人の振り見て我が振り直せとは良く言ったもので、カガリはフレイの姿に自身を重ねていた。

アークエンジェルに乗った時がそうだ。何も考えず感情に任せてものを言った結果、兄に大きな迷惑をかけた。

カガリはそれをひどく後悔したし、その後はもう少し思慮深く生きようと思った所であった。

実践できているかは別だが……

とにかく、そんなカガリから見て、フレイの後先考えない発言が我が事の様に堪えたわけである。

その後のトールの憤慨にしても自分が言われているようであった。

優しい兄だからトールの様に憤慨することは無かっただけだ。後にその場を取り繕うのに苦労したとしみじみ語っている。これがカガリには逆に効いた

よって、この機会にフレイには良く自分の発言の意味を理解してもらうべきと考えたわけだ。

 

「スパイって、バカじゃないの? コーディネーターってだけでそこまで話が飛躍するわけじゃないでしょ?」

「この艦に乗った時にキラはそれで銃を向けられている。兄様もその事実を明かした時にはやはり不穏な空気となった。

お前の認識がどうかは知らないけど、少なくとも連合内ではコーディネーターってだけで銃を突きつけられるような存在だ」

「ちょっとカガリ、気持ちは嬉しいけどあまりフレイを悪く言わないで。

僕は大丈夫だったし、謝ってももらったんだから」

 

白熱しそうな気配を察して間に入ったキラがカガリを止める。

見れば、サイやトール、ミリアリアにカズイも心配そうに2人を見つめていた。

 

「そうか。当事者であるキラがそう言うなら私がウダウダ文句を言っても仕方ないな」

「ありがとう。僕は大丈夫だから」

「大丈夫なものか……お前は民間人だ。

人を討つ事も、討たれることも覚悟して戦いに臨んでるわけじゃない。

心を殺して戦いに出てるお前に、コーディネーターだのナチュラルだのと、余計な負荷をかけるべきじゃないんだ」

 

兄ですら初の実戦からここまで……やはり常とは違う変化が起こった。

民間人で訓練も受けていないキラが突然戦いに巻き込まれ戦場に出て、何も影響が出ていないわけがない。

そうカガリは考えていた。

 

「えっと、カガリ?」

「辛かったら言え。私は大した事もできないが、兄様なら必ず力になってくれるはずだ」

「う、うん。ありがとう」

「そっちのフレイも。キラにあまり心労を掛けるような事はするなよ」

「だ、誰が心労よ!?」

「皆、騒がせてすまなかった。それじゃ私はこれで」

 

そう言って食堂を去っていくカガリ。

残された一同はポカンとした表情でそれを見送った。

 

“心を殺して戦っている”

 

その表現に、キラへの一抹の不安を抱きながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラント本国最高評議会において。

 

評議会より招集を受けたラウとアスランは、ヘリオポリス崩壊の件で臨時査問委員会に出席していた。

明朗快活と言う程でもないが、冷静にはっきりと部隊の行動における正当性、ヘリオポリス侵攻への妥当性。そしてアスランによる、Xシリーズの危険性。

これらを説き、報告をした次第であった。

 

プラントの全権を担っている最高評議会という場で些かの緊張もあったせいか、肩に大きな疲れを残したアスランは、会議場を出た直ぐのロビーで1人静かに待機していた。

 

 

「アスラン」

「はっ、クライン議長閣下!」

 

そんなアスランを呼ぶ声。

見れば壮年の男性がアスランの下へと歩み寄ってくる。

シーゲル・クライン――プラント最高評議会の議長であり、実質のプラント最高権力者である。

 

「そう他人行儀な礼をしてくれるな」

「い、いえ。これは」

「ようやく君が戻ったかと思えば、今度は娘のラクスが仕事で戻らん。

全く君達はいつ会う時間が取れるのだろうな」

 

シーゲルが言う娘、ラクス・クラインとアスランは婚約関係にある。

多分に政治的意味合いも強いが、それでも仲は良好であり、アスランは良き婚約者として接してきていた。

しかしアスランはザフト、そしてラクスもまたシーゲルの娘である顔とは別に、いくつか肩書をもつ令嬢。互いのスケジュールが合わない事は常であり、2人が顔を会わせられる機会はそう多くはなかった。

 

「はぁ……申し訳ありません」

「私に謝られても困る。しかしまた大変なことになりそうだ……君の父上の言う事もわかるが」

 

先の評議会。

議員全員を唸らせた、Xシリーズの性能。

ロールアウトした以上、量産化は目前であり、さらなる発展機も開発されるだろう。

即ちそれは、今後さらなる戦力が連合には揃ってくることを意味する。

パトリックの言う通り、プラントも戦争にもっと本気にならなければ危険な状況が周知されたのだった。

 

パトリックは会議内で言った。

ユニウスセブンの悲劇を見たはずだと。

戦わねば守れぬものがあるのなら、戦うしかないのだと。

 

進化した人類と言われるコーディネーターだが大きな問題を抱えていた。

その内の1つに出生率の問題がある。

後天的に遺伝子を調整することで生み出されるコーディネーターだが、その影響か子を成すことが非常に難しい。

人口は増えず、戦争のせいで減少傾向にある。

仮に戦争に勝利したとして、それが今後さらなる激化を辿る戦いの先であるのなら、果たして減り過ぎたコーディネーターに未来はあるのだろうか。

シーゲルは先を見据えて暗い気持ちとなっていた。

 

「我らにはもう、あまり時間も――」

「アスラン・ザラ!」

 

シーゲルの言葉を遮る軍人らしい声。

ラウが歩いてくるのが見えた。

 

「あの新造艦とモビルスーツを追う。部隊も再編して72時間後に出撃だ」

「了解しました。失礼します、クライン議長閣下」

 

指令を受ければ有無を言わさず軍務に服す。

その姿勢がシーゲルの心を荒れさせる。

こんなことを、義理の息子になる予定の者が平然と……歳も娘と変わらない。少年の域を出ないというのに。

 

コーディネーターの未来同様、アスランとラクスの2人の未来すら、シーゲルには重く暗い未来が待ち受けている気がしてならなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェルの艦橋にはタケルとカガリ、クルーとなった学生組も含めて招集されていた。

 

珍しく呼び出されたカガリが艦橋に入ると、妙に機嫌の悪そうな兄が見て取れる。

一体何があったのか?

艦長であるマリューを筆頭にナタルもムウも、他のクルー達も表情が硬い。

気になっていたカガリだが、硬い雰囲気の中マリューが口火を切った。

 

「本艦は現在、補給の為にある宙域へ向かっています」

「補給……受けられるんですか?」

「話は最後まで聞け、サイ・アーガイル」

「まぁ補給を受けられるっつーか、勝手に補給していくというか……」

 

言いよどむムウの言葉に、タケルの表情がまた険しくなっていく。

 

「私達が向かっているのはこの宙域。通称デブリ帯と呼ばれる宙域です」

「デブリ帯って、それじゃつまり」

「君は勘が良いねぇ、そう言う事だ」

「え、どういう事?」

 

察して理解したサイ以外、学生組は疑問符を浮かべていた。

カガリも概ね意味を理解し、タケルの険しい表情の理由も察したところである。

 

「デブリ帯には、人工衛星から戦闘によって破棄された戦艦まで、本当に何でも漂っているんだ。

勿論そこには、使われず手付かずとなった物資なんかも一緒にね。使うはずだった人が亡くなり手付かずで残ったままの物資を補給させてもらうってわけ……つまりは、墓荒らしだよ」

 

墓荒らし――言いえて妙であるが、得心がいくような気持ちの良い話ではなかった。

サイ達は一様に顔をしかめ、マリュー達もタケルの表現に目を伏せる。

 

「アマノ二尉には反対されましたが、貴方達にはそこで船外作業の手伝いをお願いします。

迅速に補給を済ませ、一刻も早く宙域を離脱する為にも」

「ラミアス大尉、選択肢くらいはあげてください。彼らは元々民間人です……デブリ帯の、それも破棄された戦艦等からの補給となれば、嫌でも犠牲者を見る事になる。艦橋やMS越しから死を見るのとはわけが違います。

本当なら、あなた方軍人だけでやるべきことだ」

「タケル、だからそれについては何度も説明しただろう。人手が足りないんだ。

急がなければ俺達はまたザフトに捕捉されかねない。そうなった時、ここに居る彼等だって危険に晒されるんだぞ」

「生き残ったところで、これからの人生に大きく悪い影響がある様では意味がない」

「ならそうなった時には死んだほうがマシだって言うのか!」

「そうは言ってないですよ! 急ぐ必要とザフトに捕捉される可能性がどれだけあるかと聞いているんだ!」

「それこそどっちに転ぶかわからないんだ! 最悪を想定して動くべきだろ!」

「その影響で彼らがクルーとしての役割を果たせなくなったらどう――もが!?」

 

まさか、ムウとタケルがここまで白熱するとは思っていなかったのか、どちらも正論を述べているだけに難しい議題である。

マリューとナタルですら割って入れなかった言い争いに終止符を打ったのがタケルの口を押えたカガリであった。

 

「そこまでだ兄様。言いたいことはよくわかるけど、彼らをそっちのけで言い争っていてもしょうがないだろう」

「その通りよアマノ二尉。フラガ大尉も」

「悪い、艦長」

「ぷはっ! 申し訳ありません。熱が入り過ぎました」

 

この場にカガリがいてくれたことにマリューはひそかに感謝した。

どちらの言い分もわかる為肩入れしにくい。

その上でマリューは艦長としてムウの言い分に寄っている。

普段は決して声を荒げないタケルと、飄々としているが温厚なムウの言い争いなだけに、割って入りにくかったのも事実だ。

タケルに対するジョーカーともいえるカガリの存在がこの上なく心強かった。

 

「アマノ二尉が言う通り、場所が場所です。

船外作業についてはあくまで“お願い”という体でさせてもらいます」

「そう言う事だ兄様。気持ちはわかるけど……私も行くからな」

「カガリについては否定しないよ。むしろ――」

 

良い機会である。等と言おうとしてギリギリでタケルは踏みとどまった。

 

中立を謳うオーブの獅子、ウズミの娘として。

世界で起きてる戦争の結果を目にするのはカガリにとって大きな意味を持つだろう。

だが、それを言ってしまえば先の議論で反論していたことが完全に意味を無くす。

カガリは良くて、学生組の同行は頑なに認めなかった理由が邪推される。

そして浮かび上がるであろう、カガリの正体に対する疑問。

 

「むしろ、なんだ?」

「僕はMS関連でしか仕事ができないからね。補給作業となれば身内のカガリがいてくれた方が心強いかなぁ、なんて」

 

タケルは内心で自身を褒め称えた。

良く誤魔化した、これから先口八丁でいろいろ乗り越えられる気がした瞬間である。

 

「はぁ、何を言っているのやら。ヘリオポリスで見せて頂いたアマノ二尉の手腕。私は忘れてはいませんよ。貴方は俗にいう器用万能な人です」

 

タケルは内心で苦悶の表情を浮かべた。

全然誤魔化せてない。嘘八百なのは見え見えであった。

これから先様々な不審が投げかけられるとわかった瞬間である。

 

「やだなぁ、バジル―ル少尉、持ち上げても僕はできる事しかできないですよ」

「ではできる事をやってもらいましょう。艦長、補給の総指揮はアマノ二尉に任せてよろしいかと」

「ふぁっ!?」

 

待て待て、自分は一作業員ではなかったか?

そんな責任を投げられたら間違いを起こせないプレッシャーで自滅する事請け合いである。

タケルの心根は卑屈で弱いのだ。

 

「あら、良いの? それなら助かるわ」

「サポートには私が付きます。艦に精通している人も必要でしょうから」

「それじゃ、お願いするわね」

「着いたら、艦長も少し休んどきな。ヘリオポリスからこっち、まともに休憩できてないんだからよ」

「問題が無さそうだったらね……今はまだ。

それではブリーフィングを終了します。サイ君達はバジル―ル少尉に船外活動の有無だけ伝えておいて」

 

とんとん拍子に話が進む。

学生たちはナタルに一言告げて出ていき、ムウは『それじゃ色々頼んだぜ』等と激励か嫌味か判断に迷う言葉を投げてくる。

タケルはアルテミス要塞以来で目頭を押さえて後手後手に回った己を呪った。

 

「(なんてこったい、完全に反論のタイミングを逃した……)」

 

 

 

 

 




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