ミネルバのレクリエーションルームは、酷く冷え込んだ空気となっていた。
当然と言えば当然だろう。
冗談とは言え馬鹿げた発言をして、他国の代表から強い叱責を受ける事となったのだ。
事が艦長に知れれば、彼等はもうこの艦で共に過ごす事だってできなくなる。
想定外に、ことの反響は大きかった。
勿論、わざわざ報告に挙げる様なつもりは、カガリには更々無い。
言い合いとなったシンも含めて、どれだけ問題のある発言であったのかは理解している。議長の言葉と想いに泥を塗る言葉であった──それを理解した彼等の表情には十分に反省の色が見て取れた以上、他国の軍人である彼等にこれ以上の追求をするつもりはカガリには無かった。
しかし、ただの反省だけで済まないのが、シン・アスカだ。
ボロボロと言えるほどに正論を叩きつけられた。
憎んでいた国から。憎んでいた者達から。
タケル・アマノから、徹底的に自身の想いを間違いだと突き付けられた。
レクリエーションルームのソファーに座り、俯きながら拳を震わせる。
何も言葉が出てこなかった。言えなかった。
悔しさだけがシンの胸の内には募った。
「その……悪かったな、シン。俺の不用意な発言であんな事になっちゃって」
「やめなさいよヨウラン。そんな言葉……今は何の慰めにもならないわよ」
ヨウランの言葉を、ルナマリアは切り捨てる。
今シンを襲うのは、叱責のショックではない。
これまで支えにしてきた、憎しみと言う支柱──それが崩されたのだ。
筋違いだと……徹底的に否定された想いは、シンのこれまでを否定されたと同義だと思えた。
あの日天涯孤独となったシンにとって、家族を奪ったアスハへの憎しみが、生きる原動力であった。
「俺、格納庫で整備作業進めてくる」
ふと声を漏らすのはヴィーノ・デュプレであった。
急に何の決意表明かと、その場にいる同期の皆が不思議に思う中、代表する様にメイリンが問いかける。
「ヴィーノ、どうしたの急に?」
「さっきアスハ代表が言った様にさ、俺達の行動次第で議長とプラントが評価されちゃうんだから、頑張らないわけにはいかないだろ? 少しでも、ミネルバの任務の役に立たないとさ」
それは、一連の出来事が変えた些細な心境の変化であった。
事の重大さを認識し、自国の顔とも言える国軍である事を認識し、そうしてやるべきことを見据える。
ザフトは本来、正式な軍組織ではないが、少なくとも彼等の自意識は、軍属であった。
「そう……だな。俺も行くわ。あんな発言聞かれちまった責任は、取らないといけないからな」
ヴィーノの言葉に、ヨウランもまた責任感と使命感に背中を押されて動き出す。
「私も、艦橋に上がって状況と作戦の確認をしておこっと……できる事を少しでもやっておかないとね」
よし、と小さな掛け声。
メイリンもまた、気持ちを切り替えると、艦橋へと向かいその場を退出していった。
「──私も、少し準備を進めてきます」
思いつめた表情。
ルナマリアが知る中では珍しいと言える表情を見せながら、ヤヨイ・キサラギもまたその場を後にした。
残るのはシンとレイ、それとルナマリアである。
「シン、らしくないわよ」
「言い負かされて落ち込むのは、お前の性分では無いだろう」
「──放っといてくれよ」
1人にしてくれ。
そんな声音に、レイとルナマリアは顔を見合わせて肩を竦めた。
そもそもこの少年は、他人の言う事を素直に聞いて気持ちを変える事がなかなかできない質だ。
ヤヨイへの謝罪だって、ルナマリアの進言が無ければ絶対に切り出さなかっただろう。
今回は殊更ショックも大きいだけに、レイもルナマリアも、簡単には彼を救い上げられない気がした。
「ん? ルナマリア、見ろ」
「えっ? あっ……」
ふと、2人は何かを目にして再び顔を見合わせた。
そうして些細なアイコンタクトを済ませると、2人共に小さく笑う。
「シン、別に私達は放っておいても良いけど。あちらさんはそうもいかないみたいだけど?」
「あぁ、らしいな」
「──あちらさん?」
顔を見上げたシンが、レイとルナマリアの視線を辿る。
レクリエーションルームの入口へと向けた先には、先程出て行ったはずのアスラン・ザラの姿があった。
レイとルナマリアはそれを見止めると、揃って退出していく。
「珍しくショック受けちゃってるんで。お願いしますね、アスラン・ザラ」
「──俺で良いのか?」
「英雄と謳われる貴方の言葉なら、受け入れやすいでしょうし」
「お願いします」
「やれやれ、口は上手くないんだがな……しかし、俺にとっても親友の為だ。尽力はさせてもらうさ」
「ふふ、期待します──それじゃ」
すれ違い際に少しのやり取りをして、2人はそのまま部屋を出ていった。
アスランはそれを見送り、そして視線を巡らせる。
まるで射殺す様な視線を向ける少年に、どこか既視感を覚えながら、アスランは小さくため息を吐いた。
「はぁ、そう睨むなよ──少し、話をさせてもらいたいだけだ」
所変わり、ミネルバ艦内のとある士官室前では。
部屋のブザーを鳴らそうか鳴らすまいか、と手を伸ばしては引っ込める奇妙な動きを繰り返す少女の姿があった。
「ヤヨイ、何してるのよ?」
「ル、ルナマリア!? 何故ここに」
そこへ来着するは先程レクリエーションルームから出てきたルナマリア。
彼女の出現に、ヤヨイは再び珍しいであろう慌てた表情を見せた。
「あんな思いつめた顔して出ていけば、さっきの事で思う事ありって言うのは直ぐにわかるわよ。で、予想して来て見れば案の定ってわけ」
「放っておいてください。大体、ルナマリアだって自機の準備があるのではないですか?」
「それはヤヨイだって同じじゃない。それで、どっちに用なの?」
言外にどちらが気になってるか、という意味を含ませたルナマリアの問いに、ヤヨイは顔を渋くさせる。
「──別にどちらでも良いでしょう」
「ははーん、やっぱりアマノ三佐の方ね」
「な、何故わかるのですか!?」
「アスハ代表に用って言うならそんな顔してないでしょ。代表とは何かあったわけじゃないし。
そんな顔してるって事は、アマノ三佐に物申しに来たってとこかしら?」
「──ルナマリアには関係ありません」
「心細いかと思って来てあげたのに、酷い事言ってくれるわね」
「誰も頼んでません!」
まるでシンの様に感情を剥き出しにして返してくるヤヨイ。
いつもなら年上の自身に対しても、姉の様な……ともすれば母親の様に口煩いヤヨイが、子供の様に声を荒げて応対をする姿に、ルナマリアは意地の悪い笑みを浮かべた。
良いからかいのネタになりそうな気配であった。
人形の様に整った容姿でありながら、人形の様に焦りや戸惑いを見せない少女の、らしくない姿。
それを眺める事の楽しさと言ったらない。
「どうでもいいけど君達。人の部屋の前で騒ぎすぎ」
声が大きかったせいか、とうとう部屋主であるタケル・アマノが顔を出す。
未だ不機嫌さを残しているのはやはりシンの事があるからなのだろうか。
その気配に、ルナマリアもおチャラけた雰囲気を隠──
「アマノ三佐。丁度良かった、ヤヨイが大切な話があるそうですよ!」
すことはなかった。
むしろ、渦中の人物登場という事で年頃の娘らしく姦しく、そして悪ノリが酷い。
先程タケルがレクリエーションルームで軍人で在れと言った事を、欠片も理解していないのは彼女なのかもしれない。
そんな彼女の態度に特に気にする様子もなく一瞥だけすると、タケルはヤヨイへと視線を向ける。
「それで──私に話があるって?」
「はい。確かにルナマリアの言う通り……大切なお話があります」
真剣な表情。
隣のルナマリアとは違い、どこか覚悟すら感じられるその面持ちに、タケルは逡巡。
同時にルナマリアは更に脳内の妄想を膨らませていく。
「ふむ、場所を変えようか?」
「では展望デッキへ」
揃った動きで踵を返した2人はミネルバの展望デッキへと向かい通路を歩きだした。
「あ、それじゃ私も──」
「貴女には関係ないでしょう」
「君には関係ないだろう」
背後から続こうとしたルナマリア。
それに2人は一糸乱れぬ動きで振り返り、口を揃えて、突き返した。
その余りにも揃った動きと勢いに面食らい、ルナマリアは動き出そうとした足を止める。
そして振り返った2人が向けてくる視線には、“付いてきたらどうなるかわかってるよな? ”と書いてある気がした。
頬をつぅっと冷や汗が伝い、ルナマリアは乾いた笑いを浮かべる。
「あ、あはは……どうぞ、ごゆっくり」
ルナマリアの言葉に無言のまま再び一糸乱れぬ振り返りを見せて、2人はその場を歩き去っていく。
並び立ち、ご丁寧に歩調まで一緒だ。
「やっぱり、兄妹……なのかしらね」
そんな後ろ姿に、ルナマリアは乾いた笑みを見せながらもどこか嬉しそうに呟いた。
「それで、なんですか。話って……」
ぎこちない敬語でありながら、ひとまずの落ち着いた物言い。
レクリエーションルームでソファに座るシンの隣へと座り込んだアスランは、小さく苦笑した。
「態度が随分軟化したな。別に俺はタケルみたいに君へ強く当たるつもりは無いんだが」
「そんな事……」
タケルと同様にアスランも物申しに来たのかと。
本来のシンであれば警戒の声であっただろうが、意気消沈としていたが為に、随分と臆病な声音をしていた。
「話って言うのは、あいつが言ってた事だ」
「あいつって、タケル・アマノの……?」
「別に俺は、君が憎しみを抱くのは間違っちゃいないと思う。そしてそれを誰かに向けてしまうのも────ヤヨイ・キサラギがタケルに言った様に、抑えられない感情と言うのは、ままあるからな」
感情を全て理性でコントロールできるほど、人間は完成された生き物ではない。
憎しみに限らず、愛情だって行き過ぎれば止められるものではない。
それこそ、タケル・アマノは身内への情でいくつもの無茶を重ねて来ている。
シンと比べても、その度合いで言えば遜色ないだろう。
「わかって欲しいのは、あいつは憎むなと言ったわけじゃないって事だ」
「だって、あの人は間違ってるって──」
「違うだろ? あいつが言ったのは向ける先の事だ。憎むなら国防軍であったタケルか、戦いを引き起こした大西洋連邦だと────そう言ったはずだ」
「確かに、そうは言ってたけど」
「家族を失い、君が憎しみを糧に生きてきたことはなんとなくわかる────俺の父もそうだったしな。
それで抑えきれない感情と言うのも……俺には良くわかるつもりだ。俺だって当時は、君と同じ様な事になった」
「あんたも、ですか?」
意外そうに呟くシンに、アスランは自嘲気味に笑った。
大戦の英雄。アカデミーでもその活躍を教材の一つとして取り上げられているアスラン・ザラ。
さぞかし美談で纏められているのだろうと、アスランはシンの表情から察した。
完璧な、ザフトの軍人の模範として描かれてるに違いない事が容易に想像ついた。
本当は、そんな優秀と言える人間じゃなかったと言うのに。
「ザフトに居た嘗ての俺は多分、君以上に不安定だったよ。
任務には集中できず、敵を討つ事もできず、己の戦いに迷ってばかりだった」
「──それ、本当なんですか? アカデミーじゃ優秀の限りだったって」
「戦っては居たからな。周りからはそう見えたんだろう。
だが、そうやって迷いを抱えたままで戦ってた俺の不出来で、ある時仲間を殺されて、歯止めが利かなくなった────そうしてその先で、小さい頃からの親友と命を喰い合う死闘を演じていた」
ニコルの死。そしてキラとの死闘。
互いに戦いたくない。また元の関係に戻りたいと願いながらも、銃を手に取り討ちあった。
奪われた憎しみをぶつける為────己の命すら捨てて、殺そうとした。
当時を振り返って、アスランは静かに目を伏せる。
「それってまさか、連合のストライクとの……」
「酷い戦いだったよ。互いに自分の命など二の次で、相手を殺すことしか考えていない」
骨肉の争いとは正にあれのことだろう。
自身を省みることのない、ただ相手を殺すためだけの戦い。
あの無人島で繰り広げられたのは、陣営を元にした戦争ではなく、キラ・ヤマトとアスラン・ザラだけの死闘であり私闘。
とても、軍人としてお手本になる様な話では無かった。
「それを、あんたは友達と?」
「何の因果か、敵対する立場に居たからな。今でも俺は、あの戦いを後悔している」
「仇を討ったのに、ですか」
シンの言葉にアスランは被りを振った。
仇を討つ。それは亡き者の無念を晴らす美談ととれるだろう。が、死した者は声を持たない。
結局は自己満足でしかなく、仇を討ったところで喪った悲しみは消えない。
アスランはそれを、キラとの死闘から学んだ。
「親友を討ち、仲間の仇を取った俺に残ったのは、酷い罪悪感と空虚になった心だけだった。決して……気持ちの良いものじゃない」
「──だから、憎しみを抱いて戦うなってことですか」
「そこまでは言わないさ。そう言う想いは、確かに力にはなるからな」
シンの言葉を否定はせず、アスランは言葉を重ねていく。
「だがそれでも、君には憎むよりも先に……戦う理由があるんじゃないのか?」
少しだけ居住まいを正し、アスランは顔を向けてくるシンと視線を合わせた。
赤い瞳が少しだけ疑問と迷いを見せる。
どう言う意味だと戸惑うシンの思考は、何故だかアスランにはわかりやすかった。
「オーブの戦役で家族が巻き込まれたと言ったが、誰がやったか、なんて具体的な仇はわからないんだろう。そうじゃなきゃ、アスハやオーブなんて曖昧な憎しみの向け方はしないはずだ」
だから、アスハ。だからオーブに、シンはベクトルを向けた。
それしか明確に憎む対象が無かったから。
「教えてくれないか? 君はザフトに入って、何が欲しかったんだ?」
アスランの問いに、シンは素直に考えを巡らせた。
驚く程、今のシンはアスランの言葉に素直に従うことができた。
英雄だと思っていたアスランが、見聞きしていた完璧とは程遠い人物だと知ったからだ。
「──ただ、力が欲しかったんです。目の前で家族を奪われて、何も守れず、その場で仇を討つ事も出来ず。そんな無力な自分が……オーブが……許せなくて」
「そうか。やっぱり、君はオーブが好きだったんだな」
「はっ?」
予想外の言葉に、シンは面食らった。
散々に憎しみをぶつけた。募らせて来たと言うのに、何故そんな話になる。
だが、このシンの疑念に応える様に、アスランは口を開いていく。
「君はカガリとタケルにこう言いたかったんだろう────何故、どうして、自分の家族を守ってくれなかったんだと」
ハッとする様にシンが息を呑むのを、アスランは感じ取った。
恐らくシンが自分でも認識できていなかった、想い。言われて、初めて辿り着く抱えていた気持ちであったのだろう。
「確かに、そうです。
信じてたんですよ……国が、オーブが、守ってくれるって。あんたが言う様に、あの日まで平和であったオーブが、俺は好きだったんです」
「だから、家族を守ってくれなかったオーブが憎くなってしまった」
「────はい」
静かに、たっぷりの間を置いてから、シンは肯定を見せた。
「タケルが言った様に、それは手を回しきれなかった国防軍の責だ。その憎しみはタケルに向けるべきだよ」
「良いんですか。そんな事言って」
「好きにすると良い、そこまでは俺の管轄外だ。
ただな、あんな風に言ったけどあいつ……君よりずっと脆いからな。友人としては、少しだけ手心を加えてやって欲しいとは思う」
「はぁ? 何ですかそれ」
好きにしろと言いながら、半分止めてくる様な言葉に、再びシンは不機嫌さを露わにする。
「君に言うのは酷だとも思うがな。オーブ戦役での国防軍の戦いは奇跡的な善戦だった」
「奇跡的?」
「考えてもみろ。中立で、オーブは軍事国家ではない。ましてや、戦争にも関与していない。本格的な戦闘など初だった。
たかが一国の島国が、大西洋連邦と言う地球圏の国際母体を相手にして、どれだけの国力差があったと思う?」
「それは…………2倍、とかですか?」
「はは、その程度だったらオーブはむしろ大勝していただろうな」
アスランは乾いたい声をあげながら、努めて軽い声を吐き出した。
フリーダムやアークエンジェル。更には参戦したアスランやディアッカといった外部戦力も居たが、それでも戦闘の大半を担ったのはオーブの主戦力であろう。
「4倍だ。投入されたMS数及び、艦船の数から比較するとな。それを国土防衛戦という難しい戦いで、互角にまで持っていった」
「はぁ!? 何言ってんすか、そんなの──」
「俺も無理だと思う。だがその無理を覆したのが、あの2人なんだよ。戦火の中で紡いできた絆と、2人が自ら戦場に立ってもたらした結果だ」
アークエンジェルの皆や、アスラン、ディアッカ、と言ったザフトの面々。更にはアイシャと言った、戦火の中での出会いがもたらした繋がり。
最前線で声を上げて、皆を奮い立たせたカガリ。
最前線を駆け抜けて、絶対的な戦果に皆を勇気づけたタケル。
そしてそれに起こされる様に、奮戦を見せた国防軍。
全てが噛み合い、もたらされた結果は、大西洋連邦がオーブ本島を狙う逃げの一手。
正面からの戦いを、大西洋連邦が避けたのである。
「君には酷だと思うが、それでも言わせてくれ。あの戦いは、ベターではなくベストな結果だ。あれ以上はもう、誰にも望めない。君の言葉を……気持ちを否定する様で悪いが、これだけは真実だ」
アスランはキッパリと告げた。
再びシンの怒りに火を灯しそうな話ではあるが、今の彼には十分な落ち着きが見えていた。
素直に話を聞く土台があれば、決して理解が及ばないわけでもないと思えた。
その目論見通り、シンは静かにアスランの言葉を胸の内で反芻していた。
「────確認したいんですけど」
「なんだ?」
「あれ以上は誰にも望めないって、あんたでも?」
「俺なんかじゃ何の足しにもならないよ」
「じゃあ、ミゲル・アイマンだったら?」
「俺もミゲルも、所詮はMSのパイロットだ。タケルはそんな枠に収まりきらない」
「あの人ってそんなに凄いんですか?」
「14歳で国防軍に入ったタケルは、その才能を生かしてオーブ初のMSであるM1アストレイを開発。3人のテストパイロットを教官として育て上げながら、それを元に後継となる第二世代量産機のM2アストレイを開発。更には自分とカガリの専用機でフラッグシップとなるシロガネとアカツキの開発もした」
「働きすぎでしょ、それ」
「知っての通り、あいつはその上でパイロットとしても化け物じみたものを持ってるからな。間違いなく、オーブの国防戦力の全てを担って来た奴だよ」
努めて、シンを刺激しない様にアスランは軽い口調を努めた。
ここら辺はミゲルからの受け売りだろうか。昔の堅物だった自分からは考えられない物言いだと思った。
「それでも、結局は届かなくて、あいつは大切な2人の父親を亡くした────国を守りきれなかった全ての責を、お父さん達に押し付ける様な形でな」
小さく、シンは息を呑んだ。
勝手に思い込んでいた──何も知らない。何もわかっていない。失う事を目にしたことのない奴らだと。
だがそれは違う。
何も知らない奴が、国の代表などやっていけない。その傍で支える事などできない。
彼等は、ちゃんと知っている、わかっているのだと。シンは理解した。
「確かに、君の家族は喪われてしまった。奪われた君には、タケルを恨む権利があるだろう。
だが、タケルにとって決して捨てられぬはずの家族が、自ら死を選んで目の前の戦火の中に消えていった。君だからこそ、この辛さはわかるだろう────あんな風に君を否定したが、君の事を理解できるのも、君の言葉が1番堪えているのも、きっとあいつなんだ」
先程までよりずっと、シンにはアスランの言葉が素直に胸に入ってきた。
「はぁ、とっ散らかってやっぱり上手く言えないな。とりあえず、君の先達としての助言だ。
憎しみのままにただ力だけを欲するなよ。力はただの手段で、失った悲しみは理由になっても、失った憎しみは戦う理由にはならない」
「──はい」
既に何かを言い募ろうとする気配はなく、シンは静かに頷いて返すだけであった。
頭の中では、自分の言葉を彼等がどんなふうに受け止めていたのか……そんなことが過っていた。
ぶつけるばかりであった少年の胸に、
「言いたいことはこれで終わりだ。じゃあな」
「あ、あの!」
立ち上がり去ろうとするアスランの背中を、シンは呼び止める。
止まって振り返るアスランに、シンは少しだけ躊躇を見せながらも口を開いた。
「あんたが……今戦ってる理由は?」
素直な声音であった。
問いかけて、何かを得ようとしている気がして、アスランは小さく笑みながら答えを返す。
「決まってるだろ。大切な人が望む未来の為だ」
漠然としているが明確な答えであった。
アスランが言う大切な人──シンにはそれが、カガリ・ユラ・アスハの事だとすぐわかった。
「それじゃあ……あの人が、戦う理由は?」
「──聞きたければ自分で聞くと良い。今みたいな態度なら、あいつは親身になって君の言葉を聞いてくれるさ。俺なんかよりよっぽど口が上手くて、優しい奴だからな」
今度は嬉しさすら覚えて、アスランはシンに答えを返してやった。
先程あれだけ言い負かされただけにそれはハードルが高いと思いつつも、シンの興味は尽きなかった。
今度こそ去っていくアスランを見送り、シンは今聞いた話を思い返す。
荒んだ少年の心に、新しい風が吹き始めていた。
さてはてめえ、アスランじゃねえな……
いやほんと、誰なんでしょうこの子。
作者の知らない子ですね。
キャラが勝手にしぇべってたっていうか。
まぁ一応背景というか、ミゲル生存の影響とか、カガリがしっかり者になってる影響とか、それこそ主人公の影響も多分にあります。
成長するのは彼も同じだったわけです。
さて、始まりましたシン・アスカ育成計画。
別にそれを考えて話を綴っているわけではありませんが。
今後の彼の成長に期待したい所。